第五話
その後、円は部活のため体育館へと戻った。
一方慎は、体育館に向かう円に『何事もなかったように振る舞っとけ』と釘を刺してから、文と一緒に八百万探偵部の部室(不法占拠した空き教室)へと帰ってきていた。
――考えをまとめる。
聞いたところあの人形は、円が荷物を取ろうとして自分のロッカーを開けたら、その中に入っていたらしい。人形をロッカーに入れたのは、脅迫状を送りつけてきたのと同一人物と見て間違いないだろう。
「……ふむ……」
口に手を当て、どこに向ける気もない視線を床に送る。
客観的には調査らしいことを何一つしていないが、慎は既に事件の核心に気づいていた。
核心――中心にある事象。
それは事件の起きた原因であり――犯人の動機だ。
……ただ、
「犯人そのものがわからなきゃ意味ね―よな」
犯人が誰なのかが皆目見当つかなかった。
「……まったく、どうしたものか……」
腕を組み顔を上げると、視界の端に和風の人形が映った。
先程の悪趣味な呪人形だ。事件の手がかりにと、回収しておいた。
その人形を慎は改めて眺めてみる。服は傷つき、髪もまったく整っていないが、よく見るとその身体の部位に目立った汚れはない。胸部の『呪』の字についても、赤黒い色をしているが最近書かれたような鮮やかさもある。この人形はそれほど古い物ではないようだ。――そして、服や髪は年期ではなく、意図的にボロボロにされたと、そんな気がした。演出のためにわざわざ作ったのだろう。
少し上に目を動かすと、人形の顔が目に入った。やはり新しげな質感だ。しっかりした作りで、それ故に「作り物」の感じを大層醸しだしていた。呪いの人形を自称するにはどうにも無機質である。
しかし、瞳にはどこか悲愴感が滲んでいた。
「……慎……」
急に名前を呼ばれて、今度は文に目を向けた。
「なんだ?」
文が自ら話を切り出すなんて珍しい。つまり文がこれから話そうとしているのは、それほど大事なことなのだろう。
文は件の人形を指差し、
「……その人形にも……悪意は、ない……」
「ん? ……あ、そうか。これにも一応、お前の力は有効なんだな」
慎の言葉に、コクリと頷いて返す。
「……それにしても、やっぱり悪意はない……か……」
こんな人形、一見すると悪意に満ち満ちてるがな。慎はそんなことを考えてから、訊いた。
「悪意がないなら、何があるんだ?」
「……謝罪の念……」
「……なるほど――って、ん? 謝罪?」
慎はそこで一つの『違和感』を覚えた。
否、思い出した。
違和感というか、少し引っかかっていたことがあったのだ。
慎は、「もしかして」と虚空に呟き、思考を再開する。
そして、閃いた。
「――そういうことか」
慎はニヤリ、と口の端をつり上げた。




