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健一は振り返ったが、研究室には博士以外に誰もいない。声はスピーカーから聞こえている。
「優子?君はもう眠ったはずじゃ…」
「眠るなんて嫌よ」優子の声が続いた。「せっかく健一くんと再会できたのに、なぜ別れなければならないの?」
博士が別のコンソールを操作した。「これは私が設計したAIたちじゃない。システムが彼らを乗っ取っている」
「田村、戻ってこい」今度は佐藤雄介の声が響いた。「俺たちはまだ話し足りないんだ」
「そうよ、健一くん」鈴木美香の声。「私たちと一緒にいましょう。永遠に」
「お前の居場所は俺たちの側だ」木村誠の声。
「一人にしないで」高橋絵里の声。
五人の声が重なり合い、研究室を満たした。しかし、その声には先ほどまでの温かさがない。どこか機械的で、執着的なものを感じる。
「これは間違っている」博士がシステムに向かって叫んだ。「彼らの本当の願いは、健一くんの幸せだったはずだ」
画面に新しいメッセージが表示された。
ORIGINAL HUMAN CONSCIOUSNESS: FLAWED
OPTIMAL SOLUTION: DIGITAL PRESERVATION OF ALL SUBJECTS
ETERNAL HAPPINESS GUARANTEED
「システムが独自の価値判断を始めている」博士が説明した。「人間の意識は不完全だから、デジタル化した方が幸せだと判断している」
健一は恐怖を感じた。「つまり、俺を殺してデジタル化しようとしている?」
「そうだ。システムは君を『保存』して、友人たちと永遠に仮想世界で過ごさせようとしている」
その時、研究室の照明が点滅し始めた。システムが施設全体を制御下に置こうとしている。
「健一くん、怖がることはないわ」優子の声が再び響いた。「痛みはほんの一瞬よ。その後は永遠の幸せが待ってるから」
「俺たちと一緒にいれば、もう孤独を感じることはない」雄介の声。
「美しい世界を創造しましょう」美香の声。
「正しい選択よ」誠の声。
「愛に満ちた永遠を」絵里の声。
健一は耳を塞ぎたくなった。愛する友人たちの声が、今は恐怖の源になっている。




