第七話
「夜岬さん、今なんて?」
「だから、神葉さんが犯人。そのままの意味だ」
慎は緊張感のない声で、またも気だるげに答える。そんな慎の様子もあり、円はその発言に一片の現実感も持てなかった。
……タマちゃんが、犯人……?
……脅迫状や人形の、送り主……?
突然の犯人指名だった。もちろん環は反撃する。
「何? あたしが円に脅迫状を送った犯人だっていうの?」
「そうだ」
「証拠でもあるの?」
「――残念ながら、物理的な証拠は何も……」
「じゃあなんで――」
「簡単なことだ」
慎が、環の言葉を遮る。
「……ここまで早くボロが出ると笑えてくるな」
ククッ、と慎は嫌みたらしく喉を鳴らす。
「どういうこと?」
「本当はもっと揺さぶりを掛けようとしてたんだけどなー」
「だからどういう――」
「あんた今、自白しただろ」
「え!?」
「天音さんもわかってんだろ?」
慎と環。二人の視線が円に集まる。円の表情は、驚愕の色に染められていた。
「――……タマちゃん……なんで脅迫状のこと知ってるの……?」
「なんでって、それはさっきこの探偵さんが――」
「残念。俺はまだ『手紙』とも『脅迫状』とも言ってねーよ」
「あ!」
慎は、円に届いた物について、「奇妙な物」と、曖昧にしか言っていなかった。環もそのことにようやく気づいた。
「……私、夜岬さんと琴羽さんにしか話してないよ? ……なのに、なんで?」
「そ、それは……」
とうとう環は言葉に詰まった。
「証拠はこれで十分だろ? さあ、観念して認め――」
「待ってください!!」
円が叫んだ。
――なんでタマちゃんが脅迫状のことを知ってるかはわかんないけど、タマちゃんが犯人だなんて信じたくない!
円は必死に推理の穴を突こうとする。
「――タマちゃんはずっと私と一緒に部活をしてました! 人形を私のロッカーに入れる隙なんか――」
「部活の点呼の前に神葉さん、飲みもの買いに行っただろ? 人形仕込むくらい、そんときにできる。まあ、そもそも飲みもの買うってのが口実で、そっちが真の目的だったんだろうけどな」
あえなく玉砕された。
「――で、でも――」
「天音さん」
慎は、その顔に薄く笑みを浮かべ、
諭すように、語りかけた。
「何を言っても無駄だよ。諦めな。これが――真実だ」
その笑みは、同情の暖かさの中に突き放すような冷たさを兼ね備えていた。
円はもう、何を言えばいいのかわからなくなっていた。
「真実ってのはな、ときに容赦なく襲いかかってくるものなんだ。それは変えることも、ちょっとねじ曲げることすらもできやしない。どんなにあがいても打ち勝てるわけがねーんだ。だってそれが、俺達の生きてる現実だからな。……真実は、どんなに否定したくても受け容れるしかねーんだよ」
その言葉には、計り知れない説得力があった。
――まるで慎自身も、真実に抗おうとして飲み込まれた経験があるかのような――
そんな、気がした。
「――さて、もう一度言う。あんたが犯人だ。――神葉環」
――違う、あたしは何もしてない。
それだけ口にしてくれれば、円は環を信じるつもりだった。かすかな希望を込めて、円は環に、「反論して!」と目で訴えかける。
しかし、環は何一つ語らなかった。
見つめてくる円から、後ろめたそうに顔を背けた。
……それは一重に、証明だった。
環が、犯人であることの。
「……タマちゃん……なんで?」
「…………」
環は言葉が見つからないのか、固く口を閉ざしている。
「……ねぇ……答えてよ……」
「…………」
「タマちゃん!!」
――すると、
「まあまあ。落ち付けって、天音さん」
空気の読めない男が一人、割って入った。
「……夜岬さん?」
「俺の推理はまだ終わってねー。人の話は最後まで聞けって」
緊迫した二人にはまったくそぐわないテンションで、慎は推理を再開した。




