2-91 燈火
また変なものを見たでござるよ
あまりの事で頭がついていかない。
なんだか変なものが急に湧いて。
ずりずり這ってきて、気持ち悪くて。
”ああ、あれが完全に裏返った者か”って思ったら、突然一斉にアレらが風船みたいに割れて。
あんなに気持ち悪いのに、あんなに呆気なく消え去った。
気付いたら目の前に物凄く透明度の高い女性がいて、何か抱きしめてもらってますが。
・・・感触が全然ないんですが、やはり幽霊の方なんでしょうか?
それにしても、シュンさんより存在感が無い幽霊さんとは・・・。
いや、この場合シュンさんが存在感がありすぎるってことなのか?
『駄目だよ。』
その声が目に乗って届く。
これは彼女の声?
目の前の黒髪の人族と思しき彼女さんが、そっと体を離してくれる。
顔を漸く見たけれども、やはり美人さんで、ファルディアでは珍しくショートボブな短い髪型だ。
儚く、今にも消えてしまいそう。
全く感触がないのに、別れがたいようなそんな不思議な気持ちなのだけれども。
「はじ・・・めまして?助けてくださいました?ありがとうございます?」
・・・だよね?多分。
スキル主人公属性さんのお助け機能がさく裂したって事で間違いない・・・ですよね?
最も今しがた自分は何に会ったのかも、何を助けてもらったのかも分からないのだけれども。
『今日は交わる日。アイツらも湧きやすいし、僕の様な存在しないものも湧きやすい。特に君は変なものを引き寄せる体質みたいだから、危ないよ。』
「ごめんなさい?」
交わる日って何だろう。何と何が交わるんだ?
理解していない自分が分かったんだろう。困ったようにこちらを見て微笑んでいる幽霊さん(?)
『困った子だね、セレネーツァの子。』
そしてこの人、自分の事を存在しないものって言ったよね。それって以前にセレネーツァ様が言っていた事と同じような・・・?でも残滓のセレネーツァ様よりも、この人はずっと儚くて、今にもすぐ消え去ってしまいそうな。
『そうだよ。僕はもうとうに居ない者だから。君の眼と交わったから、たまたま偶然呼び出された天神の夢の様なもの。過去の記憶。過去の残滓。ただ、ファルディアが観る夢。力の欠片。』
そして、自分の感情も読んだのだろう。そう答えてくれる。
「亡くなって観測できなくなった神様・・・?」
称号:観測者のおかげで、観測してしまった神様の欠片ってところだろうか?
『君の中ではそれが最も正解に近いかな。』
そう首を傾げながら答えてくださる。
「なんで自分を助けてくださったんです?」
いや有難いですが、混乱してしまってそんな下らない質問をしてしまう。
そんな自分を咎めることもなく、当然の様に彼女は言う。
『君は私の子で、ユイベルトの子でもあるから。』
「私の子・・・?」
ズキリと、胸が痛む。
・・・いや、私の子も疑問だけれども。
・・・ユイベルト様と知り合いのこの神様の事を、ユイベルト様は覚えているのだろうか。
誰にも観測されることもなくなり、誰の記憶にも残らず、ひとり寂しく消えてしまわれたのだろうか。
―――そして、セレネーツァ様もそうなる?
そんな自分の勝手な痛みなど気付いているだろうに、何事もない様に言葉を続ける神様。
『僕とセレネーツァはね、本当はファルディアには余計なものなんだ。天神にきっと疎まれてる。だからこそ二人とも歪んだ。セレネーツァは魂が歪み、僕は体が歪んだんだ。だから、今の状況はある意味当然ともいえるんだよ。』
それは、まるでセレネーツァ様と対になるような言い方で、もしかしてこの人は―――
『僕は日神‘%#!}%。・・・さすがの君でも名前まではきっと観測できないと思うよ。そして僕はね、影族なんだ。だから君は私の子であり、ユイベルトの子でもある。』
「影族!?」
日神なのに!?いや、属性表はどうだった?
日の属性は一番右の属性だったはずだ。右半分を司っていて、影属性は闇属性だから一番下・・・?
それは可能なのか???
いや、だからこそ、この神様は体が歪んだって――――。
日神様はこちらを見て、ちょっと困った様に笑っている。
ああ、だから口が動いているのに、影族と同じ様に目から言葉が入ってくるのか・・・。
日神様に過去何があったか分からない。
体が歪んだことで属性が合わなくて、きっと辛くて。
結果的にもうこの世にはいない。
でも、セレネーツァ様といい、日神様といい、天神のせいで歪んだというなら、――――なんでこんなに優しい人たちが、疎まれるような罪を犯したとでもいうのだろうか?
神様の事情は分からないけれど、純粋に天神という存在に対して怒りを覚えてしまう。
『・・・ありがとう、優しい子。そして、強運で凶運の子。僕は僕の中で最もアタリの僕の欠片なんだよ。僕の欠片の中にはアレらの仲間だっているんだ。君は運が良かった。気を付けなければいけないよ。』
自分の安易な怒りなど分かっただろうに。おかしそうにフフフっと笑ってくれる。子どもと言ってくれる、自分の事を気遣ってくれる。この神様のやさしさが、とても悲しい。
『時間だ。』
そう、言って彼女は空を見上げ、次に再びこちらを見る。
『きっと、もう二度と会う事はないだろう。まだ遠い未来、君が求める正しい道を歩めるように願ってるよ。』
ふわりと体が宙に浮き、先ほどよりも儚く徐々に薄くなっていく日神様。
空には先ほどより赤くない月が―――月が赤いから出ていられた?
そして先ほどより丸く見える月。
日神様はさっきなんて仰ってた?
”今日は交わる日。アイツらも湧きやすいし、僕の様な存在しないものも湧きやすい。”
少し欠けた様に見えた月は雲とかじゃなくて、まさか、―――部分月蝕?
「まって!ユイベルト様に!なにか伝えたほうがいい事はありますか!?」
今にも消えてしまいそうな日神様に向かって、気付けばそう口にしていた。
伝えたところでユイベルト様はきっと覚えていないだろうに。
本人達が言ってたじゃないか。”今居ないとなれば、昔居たとしても認識できない”って 。
それでも。
そうしたくてたまらない。それしか自分にしてあげられることが見つからないのが、悲しく辛い。
驚いた様に日神様は自分に目を見張り、フワッっと今まで見た中で一番自然の笑顔を浮かべた。そして、自分の頭にそっと右手を起き。
『ありがとう。』
その声を残して消えた。
そして、消える間際、白かった右腕は黒く染まり、黒い人影になって消えた様に見えた。
・・・
・・・
虫たちのざわめき。
ザワザワと葉が揺れる音がする。
魔物が遠くにいるのが感じられる。
月は真っ白で、いつも通り優しく降っていて。
―――先ほどまでの事は夢だったのだろうか。
いつも変な事に会うけれど、今日は飛び切り白昼夢みたいな感じだった。
いや、夜中だから黒夜夢・・・・なんかダサくない?
そんな下らないことを考えて自分を紛らわせる。
世界も、あんな目にあったのに、自分でさえまるで平常で何事もなかった様だ。
世界には彼女が居ない事が当たり前で――――。
・・・・。
これ以上考えても栓無いし、とっととレベル上げをしなければならない。
正直全然そんな気分じゃないんだけれど、やっぱり明日はちゃんとダンジョンもクリアしたい。
気持ちを切り替えシステムを見る。
あれから、おそらくほとんど時間が経ってない。ダンジョンの様に時間の流れが違ったのだろうか?それとも、異常体験で時間が長かったように感じた?
なんにしてもよく分からない。
どちらにしても、この時間からなら今から本気出せばレベルはある程度は上がるだろう。丁度むしゃくしゃしてるし。
そんなわけで、蟻を見つけ次第狩って狩って、とにかく狩って。
段々回避も上がって受けも上がって楽になって。
ファルディアで4時間ばかりやって、そろそろVITが-補正が来そうだと思って、辞めた時には残念ながら2レベルしか上がらず39レベルにしかなっていなかった。
そして、手持ちのポーションは全て使い切った。
ティラ君に明日怒られそう・・・。
明日アルシオンにガンツさんとセイさんを迎えに行ったついでに忘れずに買わなければ。
いくら弱めとはいえ、やっぱり群れている生き物は相性が悪いなぁと思った。
他の獲物が思い浮かばなかったしとにかく体を動かしたかったら蟻に突っ込んだけれども。
その点リスは楽だった。
どこかに丁度いいレベル帯のリスはいませんかね?
PNTも使いすぎると明日に響くし、今日はもうレベル上げは辞めようと基地に戻りはじめる。
月も大分傾てきていて、かといってまだ日が昇るには早すぎる時間帯だ。
夜道を一人サクサク歩きながら、静かすぎてどうしても今日の出来事が頭をよぎってしまう。
今考えると危ないので、極力気持ちを抑え込む。
早足でテントまで歩いて帰ってきて、基地が見えるとホッとする。
ログアウトしなきゃいけない時間までまだ少しある。
ティラ君もレティナさんもテントにもここら辺にもいない様なので自分で竈に火を入れる。
オレンジ色の竈の火がパチパチと揺れて、いつもの飯盒でお茶を淹れて。
漸く気持ちが少し普段に戻ってくる。
ゆらゆら揺れる竈の火と、パチっパチッっと薪が爆ぜる音に、何故か安心する。
・・・さっきのは何だったんだろう。
月蝕だと、変なのが出てきやすいって事なのかな?
多分、あれが完全に裏返った者なのだろうか?
何か違う気がするけれども、何にしても分かる術はない。
考えてもどうしようもないので、明日に備えようと思ってシステムを見てみる。
ステータス。
回避が良く上がってる。レベルが足りないけれど何とかなりそう。
武器のスキルも上がってるし今の感じだと命中も多分大丈夫かな?
順番に見て行って、ふと目に留まる。
・・・精神汚染耐性が2レベルも上がっている。精神苦痛耐性も1つ上がっている。
きっとさっきのアレで上がったんだろう。
やはり正常じゃないというか、ヤバい奴だったんだなぁ。
スキルは敏捷以外に何を取ればいいのか、と思って再度スキル取得可能リストを出す。
そうすると、なんかまた増えてる。
増えてはいるんだけれども、何かが違う。
スキルによって明るかったり暗かったりするのだ。
こんなことは初めてなんだけどおかしいなあぁ?
例えば、武器系のスキルは総じてやや光ってる。
弓や投擲スキルなんかは暗めだ。
小型盾もやや暗いけれども、大型盾なんかは全然光っていない。
走法なんて、割と明るめだ。
・・・走法もそのうち取らなきゃなぁ。
反対に魔力系なんて、もう真っ黒が多い。言語魔法とかも一応出てはいるけれど、全然光っていない、呪歌に至ってはこれ本当に取得できるの!?といった位文字が暗い。そして暗い物の方がSPがお高い傾向に高い。
何だろう?これは?
見た印象だと、向いている物の方が明るい感じ・・・?なのかな???
そんな中、ひときわ明るく光るのが
月光操作
月光属性回復
この二つ。特に月光属性回復がリストの中で一番ってくらいに明るい。
これを取れみたいなアピールなのかなぁ?
取れと言われると取りたくなくなる天邪鬼なんですが・・・。
しかし、一体何が作用しているのか?
敏捷を取るまではそんな事はなかったしつい最近の事じゃないか・・・と思って文字さんの通知の履歴を見ると、そこにこう書かれていた。
【称号「日神リオルーナの燈火」を獲得しました。】
これは名前が聞き取れなかったあの人の真名・・・?
すこし手が震えたけれど、ポップアップを出す。
【称号:日神リオルーナの燈火 日神の導きの力。強く願う事で補正が+1働く。相性がいい物が分かりやすくなる】
ポップアップだけ読めば曖昧な何か。だけれども―――
『ありがとう。』
思い出すあの人の手と、言葉。
迷ってる自分に、きっとあの人があの時プレゼントしてくれたんだろう。
自分は助けてもらっただけで、あの人には何も返せなかったのに・・・。
もう亡くなってる人だとしても、もう世界に居ない神様だとしても。
どうして自分にはそんなものが見えるのだろう?
いくら主人公属性が仕事しすぎだからって、いくらなんでもこれは巻き込まれ過ぎだろう。
どうして死んでまで自分に優しくしてくれるのだろうか。
どうして、読めないはずの名前が読めたのだろう?
それが、嬉しく、とても悲しい。
おかしいな。
たかが、ゲームなのに。
何でここまで心を動かされるのだろう。
セレネーツァ様といい、リオルーナ様といい。
どうして自分にここまで優しくしてくれるんだろう?
なんで、自分はこんなに泣けてしまうんだろうか―――?
しばらく経って落ち着いた後、
何も考えずに月光操作と月光属性回復を取得した。
いくら向いていても、構成に合わなかったりとかする可能性も十分あるけれど。
取らなきゃいけない気がした。
いや、どうしても取りたかった。
――――ただ、強くなりたかった。
ザっと終わりまでプロット読んで計算してみたんですが、今のスピードで書くとあと2年くらいかかるんじゃないかとなって、大草原草不可避。
今年中に終わるとかなかった・・・




