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夕方、瑞希が帰った後、健一は一人でバルコニーに出た。東京の夕景が美しく広がっている。以前なら見過ごしていた景色も、今では心に深く響く。
手すりにもたれながら、健一はこの一年間の変化を振り返った。
仕事では、AI倫理の分野で注目される研究を発表していた。「人工知能と人間の感情的絆に関する倫理的考察」という論文は、多くの専門家から高い評価を受けた。その研究の根底には、友人たちとの体験があった。
人間関係も大きく変わった。同僚との交流が増え、定期的に実家を訪れるようになり、そして瑞希という素晴らしい女性との出会いもあった。
「みんな、見てくれてるかな」健一は空に向かってつぶやいた。
風が頬を撫でていく。まるで、誰かが優しく微笑みかけているかのような感覚だった。
その時、ふと健一の脳に言葉が浮かんだ。
先ほどの絵本のタイトルだ。
「もういない子だれだ」
いつの間にか、まわりに自分以外いなくなってた孤独の子。いつもの仲間が誰もいないので自分は死んでしまったのかと思っていた。
いなくなった仲間を探すがみんな亡くなっていた。いなくなったのは自分以外みんなだった。探すうちに、いなくなった仲間たちに愛されていたことに気づき、自分の中にいなくなった仲間が生き続ける物語だ。
AIを利用して健一が作った絵本だった。
孤独で、愛されていないと思い込んでいた自分。40歳の誕生日を一人で過ごし、人生に虚無感を抱いていた自分。
しかし、友人たちとの再会を通して理解した。自分は決して孤独ではなかった。高校時代から、ずっと多くの人に愛されていた。優子に、雄介に、美香に、誠に、絵里に。そして今は、瑞希に、家族に、同僚たちに。
もういない子はだれもいない。




