エピソード23:戦いの傷痕!ヂーリーへの助言!
ヂーフェイ大師、シュエンウー、ヂーリー、レンの四人は、鎖で拘束されたヂーハオを連れて、グアンロンチョンを後にし、ポタラ寺院のある山々へと向かっていた。
その出発の時――
村人たちが街の外れに集まり、彼らを見送っていた。
「ヂーハオ!きっと大丈夫だよ!私たちはもう許してる!」
「早く元に戻って、グアンロンチョンのヒーローに戻ってね!」
「君を見捨てたりしないからな!」
「ヂーハオ兄ちゃん!!もっともっと強くなって、帰ってきてね!!」
ヂーハオは無言のまま、民衆を見ようともしない。だがその隣で、ヂーリーが彼に語りかけた。
「……見えるか、ヂーハオ?みんな……お前のことを、今でも誇りに思っている。お前という存在と――お前が象徴するものを、心から大切に思ってるんだぞ」
*****
――それから七日が過ぎた。
その間に、ロンウェイの身体は完全に回復した。外傷も痕も残らず、元の姿に戻っている。今、彼は共同館の外でトンチンと手合わせをしていた。
近くには、まだ包帯の巻かれたフェイフォンが見学している。
ロンウェイの拳が素早くトンチンに向かって突き出される。だがトンチンは、右手の指一本で、すべての攻撃を受け止めていた。
「いかんな、ロンウェイ。まだまだ攻撃が衝動的すぎる。経験ある武術家なら、お前の気の流れを簡単に読み取って、動きを全部予測できる。そんなじゃ、素人か鈍いやつにしか通用せんぞ」
ロンウェイは手を止める。
「仕方ないよ……。おじいちゃんが亡くなる前に、竜の拳の全てを教わる時間がなかったんだ」
「……ああ、『天竜門』の『竜の拳』か?確かに、その原理を学びきっていなければ、動きは未完成に見えるな。あの流派は、力強い破壊的な打撃を重視するスタイルだ」
その時、フェイフォンがヨーグルトを飲みながら近づいてくる。
「へえ~。じゃあロンウェイって、自分のスタイルをちゃんと知らないの?それなのにあんなに強くて、脅威的なのはどういうこと?」
「おそらく、半竜人としての体の強さが、未熟な技をカバーしてるんだろう。
『竜の拳』の基本原理は、気を制御することで、攻撃の威力と衝撃を倍加・強化することにある。
一瞬の隙を突いた爆発的な一撃を主軸とする流派だ」
「だが、本来の『竜の拳』は、より滑らかで円を描くような動きが特徴で、
使用者の気と調和することで、速度に頼らずとも的確に打撃を与えられるようにできている。
それにロンウェイ、お前はまだ『戦意』の流れを制御できていない。
それができていれば、俺にはお前の動きは読めなかったはずだ」
ロンウェイはその場に座り込み、腕を組んで考え込む。
「うん……じいちゃん、そんなことも言ってたな……。でも、亡くなる前に気の制御と力の強化ばかりを中心に訓練されてたから、高度な動きや技は、あまり教わってなかったんだ」
「で?そのおじいさんって、誰だったの?」
「バイシエンだよ。たぶん、知ってると思う。この辺じゃ、名前を出すとみんな反応するから……きっと聞いたことあるんじゃないかな」
「うん、バイシエン様は、ヂーフェイ大師と並ぶ前世代最強の武術家だったからな。……ただし、『天竜門』の後継者にはならなかったが」
「えっ?」
「へ? それ初耳。バイシエンよりすごい人って、天竜門にいたの?そんな名前、聞いたこともないけど……?」
「うーん、バイシエン以上の人物が天竜門にいたかどうかまでは知らんが……
少なくとも、バイシエン自身が天竜門を去り、後継者になることを拒んだという話は聞いている。それからは隠者として生きたらしい」
「『忍者』?でも、僕が一緒に住んでた頃のおじいちゃんは忍者なんかじゃなかったけどな……途中でやめちゃったのかな?」
「『隠者』よ、『忍者』じゃなくて!」
「さて、話を変えよう。お嬢さん――君はロンウェイと違って、気の流れが非常に優秀だ。
まるで血液のように体内を循環している。そのおかげで、傷の治りも通常の三倍は早い」
「ま、あたしの『舞鳥拳』は気の流れありきだからね。それがなけりゃ、何もできないわよ」
「『舞鳥拳』?……ふむ、その名は聞いたことがないな。相当離れた地方の流派かもしれん。ただ、私の目から見ると、風水の概念に非常に似ている。目的は違えど、構造は共通しているように感じる」
──その時、ヂーフェイ大師、ヂーリー、そしてシュエンウーが山からグアンロンチョンに戻ってきた。
人々は彼らの姿を見て、駆け寄ってくる。
「ヂーリーさん!ヂーハオの様子はどうですか?」
ヂーリーはやや沈んだ表情で答えた。
「……そうですね、邪気は体からだいぶ抜けて、少なくとも、もう妖怪にはなりかけていません。でも……心のほうは、まだ……」
村人たちはヂーリーの肩に手を置き、励ましの声をかける。
「それでも十分じゃないですか、ヂーリーさん!一歩ずつですよ!」
「そうそう。ヂーハオだって、一晩で強くなったわけじゃない。焦らず信じましょうよ!」
ヂーリーは乾いた笑みを浮かべる。
「……ええ、そうですね。では、すみませんが……少し休ませてください」
シュエンウーとヂーフェイ大師は、そのまま共同館へ向かい、フェイフォンとトンチンのもとへとやって来た。トンチンは両手を組み、拳を開いた掌に当てて一礼する。
「大師様、ヂーハオの件は順調でしょうか?」
「うむ、進展が見られると言ってよいだろう。レンの努力と、ヂーリーの支えがあってこそだがな。
ヂーハオの妖怪化は抑えられている。
今は、東の塔に閉じ込めて、レンが付きっきりで回復に取り組んでいる」
「ふぅん……あの人、頑固そうだったし、手間かかりそうね?」
「あ、はい……確かに、フェイフォンさんの言うとおりや。だから今、いろいろ代案を考えとるんや。前にやったことが効かんかった以上、もっと創造的に考えんといかんのや」
「でもさ、あんた前に、ブートゥとか盗賊の邪気を浄化してたでしょ?あれと同じ原理って使えないの?」
「んー……実はな、今回のはちょっと違うんや。ヂーハオ自身の気が思考や欲望に引っ張られて邪気になっとるんや。
つまり内側の問題や。だから、悪しき願望そのものを『絶つ』しかない。それが今、レンの焦点になっとるんや」
フェイフォンは顎に手を当て、じっと考える。
「……でも、悪意のある人間が他人を汚染できるってんなら、その逆もあるんじゃない?清らかな人が、誰かを浄化するってこと、できないの?」
「ほほう、若いのに賢いのう。まさにその通りじゃ。誰かの心に悪があるからこそ、汚染は成立する。逆に、誰かの心に善があれば、それは他人を浄化する光となりうる」
「だからこそ、わしらはヂーリーにヂーハオの付き添いを許可したのじゃ。深く繋がりのある者だけが、彼の心にある善の火を再び灯せるのじゃよ」
シュエンウーは、ふと何かを思い出したように、目を見開く。
「……あっ!もしかして!」
そのまま彼は、山へ向かって走り出す。
「失礼します、大師様!トンチンさん、フェイフォンさん!ちょっと思いついたことがあるんだべ!」
「なによあいつ……なんか、ひらめいたっぽいわね」
「ホッホッホ……おそらくそうじゃろう。人との絆が深いほど、その者を救いたいと願う気持ちは強くなる。そしてそれは、どんな経験よりも神仏の導きを受けやすくするのじゃよ」
「それはそうとね、ロンウェイをグアンロンチョンに連れてきたのは、ポタラに質問しに行くつもりだったからなの。大師様がそのポタラの長なんでしょ?だったらここで答えてくれれば、寺まで行く必要ないじゃない」
「ちょ、ちょっと!大師様に向かって、その話し方は……!」
「フフフ、構わんよ。運命の車輪とはそういうものじゃ。ちょうど、わしもその少年――あの竜の子と話す必要があったところじゃ」
「ならちょうどいいわね。……ねぇ、ロンウェイ――」
フェイフォンが後ろを振り向くと、そこにロンウェイの姿はなかった。
「ちょっと、あのガキどこ行ったのよ!?」
***
――そのころ。
ヂーリーは自宅の中で、頭を抱えながら黙って座っていた。その時、突然窓からロンウェイが入ってきて、ヂーリーを驚かせる。
「やっほー、おじさん!元気してる?」
「わっ……ロンウェイか!びっくりさせるなよ……!」
「えへへ、ごめんごめん、おじさん」
ロンウェイはそのままヂーリーの隣に座り、静かに黙り込む。しばらくの沈黙の後――ヂーリーがぽつりと口を開いた。
「……ヂーハオは、昔からとても負けず嫌いだった。誰にも負けたくないって、いつも必死だった。ヂーフェイ大師が彼の才能を認め、ポタラに連れて行ったときは……本当に嬉しそうだったよ」
「けれど、ポタラに行ってからというもの、グアンロンチョンの人々と接する機会がほとんどなくなってしまった。
きっと、あの子は自分の素朴な原点を忘れてしまったんだと思う。……私は、ずっと『全力を尽くせ』と励まし続けてきたけど……
『何のために』頑張るのかを教え忘れていたのかもしれない。すべて……私の責任だ。私は父親として失格だった」
「じゃあ、おじさんがグアンロンチョンの立派なリーダーでいられるのは、ヂーフェイ大師のおかげなの?だって、いいことは『自分の功績』で、悪いことは『誰かのせい』にしてるんじゃない?」
ヂーリーは、何も言い返せず、考え込む。
「僕ね、じいちゃんから『人に優しくしろ』とか『力は人を守るために使え』とか、色んなことを教わったけど、『ヒーローになれ』って言われたことは一度もなかったよ。
これは僕自身が選んだ道なんだ。たとえじいちゃんが反対しても、僕はヒーローになってたと思う」
「子供が立派に育った時、親は『自分の育て方が良かった』って誇りに思う。でもそれって、本当に親だけの功績かな?
親がどんなに良くても悪くても、最終的にどんな人間になるかは、その子自身の努力次第だと思うんだ」
ヂーリーは静かにロンウェイの言葉を噛み締める。そして、しばらくしてから、ふっと息を吐き、少しだけ穏やかな顔でお茶をすすった。
「……私は『君は素晴らしいおじいさんを持っていた』って言おうとしてたんだ。
もちろん、それも間違いではないだろう。でも、今の私はまた同じ過ちを犯そうとしていた。
君の知恵や思いやりを、すべて君の祖父の功績にしてしまうところだった。
君自身が、それを吸収して、自分の中に取り込んだからこそ、今の君があるんだよね……」
「君の言う通りだ、ロンウェイ。私は……自分にできることはやってきたと思う。息子が道を踏み外したことを悲しむことはあるだろうが、もう自分を責めたりはしないよ」
「私はこの街を築き、このあたたかくて団結したコミュニティを育てる一助となれた。それは、確かな事実だからな。
ヂーハオにとっても、これが終わりではないのかもしれない。
もしかすると、この葛藤が『目立ちたい』という心の影を、彼自身に気づかせてくれるきっかけになるかもしれない……」
ヂーリーは静かに立ち上がり、両腕を広げて遠くの景色を見つめる。
「でも、たとえヂーハオが変わらなくても……たとえ彼が闇にとどまり続けるとしても……私はこの街と、あの子のために闘い続ける。そして君やシュエンウーと同じように――
自分の信じる道を、心に掲げ続けるよ。たとえ、それが困難でも」
「いいぞ、おじさん!」
***
──一方その頃、グアンロンチョンを出た山の中。
シュエンウーは、あちらこちらで石を集めていた。
「……ロンウェイが『小太陽』を思いついたんは、宝珠の炎の力で何ができるか想像して試してみただけやって、言うとったべ」
「だったら――おいらも何かできるかもしれんや。これまでに学んだこと、持っとる技術、そんで天の亀の宝珠の力……全部合わせて、ヂーハオの力になれたら……」
「……あいつが宝珠を欲しがってたんなら――
おいらが、作ってやるべ。おいらのと同じくらい……いや、それ以上にすごい宝珠を!」




