エピソード13:グアンロンチョン包囲戦②フェイフォンVSズイエーのギャング
グアンロンチョンの中心部は、完全に混乱状態だった。
ナイフや農具などの危険な道具までが四方八方に投げ飛ばされている。
ブートゥに取り憑かれた人々は、凶暴で理性を失ったように暴れ回っていた。
一方で、ピシャーチャの盗賊たちは民家に火を放ち、バイクに乗って人々を襲撃していた。対象は、ブートゥに憑かれた者もそうでない者も関係なかった。
ヂーリーとヨンチーは、ヌーリーの姿を発見する。
「ヌーリー!無事か!?」
「ヨンチー!ヂーリーさん!一体何が起きてるの!?このバイク乗りの妖怪たちはどこから来たの?それに、この大量のブートゥは一体……」
ヂーリーは一瞬、説明をためらったが、すぐに決意を込めて声を発する。
「それは今は重要ではありません、ヌーリー!今すべきは、憑かれていない人たちを一箇所に集めて、守ることです。負傷者の治療にもあたってください。私たちの手でできる限りブートゥと妖怪を祓い、あとはシュエンウーに任せましょう」
「分かったわ!じゃあ、俺がまだ無事な警備兵を集めて、妖怪どもを相手にする!ヌーリー、みんなを誘導して逃がして!」
「でも……どこに逃げればいいの?」
「共同館に向かって。シュエンウーがそこにいる。あそこには妖怪に対抗するための道具も揃ってるわ。そこを防衛と避難の拠点にするの」
「ブートゥに取り憑かれた人たちはどうするの?」
「今朝のタンリーの件を受けて、私、家に麻縄とニームの葉を用意しておいたの。すぐ取ってくる。それがあれば、拘束して祓えるはず。警備隊の力を借りれば対応できる」
ヂーリーは急いで自宅へと駆け出した。
ヨンチーは湾曲した剣を手に取り、到着した警備兵たちに指示を出す。
「全員、ピシャーチャの盗賊を迎撃する!市民の避難を援護するぞ!」
ヌーリーはまだ手にしていた鍬を握りしめ、周囲に向かって叫んだ。
「みんな!共同館へ急いで!シュエンウーがそこにいるわ!あそこなら守れるはず!」
「警備兵たち!ヌーリーたちの避難を援護しろ!俺たちはここでヤオグァイどもを食い止める!」
「おおおおおおっ!!」
その頃、ヂーリーの家の近く――
フェイフォンは依然として、ピシャーチャの盗賊たちと対峙していた。
『……一、二、三……九人。まあ、もっとひどくてもおかしくないか。即興でやるしかないわね』
フェイフォンは右足のつま先で立ち、左足を膝でしなやかに曲げる。
左手は頭上に掲げ、扇を開いたまま高く構える。
右手の扇は体の正面――腹部と胸部を覆うように構えた。
「ヘッ!このガキを片付けろォ!!」
盗賊たちが一斉に襲いかかってくる。
フェイフォンはまるで踊るように、優雅な動きで攻撃をかわしながら舞うように身体をひねり、伸ばしていく。
同時に、扇を閉じてバトンのように扱い、喉、胸骨、鼻筋など急所を鋭く突く。
それでも盗賊たちは苦痛を感じていないようで、怯まず攻撃を続けてくる。
『……なんなのよコイツら……! 今の一撃で鼻が折れても、喉が潰れてもおかしくないはず。少なくとも、痛みで動けなくなるくらいのはずよ。まさか……この妖怪の状態じゃ痛みを感じないの?』
包囲が強まり、フェイフォンは完全に囲まれてしまう。
その時――一人の盗賊が彼女の右手の扇を叩き落とした。
その瞬間、フェイフォンは両足を大きく開き、体を低くかがめて盗賊たちの足元へ――
そして、そのままくるりと転がって彼らの脚の間をくぐり抜け、包囲から脱出した。
「へへへっ!おいおい嬢ちゃんよォ、お気に入りの扇子がなくなって、どうする気だァ?」
盗賊のひとりが地面に落ちた扇子を拾い上げようとするが――
その重さに顔をしかめた。
「なんだコレ……重ッ!?はあっ!?なんでこんなもん、こいつが紙切れみてーに振り回せたんだよ……?」
無理やり片手で開こうとするが、びくともしない。
両手でなんとか広げてみたものの、開き切った瞬間、その重さに耐えられず手を離してしまう。
ゴンッ!!
まるで中身の詰まった大きな宝箱でも落としたような鈍い音が響く。
「……あれ?地面ぶち抜く怪力があっても、女物の扇子すら開けねぇとはね。無駄な力ばっかじゃ、意味ないでしょ。教えてあげる、使い方ってやつを」
フェイフォンはもう一つの扇子を手に取り、背後に構える。
腕に淡い青い気が流れ出し、それが扇子にまとわりつく。
《舞鳥流 :啄木鳥の撃!》
扇子がまるで槍のように飛び出し、
敵の頭蓋骨の中央にズドンと命中――バキィッ!
盗賊は衝撃で宙に舞い、地面に叩きつけられた。
その隙をついてフェイフォンは素早く駆け寄り、二本の扇子を取り戻す――が、再び囲まれてしまう。
「へっへっへ!今度こそ逃さねぇぜ、クソガキがァ!」
一人は鎖をグルグルと回し始め、
他の者たちは釘バット、鉄棒、鉄線の巻かれた棍棒などを構える。
「……まあ、これは計算通り。あんたたちみたいな超絶バカには、きっと知られてないでしょうけど――
スズメって、自分より大きな鳥の巣を襲って乗っ取ることもあるのよ?」
「……『勧め』?なに言ってんだこのアマ……?」
「知らねぇよ!殺せェッ!!」
フェイフォンは再び膝を曲げ、地面すれすれに身を沈める。
右腕を背後へ伸ばし、左腕は背中越しに構え――集中する。
遠くで、さきほどの啄木鳥の撃を喰らった盗賊が、頭から血を流しながら立ち上がってくる。
だが、やはり苦しむ様子はない。
『……ありえない。この一撃で、普通の人間なら即死よ。
でも……ここまで効かないなら、もう遠慮はいらない』
盗賊たちがバットや棍棒を振り下ろす寸前――
フェイフォンは一気に跳ね上がり、くるりと360度回転! 両手の扇子を大きく開いたまま高速回転する。
《舞鳥流 :燕の回旋!!》
扇子の刃が回転しながら周囲の武器を次々と斬り裂き、
同時に盗賊たちの身体までも切り裂く!
彼女は宙を舞い、そのまま地面に頭から落ちるように――
……見えたが、直前で姿勢を変える。
《舞鳥流 :鷹の狩!!》
開いた扇子を両手に掲げたまま、真上から一人の盗賊に渾身の着地攻撃!
ズガァァァン!!
その男は一瞬で意識を失い、横にいた二人も刃の余波で切り裂かれ、倒れる。
『……三人!』
その時――
カシャンッ!
右手首に冷たい感触が巻きついた。鎖だ!
フェイフォンが気づいた時には、盗賊の一人が全力で鎖を引き、
彼女の身体を強引に引き寄せる。
その瞬間、周囲に残っていた盗賊たちが一斉に拳を振り上げた――!
二人の盗賊がフェイフォンに接近し、鎖の力で彼女を再び引き寄せようとする。
だがフェイフォンはその引き寄せを逆手に取り、
空中で両脚を振り上げ――二人の顔面に同時にキック!
ドガッ!
そのまま地面に転がり落ちるも、すぐに三人の盗賊が次の攻撃に迫ってくる。
フェイフォンは左腕しか自由に使えない中で、扇子を盾として使い、迫る拳を受け止めた。
『……普通なら、うちの金属製の扇子に素手で殴れば、手の骨が粉々になるはず。
なのに、このありえない怪力で、まだ効いてない……?』
盗賊はさらに鎖を引き、フェイフォンの右腕は完全に伸び切り、動きを封じられてしまう。
その瞬間、フェイフォンは左手の扇子を閉じて――
《舞鳥流 :啄木鳥の撃!》
狙うは、鎖を持つ盗賊の喉。
扇子の鋭い一撃が喉を撃ち抜き、盗賊は血を吐いて崩れ落ちる。
『……四人!』
だがその瞬間、まだ鎖を離していない盗賊の背後から、三人の拳がフェイフォンへと迫る!
フェイフォンは即座に右手の扇子を左手に投げ渡し、素早く開いて盾とした。
バンッ!
扇子に拳をぶつけた三人の手からは血が噴き出す。
どうやら限界を超えても耐えきれない衝撃だったようだ。
鎖の盗賊がようやく意識を失い、手から鎖を放すと、
フェイフォンはその鎖を逆に利用し――
遠くに落ちた自分の扇子を、鎖を巻きつけて引き寄せる!
扇子が空を舞う――
フェイフォンはそのまま鎖を別の盗賊の首に巻きつけ、
手元の閉じた扇子でその男の額を力強く殴打!
ゴッ!
『……五人!』
その時、遠くの盗賊がバイクに乗り、猛スピードでフェイフォンに向かって突進してくる。
彼女は鎖をムチのように振り回し、バイクの運転手を一撃で叩き落とす!
だが――バイクは止まらず、そのままフェイフォンに迫る!
さらに別の盗賊が隠していた拳銃を抜き、発砲!
フェイフォンは扇子で防御するが、一発は脚をかすめてしまう。
ズシャッ!
痛みを感じながらも、フェイフォンは前転してバイクのハンドルの上に着地!
バイクがそのまま進む中――
ついに空中にあったもう一つの扇子が落下!
彼女は左手を伸ばし、それをキャッチ!
フェイフォンはハンドルの上に立ったまま、両足で器用にバイクを操縦。
目の前の盗賊に向かって突進――そして激突!!
ドゴォッ!
盗賊は吹き飛ばされ、地面に頭から落ちて気絶。
『……六人!』
まだ拳銃を構えている盗賊が、遠くからフェイフォンに向かって次々に発砲する。
彼女は両方の扇子でそれをガード――
そして、一つの扇子を開いたまま回転させて投擲!
《舞鳥流 :海燕の旋!》
巨大な刃のように回転しながら飛ぶ扇子は、銃を持った盗賊を切り裂き、地面に倒れさせる。
『……七人!』
残る二人の盗賊が接近する。
フェイフォンは右腕を背後に引き、
左脚を前に伸ばし、左腕は敵に向けて構える――舞鳥流の戦闘姿勢!
敵の攻撃をかわしながら、フェイフォンは一つの扇子だけで連撃。
まるで踊るように体を回転させ、敵の身体各所を切り裂いていく。
《舞鳥流 :殺鶴の舞!!》
しかし――
「くっ!」
脚の傷が災いし、フェイフォンのバランスが崩れる。
だが彼女は倒れず、地面に膝をつき、美しく扇子を前に構える――その背後で、二人の盗賊が同時に崩れ落ちた。
「……九人! ったく、面倒だったわね」
フェイフォンが立ち上がろうとしたその瞬間――
ズドン!!
腹部に何か見えないものの衝撃が走り、フェイフォンの身体が宙を舞い、地面に叩きつけられる!
「……ぐっ……!」
彼女は腹を押さえ、苦悶の表情を浮かべる。
そこには、誰もいないのに、地面には足跡が現れていた。
『……まさか……ピシャーチャの盗賊やブートゥ以外に、さらに妖怪が……!?』
ふと後ろを振り向くと、そこには――
他の盗賊とはまるで違う、異形の存在。
ピシャーチャの盗賊――だが、完全に妖怪へと変貌していた。
腕は六本、生えた角、異様に長い牙、鬼のような顔――
一方で、先ほど投げた扇子が宙に浮き、誰かの手にあるかのように、勝手に空をあおぎ始める。
『……ヤバい……! あの二人――完全体の妖怪!?
しかもあたしは、脚を負傷して、扇子も片方だけ……!』