1話
魔女を殺せ。
切断され、台の上に飾られた魔女の首。黒塗りの顔。血のように赤く塗られた口は、三日月のように裂けていて、ポスターの中から邪悪で嘲笑的なメッセージを送っている。
すべての魔女は、殺さなければならない。
水の魔女エルカの視線の先には、魔女への憎悪を煽る一枚のポスター。
表情は変わらない。しかし、その固有心象には小さな波紋が広がっていた。
◆
エルカは、古い友人である太陽の魔女アリディスに呼び出されてこの街、セールリアに来ていた。
ここは魔女にとって、危険な町である。魔女絶滅戦線の大規模な拠点があるのだ。
なぜアリディスは、こんな場所に自分を呼んだのか。エルカは不信感を募らせていた。
目的地を目指すエルカ。通り過ぎる家屋は、どれも窓と扉が固く閉ざされている。まるで、来る嵐に備えているかのように。
「あなたが、水の魔女エルカですか」
エルカの行く手を塞いだのは、銀の鎧に身を包んだ魔女狩りの部隊であった。
先頭を歩くのは細身の女性。
その後ろには一列に並んだ兵士たち。一様に、クロスボウを構えている。
当然、つがえているのは銀の矢。魔女を殺すための武器。
「もう一度聞きましょう。あなたは魔女ですか」
「そうだって言ったら?」
「死んでください」
月にはひとつの特権がある。
世界の昼を閉ざし、月の裏側に落とすこと。
日蝕は、月の特権である。
魔女にも特権がある。
固有心象によって、現実を自分の色に塗りつぶすこと。
魔術は、魔女の生来の特権であると同時に、世界にとっての呪いでもあった。
それゆえ人々は、古くから魔女を恐れ、憎んだ。
対して魔女は、無力な人々を軽蔑し、踏みにじってきた。何度も。何度も。
生成本質――水。転化本質――凝集。水の盾よ。矢を止めろ。
魔女絶滅戦線のクロスボウ部隊を前にして、エルカはこう考えていた。
敵の初撃を魔術で防ぎ、細い路地に身を隠す。逃げながら水の生成を続けて、この区画を一時的に水没させる。誰も死なない程度の規模で。
しかし、エルカの予想に反して、矢は発射されなかった。
魔女特有の第六感が働く。
目の前の部隊は、魔女を仕留めるためのものではない。魔女をここに留めるためのものだ。だとすれば。
エルカが振り返ると、そこにいたのは魔女絶滅戦線の別動隊。率いるは、ひときわ恵まれた体躯の男。
戦線の英雄。北部方面軍第一部隊隊長。筆頭断頭官ガエザル。
逆手で持ち上げられた銀の矛が、太陽の光を浴びて煌めていた。
ガエザルが体をしならせながら繰り出したのは、鋼をも穿つ渾身の一投。
風を切る重低音が響いた。
膝をつくエルカ。その腹部は無残にも切り裂かれ、人と変わらぬ鮮血が大地を赤く染めた。
転化本質――凝集。対象、血液。止血せよ。
「魔術を使ったな。魔女であることは確かだ。殺せ」
「筆頭断頭官殿。お待ちください」
「なんだ。次席審問官」
「この魔女をここに呼びつけた者も、おそらくは魔女です。この件は、魔女同士の諍いであり、裏切りであると考えられます。情報を引き出して、もうひとり仕留めましょう」
「ふむ。我々魔女絶滅戦線の目的は、目の前にいる魔女を憎悪し殺すことではない。魔女を根絶し、魔女に怯えるすべての人々に永劫たる安寧をもたらすためだ。より多くの魔女の居所を突き止めるためであれば、しばし処刑を猶予する意義もあろう。この魔女の身柄は審問部に引き渡す。あとのことは任せた」
◆
魔術は、魔女の肉体の内部で生じた固有の熱と電気のパターンが世界に接続されることで発動する。
この世で最も熱と電気をよく伝える金属物質である銀は、唯一魔女の肉体に触れるだけでそのパターンを乱すことができる。
「さて、どの魔女があなたをこの街に呼び出したのか。まずはそれから話してください」
地下牢の一室。
椅子に縛り付けられた水の魔女エルカ。手と足には銀の拘束具。
当然、魔術は使えない。
「あんたらに話す義理はない」
「あなたを我々に売ったのは、間違いなく、あなたを呼びつけた魔女ですよ。その魔女があなたを裏切った。違いますか?」
次席審問官は、エルカの細く白い腕に指先で触れて、撫でた。
エルカには、まるで虫が這っているかのように感じられた。
「だからなんだ」
「あなたは裏切られたのです。その魔女が憎くないのですか?」
エルカは舌打ちをして吐き捨てるように答えた。
「憎いに決まってる」
「えぇそうでしょう。あなたはどうせ死ぬんです。それなら、自分を裏切った魔女が死ぬところを見てから死ぬ方がいい。そう思いませんか?」
顔をあげたエルカ。
その青い瞳の輝きは、失われていなかった。
「たとえ裏切られたとしても、自分が相手を裏切っていいことにはならない。私とヤツは違う。どうせ死ぬなら、それを証明して死ぬ」
◆
「陰気くさい街だなぁ」
長身の女性がそう言って腐りかけたりんごをひとかじり。銀色の美しい髪がわずかな風になびいている。
彼女の視線の先には、一枚のポスターがあった。
魔女を殺せ。
「あー。プロパガンダってやつかな」
別のポスターにも目を向ける。
セントカルデラの悲劇を忘れるな。
デル平原の惨劇の報いを受けさせろ。
エルレニア市大虐殺の恨みを晴らせ。
首謀した魔女の名と共に、事件の概要と犠牲者の怨嗟が刻まれている。
「にしても、この世界の魔女、ちょっと暴れ過ぎじゃない? んまぁ、ここに書かれているのがどこまで本当かはわからないけどさ」
善良な魔女などいない。ひとりたりとも。
「さすがに、これは言い過ぎだね。絶対に嘘だ」
女性は、衝動的にそのポスターを剝がしてやろうと手を伸ばした。
「その通りだ。少ないながらも、善良な魔女はいる」
大きな影に野太い声。
びっくりして振り返ると、そこには水の魔女エルカを一撃で追い詰めた大男、筆頭断頭官ガエザルが立っていた。
「しかし、善良な魔女とは、己の存在が本質的に悪であることを認め、人を傷つけるより前に自ら命を絶った魔女だけだ」
そう言い残し、ガエザルと二十人あまりの部下は街の外へ向かって行った。
「あっぶね。魔女だってバレたかと思った」
ほっと息をついて、フードを被った。
彼女は異世界出身の魔女、イリス。
異界門接続の実験に失敗し、たったひとり、この世界を放浪していた。
「でもまぁ、結局は同じことか」
孤独には慣れていたが、好んではいなかった。居場所を求めたイリスは、魔女と人間の協同的な互助組織である『我らが姉妹団(Sumus Omnes Sororitas)』への入団を希望した。
入団の条件は、戦線に囚われた水の魔女エルカの救出。水の魔女エルカは姉妹団の団員でこそなかったが、この地域の人々からは評判のいい魔女であった。
水の魔女エルカの救出。この任務が達成できれば、暖かいベッドと、まだましな食事と、元の世界では得られなかった、自分を認めてくれる仲間が得られるかもしれない。
「よし、やろう。頑張れ、私。やれる。やれるぞ! 私はすごいんだ。やればできる子!」
震える手足を奮い立たせ、敵地への単独での突入を決意する。
ここから、異世界魔女イリスの冒険譚が始まるのだ。
◆
「それで、この方は何をしに来たんですか?」
イリスは捕まった。侵入してすぐ、衛兵に見つかって拘束されたのだ。
「わかりません。あまりにうるさかったので、猿ぐつわをつけました」
「んー! んー!」
その手には銀製の手錠。
「本当に魔女なんですか? 魔術を使ったのを見た方は?」
「いえ」
部下に呼び出された次席審問官は、ため息をついた。
「とりあえず、直接聞いてみますか」
「ぷはっ。何すんの! まだ私なんにもしてないじゃん!」
「まだ? これから何かするつもりだったんですか?」
「え? いや、何も」
「とりあえず爪でも剥がしてみますか」
「ちょちょちょちょ、ちょっと待って! え、この世界ってそんなカジュアルに拷問するの!?」
騒ぐイリスを無視して部下から物騒な装置を受け取った次席審問官。
「次席審問官殿。たとえ不法侵入者であったとしても、魔女でない民間人に拷問を行うのは、街の法に抵触する可能性があります」
「そうですね。先に確認しましょうか。魔女目録に、見た目の近い魔女はいますか? 銀髪で、目は……」
次席審問官が、しゃがみこんでイリスの顔を覗き込んだ。イリスは深呼吸して心を落ち着かせている。
「目は、黒ですね」
「黒目、銀髪の見た目の若い魔女は何人かいますが、それだけでは特定できませんね」
「あなた、名前は」
「イリス。異世界出身の魔……えっと、異世界出身の人間、イリスです」
「今魔女って言いかけませんでした?」
「言いかけてません」
「異世界とはなんですか?」
「別の世界のことです」
「答えになっていませんね。もういいでしょう。目録にイリスという魔女は?」
「いません。彼女は狂人では? 言動が支離滅裂です」
「ふむ。街の方々に、イリスという頭のおかしい銀髪女を知らないか聞いてきてください。保護者が見つかればすぐに引き渡して注意喚起を行いましょう。それまでの間は、地下牢に閉じ込めておきます」
「次席審問官殿。なぜ牢に連れていくのですか? このままでもいいでしょう」
次席審問官は、自分の頭をとんとんと指で叩いて、馬鹿にしたような笑みを浮かべた。
「彼女は『本物』ですからね」
部下たちは、上司の最低なジョークにひとしきり笑ったあと、人々への聞き込みという楽で危険のない任務に喜んで向かって行った。
「ねぇ、私の扱いひどすぎない?」
「ずいぶん余裕ですね、間抜けな魔女さん」
「うん。作戦は順調だからね」
◆
地下牢に入った次席審問官とイリス。
「さて、じゃあこれ外しちゃおうかな」
「そうですね。後ろを向いてください」
イリスは「えっ」と驚きの声をあげた。
「私、北部方面軍第六拠点所属次席審問官カイネは、我らが姉妹団の潜入諜報員です」
「えー! 協力者がいるとは聞いてたけど、そんな偉そうな立場の人だとは思ってなかったよ!」
「私も誰かが送られてくるとは聞いていましたが、こんな間抜けが来るとは思いませんでしたね。別の者が対応していたらどうするつもりだったんですか」
「どうって、こうだよ!」
イリスは力任せに手錠を引きちぎり、そのまま軽くワンツー、とパンチを撃つ真似をして見せた。
「め、めちゃくちゃですね……」
「魔女って、魔術にばっかり頼るせいで貧弱なイメージ持たれがちだけど、実際その筋肉のつき方は女性よりも男性に近いし、男性よりもクマみたいな猛獣に近いんだよね。あ、この世界の魔女のことは知らないけど」
次席審問官もとい姉妹団の潜入諜報員カイネはため息をついた。魔女が人間より優れている点なんて、聞きたくも知りたくもない。容姿。生命力。知性。寿命。少し関わればすぐにわかる魔女たちの生来の卓越性は、人間という種の自尊心を深く傷つけるのだ。
「そんなことより早く水の魔女を解放しに行きましょう」
「まだ生きてるんだよね? なんで? 魔女絶滅戦線では、魔女は捕まえたらすぐ殺すって聞いたけど」
「理由はふたつあります。ひとつめは聞き出したい情報があったから。もうひとつは、見ればわかりますよ」
◆
宙に浮かぶ直径3mを超える水の球体。その中心にいる、目を硬くつぶっている青髪の美しい少女。
球の表面は滑らかで、一切の揺らぎを感じさせない。
面に合わせて削り取られた拘束具の残骸が、天井が、床面が、その魔女の力と排他性を示していた。
「現実浸蝕か」
「えぇ。拷問を受けて衰弱していたので、他の兵士たちの隙を見て銀の拘束を解いたとたんにこれです」
「うん。確かにこれじゃ手が出せないね。それにしても、こんなに無害な現実浸蝕は珍しいんじゃない?」
現実浸蝕とは、魔術の暴走であり、魔女の内的世界の顕現でもある。通常、それは大規模な破壊を伴う。
「えぇ。彼女のエクリプシスは、無害で美しい。ですが、厄介なことに変わりはない」
「そうだね。本質はどうかな? 君は何か知ってる?」
「この魔女については知りません。魔術についても、基本的なことしかわかりません」
「基本的なことって、どの程度?」
「魔女には三つの本質があります。ものを生み出す生成本質、動きを制御する転化本質、動物を呼び出す召喚本質。基本的に魔女は、生まれつき定められた自らの三本質にまつわる魔術しか使えません。これくらいです。私の知っていることは」
「だいたいあってるけどひとつ訂正。召喚本質は、象徴を司る本質であって動物を召喚するものとは限らない。この子の場合だと……かわいい! 多分、水棲動物だね。見て、川魚もいるよ」
球体の中で、多種多様な小魚たちが自由に泳ぎ回っている。中心で目をつぶっている水の魔女を慰めるように、つんつんとつついているものもいる。
イリスは、自分がつい先ほど壊した銀の手錠を、水晶のように光り輝く水の牢獄に投げつけた。硬い壁にぶつけたみたいに「カン」と鳴って弾かれた。内部には小さな波紋が広がり、近くにいた魚たちが驚いて散っていった。
「一度発動さえできれば、銀でも貫けない。水の魔女エルカの現実浸蝕は、範囲こそ狭くて無害ですが、鉄壁の現実浸蝕であることは確かです」
「拒絶、しているのかな。外の世界を」
「どうでしょう」
「しょうがないから中に入ってみるか。もしやばそうなら助けてね?」
「約束はできませんが」
イリスは、水の牢獄に手を伸ばした。触れた手が、焼けるように痛んだ。イリスはそのまま目をつぶり、自分の心に意識を向けた。
「そう。君は……拒絶しているのでも、怖がっているのでもない」
エルカの心象が、イリスに流れ込む。それが、イリスの転化本質だった。
「誰も、傷つけたくないんだね」
イリスは目を開いた。
その黒かったはずの魔女の目は、赤、白、青、黄、緑と目まぐるしく混ざり合っていく。
「水の魔女エルカ。私は君を助けたい」
エルカの瞳が開かれた。ふたりの視線が重なり、牢獄はだんだんと柔らかくなっていく。
イリスがそのまま体重をあずけていくと、球の形がゆがみ、吸い込まれるようにイリスを取り込んだ。
そのあとすぐにつるんと入り口が閉じた。
イリスは水の牢獄の内側に閉じ込められてしまった。
エルカは再びその目と心を閉ざした。
イリスはぶくぶくと息をはきながら、エルカを起こそうとしたが、反応はない。
イリスは慌てて内側から壁を叩く。しかしびくともしない。
その心の壁は、銀の枷よりもはるかに頑丈であった。
水の中では当然息ができない。
イリスの肩が小さく上下する。息苦しさに端正な顔が歪んでいく。
目の前を、鋭い歯の生えた中型のサメが横切ったとき、イリスは驚いて息を吸ってしまった。肺の中に水が入り込んでいく。
無害? とんでもない。エルカの現実浸蝕『水の楽園』の内部では、陸上の生物は数十秒と生きられない。
敵を範囲内に収めて発動できれば、必殺の現実浸蝕である。
イリスの体の力が抜けていき、白目を剥いた。
走馬灯のように元の世界での記憶が駆け巡る。どれも、苦痛ばかりの記憶だった。繰り返される自己否定。それにともなう強制的な自己超克。しかし、イリスは自己の変化とそれに伴う苦痛を拒んだことは一度もなかった。
気を失うその瞬間だった。
ぱんっ。
その牢獄はまるで水風船のように音を立ててはじけた。
よつんばいになってごほごほと水を吐き出すイリス。そのそばで、消えずに残った数匹の小魚たちがぴちぴちと跳ねている。
エルカは黙って、イリスを見下ろしていた。その視線はひどく冷たかった。
息を整えたイリスは、立ち上がってエルカに向き直った。ふたりがまっすぐ立つと、頭一個分弱くらいの身長差があった。
「出てきてくれてよかった。私はイリス。異世界出身の……」
「なんで魔女がこんなところにいるの」
「なんでって、助けに来てあげたのに、なにその態度!」
「助けてなんて頼んでないし」
「じゃあずっとあのままでよかったの? 現実浸蝕解いた瞬間、戦線の連中に囲まれて殺されますけどー?」
「魔女に借りを作るよりはマシだね」
「何? そんなに魔女に助けられるのが嫌なの? 自分も魔女なのに」
「魔女なんてどいつもこいつもろくなもんじゃない。どうせ助けられるなら人間に助けられたかった」
「感じわる。そんなこと言うなら私だってもっとかわいげのある子を助けたかったな!」
「こいつ……あのまま『楽園』で魚の餌にしてやるべきだった」
「楽園!? 自分のエクリプシスのことそんな風に呼んでんの!? マインドが引きこもりすぎる!」
くだらない言い争いが続く気配を感じて諜報員カイネが割って入った。
「ともあれ、ふたりとも脱出しましょう。外に続く抜け道があります。ついてきてください」
◆
独房の一室のタイルを剥がすと、そこは地下通路に繋がっていた。三人は泥まみれになりながらも進んでいく。
「ねぇ。あんた、イリスとか言ったっけ」
「何?」
「さっきはちょっと言い過ぎた。ごめん」
「えぇ! 君って、謝れるタイプの魔女だったんだ」
「失礼なヤツだな。まぁ魔女なら当然か。はぁ。謝らなければよかった」
「ごめんごめん。私もちょっと大人げなかったね。死にかけたばかりでちょっと興奮しちゃってて。許して?」
「まぁいいけど」
「それで、結局なんで魔女が嫌いなの? エルカ」
「どいつもこいつも平気で人の感情も人生も踏みにじるから。そんな連中と自分が同じ種族だなんて思いたくもないから」
「そりゃ、中には悪い魔女もいるだろうけど……」
「いいとか悪いとか関係ない。どんな魔女も、必ず裏切る。筋なんて通さない。人間とは違う」
道の先に光が見えた。しかめっ面だったふたりの頬が緩んだ。
「二人とも。出口が見えてきましたよ」
「ヤッター!」
「ようやくだね」
自由の気配を感じて我先にと外に飛び出した愚かな魔女二人。警戒心などない。なぜなら魔女は、自らの感情を制御することがひどく苦手だから。
慌ててそのふたりのあとを追う、人間の苦労人。
「お前が裏切り者だったとはな、次席審問官」
30人余りの兵士たちが、二列一直線に並んでいる。彼らの手にはクロスボウ。銀製の矢弾がつがえてある。
その後ろには、エルカの腹部を一撃で貫いた、筆頭断頭官、ガエザル。
おそらく姉妹団の方にも戦線の諜報員がいるのだろう。この任務のことも知られていて、先回りされていたのだ。
「ふたりとも逃げて。ここは私が食い止める」
エルカは断固とした調子でそう言った。
「自分のせいで人が死ぬのは嫌だから」
ガエザルは、目が眩むほどの輝きを放つ銀矛を片腕で軽々とかかげた。それを、処刑人が首を落とすように力強く振り下ろし、その切っ先を罪人たちにまっすぐ突き付けた。
「北部方面軍第6拠点司令部、第一部隊隊長、筆頭断頭官ガエザルの名において、邪悪な魔女二名及び裏切り者の即刻処刑を命ず! 撃て!」




