5話「そんな貴女だから、私は…」
あけましておめでとうございます!今年最初の投稿です。
今回もまた結構長いと思います。
2日間の休みを終えて、週最初の登校日。日の出と共に目を覚ました朝陽はベルを起こさないよう静かに部屋を出る。
リビングのテレビを点け、そのテレビをBGMに早速朝食の準備に取り掛かる。
その間、休みの2日間のことを考えていた。話し合いが終わった後、その日の夜美咲と電話で話をした結果、羊の妖精は美咲が正式に預かることになった。電話越しで何かやたら嬉しそうな雰囲気を朝陽は感じ取っていた。
ちなみにあの羊の妖精には名前があった。メルレットという名前だとか。
次の日は特に何事もなく、過ごすことができた。
そう、何事もなくだ。
この2日間、カルーワやあのライオンとヒツジが襲ってくることはなかった。
来ないに越したことはないのだが、この2日の沈黙は返って戦う身の朝陽としては不安を抱かずにはいられなかった。
そうこう考えているうちに、自分の朝食が出来上がる。沙月希の分は沙月希を起こした後に作るため、1人分の朝食だ。
「いただきます」
作った朝食を特に理由はないが素早く食べ終え食器を台所に起き、次は洗濯物を干すために洗面所に向かう。
籠に洗濯機から取り出した全ての洗濯物を順に干していく。
そして洗濯物を干し終えたら沙月希を起こしに沙月希の部屋へ向かい、ドアをノックして部屋へ入る。
「沙月希〜?朝だよ〜」
「ん〜」
「朝ご飯、先に作っておくから起きて来てね」
「ん〜」
そう言って朝陽は部屋から出て再び台所に立ち自分が食べた物と同じ物を作る。その最中に沙月希はとても眠たそうにリビングへ入ってくる。
「おはよ。すぐ出来るからね」
「…うんわかった」
朝陽の言葉通り、すぐに出来た朝食をテーブルに運び、同時に飲み物も運ぶ。
そして運ばれた物を沙月希は黙々と食べ続ける。時より朝陽が沙月希のその様子を微笑みながら眺めていた。
その視線に気付いた沙月希が一回首をかしげるが、朝陽がなんでもないと言うとそれ以降は視線を特に気にせず食事を取っていた。
◇◆◇◆◇
「ベルも鞄にいるし……よし、じゃあ準備出来たし学校行こっか」
「今日の…夜は?」
「2人で作ろっか、材料は買ってくるよ」
支度を終えて、玄関向かいながら夕飯の話をする。夕飯は特に誰が担当というのは決まっていないのだが、現在自然と交互に行うようになっている。そして、たまに2人で作ったりする事がある。それは完全に気分で決まるものだ。
「…わかった」
「おっ、2人ともおはよ〜」
夕飯の当番を決め靴を履き、玄関を出た所で隣に住む高校生の桜と出くわした。
「桜さんおはようございます」
「あ…桜姉ぇおはよ〜」
「2人は変わらず仲が良いねぇ」
「な、何ですかいきなり」
「ん?私も混ぜて貰おうかと」
そう言いながら両手を広げ駆け寄ってくる。そしてそのまま朝陽達2人を抱き着いてきた。
「ぎゅ〜」
「ぎゅ〜」
「あはは…」
沙月希は同じように抱き着き返し、朝陽は照れながらも嬉しそうに笑っていた。
そんな、側から見てとても微笑ましい光景が繰り広げられている所に声が掛けられる。
「貴女達、仲が良いのは良い事だけど…学校、遅刻するわよ?」
玄関から顔を出した桜の母である晶子が何してんの貴女達という目で朝陽達を見ながら注意をする。その注意を受けた3人が慌てて登校していったのを呆れながら晶子は見送った。
◇◆◇◆◇
「おはよう」
「朝陽、おはよ」
学校の教室に到着した所で美咲に会い、挨拶を済ませる。
2人の席は隣同士さらに窓際と言う事もあり、内緒話をするにはもってこいの所だった。ただし、それも便利という訳ではなく、長く話していると他のクラスメイトに何の話をしているのか聞かれるため、話は簡潔に行う。
「今日メルレットは?」
「うん、ここ」
そういって美咲は自分の鞄を指差すと鞄がもそもそと動いた。
「あ〜取り敢えず、また後で話そ」
「そだね、それが良いと思う」
そして、その日はいつもと変わらない学校生活を過ごすのだった。
◇◆◇◆◇
「改めまして、朝陽っていうの。よろしくね」
「ベルシアっていうベル」
「メルは、メルレットメル。よろしくメル」
放課後。朝陽とベル、そしてメルレットは改めてお互いに自己紹介する。今回は、昨日の初対面のようにメルレットが美咲の後ろに隠れる事なく行われた。
「さて、これで挨拶は済んだし、これからどうする?」
「あ、私夕飯の材料買いに行かないといけないんだけど…」
「オッケー。スーパーでいい?」
「うん」
「今日は何を作るベル?」
「う〜ん酢豚にしようかなって思ってるけど」
「酢豚って何メル?」
「中華料理よ」
「美咲、それ説明になってないような…」
まさかの酢豚で話が盛り上がり、スーパーに着く間はずっと酢豚の話題で持ちきりだった。その話の中で、美咲も今夜は酢豚にすることに決まったようだ。
「所でさ、酢豚にパイナップルって合うのかな」
「えっ、え〜どうだろう…?」
◇◆◇◆◇
今朝の不安が的中してしまった。
なぜ、嫌な予感や不安というものはこうも当たってしまうのだろう。
その光景を見た朝陽は間髪入れずアメジストに変身し、沙月希をその身を呈して守ろうと覆い被さる桜の周りにドーム状の透明なシールドを張る。
咄嗟の行動だったが、うまく2人の周りにシールドを張る事ができ、どうにか無事に済んだ。
「大丈夫ですか」
アメジストが2人を守るように立ち、そう声を掛けると桜がアメジストの声に震えた声で応える。
「は…はい。でもこの子が」
「その子なら大丈夫です。気を失っているだけのようですから」
「よ、よかったぁ」
胸をなで下ろす桜を見て、アメジストも2人を助けられた事に安堵する。
その後アメジストはすぐに意識を2人からカルーワへと向ける。
その見た目はまさしくゴリラそのもの。ベルのような存在のゴリラが姿を変え暴れているのだろう。
ゴリラは見た目とは裏腹に温厚だと言うが、今、アメジストの目の前にいるカルーワとなったゴリラに温厚の文字はない。
「お二人はその中にいてください」
シールドの中にいる桜にそう伝え、2人へ向かってくるカルーワの目の前に立ちはだかる。
その存在に気付いたカルーワはその大きな胸板に拳を打ち付け、威嚇する。その行為は地面を激しく揺らす。
アメジストが臨戦態勢に入ると、それを待っていたかのようにカルーワが攻撃を仕掛けてきた。
「くうっ!」
カルーワから放たれた一撃は速く、そして重い。その攻撃を盾でガードした腕に痺れが走る。
この攻撃を何度も受け止めるのは避けた方がいい。そう考えたアメジストは盾を持つ手を前に出す。そして頑丈な壁のイメージを浮かべると掲げた手の先に半透明なシールドが出来上がる。
先程2人を守るために使ったドーム状のシールドの応用だ。
そのシールドにカルーワが先程と同じ一撃を放つ。その衝撃はアメジストの身体に伝わるが直接その衝撃を受けていないため先程のような痺れはない。
しかし…。
「これでは、ジリ貧ですね…」
このシールドを張っている間、動くことが出来ず攻撃に移れなかった。そしてこのシールドも無敵という訳ではなく、攻撃を受け続けると壊れてしまうだろう。
そして、そうなったらアメジストは力の大半を使い果たし戦う事が難しくなってしまう。
何か、他に手はないだろうか。アメジストは考える。今、アメジスト自身が使えるのは盾による防御、シールドによる防御。
どちらもそう何度も攻撃を受け続けられない。さらに後者は動くことができなくなってしまうのでできれば避けたい。
となるとやはりカルーワの攻撃を躱しながらの攻撃をするしかない。
ここでの懸念は、攻撃を避ける事に集中しすぎて2人を守るシールドが維持できなくなってしまう可能性だった。
「攻撃しながら相手の攻撃を避けつつ、2人のシールドを維持し続ける。口にするのは簡単ですがかなり難しいですね…出来る事なら、2人のシールドをいじしつつ私自身にもシールドを張れれば……なるほど」
アメジストは何か思いついた様子で、目の前に張っていたシールドを消すと、カルーワの動きを注意しながら意識を集中させる。
するとアメジストの身体に膜のようなシールドが貼られていく。
「ふう、これなら生身で受けるよりはいくらかマシでしょうか…」
自身にシールドを貼り、動けるようにしながら戦う。先程のシールドではそれが出来なかったがこれならば動く事ができ、さらに2人のドーム状のシールドを張る力の延長で使っているため消費も先程よりいくらか少なくて済む。
アメジストが今の状態で動けるかを確認していると、こちらの様子を伺っていたカルーワが遂に動き始める。
それに気付いたアメジストは、カルーワへ向けて走り出す。一直線に向かってくるアメジストにカルーワは正面からパンチを繰り出した。
しかしそのパンチはアメジストに当たることはなかった。
その攻撃をギリギリで躱し、カルーワの腕を掴んだアメジストは全身に思いっきり力を込め、背負い投げのような形で投げ飛ばす。
その後も同じようにカルーワの攻撃躱しつつ、反撃したりアメジストから攻撃をしたりと攻防を続けるがどうにも決め手に欠けていた。
「くっ思わぬ失念をしていましたね…攻撃にまで手が回らない…」
アメジストの言った通り、2つのシールドを同時に展開している状況で攻撃に力が出せなくなってしまっていた。
「これでは、先程と変わらない…このままではジリ貧ですね」
「随分と手こずってるようだなぁ」
どうすべきかと考えていた時、いつか聞いた声が響いてくる。その声が聞こえる方向を向くと、そこには朝陽がアメジストになるきっかけを作ったあのライオンの姿が空中に浮いていた。
実に5日ぶりくらいの再開であった。
「貴方は…お久しぶりです」
「4〜5日そこらじゃ久しぶりってほどじゃ…何普通に隣人よろしく挨拶して来てんだテメェは」
ふざけてると捉えたのか、アメジストを物凄い形相で睨む。
「チッ、まぁいい。それで、お前はこいつにだいぶ苦戦してるみたいだなぁ」
「えぇ、どうも攻めあぐねていますよ」
「やけに正直に言うな?その様子じゃ、こいつを倒す手段も見つかってないみたいだな。けどよ、こいつにばかり気を取られてていいのか?」
「何を──っ?!」
「きゃああああああああっ!!」
突然力を消費する感覚と共にシールドの中にいる桜の叫び声が響く。シールドの方を向くと、空を飛ぶ鳥の姿をしたもう一体のカルーワの姿が目に映る。
すぐにシールドの方へ向かおうとしたがゴリラの姿をしたカルーワに道を阻まれる。
「そこを退けぇぇ!!」
知らずのうちに焦るあまり一直線の攻撃になり、その攻撃はやすやすと受け止められてしまう。それどころか、逆に攻撃を受けてしまい、2人からさらに遠ざかってしまう。
「うっ…ぐっ」
先程の攻撃を受け、身体に張っていたシールドが解けてしまったがなんとか2人を守るシールドだけは維持することができた。
だがそのシールドも長くは持たない。次、シールドに攻撃を加えられれば瞬く間にシールドは消えてしまう。
アメジストは痛む身体に鞭打って立ち上がるが先程の攻撃によるダメージが思った以上に酷くふらついてしまう。
そんなふらついたアメジストの身体を何者かが支えた。
「まったく、1人で無茶し過ぎよ」
アメジストを支えたその人物は、胸下までのセーターの様な赤い服に、ホットパンツに身を包み、腰にはくるぶし辺りまである腰マント。拳には竜の顔の様なデザインのナックルに、足には竜の顔に合わせた様な鋭い爪が指先に着いた太ももあたりまである鱗をイメージした鎧を身にまとっていた。
「貴女は…?」
見覚えのない人物の、突然の登場に状況を忘れ思わず聞いてしまった。
「名前は…えっとオニキスだったっけ?」
「えっ」
なぜか疑問形で返されてしまい、アメジストは言葉に詰まる。それは当然のことでアメジストが知るはずがない事を答えると言うのは無理な事だった。
「ブラックオニキスメル。長いからオニキスって名乗ろうって自分で言ってたメル!」
「…メルレット?という事は、貴女は…」
突然、聴き覚えのある声が響いた途端、オニキスの肩に美咲と共にいたはずのメルレットが姿を現わす。そしてそれは自ずとオニキスが誰かという事へと答えを導き出すことだった。
「積もる話は後。アメジスト、まだ戦える?」
「…はい。まだやれます。私は、負ける訳にはいきません」
「…はぁまったく。まぁ、貴女らしいっちゃ貴女らしいか。じゃ、あのゴリラは私が相手をするからアメジストはあの鳥をお願い」
アメジストは言われたことに少し不満を抱いたがそれは後で聞くことにした。ただ、どうしても今聞きたいことが1つあった。
「わかりました。…あの1つだけ聞かせてください。なぜ、変身を──」
言葉は最初からアメジストの質問の用意があったかの様に遮られる。
「そんなの、貴女1人じゃ心配だからに決まってるでしょ」
「でも、これは私1人の問題で…それに私1人でも…」
親友を巻き込んでしまったことに対する罪悪感。心配を掛けてしまう無力な自分。様々な感情がアメジストの心に浮かび、ネガティブな言動をしてしまう。
「ほほ〜?どの口が言うのかな?」
そんなネガティブ発言に口元を押さえ目を細めながらアメジストの顔を面白そうに覗き込むオニキス。その顔は側から見てもとても怒りを覚えそうだ。
しかしそれもすぐに真剣な表情に戻る。そして顔をうつむかせたアメジストの頭をそっと撫でる。
「いつも人の事ばかりで自分の事を気にしない。しかも今回に限ってはあの2人だからそれに拍車がかかってるし。本当、貴女は1人で抱え込もうとしすぎなのよ。それで一回自暴自棄になった事忘れたの?もっと周りを、私を頼りなさいよ。頼ってくれないとね、こっちは寂しいのよ」
「オ、オニキス?」
撫でる手が徐々に乱暴になっていく。それに従い、掛ける言葉も徐々に乱暴になっていく。
「全く頼ってくれないわよね、どうして?私頼りない?私じゃなんの力にもなれないの!?」
「いえ、あの居てくれるだけでも──」
「それじゃあ、こっちの気が済まないのよ!!」
「えっ?、ちょっ!?」
乱暴に撫でる手が両手になり凶悪化した。もうすでにアメジストの髪は乱れまくっていた。だがそれでもオニキスは止まらない。否、アメジスト同様、溜め込んでいたものがついに本人の前で爆発してしまい、もう止まれない。
その場に居る誰もが動きを止め2人の様子を見守る始末。
「貴女、自分がなんでも1人で出来ると思ってるの?無理に決まってるでしょ!?1人で出来ることなんてね、たかが知れてるのよ!!大体溜め込んで自爆する貴女1人でなにが出来るの!!」
「な、なぜそこまで言われなくてはいけないのですか!」
「ずっと近くで見てたら言いたくもなるわよ!!」
さらに激しくなるなる口論にもはや敵であるカルーワさえも唖然としているがそんな事は露知らず、2人の口喧嘩は終わらない。
「私は!貴女にこれまで沢山助けてもらっています!!だからこれ以上迷惑は掛けないようにとっ」
「はぁ!?私達は親友でしょうが!貴女の事で迷惑なんてある訳ないでしょ!?むしろ、貴女の言う迷惑は、もっと私掛けて来なさいよ!!私が言ってる頼って欲しいって所はそういう所なのよ!」
もはや喧嘩なのかわからない言い争いに、ついに痺れを切らした者が2人に声を掛ける。
「2人とも、痴話喧嘩は程々にするベル」
「「痴話喧嘩じゃない!!」です!!」
「貴女がそんなだから!!そんな貴女だから私は…私が、貴女を守らなくちゃって思ったから、同じように変身したの」
「ぁ…」
「貴女が皆を助けるなら、そんな貴女を私は守るって、そう決めたのよ」
「オニ…キ…ス」
その言葉がアメジストに心に深く突き刺さる。それと同時にこんなにも自分のことを思ってくれていたオニキス…美咲がとても嬉しく思い、それに気付けなかった自分がとても腹立たしいく感じていた。
「ちょっと、なんで泣いてるのよ」
「っ…っく、なぜ…ってそれはっ」
「ああ、はいはい。もう泣かないでよ〜。ああ、こっちも涙出て来たじゃないの」
「す、みま…せん」
様々な感情が混ざり合い、泣き出してしまったアメジストにつられて、オニキスも瞳を涙で潤ませていた。
「なんっっだこれ、くだらねぇ」
2人の様子にとうとう痺れをライオンがつまらなそうにしながらそうぼやく。
「勝手にやってろ」
そう言い残し、二体のカルーワを置いて何処かへと消えてしまった。
「ん、なにあれ」
「…さぁ?」
ライオンが消えた空を指差してアメジストに尋ねたが当然の反応しかアメジストからは返ってくる。
「ま、取り敢えずさっき言った通りに行きましょうか」
「はい」
そして2人は同時に走り出す。オニキスがゴリラの姿をしたカルーワの前に立ちその横をアメジストが走り抜けようとする。
「くっ」
しかしそんなアメジストに先程と同じようにそこから先を通さんとするカルーワの拳が迫る。シールドを張っていないアメジストは咄嗟に盾を出し衝撃に備える。
しかし、アメジストにその拳が当たる事はなかった。
「あんたの相手は私よ」
カルーワの拳をオニキスが片手で受け止めていた。その光景にアメジストは思わず立ち止まり唖然とする。
「…」
「早く行きなさい」
そう一喝され、止めた足を再び動かす。それを追いかけようとするカルーワの動きを掴んでいる手に力を込める。
「行かせないわよ。ここから先は、アメジストには指一本触れさせない」
凄まじい敵意を向けてくるカルーワに同等以上の気迫を向けた。
◇◆◇◆◇
上空から急降下し、体制を変え2人のいるシールドに向けて足の爪を向けたまま急降下を続ける鳥の姿をしたカルーワ。
「あっ…」
その爪があと少しで2人のいるシールドに接触するかの辺りで、アメジストが構えた盾で弾き返した。盾に阻まれたカルーワは再び上空に舞い戻りホバリングをしていた。
「無事ですかっ」
「は、はい」
「…よかった」
空を飛んでるカルーワからは目を離さずに2人の無事を確認する。
2人が無事だった事に安堵しているとホバリングしているカルーワが突然甲高く鳴いて飛び回る。それはまるで苦しんでいるような、そんな様子だった。
「…そうでした。あの子達も。…すぐにその苦しみから解放します」
そう言って一歩踏み出すと、動きを察知したカルーワが先程の甲高い鳴き声を上げる。その目は確実にアメジストを捉えていた。
アメジストは盾を構え、カルーワの攻撃に備える。シールドを張れればよかったかのだが今は2人を守るシールドの方が重要である。シールドを出来るだけ強化して攻撃は盾でどうにかしようと判断した。
上空でカルーワが大きく、強く羽ばたくと辺りを吹く風が一層強くなる。そして、大きく羽ばたく翼からアメジストに向けてなにかが飛来する。
それを盾で弾き返し返すとその飛来した物は宙をひらひらと舞い地面に落ちる。
「羽根…?」
嫌な予感がし、再び上空を見ると無数の羽根がアメジストとシールドにいる2人目掛けて飛んで来ていた。
それを見たアメジストはシールドの中に入りシールドを最大まで強くして、無数の羽根の飛来に備える。
そして、羽根は弾丸のような速さで雨のように降り注ぐ。攻撃力はそれほどないが、数が多すぎる。
「くっ…ま…ずいっ」
シールドに少しずつヒビが入り始める。先程攻撃を食らった時、シールドに使っていた力の大半は持っていかれたため、維持出来る力が少なかった。
未だに降り注ぐ羽根にアメジストの力が限界を迎えようとした時、そっとアメジストの背中に何かが触れる。
「負けないで!」
桜が、アメジストの背中に手を伸ばし、触れていた。触れているその手は微かに震えている。
「貴女が負けたら、あの子が絶対悲しむ。貴女が負けたら、あの子が1人になっちゃう。だから絶対負けないで」
「うぐっ、わかっ…ています!」
「もしもの時は私が貴女を守るから、貴女はあの子だけでも守って──」
「何を…っく、言ってるのですか!守るのはっ私の役目です!!…2人ともっ私が守り切ってみせます!!」
アメジストは限界の身体に無理矢理力を入れ、ヒビの入ったシールドを復元する。
「ッアアア!!!」
復元したシールドで耐え凌ぎ羽根が降り注ぎ終わった瞬間、カルーワの下まで跳躍。残った力の全てをカルーワに叩き込む。
アメジストの力を叩き込まれたカルーワは次第に元の姿へと戻っていき、そして力を使い果たしたアメジストと共に地面へと落下していく。
アメジストは「このまま叩きつけられたら絶対痛いなぁ」なんて悠長なことを考えながら目を瞑る。せめてと思い、共に落下していく鳥の妖精が痛くないよう胸の前で抱きしめる。
そしてそのまま地面に落下──なんてことは無かった。
「ほんっとに、無茶し過ぎよ」
いつのまにか、オニキスに抱えられた状態で地面に着いていて衝突することはなかった。
「オニキス…ありがとう、ございます」
「別に気にしないでいいわよ。あと私の力分けたから多少はマシなはずよ」
そう言われると落下中に感じていた疲労感や脱力感が幾らかマシになっていた。そのためオニキスに下ろしてもらい自分の足で立つ。
そこに気絶している沙月希を背負っている桜が合流する。
「取り敢えず、ここから離れましょう」
オニキスの提案に全員が賛成した。この場を離れることとなった。
◇◆◇◆◇
そして訪れた場所は、アメジスト──朝陽の家だった。気絶した沙月希を部屋まで運びベッドで寝かせた、助けた妖精2人は朝陽の部屋で寝かせた後、アメジスト達2人による桜への状況説明が行われた。変身した姿で。
「という事でして、今あの怪物──カルーワの姿にされた妖精を助けるために戦っています」
「そんな朝陽が1人じゃ心配だから私も一緒に戦うことを決めたの」
「なるほどね」
ひとしきり説明を終えたが桜の表情は険しい。
「はっきり言うと、説明されても理解出来ないところが殆どだった」
「「まぁ…」」
当然といえば当然の反応である。
「でもまぁ、なんていうか…変身した理由が2人らしいわね」
桜は苦笑いを浮かべながらアメジスト達を交互に見てそう言った。それから真剣な表情に戻る。
「またあいつらが襲ってくるなら、貴女達は戦うんでしょ?」
「はい、戦います」
「ならこれだけは約束して──絶対に負けないで」
その言葉は2人の心に深く染み渡った。
「それから、やられたらやり返しなさい。確実に、正確に、的確に、狙いを定めて」
「スナイパーですか」
「桜ねぇって時々過激だよね」
「だって私、今結構ムカついてるから」
「「えぇ…」」
5話作成事情。
今回の話は新しい仲間が増えると言うのを前提にストーリーを考えていました。そうなるとこれはもうあの子しかいないなっ!って事で美咲を変身させることに。
やはり常に側で見ている美咲にとって、アメジストとして戦う朝陽が心配だろうなと思って。なら朝陽を守ると決意した美咲は変身させよう!という感じで決めました。
これでガーディアンナイトは2人目となりましたね。次は誰を変身させようか…。
ただ今回変身後のストーリーが考えていた物とは大きくそれまして…アメジストがピンチになるってとこは当初考えていたストーリーと同じだったんですが、当初はカルーワは一体の予定でした。そして2人を喧嘩させるつもりでは無かったのですが……あの2人、なんで喧嘩し始めたんだ?
最初喧嘩を始めた時、作者は「なんだこれ…」と突然喧嘩を始めた2人に困惑。
喧嘩の途中、「なんっだこれ…」と唖然としてるみんなに混じって作者も困惑。
喧嘩の終盤、「なんっっだこれ。仲良しか」とツッコミ。
ライオンの発した言葉には激しく同意。
そしてこの喧嘩が原因でその場にいて沙月希を守っていた桜に正体をちゃっかり知られているという。
むしろあのやりとりで気付かないのはおかしいということで桜には正体を知っていただいた。
まぁ、アメジストは戦いに夢中で気付かれていると気付いてなかったけど。
なんとかカルーワを倒すことが出来、妖精を二体助けて撤退。どうにかストーリーを修正出来たから良かったというべきか。
その後は当然の事情説明。桜が現状を全て理解するのは翌日になりました。
ちなみにカルーワのパンチを片手で受け止めたオニキスですが、純粋な力では現在はアメジストよりも強いです。
はぁ、酢豚食べたい。




