第38話 彼氏No2、【原初の豪剣ガルチャ】
誰にだって失敗はある。
そんな力であれ、最初から上手く使いこなすなんて難しい話だ。
それはギギラ・クレシアも例外じゃない。
『これが武器化?二人は助かったの?』
『厳密には武器化は失敗だね。でも、二人の命を救うという君の目的は果たしているとも言える』
ギギラが最初に武器化したのは、当時付き合っていた二人の男性だった。
彼女が禁術を授かった時、二人は瀕死の重体だった。
そんな二人が死んでしまう前に、人間ではなく武器と言う形で二人を生きながらせようと考えていたのである。
『本来、武器化の禁術は相手の体を武器に変化させる物だ。元になった人物の能力や生き様によって異能が宿る点を考慮すれば、アーティファクトを作る力と行っても過言ではないだろう』
呆然とする当時のギギラに語りかけるのは、彼女に禁術を与えた『目無し』の女だった。
『だけどこの二人は違う。彼らの肉体はそのままに、その魂だけが生前使っていた武器と融合している』
『二人は生きてるの?』
『それにしても、この禁術を使ってこんな効果が出るとはね。失敗の産物とはいえ、中々興味深いものがー』
『無視しないで答えてよ!!ギギラは二人を死なせないためにあなたの手を取ったの!!この国では持ってるだけで違法になる禁術を!!お兄ちゃんがずっと苦しむ原因になった禁術を!!なのに……なのに……』
それで二人が死んだらなんの意味もないじゃないかと、そう言いかけてギギラはうなだれだ。
赤くろい血が飛び散った大剣と盾を大事そうに見つめながら。
『生きていると行っても良いんじゃない。魂がそこにあるんだから、彼らの意志もそこに宿ってる』
『本当?』
『嘘はつかないよ。まぁ、君が完全な武器化をしていれば今にも二人と話せただろうけどね』
そんな言葉を残して、『目無し』の女は振り返った。
もうここにいる意味はないと言うように、ギギラと離れたところに歩いていく。
『そうそう、一つだけ教えてあげるよ。ギギラ・クレシア』
『何?』
『その二人は不完全が武器化だが、異能はちゃんと宿ってるみたいだよ。詳細はしらないけど、君が君の理想郷を作った時に力になるみたいだよ』
その言葉を聞いて、ギギラは目を見開いた。
いつぞやに、二人に語った将来の夢を思い出す。
自分の彼氏が20人になっても、たとえ100人になっても、皆が幸せで生きていける世界を作ると宣言したことを。
その我儘を通せるぐらい、強い存在になると誓ったことを。
『そっか……それじゃぁ俯いてる場合じゃ無いね』
ギギラは二人の魂が宿った武器を装備し、立ち上がる。
『見ててね、二人とも。ギギラ、すっごく強くなるから。二人の出る幕もないぐらい、安心してギギラの事を見れるぐらい強くなるから』
顔をあげて、禁術使いの犯罪者になったギギラ・クレシアは声を張り上げて宣言した。
『だけど、もしギギラがどうしようもなくなったその時は、ちょこっと助けて欲しいな』
新たな旅立ちの第一歩を。
◇
「あぁ、あぁ、なんて美しい剣!!それが貴方の最後の切り札!」
大剣を携えたギギラを見て、アイネは狂った声をあげた。
彼女の亡くなった半身の代わりとなっている闇の魔力はその衰えを知らない。
戦いは長引いているのにその濃さは増すばかりだ。
おまけにアイネには本体と同等の力を持つ分身が居る。
今や分身はコロシアムを埋め尽くすほどに増殖。
ギギラの逃げる道はもうどこにもない。
「まぁ、逃げる必要なんか無いけどね」
ギギラはそう言いながら大剣を構えた。
「えぇ、えぇ。私には分かる。分かるよ。あなたの考えが。その武器の力が」
「へぇ、言ってみなよ」
「それは私が悪魔と、クライネと融合してたのと同じ。魂を繋ぐ力」
「なるほど、君はそう捉えるんだ。確かに悪魔との融合は似たようなものかもね」
ギギラはそう言いながら大剣に力を込める。
すると、彼女の体がミシミシと音を立てて変化した。
彼女の体からは、アイネの闇に負けなほどの光の魔力が漏れ出した。
そして彼女の髪色が大剣の刀身に引っ張られるように赤く染まっていく。
「この剣に宿る魂、ガルチャの力は皆の魂を繋ぐ力。ギギラとガルチャとバラン君とセトラの力を繋いで、君を葬り去る」
「大きく出たねぇ。さっきは私を仕留め損ねた癖に」
「だからこそ奥の手を出したんだよ。今度こそ、確実に君を殺すために」
ギギラの髪が完全な緋色に染まったこの瞬間が、その合図だった。
その髪を軽く振った衝撃派でアイネの分身が灰と貸す。
そんなバカげた事が起こってしまい程に、四人の魂が完全に混ざり合ったその剣とその体はこの世界のどんな生物も凌駕する存在となっていた。
『今度こそ、君を確実に殺す』と言うギギラの言葉はハッタリではなく、確信をもって言える死刑宣告だったのだ。
「どうするクソ女。『オレ達』が出たんだから勝ち筋なんて無いけど」
ギギラの声が響く。
その一人称は混じり合った魂に惹かれてはいるが、その女を煽るような口調は紛れもなく彼女自身のものだ。
「決まってますよ。争うしかないでしょう。だって、だって、圧倒的な質を持つ相手を圧倒的な量で潰して、汚して、徹底的に叩きのめす光景が、この世で一番美しいんだから」
あまたの悪魔とあまたの人間を闇の魔力で吸収し、最後には狂ったアイネとはあり方が根本から違うのだ。
「私のもちえる全分身を一箇所に集めましょう。それであなたを潰してこの戦いはフィナーレです!!」
アイネの周囲に数多の分身体が集まる。
その分身体たちは闇の魔力を放出し、それをある一点にまとめた。
この世のどこよりも果てしなく暗い、絶望そのものと言える魔弾が形成されていく。
「そんなの無駄だって教えてあげるよ。『オレ達』の愛で」
そう言葉を返して、ギギラも全魔力を解放する。
鮮やかな赤の大剣が、光の魔力をまとって金色に輝き始めた。
「『オレ達』の剣は一撃必殺」
「どうか必死に足掻いてください。私も、私達も必死で抗いますから」
「この世を統べるいかなる存在も、この剣の前に立つこと叶わず」
「私の全霊、私達の全力!!その先にある、絶望で染まった素晴らしき世界!!」
先に攻撃を放ったのはアイネだった。
大きな大きな黒い魔弾が、空間を飲み込みながら前へ前へと躍進する。
「この一撃を放つ名誉は魂捧げし同胞へ。ゆえに豪剣はその名を改める」
その魔弾を恐れもせず、ギギラは剣をゆっくりと振り下ろした。
「豪剣改名【足掻きの希望剣】」
輝く希望の剣は、絶望の魔弾をいともたやすく消滅させる。
その力の差は圧倒的だった。
「アハッ、なんて綺麗な……私の絶望」
闇の魔力に魅入られた少女、アイネの最後の声が響く。
その断末魔は激闘の終焉を告げていた。
「君はここで戦った誰よりも厄介だったよ。だからって何を思うでもないけどさ」




