Ⅳ.「ご機嫌斜め」
私達は屋上前の階段に座って昼食を食べる。
なぜこんな日当たりが悪くて暗い場所で食べるのか…疑問に思うけど…
それは恐らく人通りが少ないから、ここなら何してもバレないとか思ってるんだと思う。
「ムカつく…何よ…皆して腫れ物扱いして…ああもうムカつくムカつく!…イライラする…もう!!!」絢音は屋上に出る為の扉を激しく蹴飛ばす。
今日は一段と機嫌が悪い。恐らくさっきの会話を聞かれてしまったから。
でも…なんとか全部は聞かれていなかったみたいで安心した。
「…ねぇ、美沙紀。音楽ばっかり聞いてないでさ、ジュースとパン買ってきてよ」綾音は強い口調で私にそう命令する。
…呑気に音楽を聴いているわけではない、これも例の作戦のうち。
「うん…わかった」私は絢音にそう言われてジュースとパンを買いに行く。
それくらい自分で行けば良いのにって思う、でも私は彼女に逆らえない。理由は…私が弱いから…
身体は運動部に入って居るから…しっかりしている方だと思う。でも…私の心はいつだって弱い、この前だって。
(回想)
「ねぇ、美沙紀。鞄持ってよ」
「うん…分かった」
その日は美術の作品や体操着を持って帰らないといけなかった、だから一段と荷物が重い。もうこれ以上持てる余裕なんて無い…
でも断れない…断るのが怖い…
結局その日は両手に重い荷物を持って彼女の家まで歩かされた、当の本人は最後まで手ぶら。
それ以外にも掃除当番を押し付けられたり…雨の日に私の傘を勝手に持っていったり。
細かいことだけど、そんな事が中学生の時からずっと続いている、もう正直限界…でも…逆らえない、逆らったら本当に何されるか分からない…
この学校はメイク禁止では無かった。だから私は数少ないお友達に教えてもらい、慣れないメイクした事があった、そんな時も。
「チッ……何よあんた…メイクなんかして、好きな人でも出来たの?」
「ち…違うよ…そんな事…」
「それにカチューシャなんか付けて…私より可愛くなる気?」
そう言って絢音さんは距離を詰め、私のすぐ側に…
「ねぇ、どうゆうつもり? ねぇ!!!」絢音さんに…カチューシャと髪の毛を掴まれる…
「やっ…痛い…やめて…このカチューシャ…お母さんに買って貰ったの…これだけはやめて…」
「そう……分かった。ふふ、私も鬼じゃないからカチューシャは勘弁してあげる、でもその代わりにっ」
パァンッ!!
絢音は私の顔をぶって、そのあとに殴った。
「わー赤くなってる、これでチークいらないじゃないの?」
力だけあっても意味なんて無かった…私にはそれを使う勇気が無いから…
「はぁ…私以外の言う事なんて聞かないでよ!! 貴方は黙ってて私の側で言う事聞いてれば良いの、分かった?」
事あるごとにそんな事を言われる、人のパーソナルスペースやプライベートにもズカズカ踏み込んで来て…
もうこんなの嫌、耐えられないと思って、何回も逃げようとした…でもあの女は何処までも追ってきた。
彼女が話かけてこない様にする為、同級生同士でグループを作ったりもした。
でも彼女はそのグループの人達にも酷い嫌がらせをする様になった。
結果的に、その同級生の娘は私に関わりたくないと言って、縁を切られてしまった。
もう私は誰にも頼れない…頼っても…意味無い…迷惑掛けたくない…
だから…私はもう諦めた。
いつからか私は抵抗もせず、心を殺して彼女の道具として生きている。
そうすれば、必要以上に殴られないし、抵抗しなければ楽になれる。
そう、心に言い聞かせて。