シャドービーストに寄生する虫
数々の襲撃の秘密が明かされる話
「お前、敵をまた殺さなかったみたいだな」
現行派のメンバーが集まるバーで、僕の保護者でもあるビーストキング、王牙が言ってくる。
「なんか問題でもあるの?」
僕の返事に王牙が首を横に振る。
「それには、問題ない。だが、八刃の娘との付き合いは、止めろ。あれは、本当に危険な存在だ」
何度目か解らない言い争いだ。
「何度も言っているけど、僕が誰と付き合おうと関係ないだろ!」
「それで、お前が変るとしたら問題なのだ」
王牙の言葉に僕は、胸を張って言う。
「僕は、ウルフマスター。今までだってこれからだって、変らない!」
「そうか、昔のお前だったら、新進派の奴等を殺さないなんて事は、考えられなかった。八刃の娘の影響じゃないのか?」
王牙の言葉に戸惑いを覚えながらも反論する。
「関係ない。殺すまでもない相手だったからだ!」
王牙が真剣な目で言ってくる。
「その考え方が危険だ。あの化け物連中と同じだぞ」
「五月蝿い! ビーストキングの言うとおりに殺してないんだ、良いだろう!」
僕は、バーを飛び出していた。
翌日、教室で響子がなんら変らない顔で近づいてくる。
「帝美、どうかしたの?」
僕は、席を立ち言う。
「ちょっと話がある。屋上に来てくれるか」
「別に構わないけど」
響子は、あっさり屋上についてきた。
「お前は、どうして俺に殺しをさせない?」
僕の質問に難しそうな顔をする響子。
「難しいね。殺しが悪いと思うけど、普通に戦い相手を負かす事だって同じくらい悪い事なんだって」
「それは、なんだよ。殺しは、ともかく戦いで相手を負かすのの、何が悪いんだよ?」
僕の質問に響子が言う。
「簡単だよ、もしかしたら、その勝負に相手の大切な物や人が賭けられていたら、それを失う事になるよ。それって殺す事より酷い事を相手にする事になる。だからお父さんは、あたしには、戦うより逃げる事を薦めてくるよ」
そんな事は、考えた事も無かった。
「人を殺すと、死の気配がその人にまとわりつくの。帝美には、かなりくっついている。それって見る人が見れば解るんだよ」
響子があっさり言うが、背筋が寒くなった。
「嘘だろ?」
響子が首を横に振る。
「本当。だから、帝美には、これ以上、死をまとって欲しくなかったから止めるのかも」
今まで殺してきた相手の事が脳裏に走る。
響子は、少し悩んだ顔をしてから言う。
「これを見せようかどうか悩んでいたけど、見せておくね」
そう言って数枚のレポートを渡してくる。
「これが何だって言うんだよ」
僕の質問に響子が頬を掻きながら言う。
「あたしも関わる事になるかもってお父さんが、勝手に調べた、帝美の両親の死の真相」
意外すぎる答えに思わず僕は、そのレポートを凝視する。
そしてレポートを床に叩きつける。
「嘘だ! こんなの嘘に決まってる!」
響子は、頷く。
「所詮は、部外者が調べた情報だから信憑性も無い事だと思う。ただね、間違いでこれ以上、死をまとって欲しくない。だから自分で真相を確かめてみたら」
僕は、再びレポートを拾う。
「これは、借りておく」
僕は、そのまま学校をエスケープした。
僕は、両親の墓の前に居た。
「僕は、何を信じれば良いんだろうな」
「俺を信じて、まともに学校に行って欲しいのだがな」
王牙がやって来てそう告げてくる。
僕は、墓の方を向いたまま言う。
「ビーストキング。一つ聞いていいか?」
「何だ、ウルフマスター?」
普通の様子で尋ねて来る王牙に僕は、舌打ちをする。
「何で、シャドービートルの奴等に一族を売ったんだよ?」
苦笑する王牙。
「八刃の情報網は、凄いな。もう俺が裏切り者だと突き止めたのか」
僕の中で言葉に出来ない感情が溢れていた。
「言い訳ぐらいしろよ。僕は、八刃の奴等の調査なんかより、あんたの言葉を信じたいんだ!」
王牙は、冷たい目で言って来た。
「一度芽生えた疑心の心は、決して取り除けない。最後に答えておこう、シャドービートルの奴等は、大金を出してくれたからだ。シャドービーストを操る誇り高き一族なんて言っても、影から生み出した獣を操るだけだ。暗殺くらいにしか使えない。正直、もう一族の事などどうでも良かったんだ」
僕は、睨む。
「それで、下部組織のシャドービートルなんかの思惑にのって、内乱を助長し続けたって言うのかよ!」
「そうだ。お前は、使い勝手が良かったよ。偶に両親の事を言ってやれば、勝手に暴走してくれる」
王牙の目に、僕達を取りまとめていた頃の光は、無い。
いやそんな物は、最初から無かったのだ。
「お前だけは、許さない!」
僕は、地面に血を撒く。
『我が血を引き換えに目覚めよ、シャドービースト『スピアウルフ!』』
槍を装備した狼、スピアウルフを呼び出して、王牙に向わせる。
「まさか、俺に勝てると思ったのか?」
王牙は、血を垂らして呪文を唱える。
『我が血を引き換えに目覚めよ、シャドービースト『キングレオ!』』
王牙の影から、最強といわれる獅子のシャドービースト、キングレオが現れ、スピアウルフを一撃で消滅させる。
『我が血を引き換えに目覚めよ、シャドービースト『スピアウルフ!』』
僕は、連続してスピアウルフを呼び出して、キングレオに向わせる。
「何度やっても同じだ。確かにお前のウルフは、スピードも速く戦闘向きだが、キングレオの圧倒的なパワーの前では、力不足だ」
絶対の自信を持って断言する王牙の言葉通り、スピアウルフは、あっさり倒される。
『我が血を引き換えに目覚めよ、シャドービースト『スピアウルフ!』』
僕は、みたび、スピアウルフを呼び出す。
舌打ちをする王牙。
「下らない真似は、止せ! こんな物が何十体居ようが、俺のキングレオの敵では、無いわ!」
キングレオを大きく前進させる。
僕は、この瞬間を待っていた。
「やれ、カッターウルフ」
事前に地面に潜り込ませておいたカッターウルフが王牙の両太ももを切り裂く。
王牙を襲う激痛が強い集中が必要とされるキングレオが消滅する。
「最初から、正面からやって勝てるとは、思ってないよ」
王牙が諦めた様子で言う。
「俺の負けだ。好きにしろ」
僕は、ゆっくりと近づいた時、王牙が唱える。
『我が血を引き換えに目覚めよ、シャドービースト『リトルレオ!』』
血だまりから小さな獅子、リトルレオが生み出され僕を襲い掛かって来た。
「残念だね。ビーストキング、あんたのお陰で不意打ちには、慣れてるよ」
僕は、さっき呼び出したスピアウルフでリトルレオを串刺しにする。
その時、高笑いを上げる王牙。
「そうか、そうだったのか!」
「何がそうなのよ!」
怒鳴る僕に王牙が憑き物でも落ちた顔で言う。
「俺は、昔、一族の方針に反抗してバトルって何でもありの賭け試合に出た事があった。当時から俺は、一族でも指折りの実力者だったから正直、負ける気は、しなかった。だけどな、奴等、八刃とそれと肩を並べる者達にとっては、俺なんて、雑魚でしか無かったよ。どんなに頑張っても一勝も出来なかった。そして最後の試合、今と同じ不意打ちをかけた。だけどな、相手だった小娘は、あっさりリトルレオを倒した。その時から、俺の中で一族の意味が無くなった。シャドービーストなんて奴等にかかっては、全く無意味な物だってな」
その時の気持ちが僕には、少し解る。
僕の両親を殺したドラゴンユーザーすら相手にしない響子の力に理不尽な物を感じ、自分が無力な気になるのだ。
王牙は、僕を見て言う。
「だけど、違った。無意味だったのは、俺の下らないプライドだったんだ。それをお前が証明してくれた。力の大小なんて意味無く、やり方しだいでは、どうにか出来るって事を。覚悟は、出来ている。お前の両親を殺す原因を作った俺を殺せ」
僕は、拳を握り締めて王牙を殴った。
「僕は、お前を絶対に許さない。だから殺さない。生きて死ぬより辛い目に会わせてやる」
「やっぱり、お前は、八刃の娘の影響を受けている。良い意味でな」
王牙が苦笑する。
次の瞬間、僕が突き飛ばされる。
「何を?」
胸から血を垂らした王牙が言う。
「奴等は、何時も今の立場を覆すチャンスを狙っている。油断するな」
その言葉を最後に倒れいく王牙を見ながら僕は、神経を再び研ぎ澄ます。
そして、王牙に止めを刺した昆虫のシャドービースト、シャドービートルがこっちに向ってくるのを察知する。
「姑息な手が何度も通じると思うな!」
僕がカッターウルフでシャドービートルを瞬殺する。
そのまま襲ってこないのを確認してから僕は、携帯で連絡をとる。
「チーターファイター、さっきの話が当っていた。ビーストキングが、僕との決闘で破れ死んだよ。それと、シャドービートルの奴等が襲ってきたからそっちも気をつけて」
携帯を切る僕。
「えーと、真実は、伏せるの?」
影から現れた響子の言葉に僕が頷く。
「ああ、ビーストキングが格下の筈のシャドービートルに殺されたとなったら格好悪いだろう」
「相手も目の前に上位能力者が居る所為で、何時も格下扱いを受け続け、それを覆そうと必死だったと思うよ」
響子の言葉に僕が苦笑いをする。
「だろうな。だけど、僕は、許さない。僕の両親を殺したドラゴンユーザーも、それを裏から刺激したシャドービートルの奴等も」
響子は、複雑そうな顔をして言う。
「一つだけ言わせて貰うね」
僕は、強い意志を篭めて言う。
「復讐が無意味だなんて言うなよ」
響子が頷き言う。
「あたしは、帝美の友達を止めるつもりが無いから、もしも帝美が本当に危なくなったらあたしが無理やりでも助けに行くからね」
「お前、それって不味いんじゃないのか?」
僕が問うと響子は笑いながら言う。
「意味が無くても復讐するのと一緒だよ。友達を助けるのに不味いかどうかなんか関係ないよ」
僕は、苦笑しながらいう。
「それじゃあ、その友達に頼むんだが、王牙を運ぶのを手伝ってくれるか?」
少しだけいやそうな顔をするが響子は、溜息を吐いて言う。
「今日の服は、高かったんだけど、そんな事を言っている場合でもないよね」
諦めた表情をして僕の反対側に回る。
そして僕は、響子と一緒に王牙を綺麗に出来る場所まで運ぶのであった。




