シャドービーストの世界
帝美と響子がお互いの秘密をしる話
僕は、影山帝美。
支配者に成れと親がつけてくれた名前。
支配とは、僕の一族に伝わる、影に住まう獣、シャドービーストを支配する事を意味する。
そんな親ももう居ない。
シャドービーストを操る一族内の内乱で死んだ。
そして、僕は、今も戦っている。
僕は、地面の自分の影に血を垂らす。
『我が血を引き換えに目覚めよ、シャドービースト『スピアウルフ!』』
僕の影が立体に浮かび上がり、槍を装備した狼に成る。
その間にも僕に襲い掛かってきていた剣を装備したような黒い犬『ソードドッグ』を指差して命令する。
「奴等を滅ぼせ『スピアウルフ』」
僕の命令に答え、次々とソードドッグをその槍で突き裂いていくスピアウルフ。
そして、ソードドッグを操って居た男が現れる。
「流石は、現行派のエース、ウルフマスターだけは、あるな。しかし、これで終わりだ」
男は、自分の手首を切り裂き、大量の血を影に含ませる。
『我が血を引き換えに目覚めよ、シャドービースト『タンクドッグ!』』
男の影から現れたのは、犬とは、名ばかりの小さくした戦車の形をした化け物だった。
「これこそ、我が最強のシャドービーストだ! あの娘を殺せ『タンクドッグ!』」
連続する影の砲弾の着弾、それだけで僕のスピアウルフは、消滅する。
「さあ、これで終わりだ!」
勝ちを確信した男に僕は、哀れみをもって告げる。
「シャドービーストに一番必要なのは、精密さだよ。その男の首を斬れ『ナイフウルフ』」
「え……」
呆然とした顔で僕が事前に作っておいたナイフウルフの一撃を首に受けて絶命する男。
男の消滅と同時に消えるタンクドッグ。
僕は、壁に寄りかかりながら言う。
「明日も学校だって言うのに、疲れさせるんじゃない」
僕は、疲れた体に鞭を打って自分の部屋に戻るのであった。
僕は、一応、私立の中学に所属している。
目的は、無論、誤魔化しの為だ。
世間は、マスコミが言うほど無関心では、無い。
一応でも中学に行っていないと面倒な事になるからだ。
昨日の疲れもあるので僕が机に突っ伏して寝ていると、毎度お騒がせのクラスメイトがやってくる。
「今日もお疲れだね。これ食べる?」
そういってそのクラスメイト、谷走響子が差し出す飴を僕は、素直に舐める。
「ありがとよ」
「どうしまして、あたしのお父さんも疲れた時は、これを舐めてるんだ」
楽しそうにいう響子。
僕が住む闇の世界とは、縁が無さそうな明るい笑顔。
しかし、この飴は、何故かよく効く。
世の中のサラリーマンは、意外と僕達並に疲れる仕事をしているのかもしれない。
「……でね、お父さんって酷いんだよ、折角香港に行ったのに、一度も一緒に遊びに行けなかったんだから」
僕は、響子の微笑ましい愚痴を聞き流しながら飴を舐め続けた。
放課後、僕は、シャドービーストを操る仲間が集まるバーに行く。
「あまりここには、来るなと言っておいたはずだが」
そう言ったのは、僕の保護者代わりでもあり、ここに集まるメンバーの指導者、影山王牙、ビーストキングが言って来たので、僕は、昨夜の事を説明する。
すると、仲間の一人、まだ十代後半の血気盛んな影山牙一、チーターファイターが怒鳴る。
「新進派の野郎! ビーストキング、我慢もここまでだぜ! 奴等を殲滅してやろうぜ!」
それに対して王牙が首を横に振る。
「何度も言っているだろう、元々俺達は、一つの組織だ。それが潰しあいになって喜ぶのは、他の組織だけだ。上の人間も何とか新進派の連中を宥め様と色々と動いている。今は、堪える時だ」
「何時まで待てば良いんだよ! ウルフマスターが襲われたのは、これで三回目だ! 他の名うての連中も何人もやられているんだぞ!」
牙一の言葉に何人もの仲間が賛同する。
その中でも一番強く賛同したのは、今まで一番襲撃遭遇率が高かった影山牙双、バッドアサシンだった。
「俺は、何度もパートナーを殺されてる。仲間をもうこれ以上失いたくない。一気に総力戦に向かうべきだ」
その切なる思いには、僕も同意だ。
しかし王牙は、認めない。
「駄目だ。とにかく暫くは、単独で動くな。お前もだぞ、ウルフマスター」
「僕は、大丈夫。一人でなんとかする」
その答えに王牙が睨む。
「馬鹿を言うな、お前は、確かにエースだ。しかし、まだ一四の小娘にどれだけの事が出来る」
僕は、睨み返す。
「何だってやってやるよ」
そのまま僕は、バーを出た。
次の日の放課後、何故か響子と一緒に買い物をしていた。
「ねえ帝美、こっちの服って可愛いよね」
「好きにしろよ」
僕は、ため息を吐くと響子は、近づいて来て言う。
「駄目だよ、今日は、帝美の服を買いに来たんだからね」
そうなのだ、今度、クラスで簡単なパーティーをやる事になり、半ば全員参加になった。
そこで問題になったのは、僕に着て行くようなお洒落な服が無いことだった。
適当な服を着ていくと言う僕を響子が買い物に引っ張ってきたのだ。
「帝美は、可愛いからこんな服も似合うと思うよ」
嬉しそうにいくつもの服を試着させてくる響子。
「楽しかった」
本当に楽しそうに言う響子。
そして僕は、手にある紙袋に激しい違和感を覚えた。
「なあ、響子。お前は、何かと戦った事あるか?」
それに対して、響子は、笑顔で答える。
「あるよ。試験とも戦っているし、体重とも戦ってるよ」
女子中学生らしい答えに僕は、肩を落とす。
やはり、僕と響子では、住む世界が違うらしい。
「でも、お父さんが良く言っている。戦うのに大切なのは、戦おうとする気持ちだって。それが無い人は、戦っては、いけない。逃げなさいって」
「戦う気持ちは、ある。でも戦えないんだ!」
思わず怒鳴ってしまう。
それを見て響子が言う。
「複雑な事情があるんだ。そういう場合は、じっくりと準備をしておくのが良いんだって、いざ戦う時に困らない様に」
何気にこっちの事を理解してる風な回答だな。
しかし、何か勘違いしてるだろう。
そして、僕達が、わき道に入った時、数人の男に囲まれた。
「ウルフマスターだな、大人しく捕まって貰えるか? そうすれば連れには、手を出さない」
僕は、舌打ちをして響子を見る。
「新進派の連中だな! こいつに手を出したら、殺すぞ!」
「駄目だよ、簡単に殺すなんて言ったら」
響子が状況を察知していないのか、普通に言って来る。
「馬鹿な事を言ってないで黙ってろ!」
それに対して響子が少し考えてから言う。
「これって望まない戦いだよね。あっちから逃げよう。付いてきて」
響子は、男達に塞がれた元来た道に向かって走る。
「馬鹿、そいつ等は、女子供だって容赦しないぞ!」
僕も慌てて後を追うが、間に合わない、響子が男達の間合いに入る。
「度胸は、認めてやるが、駄目だぜ!」
そういって、男は、ナイフを振り上げた。
そこからが僕の予想と違った。
響子の肘が男の腹に決まるとそれだけで吹っ飛ぶ。
そのまま迫ってくる男達を大また開きで蹴り倒す響子。
「急いで!」
僕は、驚きながらも響子の後に続いた。
完全に引き離したのを確認してから足を止めて息を整える僕。
「大丈夫?」
息一つ切らさず響子が聞いてくる。
「お前、格闘技でもやっているのか?」
響子は笑顔で答える。
「さっきのは、単なる護身術みたいな物。一応戦う技は、お父さんから教わってるけど、練習以外では、使ってない」
僕は、眉を顰める。
「お前の父親って何者だ?」
響子が口を膨らませる。
「酷い! 何度も言っているのに」
そういえば、何度か聞いた事があった。
「確か、どっかの学校の理事長に仕える執事だっけ?」
響子が頷く。
「そう。ご主人を護る為、執事には、ある程度の戦闘能力が必要だとお父さんは、言ってる」
「ある程度な。まあいい、とにかくここから離れろ。後は、僕が一人でかたづける」
それに対して、響子が困った顔をする。
「それは、ちょっと嫌だな。帝美は、これから危険な事をするんでしょ?」
僕は、舌打ちしながら言う。
「五月蝿い、お前に関係ないことだ!」
響子は、平然と言ってきた。
「今関係が出来たよ。クラスメイトが明日から居なくなったらあたし嫌だよ」
「馬鹿か、死ぬかもしれないんだぞ!」
僕が掴みかかるとその手をあっさり外して響子が言う。
「安全なだけの生き方が良いなんて思えない。自分が何か出来るんだったら何かする。それが友達だよ」
僕は、言葉を無くす。
そんな時、携帯が鳴ったので出る。
『ウルフマスターか? 今何処にいるんだ?』
牙双からだ。
「今、新進派の奴に追われている。クラスメイトが巻き込まれているから、応援をお願い」
少しの沈黙の後、牙双が言う。
『驚いた、お前が応援を頼むなんてな。直ぐに行くから、これから指示をする場所に逃げろ』
僕は、牙双の指示に従うことにした。
「バッドアサシン、遅い!」
ようやく来た牙双に僕が怒鳴ると、牙双は、頭を掻きながら言う。
「すまない。それじゃあ、逃げようこっちだ」
そういって歩き出した牙双の後に続こうとした時、響子が僕の腕を掴む。
「帝美、その人、さっきの囲んできた人の仲間だよ」
牙双が、振り返って言う。
「いきなり何を言うんだ、俺は、新進派の仲間じゃ無い」
僕も頷く。
「そうだ、奴は、何度も襲われていて一緒に居た仲間を殺されてるんだぞ」
響子が小さくため息を吐く。
「帝美やその仲間の人って人を疑わな過ぎ。普通に考えてそれって不自然だよ、何度も襲われてその人だけが助かるなんて」
響子に言われて始めて不自然さに気付いた。
「確かに、変な話だけど、怪我もしていたから……」
苛立った顔をして牙双が言う。
「ウルフマスターそんな何も知らないガキと仲間の俺、どっちを信じるんだ!」
すると響子が指をさし笑う。
「この人、面白い。まるでテレビの典型的な裏切り者の台詞を言っているよ」
僕は、牙双を見て言う。
「僕が襲われていることをビーストキングには、報告したか?」
牙双は、頷く。
「当然だろう」
僕は、携帯を取り出す。
「確認しても大丈夫だよな?」
牙双は、慌てて言う。
「今は、そんな事をしている時間は、無い筈だぞ!」
「連絡しないで動くほうが危険だ」
僕がアドレス帳を開いた時、影の蝙蝠が襲ってきた。
「何で裏切った!」
僕は、飛びのき睨みつける。
牙双が吐き捨てるように言う。
「何時までも現行派のやり方が通じると思うな! 新進派のやり方こそ、我等一族を更なる反映に導く方法だ!」
僕は、指先を噛み切り言う。
「言いたい事は、それだけか?」
血を影に落とす。
『我が血を引き換えに目覚めよ、シャドービースト『スピアウルフ』』
生み出したスピアウルフに僕は、命令を下す。
「奴を倒せ、スピアウルフ」
それに対して牙双は、笑みを浮かべて言う。
「そいつを止めろ! さもないと大切なお友達が死ぬぞ!」
牙双の言葉に僕が振り返ると、響子にあいつの蝙蝠のシャドービーストが襲い掛かろうとしていた。
「多少は、使えるみたいだが、影の存在、シャドービーストに物理攻撃は、通じないぞ!」
「響子!」
僕が叫んだ時、響子はあっさりと蝙蝠のシャドービーストを殴り倒した。
「へ……」
自分でも間の抜けた顔していたと思う。
それは、牙双も一緒だったからだ。
「こういった奴って幽霊と一緒で気を籠めた攻撃だったら通じるんだよ。知らなかった?」
常識みたいに言って来る響子だった。
とにかく、これで奴のシャドービーストも居なくなった。
「覚悟は、いいな!」
僕の意思に答え、スピアウルフが牙双に迫る。
シャドービーストを失って防ぐ手段を失った牙双は、情けない顔をして両手で頭を庇うしか出来なかった。
『影球』
その声と共にスピアウルフの前に黒い球体が表れてスピアウルフの牙を防いだ。
「だから、殺しは、駄目だって」
響子がそういってスピアウルフに近づき言う。
「大人しくしててね」
すると僕の命令しか聞かない筈のスピアウルフの動きが止まった。
「何で邪魔をする! そいつは、仲間の仇何だぞ!」
僕の言葉に響子が言う。
「理由は、二つ、人殺しをさせたくないのとこいつは、普通に考え、生かして情報を収集しないといけないから」
「残念だが、そうは、させない。お前達には、ここで死んでもらう!」
その声は、さっきの男達だった。
それも、今回は、シャドービーストが出ている。
そして、奥に居たドラゴンのシャドービーストを持つ男は、知っている。
「ドラゴンユーザー!」
こいつこそ、僕の両親を殺した新進派のリーダーだ。
牙双は、そいつ等の所に駆け寄る。
「助かりました!」
そして、こっちを向いて言う。
「お前達もここでお終いだ!」
その瞬間、牙双がドラゴンに肩を食われる。
激痛にのた打ち回りながら牙双が言う。
「どうして、仲間の俺を!」
ドラゴンユーザーは、苦笑して言う。
「一族の新しい道に貴様の様な足手纏いは、要らないのだよ。食い尽くせ、『イートドラゴン』」
そしてそのドラゴンのシャドービースト、イートドラゴンは、牙双を食べてしまう。
それを見て響子は口を押さえて文句を言う。
「酷い! 何も殺さなくっても良かったじゃん!」
「無駄だ、奴等に倫理感なんてある訳無い!」
僕がそういって前に出る。
「助かった。でもこれからは、僕一人で戦う」
それを聞いて響子が笑う。
「そんな武者震いをしていっても説得力ないよ」
僕は、顔を真赤にして言う。
「五月蝿い。お前は、多少は、出来るみたいだが、これ以上は、駄目だ」
しかし、響子は、ドラゴンユーザーを見て言う。
「ちゃんと聞いておいてね。あたしは、八刃の一つ、谷走の本家の娘、響子。その名前を知っても下がるつもりは、無い?」
その言葉にドラゴンユーザーが驚いた顔をする。
「まさか、人外八刃、それも我等の天敵と言われた谷走の本家と会えるとは、幸運だ。ここで、我等の力が八刃にも通じると証明してやろう」
僕は、舌打ちする。
「なんか知らないが、あいつ等には、お前のハッタリも通じない。だから下がれ」
その時、携帯が鳴った。
『そっちにバッドアサシンンが行っていないか!』
王牙だ。
「今さっきに、ドラゴンユーザーに殺された。奴は、僕達を裏切ってたんだ」
僕の答えに驚きもせず直ぐ返答が来た。
『前から、疑いがあった。それより、その様子だと、奴等と交戦中なのだな。お前なら逃げられるだろう。出来るだけ交戦は、避けて逃げろ。今から応援に行く』
この段階になっても逃げ腰だ。
「それ所じゃ無い。僕のクラスメイト、谷走響子って子が巻き込まれてるんだ!」
意外にもその言葉に王牙が激しく反応した。
『谷走の人間が居るのか! 分家だとしても大変だぞ。間違っても戦うな!』
「本家の人間だと言っていたぞ」
投げやりに返すと王牙が怒鳴る。
『最悪だ、お前だけでも逃げろ。それに巻き込まれればただでは、すまないぞ!』
「響子をほって逃げられるか!」
僕は、そういって携帯をきった。
「電話は、終ったか。それでは、決着をつけよう」
ドラゴンユーザーがそういって攻撃指示を出そうとした瞬間、響子が地面に手を付ける。
『影操』
その瞬間、全ての影が、持ち主から離れた。
同時に、シャドービーストが消えていく。
「やっぱり、本人の影が無くなればそれでお終いなんだ」
響子の言葉に顔を引きつらせるドラゴンユーザー。
「馬鹿な、どうなってるんだ!」
必死に自分の影に血を垂らすが、影が血をよけていく。
「まだやる?」
響子の言葉に逃げていく新進派の連中。
「今回の一件は、正式に八刃に抗議させてもらいます」
王牙が来た早々、響子にそう告げる。
「あたしは、一応忠告したんだよ、それでも力試しだって、そっちが仕掛けてきたんでしょ」
不服そうな顔をして言う響子に王牙は、折れない。
「ここで言い争うつもりは、ありません。ウルフマスター行くぞ!」
僕は、どうしようか悩んでいると響子が言う。
「行っていいよ。その代わり、パーティーには、ちゃんと出てね。さもないと、あたしが迎えに行くからね」
その言葉に王牙が震えたのが見えた。
アジトに向かう中、王牙が言った。
「八刃は、人同士の争いには、不干渉だ。そうでなければ、この世界など等の昔に奴等の思うとおりになっている」
僕は、王牙を見ながら言う。
「八刃って何なんですか?」
王牙は、複雑な顔をして言う。
「人の外にある、神や魔王にすら抗う者達。あれは、間違いなく人以外の生き物だ。特に谷走は、影を自在に操る、俺達の天敵だ、二度と近づくな」
黙る僕。
こうして、僕は、響子の正体を知る事になった。
王牙には、ああいわれたが、響子との付き合いは、続き、色々とトラブルを生むのだが、それは、また別の機会に話そう。
今は、パーティーに一緒に行って、響子は、響子であり、僕との関係は、変わらないという事を確信した事だけは、言って置こう。