プロローグ:砂漠のヒーローたち!見よ、天上戦隊の降臨!
2191年――
ある砂漠の真ん中にある村。
略奪され、破壊された家々。地面に点々と広がる血痕。
水と食料を満載したジープとバイクのエンジンが唸っている。
明らかに、また一つの小さな村がギャングに襲われたあとだ。
今の世界では、こういう出来事が毎日のように、あらゆる場所で起きている。
この村には、およそ三十人ほどの住人がいる。
その全員が、刺青を入れたギャングたちに取り囲まれていた。
髪は逆立ち、手には銃。
女や子どもは怯えて泣き叫び、年寄りたちは祈りを捧げている。
今まさに、残虐な光景が始まろうとしていた。
「お願い! お願いだから……パパを殺さないでぇっ!」
ひとりの八歳くらいの少女が、絶望の声を上げる。
ギャングのひとりが、地面の石を積み上げた場所に火をつける。
炎はすぐに広がり、石は焼けて真っ赤に。
そのすぐ横に、少女の父親が縛られていた。
顔は血だらけ。村のリーダーで、たった今まで、娘の目の前で暴行を受けていた。
「こいつをそのまま、この焼けた石の上に放り込んでやろうぜ。
家族の目の前で悲鳴をあげながら炭になるのを見たら……最高じゃねえか?」
ギャングたちは下品に笑い、想像だけで楽しんでいる。
ひとりが男を担ぎ上げ、焼けた石へと歩き出す。
男は絶望の声を上げた。
「やめてくれ! 生かしてくれよ! なんでもする! 頼む……頼むからっ!!」
男の懇願も虚しく、無情にその身体は灼熱の石の上に投げ込まれた。
村人たちは凍りついたように沈黙し、顔を背けたり、目を閉じたりする。
少女の叫び声だけが、乾いた空気に響いた――。
「いやあああああっ!! パパアアアアッ!!」
その瞬間――
普通の人間には見えないほどの一瞬で、
石から炎と熱が吸い取られた。
燃えていた石たちは、自ら動き、周囲へと散らばっていく。
その中央に、男が砂の上へと落ちた。
石たちは、まるで彼の倒れた形をなぞるように並んでいた。
村人もギャングも、その光景に目を見開き、呆然とする。
「な、なんだ今のは……?」
ひとりのギャングが、訳も分からず、地面の石を手に取る。
「お、親分! この石……もう熱くねぇ! さっきまで灼けてたのに、元に戻ってやがる!」
石から出た熱と炎は、ひとつの流れになり、
村の家の屋根の上へと向かって渦を巻く。
やがて、それはひとりの人物の手の上で、火球となって浮かび上がった。
「そこのお前ら! この村の人たちから手を引けッ!」
響き渡る声。どこからともなく聞こえてくるその一言に、
ギャングたちも村人たちも驚き、辺りを見回す。
「親分、あそこだ!」
ひとりの男が指を差したのは、石造りの家の上。
太陽を背に、ひとりの人物が立っていた。
右手に浮かぶ火の玉。
その身長と声からして、もしかすると……子どもか?
彼は赤いマントに金の装飾をまとっていた。
長いフードはマフラーと一体化し、顔はヘルメットに覆われている。
ヘルメットには竜の意匠。
頬には通気口、目元は青黒いミラー状のバイザーで、見る者を威圧する。
金色のブレスレット。黒い手袋。
竜のバックルが輝く太いベルト。
僧兵風のだぶついたズボンに、脛まである黒いブーツ。
「て、てめぇ……何者だ!?」
赤き戦士は、そっと右手を握る。
その瞬間、火球はふっと消えた。
赤き戦士は、
素早く武術の型を決めていく。
最後は右腕を爪のように前へ突き出し、左腕は胸の下で拳を握りしめ、右脚はまっすぐに伸ばす。
「僕は、正義のために戦い、悪に苦しむ弱き者を守るヒーローだ!
この荒れ果てた世界で、
僕は、虐げられた者の心に希望の炎を灯し、
悪を焼き尽くす者ッ!
――赤き天の龍!!」
沈黙。
街に一瞬だけ静寂が訪れる。
そして――
ギャングたちは堪えきれずに大笑いし始めた。
村人たちは戸惑い、呆然としたまま。
「ハハハハハッ! なんだよそれェ!」
「今どき、ヒーローごっこかよ?」
「どこでそんなダセぇ衣装拾ったんだ?」
ギャングのリーダーが銃を抜き、赤き天の龍に向ける。
「おい、ガキ……俺は遊んでる暇はねぇんだ。
ヒーロー気取りで目立ちたいなら、
まずはお前から死んでもらうぞ。
ひとりで、何ができるってんだ?」
「正義のために戦う者は……決してひとりじゃない!」
その言葉とともに、
赤き天の龍の背後に、四つの影が現れた。
彼らもまた、同じ形式の戦闘服を身にまとっていた。
異なるのは、色、ヘルメットの意匠、そしてベルトのエンブレムだけ。
その五人はまるで舞台に立つ役者のように、
順番に動きを決め、ポーズを取りながら名乗りを上げていく。
最初に名乗ったのは、青い戦士。
スラリとした体格、柔らかな声――どうやら少女のようだ。
彼女のヘルメットとベルトのバックルには、鳳凰の紋章が輝く。
動きは優雅で、まるで武の舞を踊っているようだった。
最後のポーズは右足のつま先で立ち、左脚を高く上げ、
両腕は美しく構えられていた――。
「――あたしは、青き永遠の鳳凰!
この砂漠の世界において、あたしは過去の灰の中から蘇り、
命を甦らせ、人々の心の汚れを水に流す者よ!」
二人目は緑の戦士。
五人の中でもひときわ大きく、がっしりとした肥満体型ながら、圧倒的な存在感を放っていた。
ヘルメットとバックルには、亀の意匠が刻まれている。
動きは硬いが、堂々とした風格があり、
両膝を曲げ、拳を腹の前で構えるという堂々たる構えを見せた。
「――おいらは、緑の翡翠の亀だ。
この砂漠の世界で、おいらは大地のたくましさをもたらし、
砂を肥えた土に変えて、悪をその下に葬る者だ!」
三人目は、桃色の装いをした女性戦士。
鍛えられた身体には女性らしさと力強さが同居している。
ヘルメットとバックルには麒麟の紋章。
動きは軽快で、まるでサーカスの曲芸師のよう。
最後のポーズは両腕をL字にし、手のひらを開いて美しく構えた。
「――私こそが、桃色の蓮の麒麟……。
この砂漠の世界で、私は花の美しさを再び咲かせる者……
正義の花を、悪党どもの屍に咲かせるわ……!」
四人目、黄色の戦士は鋭い身体つきをしており、低い声が特徴的。
虎を彷彿とさせる装備に身を包み、
カンフーの動きをベースにしつつ、回転を交えた流麗な型を披露する。
最後は両腕を左上に掲げ、空を指すポーズ。
「――俺は、黄色の雷の虎だッ!
この砂漠の世界に金属をもたらし、
世界を再建する道具を作り、
罪人どもを素早く、容赦なく罰するためにな!」
全員が名乗りを終えると、
五人は息をぴったり合わせ、完璧な隊列で決めポーズをとる!
「――我らは、砂漠の大地を駆ける者!
困っている者を助けるために現れる!
五聖獣に遣わされた、世界の均衡を取り戻す者たち!
天上戦隊シェンレンジャー!!」
その光景を前に、ギャングたちはもはや言葉を失っていた。
目の前の出来事が現実なのか幻なのか――誰も確信が持てなかった。
「……こ、これは現実か?それとも俺が狂ったのか……?」
「狂ってんのはあいつらだろ!なんだよアレ!?日射病で脳がイカれたか!?」
「親分、こいつらどうします?」
「さあな。面倒だし、殺しちまえ。奇妙すぎて拷問する気にもならん。」
――その瞬間。
黄色の雷の虎が背中のホルスターから二丁拳銃を抜き放ち、まばたきする間に複数のチンピラたちを武装解除した。
「えっ、何だとっ――!?」
彼はそのまま撃ち続け、次々にチンピラたちの手から武器を叩き落としていく。
奇妙なことに、銃声はするのに弾丸が貫通していない。
まるで「何か」が手を強打して、武器を落とさせているようだ。
チンピラたちは地面に落ちた武器を拾おうとするが、その瞬間、今度は黄色の雷の虎 の銃弾が武器そのものを狙い――粉々に破壊した。
放たれた弾は雷をまとい、撃たれるたびに雷鳴のような音を響かせる。
「――虎の雷弾!」
その動きはあまりに素早く、誰一人として落ちた武器を拾うことすらできなかった。
黄色の雷の虎は銃を構えたままポーズを決める。
右腕を上に、左腕を下に、両腕を体の前で平行に広げて――。
「まず第一に、ここで銃を使っていいのは俺だけだ。
第二に――罪もない人々を殺させねえ。怪我もさせねえ。人質にもさせねえ。」
「へっ!そううまくいくかっての!」
ベンダンがニヤリと笑いながら叫ぶ。
「おい、ウーヨン!例の“秘密兵器”を持ってこい!あのイカれた連中をぶっ潰してやる!」
「了解っす、ベンダンの兄貴!」
チンピラたちはジープの荷台に被せてあったシートを乱暴に剥ぎ取り、中から巨大な武器を取り出す。
それをベンダンへと放り投げる。――ガトリングガンだ!
筋骨隆々のベンダンは、それを両手で軽々と持ち上げた。
「へへへ……こいつはM134 ミニガンって代物さ。大破局の前は戦闘機に搭載されてたって話だぜ。
7.62ミリ弾を毎分6000発ぶっ放せる、正真正銘の地獄の機関銃だ!」
その時、緑の翡翠の亀と桃色の蓮の麒麟が屋根の上から静かに飛び降り、地面に着地。
ゆっくりとベンダンの方へ歩き出す。
「死ねぇぇぇぇぇっ!!お前らが最初の獲物だッ!!!」
ベンダンがトリガーを引いた瞬間、金属の咆哮が砂漠の村に響き渡る。
人々は耳を塞ぎ、目を閉じて身を守る。
狂ったように撃ちまくる音とともに、周囲には大量の砂塵が巻き上がる。
だが――数秒間の激しい連射ののち。
ベンダンが撃つのをやめたその瞬間、砂煙の中からゆらりと二つの影が現れた。
緑の翡翠の亀と桃色の蓮の麒麟。
ふたりはまるで何事もなかったかのように、静かに歩みを進めていた。
服には薄く砂が付き、ところどころ擦り傷や破れがあるだけ。
桃色の蓮の麒麟が、どこか冷ややかで不気味な声で呟く。
「……チッ。制服を汚したわね。もう許さない。
全員――地獄の底で苦しみながら死んでもらうわ。」
緑の翡翠の亀は、隣の桃色の蓮の麒麟の殺気に少し怯えながら声をかける。
「お、おちつけって、桃色の蓮の麒麟!そこまでやることねぇってば!おいらたちは『ヒーロー』だべ……!」
「……チッ。」
その時、チンピラたちが武器を構えて突っ込んできた。
剣、鎖、ナイフ、釘バット……乱暴な武器の数々がきらめく。
「やっちまえェ!!」
「あんなイカれたヤツら、ボコボコにしてやるッ!!」
「……さっきの銃弾の嵐で私たちが無傷だったのに、まだ襲ってくるなんて……馬鹿なの?」
「た、たぶん……そうかも……」
一瞬にしてふたりは敵に取り囲まれた。
桃色の蓮の麒麟が両腕を胸の前でクロスする。
それを見て、緑の翡翠の亀が慌てて叫ぶ。
「ま、待ってってば!おいらもその攻撃に巻き込まれるべ!?や、やばいってぇ!」
とっさにその場から飛びのいて身を低くする緑の翡翠の亀。
「――麒麟の棘雨。」
彼女が左右に腕を広げると同時に、全身から巨大なピンクの棘が一斉に飛び出した。
まるで杭の雨のように、周囲のチンピラたちを次々と貫いていく。
緑の翡翠の亀は地面に伏せたまま、体中に棘が刺さった状態で呻いていた。
その中の一本は、なぜかお尻に突き刺さっていた。
「い、いってぇ……桃色の蓮の麒麟……おいらのこともやっちまうつもりだったのかよ……!?」
「……ふん。生きてたのね。」
「マジでおいらのこと殺す気だったのかよ……?ひ、ひでぇよ、それ……」
別の一団の山賊たちが、動揺しながらも住民たちを取り囲み、刃物を突きつけて脅す。
「ま、待て!これ以上近づいたら、この人たちを殺すぞ!」
その言葉に、緑の翡翠の亀が怒りをあらわにする。右足を高く上げ、地面に叩きつけると、村全体に地震のような揺れが走る。
「亀の震撃!」
衝撃で山賊たちは数メートルも吹き飛ばされ、地面に転がる。
だが奇妙なことに、揺れの中心にいた村人たちは一歩も動かず、地震の影響を感じる様子もない。村の建物もまったく無傷のままだった。
「な、なんだ今のは……!?」
「やべぇ!逃げろぉぉぉ!!」
恐怖に駆られた山賊たちは次々とバイクやジープに飛び乗り、村からの逃走を図る。
その様子を見たベンダンが慌てて叫ぶ。
「ま、待てこの腰抜けども!どこ行くんだ!戻って来い!」
しかし彼が前を向いた瞬間、自分の頭上を飛び越える青い影を見上げる。
「ア……青いの……?」
青き永遠の鳳凰が両足でベンダンの顔面を蹴りつけ、そのまま空中へ舞い上がる。
空中で彼女は鳥のようなポーズを決め、その背中から水でできた翼が広がる。
「不死鳥の斬翼!」
翼の羽のように見える水の弾丸が無数に発射され、逃げるジープやバイクを瞬く間に切り裂いていく。
金属すら両断する水の刃は、すべての逃走者を一瞬で無力化した。
ベンダンがふらふらと立ち上がると、目の前に赤き天の龍が現れる。
「さて、悪党さん。降参する気はあるかい?」
「ヘッ!」
ベンダンは五センチほどの鋭い突起がついた巨大なメリケンサックを引き抜き、殴りかかる。
だが、赤き天の龍は顔を左に傾けるだけで、その一撃を軽くかわす。
「残念だ。これで…決まりだね。」
右腕を下げながら、左腕を顔の高さまで持ち上げる。
そして右腕を前方へ伸ばし、爪の形にした手でベンダンの胴体を薙ぎ払う。すると、その動きに合わせて炎でできた巨大な龍が現れる。
「天竜の憤怒!」
炎の龍がベンダンの体を貫いたように通り抜け、彼の口から煙が噴き出す。まるで煙突のように。
全身が黒焦げになり、その場で気絶して倒れ込む。
村人たちは、あの五人のカラフルな衣装を着た若者たちがすべての山賊を倒したことに気づく。
赤き天の龍は、鎖で拘束されていた男性を優しく抱き上げ、娘のもとまで運び、地面に横たえる。
少女は父親をしっかりと抱きしめ、泣きながら声をかける。
「お父さん!大丈夫?ねぇ、しっかりして!」
「だ、大丈夫だよ...ってほどでもないな、娘よ。」
「心配しなくていい。僕たちが治してあげる。彼は死なない。」
「ほんとに?約束してくれるの?」
「うん、約束するよ。本当のヒーローは、嘘をつかないし、約束も破らないからね。」
村人たちは歓声を上げ、五人のヒーローのまわりに集まってくる。
笑顔の人もいれば、感動で涙を流す人もいる。
子供たちは緑の翡翠の亀の周りに集まり、抱きついてはしゃぎまわっている。
桃色の蓮の麒麟に対しては、畏れ多くて近づけない村人たちも多く、代わりに遠くから深々と頭を下げて感謝を示す。
一方で、黄色の雷の虎
が女性たちに抱きつこうとして逃げられてしまう様子も。
青き永遠の鳳凰は、変な下心で近づいてきた男を勢いよく蹴り飛ばすが、他の女性たちからは歓喜の抱擁を受けている。
赤き天の龍は、村人たちに歓声の中で高々と持ち上げられる。
彼は地面に戻ると、白い通信機のようなものを村の男に手渡す。
その装置は手のひらサイズで丸みを帯びており、上部にはいくつかのダイヤルが付いている。
その中央には、五つの五行の陰陽球が五芒星の頂点に配置されたシンボルが描かれている。
赤は上、緑は右、桃は左、黄は右下、青は左下に位置している。
「これからは、危険が迫った時にこの印を敵に見せてください。
『この村は天上戦隊シェンレンジャーに守られている』と伝えるのです。
そしてもし我々の助けが必要になったら、この装置を使って呼んでください。
必ず助けに来ます。
もう二度と、こんな苦しみや恐怖に耐える必要はありません。」
彼は少女の頭を優しく撫でると、仲間たちと共に高性能なテクノロジー車両に乗り込む。
そして、五人のヒーローを乗せた車は、灼熱の砂漠の地平線へと走り去っていく――。
この作品は、昨年小学館ライトノベル大賞に応募するために書いたものです。残念ながら選ばれませんでしたが、物語のコンセプトが自分でも気に入っており、いくつかの点を改善・修正した上で、ここで公開することにしました。
やっぱり、誰にも読まれない物語なんて、もったいないですよね?
僕はブラジル出身で、今もブラジルに住んでいます。この作品は、日本の読者の皆さんにも読んでもらえるように、日本語に翻訳しました。そのため、登場人物のセリフに不自然な表現やミスがあるかもしれません。事前にお詫びしておきます。
実はまだ日本語は初心者レベルで、JLPTのN4の範囲を勉強しているところです。でも、少しでも読みやすく自然な日本語になるように、全力で翻訳しました。
もし文法の間違いやおかしな表現などに気づいたら、遠慮なくご指摘ください。僕はかつて漫画家を目指していましたが、画力がプロのレベルに遠く及ばず、夢を諦めました。
その分、小説では本気で「質の高い作品」を皆さんに届けたいと思っています。
時差の都合で返信が遅れることもあるかもしれませんが、できるだけコメントにはきちんとお返ししたいと思っています。
ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます。
もしこの物語を楽しんでいただけたら、ぜひ続きを追いかけていただけると嬉しいです!