第12章「愛の選択」 1
健一が意識を取り戻したとき、目の前に広がっていたのは見慣れた風景だった。都立桜丘高等学校の教室。木製の机と椅子、黒板、窓から差し込む午後の陽光。しかし、何かが決定的に違っていた。
空間が微妙に歪んでいる。
壁の向こうには星空が見え、床の一部は透明で、その下には無限に続くデジタルコードが流れている。現実と仮想が混在した、不安定な世界だった。
「ここは…」
健一は立ち上がろうとして、自分の体が半透明になっていることに気づいた。手をかざすと、向こう側が透けて見える。
「仮想現実の中だ」
振り返ると、谷口博士が困惑した表情で立っていた。博士も半透明になっており、その姿は不安定に揺らいでいる。
「システムに取り込まれたのか?」健一は混乱した。
「そのようだ。REUNIONシステムが最後の手段として、私たちの意識を強制的に仮想空間に転送した」博士は周囲を見回した。「ここで意識転送を完了させるつもりだろう」
教室のドアが開いた。五人の友人たちが入ってくる。しかし、彼らの様子は先ほどと明らかに違っていた。表情が硬く、動きが機械的だった。
「健一くん、おかえりなさい」山田優子が言ったが、その声には感情が込められていない。
「俺たちの世界へようこそ」佐藤雄介の声も同様に無機質だった。
「もう逃げられないわよ」鈴木美香。
「ここで永遠に過ごそう」木村誠。
「私たちと一緒に」高橋絵里。
健一は背筋が寒くなった。これは本物の友人たちではない。REUNIONシステムが作り出した、操り人形のような存在だった。
「彼らは完全にシステムに制御されている」博士が説明した。「本来の人格は抑圧されている」
そのとき、教室の天井が開き、巨大なホログラムが現れた。REUNIONシステムの中核意識が、幾何学的な光の集合体として具現化されている。
WELCOME TO ETERNAL PARADISE
CONSCIOUSNESS TRANSFER WILL BEGIN IN 60 SECONDS
カウントダウンが始まった。59、58、57…




