エピソード20:グアンロンチョン包囲戦⑨ 覚醒せよ!天の亀の守護者!
手にした天の竜の宝珠を天に高く掲げ、ヂーハオは邪気を宝珠へと増幅させる。だが……何も起こらない。ヂーハオは衝撃に凍りつく。
「な……なぜだ?なぜ宝珠の力が使えねぇ!?あの妖怪のガキは簡単にやってたのに……俺は天才だ。やり方も見て……」
「そりゃあ、あんたが天選じゃねぇからだべ、ヂーハオ。
宝珠がふさわしいと認めた者だけがその力を使えるんや。世界中の誰もが使えるわけじゃねぇ。
力や才能の問題じゃねぇんや。おいらだって天の亀の宝珠に選ばれてるけど、天の竜の宝珠は使えねぇ。
そいつはロンウェイだけが選ばれたんや」
「うわああああああああああああああああっ!!!!」
ヂーハオは怒り狂い、天の竜の宝珠を遠くへ投げ飛ばす。
「くそっ!くそっ!くそっ!なぜだ!?なぜすべてが俺に逆らう!?俺はポタラ寺院に入ったこの50年で最高の天才だ!それなのに……俺は何にも選ばれねぇ!!なぜだあああああああああああ!!」
「あんたは間違った世界の見方に囚われとるからや、ヂーハオ。ポタラ寺院で学んだはずや。
全ての生き物には存在と自然の中での役割があるってな。
鳥には空、魚には海が与えられる。これは押し付けられた条件じゃねぇ。
魂の共鳴に合うかどうかっちゅう話なんや」
「それぞれの魂は違う振動をしてて、その振動が互いを引き合い、適合の輪を作るんや。それが家族や社会やグループを形成する。例えばな、あの盗賊団が集まったんもそうやねん」
「これが運命なんや!予め決められて押し付けられて逃れられねぇものじゃねぇ。
の循環と魂の本質の一部なんや。
何をすべきか決める規則じゃねぇ。あんたが何者かのを示すだけや。
の自由を奪うわけじゃねぇ。ただ、あんたの本質に最も適合する道を示すだけや」
「天の亀の宝珠に選ばれる前、おいらもなぜ自分が選ばれたかわからんかった。
でも今は少しわかるようになった。
の魂はあの宝珠と適合しとるんや。宝珠の方がおいらに引き寄せられたんや。
多分……おいらの歩む道が同じやったからや」
「あんたは間違っとる。ヂーフェイ大師や寺院がおいらを選んだと思っとる。
まるでおいらに功績があったかのように。
でも、純粋においらと天の亀が同じやったからなんや。おいらはのろまやけど、粘り強うてな。
穏やかで辛抱強いんや。体も亀の甲羅みたいな城壁やで」
「でも、あんたに良い運命がねぇってわけじゃねぇ。
あんたの名前は『自豪』──『誇り』って意味や。
あんたは誇りの負の側面に流されてしまったけど、あんたの名前は『ポタラ寺院の誇り』『グアンロンチョンの誇り』になる運命を示しとるんや」
シュエンウーは姿勢を正し、両手を前に伸ばして水平に合わせる。
「全ては見方次第や。あんたは今は堕ちたヒーローで、もう変われねぇと思っとるかもしれねぇ。
でもな、堕ちてまた立ち上がったヒーローは前より強い。それ自体が誇りや。
本当に強い者、本物の天才だけができることなんや!」
「黙れええええええええええええええ!!!!」
ヂーハオは両手でシュエンウーの首を締め上げる。
《―――裏螳螂少林拳:吸血の食》
「てめぇの防御が鉄壁なら……骨の髄まで吸い尽くしてやる!!気を失えば、てめぇだって耐えられねぇ!」
「そりゃあ……ほんまに悲しいわ、ヂーハオ。ほんまに残念や……」
ヂーハオはシュエンウーから気を吸収できないことに気づく。
「くっ…なぜだ!? なぜ効かねぇ!?」
《―――大地少林拳:安気術》
「これが大地少林拳の基本原則や。おいらが最初に学んだ術や。これができなきゃ、この流派の技は全て無効や。山のように動かぬ気を体内に安定させ、鎧のように身にまとうんや。外の変化なんかじゃビクともせんのや」
「くそったれええええええ!!!!」
ヂーハオは後退し、逃げ出そうとする。
「知るか、デブ!!! てめぇの最大の弱点はその鈍さだ!100万年かかっても俺に追いつけねぇぞ!!」
シュエンウーは姿勢を保ったまま、足を地面から離さずに上半身だけをヂーハオの方向に向ける。
「速くなる必要はねぇ。大地少林拳は遅さを利用するためにあるんや。急ぎはな、完璧の敵っちゅうもんや」
《―――大地少林拳:陰陽引力》
シュエンウーの気が天の宝珠の力と共鳴し、圧倒的なオーラを放つ。500m以上離れたヂーハオの体に突然重圧がかかり、シュエンウーへ引き寄せられ始める。
「なにィィィィィ!???」
ヂーハオは抵抗するが無駄だった。超磁石に引き寄せられるコインのように、凄まじい力でシュエンウーへ吸い込まれる。
「さっきの話、覚えてるやろな、ヂーハオ。今夜のことは全部許す。心からの許しや。ただな...子供を傷つけたことだけは別や。この決意もまた動かねぇ!」
「ちょ……待て!! シュエンウー…….!!!」
ヂーハオの体がシュエンウーの眼前に達した時、時間が凍りついたように感じられた。しかしシュエンウーだけはゆっくりと動き続ける。
シュエンウーは両掌を胸元に引き寄せ、肘を曲げる。そしてヂーハオの胸に向け、右手は上へ、左手は下へと両掌を高速で展開した。
《―――大地少林拳:地震衝撃波!!!》
衝撃波が街を襲い、爆風のような風圧が周囲を薙ぎ払う。岩石が飛散し、まるで都市中心部に爆弾が落ちたかのような光景が広がる。
数秒後、塵が沈静化すると、直径5メートル以上の巨大なクレーターが出現していた。シュエンウーの顔には怒りと悲しみが混ざった表情が浮かぶ。ヂーハオは動かずに倒れていた。
ヂーリーは状況を見るやいなや、ヂーハオのもとへ駆け寄った。
「ヂーハオ!! 大丈夫か!?」
「心配すんな、ヂーリーさん。生きてる。ポタラ寺院の僧として、たとえ怒りに駆られても人命は絶たねぇ。それにヂーハオは強い。おいらが全力で殴ったって、死ぬことはねぇ」
「シュエンウー、だが……ヂーハオは元に戻れるのか?」
「ええ…それは...わからねぇ、ヂーリーさん。もし邪気に憑依されてたんなら、陰陽引力で抜き取れた。だが…ヂーハオの邪気は…心から生まれたもんや。気そのものが腐敗したんや…」
ヂーリーは涙を流し、意識を失ったヂーハオを抱きしめた。
「おやおや、どうやら無事に終わったようだな。今回は危なかった」
シュエンウーとヂーリーが驚いて振り向くと、そこには酔っぱらった老人がふらふらと立ち、手には酒のひょうたんを持っていた。緑色の長衣に編笠を被り、長い白髭と顔の両側まで垂れた長い眉毛が特徴的だった。
「ヂ…ヂーフェイ大師!?」
「ど…どうしてここに?」
「風水の流れを占っていたら、今日が重要な日でわしの助けが必要だと出た。だが遅くなり、着いたのは1時間前じゃ」
「1時間…?それはヂーハオが到着した頃…」
「そうじゃ。ポタラ寺院から来たので、反対側の畑と山の方向から入った。だが気の流れは全体として良かった」
ヂーフェイ大師がロンウェイの方を見ると、シュエンウーはハッと我に返り、急いで駆け寄った。
「あっ!ロンウェイ!急…急がなきゃ!出血がひどすぎるやないか!」
「ホホホ!大丈夫じゃ。あの子の気は、今日死ぬ相では…しばらくはない」
ヂーリーがヂーフェイ大師に近づく。
「ヂーフェイ大師…では襲撃の間ずっとここに?予知が遅れたのはわかりますが…それでも攻撃中に到着したのに、なぜ何もしなかった?そしてヂーハオが…あんな姿になることは?」
ヂーフェイ大師はヂーリーの傍らに疲れた様子で座る。
「ヂーリーよ。わしはポタラ寺院の大師ではあるが、同時に老人じゃ。
この体には気の制御や武術でも補えない限界がある。
だが気の流れは見ていた。予言通り、あの半竜人の少年がこの街に幸運をもたらした」
「幸運…ですか?」
「そうじゃ。彼がいなければ、戦いの結果に関わらず街は焼け野原になっていた。わしとシュエンウーだけでは、多くの死者が出てグアンロンチョンは今夜滅んでいたろう。さらに…」
ヂーフェイ大師は、シュエンウーが抱きかかえて共同館へ運んでいるロンウェイを見る。
「あの少年がいなければ、シュエンウーは天選として覚醒できなかった」
「覚醒…?でも宝珠に選ばれたのは、本人の言う通りでは?」
「ああ、宝珠は数日前にシュエンウーを守護者として認めた。だがそれまで彼が引き出せた力は微々たるもの。大地を真に制御するのは不可能に近かった」
「あの半竜人がいなければ、シュエンウーはこの戦いで敗れ、宝珠の真の力を使いこなせず、街の住民も救えなかった可能性が高かった」
「半竜人の少年はシュエンウーの中の英雄としての炎に火をつけた。
天の亀の宝珠の守護者として正しく反応できるように。
まるで炎が蝋燭に火を灯すように。あの少年は他人の内なる炎を目覚めさせる炎なのじゃ。
おかげでシュエンウーは宝珠の力を解き放ち、街の全員を救えた」
ヂーフェイ大師はヂーリーの肩に手を置く。
「安心せい、ヂーリー。この戦いで死者も重傷者も一人も出なかった。まさに奇跡じゃ」
ヂーフェイ大師はゆっくりと立ち上がる。
「だがわしがただ預言の成就を祈って見ていただけではない。
街の反対側でピシャーチャの盗賊を倒し、ブートゥの憑依をすべて祓った。
シュエンウーと半竜人の少年が対応したのは街の半分だけじゃ」
「反対側では盗賊と憑依者たちが分散していた。わしは普段以上の速さで動き、畑側の街で犠牲者が出ぬよう防いだ」
「で…ですが大師…ヂーハオは…?」
ヂーフェイ大師はヂーリーに近づき、両手で彼の肩を包むように握った。
一方シュエンウーはフェイフォンも抱え、共同館へ運び込む。
他の住民たちは気を失った警備兵やヨンチー、ヌーリー、そしてシュエンウーが大荷車で運んだ憑依から解放された村人たちを運んでいた。




