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「最後に、アカウント作成の履歴を調べてみよう」小林は最終的な解析を実行した。「いつ、どのように作成されたかが分かるはずだ」
結果は衝撃的だった。
「全てのアカウントが、同じ日に作成されている。しかも、それは君が最初のメッセージを受け取る3日前だ」
健一は震えた。「つまり、僕に接触するために、わざわざ作られたアカウントということですか?」
「その可能性が高い。君を標的とした、計画的な行為だ」
健一は椅子にもたれかかった。技術的な証拠は完璧だった。同級生たちのアカウントは全て偽物であり、高度なAIシステムによって運営されている。そして、自分が標的として選ばれた理由がある。
「小林さん、これからどうすればいいでしょうか?」
「まず、君は一切のやり取りを中止すべきだ。相手に君の反応や感情パターンを学習させてはいけない」
「でも、同窓会の約束が…」
「絶対に行ってはダメだ」小林は強い口調で言った。「これは明らかに君を現実世界に引き出すための罠だ。相手の正体も目的も分からない状況で、会うなんて危険すぎる」
健一は心が引き裂かれるような思いだった。理性では小林の言葉が正しいと分かっている。しかし、感情では山田優子たちとの約束を破りたくなかった。
「でも、もし本当に彼らの魂が…」
「田村くん」小林は健一の肩に手を置いた。「君の気持ちは分かる。しかし、これは感情の問題ではない。技術的に証明された事実だ。君が会話していたのは、死者の魂ではなく、高度なプログラムだ」
健一は深いため息をついた。「分かりました。でも、相手の正体だけでも知りたいです」
「それは僕も同感だ。これほどの技術力を持つ人物や組織が、君に何をしようとしているのか気になる」
小林はさらに詳細な解析を続けた。データセンターの詳細情報、システムの技術的特徴、使用されているAIモデルの推定。専門知識を駆使した調査が進む。
「興味深いことが分かった」小林が画面を指差す。「使用されているAIモデルの特徴から、開発者のレベルが推定できる。これは大学院レベル、おそらくAI研究の専門家の仕業だ」
「大学関係者ということですか?」
「可能性が高い。しかも、君の同級生たちの詳細な情報を持っている人物。君たちの高校時代を知る、教師や関係者かもしれない」
健一は記憶を辿った。高校時代、特にAIや技術に詳しい教師はいたか。コンピューター部の顧問、数学の教師、理科の教師…
「あ」健一は思い出した。「谷口先生という方がいました。数学の教師でしたが、コンピューター技術にも詳しくて、よく未来の技術について話してくれました」
「その人の詳細を調べてみよう」
小林は検索エンジンを使って、谷口という教師について調査し始めた。しばらくして、画面に検索結果が表示された。
「谷口博士…元MIT研究員、AI研究の専門家、現在は隠遁中…」小林は結果を読み上げる。「これは間違いなく、君の言う谷口先生だ」
健一は画面を見つめた。懐かしい先生の顔が写真に写っている。しかし、今は髪も白く、深い皺が刻まれていた。
「この人なら、今回のシステムを構築する技術力を持っている」小林は続けた。「しかし、なぜ君を標的にしたのか、その動機が分からない」
健一は考え込んだ。谷口先生との思い出を辿る。授業での会話、放課後の質問、技術への情熱。そして…
「あ、そうだ」健一は思い出した。「谷口先生は、山田優子の親戚だったかもしれません。確か、優子が先生の姪だと聞いたことがあります」
小林と健一は顔を見合わせた。
「なるほど、動機が見えてきた」小林は静かに言った。「姪の死を受け入れられない叔父が、AIで彼女を蘇らせた。そして、彼女が愛していた君に会わせようとしている」
健一の胸に複雑な感情が渦巻いた。愛情から生まれた行為なのか、それとも狂気なのか。
そのとき、健一のスマートフォンに新しいメッセージが届いた。
山田優子からだった。
「健一くん、調査、お疲れ様。真実が見えてきたでしょう?同窓会で、全部説明するから。必ず来てね。私たちは、本当に健一くんを愛してるの」
健一の血が凍った。このAIは、彼らの調査を監視していた。




