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終わらない。
最初の記録は、あまりにも些細だった。
「子どもが、変な言葉を覚えた」
それだけだ。
どこにでもある話だった。
空想か、聞き間違いか、夢の残滓か。
誰も気に留めなかった。
次に記録されたのは、夢だ。
複数の人間が、同じ内容を語った。
黒い場所。
崩れ続ける何か。
そして――
「終わらない」
という感覚。
言葉ではない。
理解だけが残る夢。
ある老兵は、戦場で致命傷を負った。
確実に死んだはずだった。
だが数刻後、彼は起き上がった。
「……まだだ」
そう呟いて。
傷は塞がっていない。
だが“死んでいない”。
彼は三日後、自ら首を落とした。
それでも――
「終わらなかった」
記録は、徐々に増えていく。
だがすべては、個別の異常として処理された。
関連性はないとされた。
そう判断した方が、都合がよかったからだ。
ある学者だけが、それを否定した。
彼はすべての記録を集め、
一つの仮説を立てた。
「これは侵食ではない」
周囲は笑った。
では何だ、と問われて、
彼は答えた。
「すでに、つながっている」
理解されなかった。
当然だ。
証明できない。
実感もない。
ただの空論にすぎない。
だが彼は、最後にこう記した。
「もしこれが正しいなら」
「我々はすでに“内側”にいる」
その数日後、
彼の記録は、途中で終わっている。
最後の一文は、かすれていた。
「終わらな――」




