18話「足りないもの」
4章2話の1です。
「暑いベル…」
「干からびるメル…」
「……」
8月も後半になり、いよいよ夏休みも残すところあと少しとなった。
もうすぐ夏が終わるといってもまだまだ外は暑い。なので午後からいつものショッピングモール遊ぶ予定を組んでいた朝陽達だったが、それよりも前に集合場所だった公園に集まっていた。
「ショッピングモール何時に行く?」
木陰で日を避けながら休憩を取っていた朝陽が美咲達にそう質問する。
「もうみんな集まってるし、早めでもいいんじゃない?」
美咲がそう提案すると、それに全員が賛同する。元々の集合時間は午後なので今からだとあと2時間ほども時間がある。その時間をこうして過ごすのは退屈でしか無かった。
「では、日も高くなって来ましたし、向かいましょう」
「アイスが食べたいですね」
「ベルも食べたいベル!」
「私も…賛成」
「じゃあ着いたらまずはアイスを食べに行きましょうか」
美咲の一言に妖精達が喜びの声を上げる。
朝陽達はさっそくショッピングモールへ向かうため、歩き出した。
◇◆◇◆◇
それはショッピングモールへ向かう最中だった。
いつも重そうな荷物を持ったおばあさんが視界に入る。いつもならそのおばあさんを朝陽が見かけると一目散に荷物を代わりに持って上げるのだ。
だが、今日はそうでは無かった。
朝陽はおばあさんに気付いていながらもいつものように荷物を持ってあげようと駆け寄らなかった。
いつもの朝陽なら絶対に駆け寄るはずが、今日はまるで反応せず素通りしてしまった。
明らかにおかしい。
そしてさらに、朝陽に対する違和感を感じる出来事がその後に起きた。
素通りした後、朝陽にその事を伝えたのだが、当の朝陽は「えっ、それがどうかしたの?」と聞き返して来た。
私の知っている朝陽ではない…。
私は朝陽の態度に疑問を持ってしまった。
しかしそのあと、朝陽が小声で「ごめん、私今変なこと言った」と謝って、おばあさんのことを心配していた。
そこにいたのはいつもの朝陽だった。
「ねぇ…」
「ん?なに?」
──あんた、本当に朝陽なの?
「っ…ううん、なんでもない。それより早くいこ!」
「う、うん…?」
いつも通りに返してくる朝陽に、出かかった言葉を飲み込んだ。
そして、先程感じた疑問はきっと気のせいだったんだと自分に言い聞かせた。
◇◆◇◆◇
ショッピングモールに着いた朝陽達は、早速アイスを買いにお店に向かい、それぞれでアイスを買い、外を歩いた事で暑くなった体を冷やす。
アイスを食べながら少し休憩を挟んだ後、モール内を見て歩き回った。
お互いに似合う小物を探したり、服を見たり、公開されている映画の一覧を見て気になったものを言い、今度観る約束をしたりと、しているうちに結構な時間が経っていた。
「ドクターヘリのやつ、早く観たいなぁ」
「朝陽好きだったもんね」
「映画なんて初めてベル!」
「今度…皆で行こう」
「うん、楽しみ」
帰り道、待ち合わせた公園に再び来ていた。ベンチに座りながら今日の話で盛り上がる。
そんな朝陽達に突然、ある人物が後ろから声を掛けた。
「楽しそうね、私も混ざっていい?」
◇◆◇◆◇
その聞き覚えのある声に驚いた私達は、慌てて距離を取り、話しかけて来た人物を警戒する。
「あら、逃げられちゃった」
「…お母さん」
話しかけて来た人物とは、私の母、小盾秋穂その人だった。その秋穂が私に問う。
「私がここに来た理由は、わかっているわね?」
「…うん」
先日、私の父である春人が言っていた。私の力を根本的に変えなくてはいけないと。それはつまり今の私が持つ力とは正反対の力になるということ。
そうなればまた家族で暮らせると。
だがそれをすると、当然今まで通りとは行かなくなる。今日の様に皆で過ごすこともできなくなる。それもお父さんから聞いている話だった。
家族か、それとも美咲達か。
そのどちらかを、私が自分で選ばなければならない。その選択を、お父さん達は私に与えた。
だが私にとって、家族も、美咲達も大切な存在だから。それをどちらかを選ぶ事で、どちらかを諦める事なんてしたくない。例え、持つ力が全く違っても、絶対に一緒にいられる方法があるはず。
だから私は…どちらかを選ぶ事なんてできなかった。
「お父さんにも言ったけど、私は──」
「聞いているわ。正直、そう言うだろうとは思ってた。だからこそ、私達は──」
「また皆と一緒に過ごす願いを叶えるに」
「また家族で過ごす願いを叶えるために」
私はアメジストに変身をし、お母さんは人型のカルーワを生み出す。
「貴女達と戦います」
「貴女達と戦うわ」
またお母さん達と、そしてこれまで通り美咲達と一緒過ごす為に、私は家族と戦う覚悟を決めた。
◇◆◇◆◇
親娘の会話に付いて行けず混乱していた美咲と愛佳だが、秋穂がカルーワを出し、朝陽がアメジストに変身したのを見て、2人も変身し、アメジストの横に並び、オニキスがアメジストに小声で言う。
「あとで色々と聞くから」
「…わかりました」
色々と聞きたい事はあるが今はそれどころではない。妖精達を物陰に移動させながらカルーワを警戒する3人。目の前にいるカルーワは、これまでとは比べ物にならない程の力があるのを3人は肌で感じていた。
「それじゃあ朝陽…いえ、アメジスト。お互いの願いを叶えるために、戦いましょう」
そういうと、秋穂はカルーワを操りアメジスト達に攻撃を仕掛けて来た。
その攻撃をアメジストがシールドで受け止める。
だが、受け止めたシールドは簡単に砕け散り、その攻撃が地面に当たった衝撃で3人は吹き飛ばされる。
吹き飛ばされたアメジストに、カルーワが追撃を行う。
「アメジスト!」
オニキスの呼び掛けで、なんとかその追撃を防ぎきったが、攻撃を受けるたびにシールドが破壊される。度々シールドが破壊されてはアメジストが持たない。
ティアナが動きを封じる為に鎖でカルーワを縛り付け、オニキスが縛り付けられたカルーワを持ち上げ、投げ飛ばす。
投げ飛ばされたカルーワは地面に叩きつけられた直後、鎖の拘束を解き態勢を立て直し、次にオニキスを標的に攻撃を仕掛ける。
カルーワの猛攻にオニキスも応戦し、激しい打ち合いが始まった。
◇◆◇◆◇
オニキスが応戦しているその隙に、ティアナはアメジストの元に向かった。破壊されるシールドを何度も張った事で力を使ってしまったアメジストは息を切らしていた。
「はぁ…はぁ…」
「大丈夫?」
「ティアナ…すみません」
ティアナの肩を借りて立ち上がったアメジスト。
そんなアメジストにティアナは違和感を覚えた。アメジストが力を使って、こんなにも息を切らす事があっただろうか。
「はぁ…っ」
「…本当に大丈夫なのかしら?」
「はぁ…じ、実は」
アメジストが息を切らしながら、上手く力を使えない事を伝えた。
「思うようにっ…力が入らなくて…」
苦しそうに話すアメジストを見ていると、ティアナはとてもそれだけだとは思えなかった。
「少し休んで──」
休んでいなさいと言おうとした時、オニキスがカルーワの攻撃を受けティアナ達の元まで吹き飛ばされて来た。
ティアナが咄嗟に鎖を網状にしてオニキスを受け止める。
「た、助かった」
「貴女が押し負けるなんて珍しいじゃない。もしかして貴女も力が出せないのかしら?」
「あっ…えっと」
オニキスが露骨に目を泳がせる。もはや聞くまでも無かった。
「…」
「そ、それより私もって事は2人もなの?」
「私は特に何ともないわ。貴女とアメジストよ」
説明をしようとするが、それを待つカルーワではない。カルーワの攻撃に気付いたアメジストが力を振り絞ってシールドを張る。
なんとか一撃だけ防いだシールドは次の攻撃に耐える事ができず、シールドは砕け散ってしまう。
「っ!」
「きゃあぁぁ!」
「オニキス、ティアナ!」
間髪入れず、カルーワは飛び退いていたティアナとオニキスに重い一撃を加える。吹き飛ばされた2人は建物に叩きつけられた。
「くっ」
力を上手く使えず、消耗したアメジストはそれでも立ち向かおうと構える。
そんなアメジストをカルーワは容赦なく攻め立てる。
カルーワの猛攻に消耗したアメジストはなすすべなく、攻撃を避けるが、当たりそうになった攻撃にシールドを張ろうとした瞬間、シールドが出て来ず攻撃をもろに受けてしまった。
◇◆◇◆◇
攻撃を受けた私はふらつきながら立ち上がる。
そんなふらついていた私の体を、どういうわけかお母さんが支えた。
「…お母さん」
「いつまで、守るだけのつもりでいるの」
「えっ…きゃあ!」
「カルーワ」
空中へ投げ飛ばされた私に、カルーワの拳が振り落とされる。私は避ける事ができず振り落とされた拳と共に地面に叩きつけられた。
「がはっ…」
衝撃で身体がとてつもなく痛い。自分がどういう状況かもはや把握しきれていないが、それでも立ち上がる。
「そんな事じゃ、貴女のまた皆で一緒になんて願いは叶わないわよ」
「っ…」
お母さんも、お父さんも、そして沙月希も。本気だ。全てを捨ててでも、私を傷付けてでも、また家族で暮らすために、皆本気で…。
だがそれは私だって同じだ。また家族一緒に暮らしたい。美咲達とも一緒に。
それを叶えるために今の私に、足りないもの…それは…
◇◆◇◆◇
アメジストは腰にある剣の柄を握る。
「誰であろうと」
そして、鞘から剣をゆっくりと引いていく。
「私の願いを叶える邪魔は、させません」
鞘から引き抜いた刀身は、光を放っていた。そしてその光はアメジストの身も包み、アメジストはこれまでにない程の力をその身から放っていた。
今回の敵がどれだけ強いかわかるところ。
ティアナが趣味に走ってない。




