シャドービーストが駆ける
少しずつ変わっていく帝美の話
響子との学校からの帰り道。
「一つ聞いて良いか?」
僕の言葉に響子が頷く。
「お前等は、何物だ?」
端的な質問に響子があっさり答える。
「八刃だよ。それ以上でもそれ以下でもないって言えばテレビみたいでカッコいいかもしれないね。でも、違うよ。あたし達、八刃は、身内を護る事だけに特化した、組織だって」
本気で変な組織だと思いながら言う。
「それにしては、かなり権力あるみたいじゃ無いか?」
肩を竦める響子。
「お父さんが言うには、八刃は、覇権争いに興味がないってスタンスを取っているから、言いたいこと言えるだけだって。ほら、当人達より、第三者の方が偉そうじゃん。そーゆーのと一緒だよ」
何か凄く俗な風に言っていると思いながら確認する。
「そんなもんなのか?」
そんな時、チーターファイター、牙一が現れる。
「ウルフマスター、まだそんな化け物と付き合ってるのか!」
「チーターファイター、個人的な事まで突っ込まれる覚えは、無いぞ!」
僕が牙一と睨み合って居ると、響子が、口を押さえて笑いを堪えて居た。
「何がおかしいんだよ!」
僕が怒鳴ると、響子が堪え切れ無かったのか、笑いながら言う。
「だって、本名を言い合うのは、駄目だって理屈じゃ解っていても、テレビみたいにコードネームで呼び合うのを直に見ちゃったらね」
言われて見るとかなり恥ずかしい、顔を赤くなる。
「五月蝿い! 第一八刃じゃ違うのか!」
あっさり頷く響子。
「うん。八刃は、家族組織だから、名前で呼び合うのが通例だよ」
舌打ちする牙一。
「人外にまともな感覚を求めるのが間違いだったな!」
そんな牙一の言葉に響子が手を横に振る。
「八刃の場合は、本名を名乗るのは、二つの意味があるの。一つは、相手に対して、自分達が八刃である事を明示する必要があるから。これをしないで戦った場合は、ルール違反と言われるのよね」
僕が思い出しながら呟く。
「そう言えば、前回も名乗って居たな」
響子が頷き続ける。
「もう一つは、自分が何者かを明確にし、誰の身内だと解る様にする。そうする事で、身内を護る事に必死な八刃を敵対する人達としては、敵にしたくない事がはっきりして、向こうから戦いを避けてくれる場合があるの」
「虎の威を借る狐だな」
嘲りを籠めた牙一の言葉にも響子は、平然とした顔をして言う。
「そうだよ。それで安全を護れるんだったらそれで良い。八刃ってプライドが無いもん」
簡単に返されて逆に戸惑う牙一を鼠のシャドービーストが襲う。
咄嗟に避けることも出来なかった牙一が思わず、腕で顔をガードする。
「何、油断してるんだか」
僕に声を掛けられて、まだ襲われていない事に戸惑いながら牙一がガードを外すと、目の前では、僕のナイフウルフが鼠のシャドービーストを切り裂いて居る。
「流石は、ウルフマスター、大した腕前だ」
そういって貧相な体つきの男が現れた。
「貴様、新進派だな!」
牙一の言葉に男が答える。
「はい。私は、マウスコンダクター。ウルフマスターに勝負を挑みに来たのですが、余りにも貴方に隙があったもので思わず」
マウスコンダクターの笑顔に歯軋りをする牙一。
隙がある牙一の方が悪いと思いながら僕が言う。
「良いだろう、相手をしてやる。人が居ない所に行くぞ」
「ウルフマスター! こいつは、俺にやらせろ!」
牙一の言葉に、マウスコンダクターが指を鳴らす。
「丁度良い、ウルフマスターと戦いを望むのは、私の上司。貴方の相手は、私がいたしましょう」
「後悔させてやるぜ!」
牙一が睨む。
マウスコンダクターに案内されて、人気の無い廃ビルに行く僕達。
「ところで、何でお前がここに居るんだ?」
牙一の言葉に響子が答える。
「だって、友達が危険な事をしているんだもん、当然だよ。危なくなったら助ける為よ」
当たり前の事の様に言う響子に思わず苦笑しながら言う。
「こいつは、ギリギリまで手を出さないし、出した時点で僕の負けで良い」
マウスコンダクターが安堵の息を吐く。
「それは、助かります。流石の私の上司も人外の化け物と戦いたくは、ないでしょうから」
頬をかく響子。
そして、廃ビルの中で待っていた、筋肉隆々の男が言う。
「待っていたぞ、ウルフマスター! 俺が、ベアバトラー。お前を倒して、現行派の奴等に現実って奴を教えてやる」
僕は、睨み返して言う。
「その言葉をそっくりそのまま返す!」
そして戦いの火蓋が切っておとされた。
『我が血を引き換えに目覚めよ、シャドービースト『パワードベア』』
最初に動いたのは、ベアバトラー。
奴は、大量の血を落とし、強力な攻撃型の熊のシャドービーストを呼び出した。
『我が血を引き換えに目覚めよ、シャドービースト『ガントレットウルフ』』
僕は、二箇所に血を落とし、二体のガントレットウルフを呼び出す。
「そんな貧弱なシャドービーストで俺のパワードベアに勝てると思うな!」
ベアバトラーの声と同時に攻撃を仕掛けてくるパワードベア。
僕のガントレットウルフが、その攻撃を受け流す。
「シャドービースト同士の戦いにパワーだけで勝てると思うなよ」
ベアバトラーが笑みを浮かべる。
「流石は、現行派のエースだ。だが、圧倒的なパワーは、全てを打ち破ることをしれ!」
凶暴な攻撃力で周りの被害を気にせず、攻撃を続けるパワードベア。
僕は、ガントレットウルフで攻撃を防ぎながら、潜ませたナイフウルフで攻撃しようとしたが、ベアバトラーがパワードベアの直ぐ後ろというポジションに居る為、上手く行かないで居た。
何気なく響子に視線を向けた時、上に視線を向けて居たのに気付いた。
「しまった!」
僕は、慌てて距離をとると、今さっきまで居た場所に天井が落ちてきた。
「物騒な戦法を使いやがる!」
ベアバトラーを見ると、向こうも完全に安全と言う訳でもないらしく、パワードベアに落ちてくる天井の処理をさせている。
その様子を見て、僕が嘲りを籠めて言ってやる。
「ベアバトラーなんて名乗っておきながら、シャドービーストの影に隠れるだけか!」
ベアバトラーが怒鳴る。
「五月蝿い! これも勝つためだ!」
あの怒り方からして、自分でも気にしてやがる。
つくとしたら、そこだな。
チャンスまで余裕があったので、牙一の方を見ると、あきらかに苦戦している。
「鼠相手に、何やってるんだよ」
僕の言葉に牙一が怒鳴り返す。
「直ぐに終る! 行け、スピードチーター!」
シャドービーストの中でも最高速と言われる牙一のスピードチーターは、本物のチーターより高速で動ける。
しかし、そんなスピードチーターもマウスコンダクターを捉えるのに失敗した。
「卑怯者が!」
牙一が怒鳴る。
『これも作戦ですよ』
反響して直接聞こえないマウスコンダクターの声。
さっき、スピードチーターが攻撃したマウスコンダクターもシャドービーストが作ったダミーだろう。
小型シャドービーストを使う奴等は、こういった作戦を良く使う。
しかし僕だったら勝てる。
「チーターファイター、防御に集中してろ。僕がこっちを終らせて後、相手してやるから」
「そんなみっともない事が出来るかよ!」
牙一が強情を張ると、響子が声をかける。
「チーターファイターさん、こんな狭い空間なんだから、一撃必殺なんて狙わないで、数を呼んで一気に攻撃すれば、何処に隠れていても大丈夫だと思うよ」
そうなのだ、下手に探そうとするから苦戦する。
相手の行動範囲を読んで、そこに複数のシャドービーストで攻める。
本体には、有効な方法だ。
「いまからそうするつもりだったんだよ!」
牙一は、そう怒鳴ってから自分の血を撒き散らす。
『我が血を引き換えに目覚めよ、シャドービースト『アタックチーター』』
スピードチーターより小さいが一撃の攻撃力が高いアタックチーターが呼ばれ、無制御の攻撃を開始する。
「こんな攻撃に敗れるとは……」
柱の影で倒れるマウスコンダクター。
「俺にかかればこんなもんだぜ!」
自信たっぷりの宣言だったが、響子のアドバイスが無かったらかなりやばかったんだろうな。
「人の事を気にするとは、大した余裕だな」
ベアバトラーの言葉に僕が答える。
「何、ちょっと待ってただけ。あんたを倒すチャンスをね」
「無駄な事を、そんな物は、無い!」
ベアバトラーが大見得切った時、そのチャンスが来た。
僕は、一気に接近する。
「愚かな、不意を突いたつもりか?」
余裕の笑みを浮かべるベアバトラーに僕は、天井を指差す。
「落ちてくるが、良いのか?」
思わず天井を見るベアバトラーが見たのは、巨大な天井の欠片。
「受け止めろ、パワードベア!」
ベアバトラーの声に応え、パワードベアがそれを受け止める。
「ありがとうよ。お礼だ!」
僕が操るガントレットウルフの一撃がベアバトラーの腹に決まり、壁まで吹き飛ばす。
同時にパワードベアも消えるので僕も大きく避ける。
「お疲れ様」
響子がやってくる。
「何、こんなパワー馬鹿、少しくらい作戦使われたぐらいで負けるかよ」
胸を張って答える僕に響子が言う。
「だったら、この壊れかけている廃ビルからどうやって脱出するかも考えてあるんだよね?」
固まる僕の足元が床に皹が入る。
「考えてなかったんだ?」
「悪かったな! それより、逃げるぞ!」
駆け出そうとする僕達を止めて響子が言う。
「もう戦い終わってるから、『影走』」
結局、僕達は、響子の技で廃ビルから安全に脱出した。
「次は、負けないぞ!」
そんな捨て台詞を残し、マウスコンダクターを抱えたベアバトラーが逃げていく。
「逃がして良かったのか?」
牙一の言葉に僕は、肩を竦める。
「結局の所、助けられたんだから、響子の意思を優先するしかないだろう」
「無駄な殺しは、駄目。元々は、仲間なんだから何時か解り合えるよ」
響子の言葉だが、僕は、頷けない。
「とにかく、これで貸し借りなしだからな!」
そう言い捨てて牙一も去っていく。
「ところで、うちに来ない? お母さんに帝美の事をはなしたら、夕食に招待したらって言ってくれたの」
「そこまで世話になれない」
僕がそう断ろうとすると響子が笑顔で言う。
「今夜の夕食は、ステーキだよ」
一人暮らしで何かと物入りの僕の足が止まった事を攻められる人間は、居ないだろう。
「お父さんが、ヤヤさんへの贈答品の松坂牛を分けて貰ったの」
「本当なのか?」
信じられない思いで確認すると響子が言う。
「ヤヤさんってそっちの方の企業の大株主だから、かなり上等らしいよ」
「何、ゆっくりしてる! 急ぐぞ!」
僕は、響子の手を引っ張り響子の家に向かうのであった。




