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ねがいごと  作者: 流星
19/83

第十九話

「おはよう。リリア」


ある朝、リリアは目覚めてすぐに驚いた。

目の前にいたのがハイドではなくて、ラルフだったからだ。


「……ラルフ、どうしたの?」


「リリアの寝顔が見たかったから」


「……!」


リリアの驚いた顔を見て、ラルフが笑った。


ハイドが毎回言っているセリフなのに、ラルフが言うと、どうしてこんなにドキドキするのだろう。


「今日はハイドの友達が屋敷に来るから、ハイドは迎えに行っている」


「うん」


リリアはラルフの顔がまともに見られなくて、返事をするのが精一杯だった。


「魔女だが気さくな奴だから、リリアも仲良くなれるはずだ」


「……うん」


リリアは夜会の日の事を思い出した。


いくらリリアが仲良くしようと思っても、相手に敵意があれば仲良くはなれない。


「リリア?」


「あ……。うん、分かった」


リリアは、不安を隠して笑顔を作った。


「リリア、俺から離れるな。誰にも手出しはさせない」


リリアの不安に気付いたラルフは、リリアを抱きしめた。

リリアが首を縦に振った時、


「ラルフ、リリア……。おっと! ゴメン」


ハイドの声と同時に部屋の扉が閉まる音がした。


「ハイド、何か勘違いしたな……。

 リリア、俺は部屋の外で待っているから、着替えておいで」


ラルフが部屋を出た。


リリアがしばらく固まっていると、人形のローズとバイオレットがリリアの服を着替えさせ、髪を綺麗に結ってくれた。


リリアがラルフと一緒にハイドのいる部屋へ行くと、ハイドが真っ先に


「ラルフ、邪魔して悪かった。次から部屋はノックして入るから」


と、謝ってきた。


「ああ。ノックをして、返事を聞いてから入ってくれ」


ラルフが言うと、


「何の話をしているの?」


と、赤い髪をした綺麗な女の人が話に加わった。


「リリア、コイツは友達のローザ」


ハイドが紹介すると、ローザはにっこり笑って手を出した。


「よろしくね。リリア」


「よ……、よろしく、ローザ」


リリアは少し緊張しながらローザと握手をした。

 ラルフとハイドとローザの三人は、リリアには分からない話で盛り上がっていた。

ラルフがその都度、隣で説明をしてくれるが、いまいちリリアにはピンとこない話だった。


リリアはラルフに小声で


「ビンセントはどこ?」


と、聞いてみた。


「中庭辺りにいると思うが、どうした?」


「ビンセントのところへ行ってきてもいい?」


「退屈になったか?」


「ううん。そんなんじゃないけれど……」


ラルフはしばらく考えていたが、リリアの髪を撫で


「行っておいで」


と、言った。


リリアは屋敷の外に出て、テーブルが置いてある中庭辺りを探してみた。


ビンセントは中庭のテーブルで、お茶を飲みながら本を読んでいた。


「ビンセント、隣に座ってもいい?」


リリアが聞くと、ビンセントは黙って嫌そうな顔をしたが、リリアは構わず隣の椅子に座った。


「ビンセントはローザとお喋りしないの?」


「ハイドの友人だ。俺の友人ではない」


ビンセントは本から目を離さずに答えた。


「ビンセント、何の本を読んでいるの?」


「リリア。俺は夜会でお前を助けたかも知れないが、別にお前の事が好きだから助けた訳ではない」


「知っているよ?」


リリアが笑顔を見せると、ビンセントは深いため息をついて本を閉じ、本の表紙をリリアに見せた。


難しそうな本だったが、作者の名前は何となく聞いた事があった。


「それって人間が書いた本?」


「ああ」


ビンセントは本を開き直し、面倒臭そうに答えた。


「この世界にも人間が書いた本があるの?」


「ああ。書庫にあるから、行ってみるといい」


「え? この屋敷に書庫があるの?」


「リリア!」


ビンセントは本を閉じた。


「……ごめんなさい」


ビンセントは目を閉じて、再び深いため息をつき、


「書庫に案内してやるから、少し静かにしてくれないか」


と、言ったので、リリアは黙って首を縦に振った。


ビンセントが書庫の扉を開くと、リリアはあまりの広さと本の多さに驚いた。


リリアは近くにあった本を適当に取り、パラパラめくってみたが、何語で書かれているのかさっぱり分からなかった。


「お前が読めそうな本はあっちの方だ」


ビンセントがスタスタと奥の方へ歩いていく。

リリアは書庫で迷子にならないよう、必死でビンセントに付いていった。


「あ、この本知っている……」


「読みたい本があれば、自分の部屋に持っていけばいい」


「あの上の方の本は、どうやって取るの?」


書庫は吹き抜けになっていて、三階位の高さまでありそうだ。

ビンセントは、黙ってふわりと浮かんだ。


「……そうか。ビンセントも飛べるのね」


リリアは綺麗な挿し絵が入った本を適当に選んだ。


「ビンセントは何故あの本を読んでいたの?」


リリアの質問に、ビンセントは暫く黙っていたが、


「人間の心が不可解だからだ」


と、答えた。


リリアはビンセントの言葉の意図が分からず首を傾げたが、


「本を選んだのなら、部屋に戻れ」


と、ビンセントはリリアに構うことなく書庫を出た。


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