2,入隊式
今日から待ちに待った入隊初日。入隊式で他の部隊員から温かい拍手で迎えられる。かっこいい制服にかっこいい帽子。我ながらなかなか似合ってると思う。
「よっしゃ!いよいよ森宮部隊に入隊だ!さっさと訓練期間終わらせて他の人たちとたっくさん任務するぞ!」
宮部隊入隊直後は基本任務はもらえない。まずはとてつもなく厳しい訓練を乗り越えなければならない。朝4時起きからの10 kmランニング。休憩は基本食事の時間。朝から晩までトレーニング。夜トレーニング終わってから就寝までは自由時間だが,ほとんどの者が休まず自主的にトレーニングする。このときに部隊員の人を捕まえてトレーニングに付き合って貰ったりするが,基本断られる。体力的にも精神的にもしんどいこの訓練期間。新入隊員は避けては通れない道だ。
「みなさんこんにちは。私はこの森宮部隊の隊長を務めさせてもらっているガルシア・ラボルだ。みんなよくここに入隊してくれた!私は期待している。いずれここにいる君たちが輝かしいことをしてくれると。明日からは大変な訓練期間が待ち受けてると思うが,君たちならきっと乗り越えられる。私はそう,信じてる。話は短いが,以上だ。」
隊長の挨拶に拍手が響き渡る。この挨拶が自分も森宮部隊の一員になれたのだと誇らしく思うと同時に気持ちも高まる。星宮森宮関係なく宮部隊に入隊できた時点でかなりの名誉なのだ。
レンにこれから待ち受けている訓練期間。これで生き残れるのは2割。残りの8割は訓練に耐えきれず脱走。もしくは自主除隊。そのため隊長は挨拶でああは言ったものの,新入隊員に期待なんてしてない。理由はただ1つ。今この会場にいるほとんどが半年もしないで辞めるからだ。それは他の隊員も同じ。そのため鍛錬に付き合ってくれと言われても受け答えするつもりはさらさらない。せっかく鍛錬つけてもどうせすぐ辞めるからつけるだけ無駄なのだ。
「副隊長,また隊長同じこと言ってますよ。どうせ期待なんてしてないのに。」
「あれはただの優しさだよ。や,さ,し,さ。どうせあの中で生き残るのはせいぜい2、3人ってとこだよ。」
「でも副隊長〜。今年はちょっと期待してもいいんじゃないですか?」
「んー?何でだ?」
「だってユニテイルのトップがいるんですよ?あとその次席。」
「確かに。今年のユニテイル卒業生のデータを見ると今回のトップはレン・バーシン。そしてその次がリコ・アンリ。2人ともここ森宮に入隊してます。」
「おや?ユニテイルトップ3がうちに来たわけではないのか?」
「えっと…あーそっすね。ユニテイル3番手サンス・ナタリアは星宮部隊に入隊してます。」
「げっ!星宮?アタイあそこ嫌ったらしくて嫌いなんだよなぁ〜。もうちょっとまともな思想持った奴いないのかなぁ。」
「まあまあそこまで言わなくてもいいじゃないかララ。そっかそっか。まあユニテイルトップ2が来てくれただけでありがたいと思わないか?」
「それはそうですけど…。」
「でもその2人が必ずしも訓練期間を乗り越えられるかと言われればそうとも言い切れない。あの学校をトップで卒業したって訓練期間の間に辞めたら話にならない。ですよね?副隊長。」
「そうだねぇ。確かにその通りだ。だから私はその2人に期待するわけでもない。でもアレン。お前はいつからそんな偉そうな口を叩ける立場になったんだい?」
「偉そうなって…そんなつもりで言ったわけではありませんけど?まあでも一応今年度から僕は幹部なんで。その立場として言わせてもらった意見です。」
「そうかい。ならいい。てっきり私のことを見下してるのかと思ったよ。」
「そんなわけないじゃないですか…。僕は隊長も副隊長も信頼してますよ?」
「そんなことはどうでもいいんですけど?アタイはいつ幹部になれるんですか?」
「どうでもいいって…。」
「ん〜。ララ,お前は今年19なんだろ?だったらそんなに焦らなくていいじゃないか。まだ若いんだし。」
「でも〜。アレンさんアタイに1つ上ですけどもう幹部ですよ?ついこの間まで同じ中幹部だったのに…。」
「別に1年も差があるんだから気にすることないじゃないか。勝手に僕にライバル視されても困るね。同期ならまだしも。年下にそんなことされるなんて僕の身が持たないよ。」
「はぁ?そこまで言う必要ないじゃないですか!いくらなんでも酷すぎます!」
「お前はもう少し落ち着くことができないのか?いつもデカい声でギャーギャー言って。だからなんじゃないから」
「それは関係なくないですか?」
「いや,あるだろ。」
「まあまあ2人とも落ち着け。同じ部隊同士で争ってどうする?これからは新人も数ヶ月したら徐々に入ってくるんだ。その中で争いごとをされたら森宮のイメージが悪くなるだろ?他部隊との関係については口を出さないが,せめて同じ部隊同士では仲良くしてくれ。」
「「は〜い,副隊長。」」
この3人は森宮部隊の一員。
副隊長ヤン・リンリー。初対面では落ち着きのある女性に見えるが,実は結構気が強く,周りは彼女に逆らうことができない。森宮の隊長ですら彼女に気を使うことがあるくらいだ。
そして今年度から幹部に上り詰めたアレン・ゴーダン。自分でも自覚するほど薄情な一面がある。童顔なのが悩みでもうすぐ20歳になるのに未だに学生と勘違いされることがある。
それから現在中幹部であるララ・カナリア。副隊長より気は強くないが,ハッキリした性格でハチキンな一面もある。森宮の中では1番明るく,賑やかなところもある。
最後に我らが森宮部隊の隊長,ガルシア・ラボル。基本的には温厚で優しいが,その裏が読めない。部隊の中では1番怒らせてはいけない人である。隊長であるだけにがっしりとした体つきで腕立て伏せをするときにはよくララとかに背中の上を乗られるが,逆にいいトレーニングになると言っている。冷静で落ち着きのある性格のおかげで星宮以外の他部隊とは良好な関係である。そんな隊長を隊員一同とても誇らしく思い,尊敬している。
入隊式が終わり,新入隊員がゾロゾロと与えられた寮部屋へと戻る。寮部屋は男女別で4人部屋だ。訓練期間の間は当たり前だが1人部屋は与えられない。訓練期間を終えて初めて1人部屋が与えられる。
「レンと私はそもそも部屋が違うね。」
「まあ性別が違うからな。しょうがないと言えばいいのか。」
「そうだね。じゃあ私は一旦部屋に戻るね。明日から地獄の訓練期間が始まるし。レンは?まあ…聞かなくても分かるけど。」
「その通り!あそこのグラウンド訓練生でも使えるらしいからあそこで自主トレでもしとくよ。少しでも地獄が地獄じゃなくなるように。」
「そんなことだろうと思った。ね,私も後で合流していい?」
「全然してくれ!むしろリコがいた方がいいトレーニングできる。」
「了解。じゃあ後で私もそこ向かうわ。」
「おう!後でな。」
「すっげ〜。アイツもう自主トレしてるぞ?」
「明日から訓練始まるのにいきなりあんなに体動かしていいの?」
「どうせやる気あるの今だけだろ。そのうち自主トレなんてしなくなると思うよ。」
「いやぁでもアイツユニテイルのトップだからそう簡単には折れないぞ?」
「うわほんとだマジじゃん。いいなぁ〜ユニテイルのトップ様は。実力もかなりあるからうえにも目つけてもらって。羨ましい〜。」
そんなことはお構いなしに1人トレーニングを続けるレン。広いグラウンドで棒を振るう音はよく響く。
(リコ…アイツまだ来ないのかな?まあもうそろしたら来るだろ。それまで1人でやっとこ〜。)
「なかなかやるじゃないか。流石はユニテイルトップとでも言うべきか?」
「へ?」
声のした方を見るとまさかの隊長がいた。
「た,隊長??なんでここに…。」
「なんでって?たまたま通りかかっただけだ。普段入隊直後にこのグラウンドを使う奴はいないからな。お前ぐらいだ。」
「はぁ…。」
驚きの気持ちしかないレンは突然の隊長にご対面でかなり緊張する。
(たまたま通りかかったは多分嘘だろう。俺も別に目立とうと思ってしてたわけじゃないし…隊長の目的はなんだ?)
「良ければ手合わせなんかどうだ?」
「は?俺がですか?」
「お前以外に誰がいる?」
「いやいやいやそんな滅相もない。こんな入隊直後の新人が隊長と手合わせなんてそんな恐れ多いこと…。」
「違う違う。私じゃない。おい,そこに隠れているのは分かってるんだぞ?さっさと出て来ないか。」
ガルシアにそう言われ,恐る恐る出てくる1人。
「リコ…。お前,来てたのか?」
「うん。さっき来たばっかだけどね。でもアンタが隊長と話してたからなかなか出て来れなかったの。」
「そっか…。ってことは今から俺とリコで手合わせするってこと?」
レンとリコは驚きながら隊長の方を見る。そして大きく頷く隊長。
「「え〜!!??」」
「いきなりは無理ですよ隊長!」
「そうですよ〜。私たち入隊したばっかだし…。」
「だから何だ?それとこれと何が関係ある?」
「「うっ…。」」
ガルシアの言葉で思わず黙り込んでしまう2人。目が笑ってない微笑みを向けられ,余計圧があるように見えるからだ。
「初めに言っておこう。私は君たちに期待なんてしてない。」
「えっ…でもさっき…。」
「あれは表向きだ。どうせあの中のほとんどが訓練中に辞めるからな。」
「え?そうなんですか?」
レンもリコも驚きを隠せずにいる。訓練期間がとてつもなく厳しいということも辞める人がいるということは聞いていた。だがそれでほとんどの人間が辞めるというのは初耳だったからだ。
「あぁ,そうだ。みんな辞める。だから私は君たち新人にははなから期待してない。それは他の隊員も同じだ。」
自分たちは期待の新人だと思い込んでたレンとリコは隊長のまさかの発言で脳内がフリーズしてしまう。
「でも…俺は辞める選択肢なんてありません。」
「レン…?」
「隊長が俺たちのこと期待してないならこの訓練期間中に必ずしてもらいます。そして俺は半年以内で訓練期間を終わらせてみます!あと,隊長含め森宮部隊の人たちみんなから頼られる人材になってみせます!」
「ちょっとレン何言っちゃってんのよ…!」
「ほう,そうか。やはり君は他の新人とはちょっと違うようだな。よ〜く分かった。」
ガルシアの顔がますます怖く見える。それをキリッとした目つきで見つめるレンとは反対に若干怖気付くリコ。これがもしかしたらユニテイルのトップと次席の差なのかもしれない。
「ララ!」
ガルシアが叫ぶと1人の隊員が現れた。
「何ですかぁ隊長。アタイ今からティータイムの時間だったんですけどぉ〜。」
「あ〜それはすまない。申し訳ないが,今からこの2人の相手をしてくれ。」
「え〜!?冗談じゃないですよぉ。何でアタイが新人なんかの相手しなくちゃいけないんですかぁ!ってなんか新人たち固まってるし。」
「スゲェ!瞬間移動だ!」
「ほんとだ!忍者みたい!私も早くあの技習得したい!」
「俺も!」
「ハァ?アンタたちこれできないわけ?そんなんでこれからの訓練期間乗り越えられるのかねぇ?アタイはそうは見えないね。」
そんなことはお構いなしにひたすら興奮する2人。
「彼女はララ・カナリア。森宮部隊の中ではかなりの若手だ。若手の割に実力もあるしとても優秀な隊員だ。」
「ララ・カナリアだ。よろしく。新人ども。」
「俺はレン・バーシンです。よろしくお願いします!」
「リコ・アンリです。接近戦は得意です。よろしくお願いします!」
「よし,自己紹介は終わったな。じゃあ早速,手合わせと行こうか!ララは1人で大丈夫か?」
「隊長〜アタイを何だと思ってるんですかぁ?こんなの1人で余裕ですよぉ〜。」
「そっか。なら君たち2人vsララと行こうか。用意…。」
グッと身構える3人。現役隊員として負けるわけにはいかないララとユニテイルトップ2で卒業した2人。両者それなりにプライドがあるため,勝利を譲ることはできない。
「始め!」
一斉に動き始める3人。
「前を頼む!リコ!」
「OK!」
持ち前の剣でララに攻撃するリコ。だがそれをすんなり避けるララ。やはり現役は違う。
(この人…動きが早い…。)
「ウイングセクション。ブォルテックス!」
ララがそう叫ぶと渦巻き状の風が襲いかかってきた。これは立ってられるのがやっとの力。
(この人…いきなり能力使い出した。それなら私だって…!)
「スプリングセクション。ダンパーカタパルト!」
そしてリコも負けじと攻撃を跳ね返す。が,その攻撃は効かない。そして弾き返されるリコ。
(っ…何で?ユニテイルではこれでみんなアウトだったのに…。)
「現役隊員を舐めるんじゃないよ小娘。アタイぐらいになるとユニテイルのトップ程度じゃ相手にならないからね。」
流石は現役隊員。実力そのものが違う。
「グリーンセクション。ダンシング・ニードルズ!」
レンも攻撃を仕掛ける。鋭い葉が踊るように降りかかる。
(なるほど…バネに植物。なかなかやるじゃないか。でもアタイには物足りないね。早くこの勝負終わらしてティータイムしたいからそろそろ“あれ”使うか。)
「ウイングセクション。ブォルテックス・ハリケーン!」
さっきの攻撃にプラスさらに強い風が2人に襲いかかり,すぐに勝敗が決まった。
「じゃあねぇ〜新人ども。アタイは今からティータイムしてくるから。」
「やっぱり,まだまだだったな!お前たち。明日から生き残れるのか?それで。」
入隊初日で早速ボロボロになった2人。地面に横たわり,空を見上げる。
「なぁリコ。」
「なぁに?レン。」
「さっきの人…強かったな。」
「ほんとそれ。みんなあんな感じなのかな?」
「さあな。隊長レベルになるともっとヤバいんじゃないか?」
「そうだよねぇ絶対。あ〜もう明日からやって行けるかなぁ…。不安で不安で仕方ないよ〜。」
「でもやるしかないよ。いつかきっと森宮の戦力になるためにも。耐えて耐えて耐え凌ぐんだ。これで耐えられなければ…死んだも同然だ。」
「相変わらず前向きよね。レンって。」
「そりゃそうだ。いつか必ず兄貴と再会するんだって決めてるから。こんなところで挫けるわけにはいかないんだ。」
「そうだね…。私もこの世界を救いたいと思ってユニテイルに入って卒業したわけだし,こんなところで負けるわけにはいかないよね。逆に私のプライドが許さないわ。」
立ち上がった2人はお互いを見つめ合い,手をがっしり組む。
「そうだ,その勢いだリコ!俺たちなら絶対できる。」
「うん!いつか絶対私たちが森宮の重要な戦力になってやろ!」
「あぁ,必ず!」
「若いっていいねぇ〜。私にもあんな時代あったのだろうか?どう思います?隊長。」
「あったんじゃないか?それにヤン,君もまだ若いじゃないか。」
「あれほどまでは若くないですよ。まぁ,さっきのララとの勝負を見る感じ,まだまだ伸び代豊富ってとこかなとは思いますよ。」
「そうだな。あの2人には少しばかり期待してやってもいいかなとは思うよ。」
レンとリコのやり取りをちゃっかり隊長,副隊長に見られていたことを2人は知らない。
そして訓練期間の日々が始まる。




