第1話 はる。世界で一番大好き。
はると手をつないで。
はる。世界で一番大好き。
「はる。手を離してよ。このままだと二人とも落っこちゃうよ」
「いやだよ。『絶対に手を離さない』」
はるは怖くて怖くて震えているりんを見てにっこりとりんのことを安心させるようにして笑った。
はるとりんは真っ暗な深い闇の中で宙ぶらりんになるみたいにして、はるが手につかんでいる『一本の光の紐』にぶら下がるようにして、浮かんでた。
はるはもう片方の手でしっかりとりん手を握りしめていた。りんもしっかりとはるの手を握っている。本当ははるの体に(怖かったから)しがみつきたかったけど、手を握っているだけで精一杯だった。
真っ暗な深い闇の中に音はなにもなくてはるとりんの話をする声と、どきどきしている心臓の音のほかにはなんの音も聞こえてこなかった。
りんはある日、『地面に開いていた落とし穴にうっかり落っこちてしまった』。
本当ならりんはそのまま、真っ逆さまに真っ暗な闇の中に落ちて消えていなくなってしまっていたはずだった。
でも、そんなりんのことをはるが助けてくれた。
ううん。まだ助かったわけじゃない。助けにきてくれたはるもりんと一緒に真っ暗な闇の中に落ちてしまいそうになっている。
「今日の晩ごはんは、そうだな。久しぶりにりんの愛情たっぷりのカレーが食べたいな。家に帰ったらさ、カレー、作ってくれるかな? 助けてあげたお礼としてさ」
いつものような優しい顔でにっこりと笑って、はるは今にも泣き出しそうな顔をしているりんを見て言った。
「はる。私、はるのこと世界で一番大好き」
りんははるの瞳をまっすぐに見つめながら言った。
はるとりんは中学二年生の十四歳だった。
二人は中学校の制服を着ている。
りんの手が、だんだんとはるの手からこぼれ落ちようとしている。
りんの大きな瞳からは、大粒の涙が溢れて、真っ暗な闇の中にぽたぽたと落ちていった。




