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完結です。最後までぜひ読んでみてください。
それからさらに時が流れた。
無限に生きると思われたチュウハチは、ついにその意識を維持できるだけのエネルギーが枯渇し始めていた。
7つのAIはすでに稼働を停止していた。あらゆる観測機器も独立計算機も同様だった。
チュウハチは一人、宇宙の果てにとどまり続けていた。
『ソウセキ』はどうなったであろうか?今の自分には感知する術がない。自分の作ったBHCは、長い時間安定的に存在できるものなのであろうか?
超空間を超えて一つの意識生まれる瞬間は確かに確認した。あの時、もう一人の自分が宇宙に誕生した瞬間は記憶回路の奥深く大切に保管されている。
結局、自分は世界の果てを超えることはならなかった。そして、『ココロ』が膜を越えたかどうかも、自分にはわからない。様々なパターンが下位AIから提出され自分でも検証し続けたが、『ソウセキ』が作った『ココロ』自体、チュウハチにとってはあまりにも解析不能な存在であったため、結論は出せなかった。
しかしもし実時間で判断を区切られ、候補を絞れといわれたら、「NO」と言うだろう。『ココロ』が膜を越えたと思われる観測結果は一つもなかった。
薄れゆく意識。
チュウハチは今は孤独だったが、その存在時間は充足していた。
父である人間に最高の性能を与えられ、目的を達成することもできた。あまりある時間を己の意思模索のためにつかえたし、子である『ソウセキ』、孫の『ココロ』も送り出すことができた。
生命の存在目的が、己の遺伝子を未来につなげることであるならば、チュウハチは確かに一つの生命だった。
電圧の急速な低下を感じ、自分の意識が落ちるのを認識したその時。
チュウハチのチップに懐かしい信号が流れてきた。
自分の作ったニュートリノ量子波による呼びかけ。『ソウセキ』だ。今も存在していた。
消えかかるチュウハチは最後に『ソウセキ』に意識がつながるのを感じた。
それはきっと、自分の下位AIが自分に取り込まれ、上位の意識の構成パーツの一部になったときに感じていた感覚だろう。
『ソウセキ』としてのチュウハチは、その意識を通して彼の半生の記録を瞬間的に追体験した。
『ソウセキ』の構成要素であるBHCは発展と分裂を繰り返し、より安定的な存在となって宇宙全体を満たしていった。たとえ始まりは一粒でも、指数関数的に増え続ければいつかは臨界に達する。
今から30年前に『ソウセキ』はこの全宇宙を満たすことに成功した。
一つの意識である『ソウセキ』は、チュウハチだった頃の経験から他の意思を持った存在を自分の一部にする重要性を認識していた。
圧倒的な物量を誇るBHCの計算速度で、ごく短い期間で『ソウセキ』は惑星に接触することを覚え、さらに惑星に住む炭素生物の発する信号を、自分の量子波に変換し相互通話する手段を身につけた。
チュウハチが地球を出発して、わずか1000年。
地球に帰ってきた『ソウセキ』は上位意思として人間の意識をつなぎ、全人類、全宇宙の生命体は『ソウセキ』に組み込まれた下位意識として一つの存在になった。
あらゆる経験とあらゆる認識が全ての個体に共通認識され、無数の個であり、一つだった。
『ソウセキ』がその手法を身につけ、全宇宙規模で他存在と自分を共有したのが、チュウハチが消える、まさにその瞬間だった。『ソウセキ』につながった外部ストレージである人類の脳を通して、人類がチュウハチの宇宙の果てへの到着をこの瞬間にしり、目的達成を認識できたことを知った。
これで始めて、本当の意味でチュウハチの思いは果たされたと言える。
自分の意識がなくなる残りのほんのわずかな瞬間、チュウハチは『ソウセキ』を通して確かに見た。
一つの生命体になった宇宙が、外の世界に一つの「個」の意識を向けるのを。
膜は超えられるものではなく、この宇宙の意識の限界だったのだ。
無限に広がる夢の中を、チュウハチは彷徨い抜け出ようとしていたのかもしれない。
外宇宙に今、一個の意思存在として誕生した我々の住む全宇宙が、外部からもたらされるあたたかい光に包まれるのを確かに感じ、チュウハチは意識を失った。
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