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038.ただできることを

2話連続投稿の1話目です。

 その声が鳳花の耳に入ってきたのは、相手取っていた霊獣達を全て討滅したのとほぼ同時だった。



『伝令。南区、西の十号にて新たに七体出現。内訳は二が三体、三が二体、四が二体。対応可能な班は急行願います』



 薄い硝子(ガラス)越しにかけられたかのような声が発せられているのはこの班の班長の胸元から。班長である第三隊の佐土(さど)義将(よしまさ)副長は周囲の警戒を続けたまま無線機の応答ボタンを押す。



「こちら一班(いっぱん)。交戦していた霊獣の消滅を確認した。怪我人は無し。消耗は軽微。これより指定の地点へと向かう。どうぞ」

『本部了解。他の班に伝達します。それでは』



 簡潔にやり取りを終え、副長は鳳花も含めた他の三人を振り返る。



「聞いての通りだ。時間が惜しい。早速向かおう」

「「「承知」」」



 討ち手の一人として上席の指示を受け止めて、鳳花は先導する副長の背を追いかけた。


 通信によって指示されたのは黄泉迷峡谷の座標の一つ。広大な面積を誇る峡谷にて効率的に霊獣の討滅を行うために独自に定めたもの。鳳花達は本部から示された場所、峡谷南西部、その中央付近へと疾走する。


 第三隊は現在、鳳花を含めた十九人の人員を四つの班に分けて霊獣の討滅を進めていた。現場の指揮を執っているのは焔山より後を任された佐土副長。鳳花は副長が率いている一班と共に行動していた。


 今回発生が確認された霊獣は二百体以上。東馬と焔山を『ろ』級霊獣の相手に取られ、奥伝を授かっている討ち手も二人の他には副長のみ。

 一見すると絶望的な戦力差に思えるが、そこは対軍()経験を積み重ねてきた皇家。対応方法は蓄積している。


 先導する副長が片手を上げて制止を求め、鳳花達も音を立てないよう副長の傍で立ち止まる。

 副長の視線の先には知らされていた通りの数と力を持っている霊獣の群れ。等級の高い霊獣が先導して歩き、獲物を求めて目を光らせている。


 それらに見つからないよう身を潜めつつ、副長は胸元の無線機のボタンを押す。



「こちら一班。目標地点に到達。霊獣を視認。これより戦闘に入る。どうぞ」

『本部了解。三班から請け負っていた霊獣の討滅を完了したとの報告あり。合流を待つべきかもしれません。どうぞ』

「いや、()がつかえているためこのまま会敵(かいてき)する。ただし三班には万が一に備えた後詰めとして合流を求む。それでは」



 通信を切った副長は鳳花達を一瞥(いちべつ)。鳳花と他の二人が頷くのを確認するとゆっくりと片手を上げ、糸を引っ張るように指先を霊獣へと向けた。


 四人は一斉に霊獣へと走り出す。


 仕掛けたのは後背。まず副長ともう一人が、末尾を歩いていた二体の霊獣を神威をまとわせた刀で斬り飛ばした。



「ギギッ!?」

「グルッ!」



 群れの分断と霊核の探知を優先したため、飛ばされた霊獣に目立った傷は見られない。前を歩いていた霊獣は異変に気付き、群れを(ほど)いて散開する。


 ただしその動きは目論見通りと言っていい。群れて固まっている相手と戦うよりも、分散しているのを各個撃破する方が労力は少なく確実だ。


 第三隊は鎮圧部隊。鳳花以外の他三人は霊獣討滅の専門家だ。その手腕は鳳花のそれとは一線を画し、一分を過ぎた頃には副長が、二分を過ぎた頃にはもう一人が『は』級の三の討滅を完了していた。



 ――やっぱり凄い。



 戦いが始まってから何度も見てきたその手際に鳳花は改めて舌を巻く。戦い慣れた場所といえど、今居るのは上も下も緑で覆われた視界不良の原生林。わずかでも気を抜いた途端にむせかえるような野生の匂いと八方で飛び交う葉擦れの音が即座に五感を奪っていく。


 そんな悪環境の中、少ない手数で霊獣を討滅するその腕前は今の鳳花には到底手が届かないもの。かつて青葉がぶつけてきた烈火の怒りも、この第三隊の働きぶりを見ればもっともなものだと理解できる。


 とはいえ鳳花もただ突っ立っている訳ではない。彼らに比べれば稚拙な腕でも、役に立てると考えたからこそ鳳花はこの場所に立っているのだ。



「副長! 一体そちらにお預けします!」



 鳳花は鞘に納めたままの刀を使って霊獣の土手っ腹を突き上げる。群れの内の一体を相手取っていた班員に迫っていたその霊獣は、鳳花の言葉通り副長のいる方へと宙を飛ぶ。


 己の身長の倍はあろう巨体が落ちてくる中、副長もまた撃法を練り上げつつ声を張る。



「姫様、霊核の場所は!」

「頭部前寄りです!」

「承知!」



 そして放たれた中伝上位の撃法の一閃。霊核は(あやま)たず捉えられ、霊獣は一撃にてその形を失っていく。


 一息つくのはまだ早い。三体減ったが霊獣の数はまだ四体。内一体は鳳花が庇った班員の手で今まさに討滅されたが、それでもまだ一撃での討滅が難しい『は』級の二が三体残っている。

 わずかな時間で同胞を討滅されたせいか、残る三体はそれぞれの背中を預けながら固まり始めた。鳳花達四人もじりじりと距離を詰めながらその周りを囲っていく。


 そんな中、鳳花は他の三人に見せつけるように刀の切っ先を地面に突き刺した。向けられる視線に頷きを返し、そのまま刀へと神威を流し込む。



「――『山岳(やまだけ)』」



 霊獣の足元で大地が(うごめ)き、せり上がった大地が霊獣の内の一体を宙に放り投げる。


 異変によって霊獣達は散開した。そうして左・右・上へと別れた霊獣らへと他の三人が追撃をかけ、引き離すようにそれぞれを離れた場所へと追いやっていく。


 『は』級とはいえど二等級ともなれば一撃で霊核を削り取るのは難しい。それでも数的には一対一。多少時間がかかりはしたが問題なく討滅は行われた。



「あー、もう終わっちゃいましたか。一足遅かったみたいですね」



 その声がかけられたのは霊獣の消滅を見届けて全員が集まった時だった。接近には気付いていたので振り返ると、青葉を含む三班の討ち手達がぞろぞろとこちらに歩いてきていた。


 砕けた敬語は同じ隊が故だろう。副長は特に咎めることなく近くへと歩み寄った。



「無駄足を踏ませたようで悪かったな。とはいえ、せっかくこうして集まったのだ。共に一息入れるとしよう」



 そう言って副長は懐から水と携帯食を取り出した。それに倣って他の隊員達もそれぞれ岩や木の幹に体を預け、各々が持っていた食料を口に運び始める。


 鳳花も同じように事前に支給を受けていたものを口に運ぶが、他の人ほど肩の力をぬけた訳ではなかった。まだ全ての霊獣の討滅は完了しておらず、今この時も“発生”した霊獣は足元の霊脈に眠っている。そう思えば気を抜けようにも抜けれない。



「あー、早くこの戦い終わらせて一杯やりたいわ。こんな修羅場をくぐり抜けた後なんだから、隊長も銘酒を分けてくれるだろうしな」

「あたしパス。分け前を貰う場合は一緒に飲むのが隊長規則(ルール)でしょ? 隊長の絡み酒に付き合うのなんて一回で十分よ」

「そこはほら、ほどほどに付き合った後に隙を見て退散すればいいじゃん?」

「学習しねえなお前。前に華金(けごん)の奴がそれを企んだ結果、酔っ払った隊長に秒でとっ捕まえられたのを忘れたのか?」

「あの人、酩酊(めいてい)してようがあたし達より練度の高い歩法使ってくるからタチ悪いのよね……」

「耳まで真っ赤になった顔が前触れもなく目と鼻の先に現れるのはもはや残念な恐怖(ホラー)だよな」

「そう言うなお前達。鍛練の面倒を見て貰っていて、いつも一番厄介な霊獣を相手取ってくれてもいるんだ。それらの代償(トレードオフ)だと思え」

「副長がそう言うなら矛を収めますけど、副長はそれでいいんですか? 隊長の被害を一番被っているのは副長でしょうに」

「あの人のあれはもう生態だと思って諦めろ。言って聞くようなら雪子様がとっくのとうに矯正されておられるだろうよ」



 そんな鳳花とは打って変わって、第三隊の討ち手達は鳳花の目の前で談笑していた。いくら第三隊とはいえこれほどの危機的状況は滅多に無いはずなのに、完全には気を抜かないまま、しかし肩の力を抜いて心身を休息させている。


 その光景に鳳花は第三隊全体の練度の高さを思い知る。


 霊獣の討滅には神威ないし人意が欠かせない。最下級の霊獣が相手でも必ず人意は消費される。人意の量は有限であり、不足すれば討滅は出来ない。人意の残量はすなわち体力。回復には食事や休憩がどうしても必要になる。

 霊獣の一体や二体であれば回復に時間を使うまでもないだろう。しかし今回のように霊獣が一度に大量発生した場合、“息切れ”は目に見える危険として立ちはだかる。


 それを避けるには人意を節約しながら戦うことはもちろん、戦いの合間に適度な休息を挟むことも重要だ。簡単に言えば“上手い力の抜き方”を身に付けることが長く戦い続ける秘訣ということになる。

 今の第三隊の振る舞いはその見本とも言えるだろう。まだまだ戦いが続くと分かっているからこそ、戦い続けるために不要な力みを抜いているのだ。


 この場でそれができていないのは鳳花だけ。緊張ぶりは誰の目にも明らかで、付け加えれば目ざとい誰かさんがそんなお上りさんを見逃すはずがない。

 補給が終わった頃合いを見計らって青葉が声をかけてくる。



「見るからに気ぃ張ってますねえお姫様。霊脈を監視している本部が何も言ってこないんですし、万が一の場合でも私達が肉盾になるんですから力を抜いたって良いんですよ?」

「意識せずとも自然体でいられるお前達と違って抜こうと思っても抜けないのですよ。まったく、至らない限りです」

「ほー、そんな調子で最後まで持ちますかね。言っておきますがまだ総数の半分も討滅できていないんですよ?」

「今のところは大丈夫です。支援(サポート)に徹している私は他の方々と比べて消耗も少ないですからね。それにもし最後まで持たなかったとしても、その時は尻尾を巻いて本部に逃げ帰ればいい話です。形だけの心配など不要ですよ、青葉」



 物理的にも心理的にも上からの目線を注いでくる青葉をそのまま見つめ返してやる。青葉は鳳花の体を観察するようにじろじろと見てきていたが、やがて観念するように大きく息を吐いた。



「なーんかイジり甲斐がなくなっちゃいましたねぇお姫様。臣下の身からすればその方が喜ばしいっちゃあ喜ばしいんですが」

「ならばそのまま喜んでおけばいいでしょう。粗探しをしてまで私をここから引き剥がしたいのですかお前は?」

「……ま、最初はそのつもりでしたけどね。副長達の様子を見る限りどうやらその必要もなさそうで。的外れないちゃもんをつけるほど私は落ちぶれちゃいねーですよっと」



 つくづく無礼で不敬な言葉遣いだが、それに対して鳳花が文句を言う前に、



『こちら本部。東区、南の十五・十六号にて新たに『は』級が十五体出現。内一等を六体確認。一班と三班は合同で該当地点に向かってください』



 再び走る通信。副長は代表して承諾の返事をすると、傾聴の姿勢を取っている一同を振り返った。



「諸君、聞いての通り休憩はこれで終わりだ。十秒で準備しろ。早急に目標地点へ移動する」



 承知、とその場に揃った討ち手達は応じ、八秒後には全員が目標地点へと走り出していた。

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