5話 12の厄災
朝を迎えた俺とセナは寝ぼけながら寝癖を治す。
「そういや、魔術調査の結果を聞いてなかったな。」
謁見の前に、セナにはある事を頼んでいた。
誰がなんの魔術を使えるかの確認だ。
セナの指輪には水晶が着いており、対象の近くに行くと色でそいつが使える魔術を知らせる。
そういや魔道具職人って言ってたが、この指輪自作か?
「そういや、報告まだだったわね。
調査結果はこうよ。」
アクス 水、風
ベンディ 土
ジャック 雷、土
シンシア 風
サレア 火、土、風
ちなみに固有魔術には反応しないらしい。
本来ならほかの騎士も調べたいんだが、
時間もかかりすぎる。
あとで指輪を借りてニックスも調べよう。
あれ?待てよ…そういやセナって…
「セナ、お前俺にネルドが殺されたことを言いに来たよな?どこでネルドのことを知った?」
「どこでも何も現場を見たのよ。
まだ体が暖かかったから、犯人が近くに居るかもしれないと思ってすぐ離れたわ。」
第一発見者はセナ…?
「それ、いつの話だ?」
「家にもどる前よ。昨日の朝。」
朝?だとしたら犯行時刻はその辺りか…?
だいぶ絞り込めた。
昨日聞いたそれぞれのアリバイを、
犯行時刻付近だけまとめてみた。
アクス 徹夜で俺たちとの面会まで公務。
朝に30分、面会前に30分休憩
ベンディ アクスの監視および手伝い。アクスが休憩
の時以外は監視していた。
ジャック 自宅にて睡眠。起きたのは昼。
シンシア 王城にて睡眠。ずっとジャックが来ないの
で起こしに行く。
サレア 門番と魔術について徹夜で語っていた。
一度も門から離れていない。
こんなところだ。アリバイがないのは
ジャックくらいか。アクスも30分休憩があるが、
ここから病院までは急いでも1時間はかかる。
往復なんて無理だ。それにサレアが門に…ってこれ信じられるか?
「サレアのこと?まあ、団長だし信じていいと思うわ。さすがに門にいて人を見逃すマヌケはしないわよ。」
ほんとか?あのバカ女だぞ?
「まあ、いいや。少し調べ物をする。
少しの間別行動だな。」
俺は王城を出て、ニックスの所へ行った。
現状の報告と、ニックスの魔術を調べる。
(火だけか…)
「なるほど。引き続き、お願い致します。
あ、実は私からもお話したいことが。
私しか知らない事なんですが…。」
…!
まずい!急いでセナと合流しなくては!
俺は全力で走った。まだ王城にいるはず!
ガン!
俺は強く頭を殴られた。
意識が遠くなる…。
「私は何を調べたらいいのかしら。」
正直これ以上どうしたらいいのかわからない。
王城の客室で悩んでいると、ドアの下から一通の手紙が置かれた。
手紙…?私に?
恐る恐る中を読むと、犯人がわかった。
「イェベリ地下洞窟ね…。」
すぐに向かった。どうか間に合って…!
まだ、本当のことも話せていない…!
「っ…つっ!」
目を覚ますと俺は手足を鎖で縛られていた。
クソッ、まだ鈍痛がする。
ともかく、まだ殺されていない。
当然といえば当然か。
あいつの目的は俺を人質にすること。
「隠れてるつもりか?バレバレだぞ。」
俺は物陰に隠れているやつに話しかける。
「知ってるか?ネルドは自分も治癒できる。
だから、殺すなら即死かあとは…溺死かな。
あの背中の傷、不自然すぎるんだよ。
武器で貫くなら焦げはつかない。雷か火で貫くなら傷口は全部焦げる。皮膚に近いとこだけ焦げるなんておかしいだろ。つまり偽装工作だ。
犯人は傷口をライターのような魔道具で焼いたんだ。
死因を水魔術の溺死じゃなく、
火か雷の攻撃だと思わせたかった。
具体的には、ジャックとかな?
お粗末な小細工だと思ったよ。
焼くならちゃんと焼けってな。
でも無理だよな?お前が使えた時間は
30分だけなんだから。
なあ?アクス?」
物陰からアクスが出てくる。
「あのセナ・リンボルグが来ると聞いて焦ったが、
本当に恐れるべきは君だったか…。
なぜ私だとわかったんですか?」
「お前、12の厄災の話をしたよな?
知ってるか?今日、新しい厄災の名前がわかったらしい。
名前は 破砕の弓 だ。
ビッグニュースだろ?ネルドの手記から名前だけわかったんだとよ。
だがこれを知ってるのは、ある男だけだ。
俺に初めて伝えたんだとよ。
でもお前、昨日言ってたよな?その名前。
なんでお前がその名前を知っている?
いや、知ってて当然だよな?
最初から破砕の弓を横取りとしてたんだからな。
そうだろ?
なぜなら、これはネルドが追っていた厄災だ。」
我ながらペラペラと舌が回ると思う。
時間を稼がなきゃならない。
俺が人質な以上、こいつはセナを呼んでいるはずだ。なら俺も動くのはセナが来てからだ。
そして、こいつをセナに不意打ちさせる。
常にこいつの注意を俺に惹きつければ、
セナが着いた時に気づいてくれるはず。
攻撃の最大のチャンスだということに。
「疑問ですねぇ。どうやって破砕の弓はネルド殿
が追っていたものと?ある男というのは誰ですか?」
「さぁな?忘れた。」
「ふざけていないで答えろ!!
貴様!誰からそれを聞いた!!」
アクスが俺の首を絞める。
どいつもこいつも俺の首に恨みでもあるのか?
だが間に合った。
「メルファイラ!」
火球がアクスの背中に直撃した。
セナが来たんだ。
「ぐっ…貴様ぁ!」
「アクス…あなた…!」
「おっと、下手な真似はやめてください。
あなたの弟子が八つ裂きになりますよ?」
アクスが俺に剣を向ける。
「寝ぼけてるの?私の雷の方が速いわよ。
ガルライア!」
俺を斬る暇もなく、アクスは雷を受ける。
「あがあぁ!…舐めやがってこのアマァ!」
「大人しくしてもらうわよ。
レイゴルア!」
セナの氷結で拘束して終わり。
かと思えた。
だが、アクスの姿は消えるように見えなくなった。
なんだこれ?これがこいつの固有魔術か?
いや、多分俺なら見える。
「セナ!足元だ!!」
「もう遅い。」
アクスの姿が見えたかと思えば、セナの杖と身体を
剣で切り裂いた。離れた距離を一瞬で移動して。
「がっ…!なんで消えて…!」
俺には見えていた。
透明になっていたが、全身に風魔術をかけて
一気に加速して近づいたんだ。透明はおそらく…。
そう考える間もなくセナは倒れ込む。
「念の為、両腕を折っておきましょうか。」
アクスはセナの腕を勢いよく踏み抜く。
「ぐっ…がああぁぁ!」
セナの悲痛な叫びが聞こえる。
「健気ですねぇ。広範囲の魔術を使えば良かったというのに…。お弟子さんがそんなに大事ですか?じゃあもっと耐えてください!」
アクスはセナの体を壊しはじめた。
両腕の次は右足、あばら、左足、指…。
骨を1本1本、丁寧に…。
セナは声を堪えようとしているが、耐えられない。
大声で、涙と鼻水と血塗れの顔で痛みを叫ぶ。
「ぎゃああああぁ!あ……ぐっ!げあああぁ!」
やばい。急がないと。
こんなガチガチに鎖巻きやがってクソ野郎!!
散々痛めつけた後、アクスの剣がセナの首を狙う。
「いや〜、結構楽しめました。
よく耐えましたね。ご褒美です。
今楽に…
ぶがっっ!!」
まず1発だ。このクソ野郎の顔に拳を叩き込んだ。
「水くせえんだよ、お前。
全部知ってるよ。
お前、ネルドと一緒に破砕の弓を追ってたんだろ?ネルドの嫁、破砕の弓の所有者だったって聞いた。
それ持って魔王軍と戦って死んだ。
自分の武器が厄災だと誰にも教えずにな。
だからお前、境界の森にいたんだろ?
魔王軍の領地に弓があるって考えたから。」
「どうやって…」
「ああ鎖か?身体強化を教えたのお前だろ。
鎖くらい千切れるさ。」
そうこうしてるうちにアクスが起き上がる。
「て…てめぇ!!誰に手ぇ挙げてんだコラァ!!
ぶっっ殺してやる!!」
「おう、殺す気で来い。だがお前は安心していいぞ。依頼は犯人を捕まえることだ。
殺さないよう手加減してやる。」
アクスの血管がブチ切れる。
「っっっっっっごろぉぉぉぉず!!!!」
アクスは体と剣に風をまとって襲いかかる。
頭に血が上りすぎて剣技が乱れているが、
圧倒的な速度で斬りかかってきた。
当然、ケンゴが使えるのは身体強化のみ。
それも時間が経てば身体が壊れる条件付き。
だが、ケンゴの身体強化は常識を超えていた。
「なぜだ?なぜ剣が当たらん…!?」
「不思議そうな顔だな。」
2発、3発、4発…と顔面に叩き込む。
本来の身体強化とは、魔力を循環させて行うもの。
だがケンゴの体には魔力回路がないので、
循環ができず、魔力が細胞に負担をかけながら
残留する。
その結果、ケンゴの体はより多くの魔力を使って
強化ができ、通常よりも肉体が強化されるようになったのだ。
そのため、アクスの剣は1度もかすめることすらできなかった。
「なんで…なんでだあああ!!」
透明化してくるが無駄だ。
アクスの透明化には僅かなブレがある。
普通の肉眼では見えないが、ケンゴ身体強化の影響で五感も強化されている。
見切ることは造作もない。
「ぶぐっ…!がああぁぁ!」
さらに何発も貰ってアクスが倒れる。
ついでに手放した剣もへし折った。
「終わりか?我慢強くねえなあ。
セナを見習ったらどうだ?」
「ま、待て!詫びよう!セナ殿の非礼について!
心から!申し訳なかった!」
「そうか、じゃネルドの分をぶち込んで…」
「待て待て!待ってくれ!
ネルド殿の件は私じゃない!私には不可能だ!」
こいつ…この期に及んでふざけたことを…。
「言い訳くらい聞いてやるよ。言ってみろ。」
「まず私には30分しか時間がないんだぞ!
他の時間はベンディと一緒にいた!本当だ!
本人に聞けばわかる!
王城から病院まででは時間が足りない!
それにあの日は門番がいた!サレアもだ!
そこをくぐり抜けるなんて不可能だ!」
こいつ…どこまでムカつくんだ?
聞いてやって損した。
「それで全部か?」
「え?…あぁ…まぁ…」
「まず、お前は門から出ていない。
自室の窓から出た。」
「はぁ!?何言って…」
「やり方はさっきお前が証明しただろう?
風魔術で空を飛んだんだよ。
んで?門番だっけか?お前水も使えただろ?
水滴を風に乗せて光を屈折させりゃいい。
さっきの不完全な透明もそれだろ。
完全に隠れることはできないが、そん時は真夜中だ。どんなに目が良くても人が飛んでるとは気づか無いだろうよ。
さっきの速度なら10分もかからず病院につくだろうよ。」
「ぐ…ぎぎ…」
終わりだな。
時間切れの前にもう一発殴って眠らせよう。
「クソがあああ!まだだあぁ!」
アクスは立ち上がって、
曲がった棒のようなもので殴り掛かる。
避けるのは訳ない。
ただなんだあれ?形状で近いものは…弓?
まさか!?
「気づいたか…ケケ…そうだよ…
破砕の弓だよぉ!」
アクスは破砕の弓を見せつけてきたが、
それは苦し紛れの抵抗であった。
(やはり俺に所有権はないか…クソッ!
だが厄災は無限の魔力の塊だ。決して壊れはしない。あのゴミに折られることはない!)
(破砕の弓?本物か?有り得るな。
弓の存在はネルドの捜索記録から発覚したもの。
ネルドが実物を手に入れて、奴が奪ったとしても
おかしくない。
だが良かった。やつに所有権はない。
もし所有者ならあんな稚拙な攻撃はしてこない。)
破砕の弓は力を使えない。
依然、ケンゴの有利は変わらない。
はずだった。
時間切れだ。
蓄積した魔力が身体を破壊する。
ぐっ…!クッソ…!なんで今だよ…!」
やばい。立っていられない。
いくら棒切れでも何度も殴られりゃ死ぬ!
まずい…やつが来る…振り下ろす…。
最後の抵抗だった。
手で受け止めようとする。
だが、止められる力など残っていない。
弓と手が触れたその時。
「承認」
誰のものかわからない声がしたと思えば、
アクスは弓を失っていた。
弓は…どこに…?
なんで…俺の手には…
銃がある?
困惑する2人。
先に動いたのはアクスだった。
ケンゴの持つ得体の知れない武器を奪おうとした。
だが、銃の前には無力。
ケンゴはすぐに引き金を引き、急所を外すように
何発か撃った。
弾の代わりにエネルギー弾のようなものが射出され、アクスの体を撃ち抜いた。
もうアクスは動けない。呻き声をあげるのが精一杯だ。
そして、この地下洞窟に近づく足音が聞こえてくる。
「こっちだシンシア!早く来い!」
ジャックの声だ…。
全て話さなくては…。
そこで意識を失い、ケンゴとセナは丸2日眠った。




