2-85 鯵の南蛮漬け
朝起きると、久しぶりにアク・・・内田からメールが来ていた。
「なんか・・・板でサクさんがアポリアからアルシオンまで1週間で走破したって話題になってるけど、こマ(これマジ)?」
あちゃぁ。
黙っておきたい所に注目を集めてしまったか。
皆、移動関連には敏感になっているのだろう。次のイベントもくるしね。
・・・でも、1週間って物理的に無理すればできなくもないだろうし、そのうち無理しなくてもできそうな気がするから、あながち嘘ではないかなぁ?空に月さえ出て居れば影族は多分寝ないで走っていけるしねぇ。夜目も利くし。今でも2週間なら余裕だろう。もう少しレベル上げれば1週間でいけるかなぁ?そのうち試してみたい所。アルシオンのギルドのアインさんだったら、もしかしたら1日でいくかもしれない。
ここで一番黙っておきたい情報は、猫精霊の事だ。
普遍的に誰もが恩恵に授かれるのならいくらでも情報は開示するけれど、あのスポットの場合、移動は猫の気まぐれによる産物で、誰もが移動できるかと言えばとても怪しい。でも開示したらきっとプレイヤーに猫が追い回されて、猫がいなくなるだけだろう。だから言わない方がいいな。うん。
『1週間で走破できなくもない気がするけど、今回はやってないかな?ちょっと内緒にしておいて。あと、多分他の影族の人はもっと早い気がする。』
と、曖昧に返信しておく。返事がすぐ帰ってこないし、朝だから今頃寝ているのだろう。
あー。でも内田起きたら来るかなぁ?
まぁいっか。きちんと詳細は言えないけれど、内田になら大筋を言っても問題ないし。
今日も今日とて日課の走り込みと、家事からスタート。
今日も外は猛暑で暑苦しい。
こっちもそろそろ夏祭りの手伝いとか、お盆とかの準備もあるわけで。
夏休みは思ったよりも忙しい。
日課をこなし、内田の来襲を予感して朝に勉強を終わらせておく。
昼飯はちょっと胃の調子が悪いので、自分だけ温麺にしてもらう。
暑いから冷たいものを食べ過ぎたよね・・・。
ばあちゃんは笑って作ってくれた。
「たのもーーーーーーーーーーーーー!!」
と、同時にバーンと引き戸の玄関を開ける音がする。
「うるさい!!!」
つい反射的に怒鳴り返してしまう。
うちの玄関が壊れるだろうが!アホ!
「ダイスケはあいかわらずだなぁ。」
ばーちゃんが滅茶苦茶笑ってる。
玄関が壊れたら容赦なく内田から修理費を取り立ててやろうと思ってるはずである。
「カヅキひどいよーー!詳細教えてよーー!あ、ばぁちゃん俺にもなんかちょうだい!はらへった!あ、おはようございます!」
そこまでノンブレスで捲し立てる。
「おはようさん。ダイスケは素麺じゃ持たんだろ。イワシを揚げたの南蛮漬けにして冷やしているからソレでいいか?」
「ばぁちゃん大好き!」
早くも懐柔されてる内田。いそいそと、手を洗いに行って(洗わないとばぁちゃんに怒られる)、自分で勝手に麦茶を冷蔵庫から出してくる。
「今日は土曜なのに、うちに来ていいんか。」
「今日も二人とも仕事~。だけど、夕飯はここに来たら微妙かなぁ?どうだろ?」
年頃の男子とはこんなものなのか?
自分を棚に上げて考える。
まぁ、あんまり親にべったりの歳でもないし、内田は今反抗期だしねぇ。
「それでそれでそれで?なんなの?どうして?」
と、食い気味に早速詰め寄ってくる。
どれだけ情報に飢えているのか。
「・・・自分で見つけたわけじゃないから詳細が言えないんだよ。変な人に粘着されたくなくて野外でテント生活してたら、精霊の移動に巻き込まれた感じ?しかも町から町にじゃなくて、森の中の大分遠い所に飛ばされたから、実用じゃ使えないんじゃない?いつ起こるかも分からないし。」
「まじかー。」
と、がっくりと肩を落とす内田。
「選択の幅が広がると思ったのに・・・。」
「まぁ、でも今度のイベントも精霊に許可されての移動だし、初級的な移動方法の一つは精霊なんだろうなぁ。上手くもっと効率のいいスポットとパターンを見つければ結構な時短になるんじゃない?」
「それはそうかも!」
と、簡単に機嫌をなおす。内田は単純でいいな・・・。
「でもその件で世間に追い回されたくないし、あながち影移動で1週間で移動できるのも嘘ではないから、そっちはそのままにしておいて。」
「まじかーw」
「そうそう、あらかじめ精霊に気に入られてないと移動できないから、そこは気を付けたほうがいいよ。魔力的に大きく変化があったから魔力感知でも分かるかもね。」
うーん、大・小人族の『予感』については言ってもいいけど、一応ティラ君の許可は取ってないし、自分で分かった事だけにしておこう。
「とりあえず、不確定情報として固定内部の洩らし厳禁情報で試してみる方向性で持ってこう・・・。」
まあ、自分が言っても言わなくてもイベントで『精霊の移動』が来る以上、精霊がいそうなところを探してさ迷う人がいるだろうしね。これはそのうちバレる案件と言うか・・・どっかに固定的に移動できる精霊スポットがあるのかなぁ?うーん?
どちらにしても、あってもなくても分かるのは時間の問題だろう。誰かが検証しそうだ。
「内田も例えスポットを見つけたとしても、すぐ外では言わない方がいいよ。一か所に人が集まると精霊がキレて使えなくなりそうだし。」
板とかに書いてもどうしようもないし、好奇心溢れたギラついた人に追いかけられるだけだし。人がすごく好きな精霊とかだったらいいと思うんだけど、いるのかな?そんなの。
「う~~~固定で、どこまでどう言おう。」
ベルデさんとかりょっぴさんだけなら話が早いんだけど、新人さんもいるしね。何でしたっけ?マッドサイエンティストヒーラーと無口シーフさん?人柄が分からない以上、難しいよね。
くるるんさんは興味がなさそうな勝手なイメージ。いや、あるのかな?どうだろう?
「それこそ、まずりょっぴさんとベルデさんに内々で相談してみて、丸く収まる言い方考えてみたら?」
あの二人にはどうせソース元を感づかれそうだしね。
特に精霊に関する事だし、精霊使いのりょっぴさんが一番真相にたどり着きそうな案件だ。
嘘を言わずに、出せる情報を誠実に出せば問題ない気がする。
「ん。そうしてみる。何か新しい情報が分かったらお礼に言う。」
「ありがと。」
パターンが見つかったら内緒で教えてくれるつもりなのだろう。
そうしていただけると、自分も助かります。
その後、内田と次のイベントの話などをしたり。
今回行ける都はアポリア、アルシオン、ラゴ、スラハタンデン、サームハング、カウェルナ、カタベント、デスコベルタ、エエンデルテというところらしい。特設サイトにはそう書いてある。パーチオ、ブロカーデという所には行けないらしい。何でだろうって思ったけど、パーチオは知らないが、ブロカーデは物凄く寒くて対策がないと行ったら死ぬらしい。南極?南極なのか?パーチオも妖精がメインの場所と言うし、ちょっと見たかったなという気持ちはあるのだけれども。
後はエクサルシス。ここは特殊扱いで、要は水棲族の街だ。水中で呼吸できないで行くとまず死ぬ。向こうも然りなので、呼吸できない人は行き来できないらしい。「自分が行ったことがあるのはアポリアとアルシオンだけだなぁ」と内田に言うと、「それでも異常」と言われた。確かに移動に凄く時間がかかるから、他の街に行った事ない人が多いよね。みんなが行ってるアポロディアには行った事がないしね。
だから今回の夏のイベントは皆楽しみだろう。アポリアでは霧向こうの使者達が今からどこでログアウトすべきか、どこなら精霊がいるかという話題で持ちきりなのだという。神殿に通うもの、ギルドに通うもの、精霊使いを囲い込む者様々だという。対してNPCの冒険者さんたちは笑ってみてのんびり構えてるのだという。話を聞いてみたところ「今までたまにそういう事があるが、大体精霊を見かけたら何となく分かる。」のだという。
「何となくでも困るんだよな~。」
とボヤく内田。
「見て分かったらどうなるんだろう?というか何が見てわかるんだろう?」
えっ!?っと驚く内田。
え?だってそうじゃない?
「例えば、アポリアに突然風の精霊が現れたとして、見て「ああ、風の精霊だな。」ってわかったらどうなるの?突然分かった途端にワープするの?」
それはないだろうと思うんだよねぇ。
猫精霊の時も何か気に入られる様な事をしなきゃいけなかったし。
「となると、精霊に気に入られる様な事がすぐ見て分かる状態ってことかな?あまり長いクエストでも人が溜まっちゃうだろうし、割とわかりやすくて誰にでもできそうな感じの。」
「な、なるほど?」
「火精霊なら火勢が足りないから薪とか炭でもくれっていうような感じなのかなあぁ?」
「それ採用。」
「えっ!?」
採用しちゃうの?いまから薪を買い占める系?
夏だからそこまで問題にならないだろうけれど、ファルディアは経済もあるっていうし。
「プレイヤーが特定のアイテムを買い占めたら後々問題になりそうだなぁ。」
「確かに。」
むしろ薪などに関しては事前に多く作ってプレイヤーに売りまくった方がいいかもしれない。流通的にも。
「後のが想像できない。きっと物を納品しろが多いと思うんだけど。」
「魔物を倒せだとアポリアだと確実にMOBが枯渇するしな。」
そういえば、まだアポロディア開拓地から出れない人はどうするんだろうか?って思ったら、アポロディアからアポリアへのワープ精霊も出るらしい。至れり尽くせりだな。
でも、一度でいいからアポロディア見てみたいよねぇ。
「ラゴだと古代族の街だし、珍しい果物を納品しなさいとかそんな感じ?」
「ありそ~wじゃあ髭族の街は金属だな。」
妄想してくると楽しくなるよな。
「○○以上の金属とかね。」
銅って事はないだろうから鉄鉱石とか?それとも宝石系で水晶とか?
「あーだめだ、俺、アポリアで色々集めちゃいそう。」
「いいんじゃない?、別に。」
多かれ少なかれ生産職みたいな人達が既にやってそうだし。毎回そういうアタリをつけて儲けに走る人はいっぱいいるよねぇ。こちらは買えるならなんでもありがたいけど。予想を外すと「無事死亡」って話題になるけどね。
ただ、ある程度有名人の内田が特定の物資を集め始めると、”信ぴょう性が高い情報”となって物価が爆上がりしそうな気がするんだが。
「意外と”感謝の祈りを捧げなさい”、とかかもしれないし。」
「それもありそうぅううwwww」
「もしかしたら人によって違うお題出されるかも。」
あまり暴挙に走らない様に、強制的に視野を広げておこう。
「ええぇえあ・・・?」
「住人の好感度だったり?」
「あぅあぅ。」
内田があうあう言い出した。何か崩壊しかかってるな・・・。
「あ~~~拠点が欲しいぃ~~~~!!!」
「何で。」
急に何を言い出したんだか。
「だって、色々集めても荷物とっておけるじゃん?」
「それ、拠点って言うか倉庫じゃない?」
「そうだけどさ~、やっぱホームベースあるとキリッってなるっていうかさー。」
「なるかなぁ?」
内田の言っていることは、よく分からないけれど。
ていうか、家とか拠点って言いたいんだろうが、野球になってるぞ?
でも、森の中に家を建てていたあの人を思い出す。
「そういえば、自力でフィールドに家作ってる人を見た事あるな。」
「うはwまじかwwwwwwそれはどうなったの?」
「最近見たから知らね。」
「まだ作りかけってところか。うわーいいなぁ。でもフィールドか。どうなるんかなー。」
「アクティスみたいなガチ勢なところは、アポリアの街とかじゃないと不便そう。」
「まーな。確かに。」
などと、雑談をしながらばぁちゃんに部屋に戻る事を告げて内田と2階へ上がる。
ばぁちゃんはこれから近所の友達の家へ行くらしい。
暑いから気を付けてねと声をかけておく。
「今日は内田は何するの?」
「うちはレベル上げかなぁ?夜から。カヅキさんは?」
「うちも珍しくレベル上げ。夜から。」
「ワー珍し。ていうかサクさん友達いたんか。」
「さりげなく失礼な。」
「わりぃわりぃ。あんま友達とやるよりソロってかんじだから。」
「確かに。フレンドいてもそんなに一緒にやらないっていうか。」
「カヅキは自分のやりたい事やってるイメージだなぁ。」
「好きな事はやるけど・・・昨日は効率を求めないで人の養殖をしてたな・・・。」
「それは・・・大丈夫なの?」
「まぁ、今日その分を戻してもらうっていうか、夏のイベントに向けての金策を手伝ってもらう感じ?」
「あーそういうのもあるよねー。」
なるほどねーと内田が頷いている。
内田が心配してるのは、たまに搾取系の人がいるからそれじゃないよね?って事だろう。友達だから貸し借りとかあまり厳密には考えてないけれど、ある程度きちんとしないと与えるだけの人になっても、貰うだけの人になっても、結局の所友人関係は崩壊する。そういう事が過去何度かあった。自分も若かった。
そういえば、こんなに内田と話すのは久しぶりだな。
学校が無い方が友達としゃべる時間が減る。特に内田はうちに来ても飯食ってるかファルディアにログインしている時間が長いし。・・・うちは食堂じゃないんだよ?
自分も今日はそんな急いでファルディアに入らなくてもいいし、内田もログイン制限が週で設けられてるから特に急いで入らなくてもいいやー、みたいな感じになっている。
ていうか、内田はちょっと眠そうで、昼寝でもしそうな感じ。
「とりあえず、夏のイベントの表でも作ってみるかな~」
名前だけで見ているとよく分からないので表にしてみる。
行ける街は神様の名前も載っていたのでそれも記入してみる。
『精霊が出現する街』
・アポロディア(はじまりの街)
・アポリア(法治の街)
→守護神 ユトゥスシーレイ(人族)
・ラゴ(樹の街)
→守護神 ディレット(古代族)
・スラハタンデン(鍛冶の街)
→守護神 バシレウス(髭族)
・サームハング(砂漠の街)
→守護神 デクシア&アリステラ(獣族)
・カウェルナ(洞窟の街)
→守護神 ユヴィリーヴル(晶族)
・カタベント(武器の街)
→守護神 イヴェール(人族?)
・デスコベルタ(人工遺物族の街)
→守護神 ナーダ(人工遺物族)
・アルシオン(影の街)
→守護神 ユイベルト(影族)
・エエンデルテ(草原の街)
→守護神 ピチャーチ(大・小人族?)
『精霊が出現しない街』
・パーチオ(森の街)
・ブロカーデ(氷の街)
『特殊な地域』
・エクサルシス(水中の街)
こう見るとおもしろいな。
神様は結構会ったと思ってたんだけど、ファルディアの神様っていっぱいいるんだな。
ロロージア様とか街をもってないのか。なんでだろう?と思ったり。それとも結構なレアキャラなのかな。でもロロージア様は、”街とか面倒くさい”とか言いそうな雰囲気もあるよね。
それにしてもファルディアにはいろんな国があるなぁ。行った事ない街はいってみたいなぁ。
「うわー、こうちゃんと見ると色んな町があるなぁ。武器の街早く行ってみてぇ。」
と、内田が横から見に来て言う。
「カタベントってどんなところだろ?」
武器が大量に売ってる感じ?そういえばピカ神様が会議しに行ったな。
「板によれば、獣族の隣の国だから、結構殺伐としてる?というか世紀末修羅国化してる獣族のノリで攻め込んで、よく返り討ちにしてくる街?」
「それはどんな好戦的な国なの・・・?というか獣族が迷惑じゃ。」
そして、影族が喜びそうなシチュエーションだ。旅をしている影族がいたら絶対乗り込んでいくだろう。だから影族は死にやすいのかなぁ・・・。獣族はそんな殺し合いばかりしてて人口が足りなくならないんだろうか?多産なのかなぁ?やっぱ。
そしてカタベントの情報がまるでない。もっとこう、どんな風な街だとかないのだろうか。みんな戦う事しか考えてないのか?それとも内田フィルターがかかってるのか?
「とりあえず、うちは武器の街と鍛冶の街を開けて、あとは情報を見ながら様子見ってとこかな。りょっぴはラゴに行きたいって言ってたけど。」
「ああ、魔法的にも種族的にもねぇ。」
やはり効率を考えるところは効率で考えてるんだな。ファルディア写真部の皆さんはどうなんだろう?エモい所とかそういう観点なのかな?自分はただの物見遊山って感じだけれども。
「自分は全部開けられるかなぁ。」
「うわっ贅沢!確かに見たいけど、どこも中途半端で終わりそう!」
「その恐れもあるよなぁ。」
まぁなんにしても、一個まずは開けてみてそれからですよね。
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リアル18時半程。
ファルディアでは丁度朝の7時頃に当たる。
レティナはファルディアに少し早めにログインする。
昼間もログインして準備をしておいたけれど、もう一度装備と食料などのチェックをするためだ。
宿できちんと休まないと疲れが取れないと学んだので、最近はきちんと宿屋に泊まっている。
今日泊った宿は大樹のウロを使って出来た何気に可愛い部屋で、小さいけれどニヤニヤしてしまうお気に入りの宿だ。
美味しい朝食もいただき、手早く片付けて宿を出る。
「お世話になりました。」
と、宿の女将さんに挨拶をすると、女将さんも「また御贔屓にー」と声をかけてくれる。
今日もアルシオンは快晴で、爽やかな空気である。東から風が吹いており、すこし強めの風だ。
綺麗な青空。
澄んだ空気。
強すぎない風。
だけれども。
――――ざわざわざわざわ。
何かを感じる。
レティナにはそれが何かは分からないけれど、いつもとは違う気がする。
「?」
普段では吹かない様な風だからだろうか?
空気がざわめいている気がする。
ただ、それだけなのだけれども、それが何故かとても気になった。
「変なの。」
少し考えたけれども、やはり分からなかったので意識を切り替えて集合場所に向かう。
昨日は沢山レベルが上がった。
今日は、お返しに沢山役に立ちたい。
薬草摘みをティラさんにお願いされたけど、そんなの自分にはご褒美だけどいいのかな?
などと色々考えていたら楽しくなってくる。
先ほどのざわめきの事は、すぐに忘れた。




