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リヴェンジャーズ ~奪われし者たちの復讐歌~  作者: 我楽娯兵
初めての復讐
20/26

果たされた姉への鎮魂

「──変身!」


 僕はスイッチを押して、男子ならだれでも思うであろう変身ヒーローへの夢を叶えようとしていた。

 しかしその実態は見るもおぞましい、復讐と言う原動力に突き動かされている。

 セルドライバーが僕の声に反応し、明滅して答える。


『──Crime・Judgment──』


 認証の音声が鳴り、やにわに僕の体に激痛が襲う。

 ベルトの内側より飛び出た鋭利な刃物が僕の腹部を突き破り、稼働して割腹する。

 鮮血が僕の腹より噴き出て、真っ赤な驟雨が目の前を染め上げ、僕の視界は狂的な輝きを帯び光り輝いた。

 それを理解するまでの時間が掛かった、と言うより教授に説明されるまで僕はベルトに腹を裂かれると言う事を理解することはなかった。


「ガッ……ああああああああああ!」


 痛みで声を上げて、コンテナの迷路に反響する。

 僕の声が、徐々に、徐々にその色を変えていた。痛みでの苦悶の声より歓喜に震える咆哮へと。

 赤々とセルドライバーのライトが輝き、赤黒い管が僕の全身を虫の繭のように包み込んで変身(メタモルフォーゼ)へと僕を変化させてゆく。

 体中が熱い、熱を帯び過ぎて火がついてもおかしくないほどに熱く白熱してゆく。

 皮膚が解けてゆくようだ。違う、実際に溶けている。

 体をくまなく覆うこの赤黒い管の中で僕の体は解けて再構成されている。ベルトの内側より流れ込んでくる滾るような衝動が全身を駆け抜けて、僕の頭をどうにかしてしまいそうだった。


『ああ? セルドライバー? なんであるんだ!』


 アームが理不尽に対して吼えるように叫ぶが、理不尽ではない。

 僕たちが汗水たらして、血反吐を吐いて用意したのだ。手練手管ありとあらゆる手段を講じて、作り上げた秘密兵器。

 解れるように僕を覆う管はセルドライバーへと再収納されて僕は再び悪魔へと姿を変えた。

 全身の皮膚を剥がれたような赤々とした筋線維が露出して、腹はぽっかりと臓物が消え失せ伽藍洞。

 顔は大きく変わって、骨が骨格そのものを変化させ、絵画の世界から現れた死神や悪魔の顔を形どっていた。


『アーム、お前は、この僕が裁く』


『やれよ、悪魔小僧──』


 余裕たっぷりに歩いて僕の前へとアームが向かってくる。僕も、それに応じるようにアームへと向かい歩いてゆく。

 ヒーローが世間に現れて初であろう、変身した者同士がこうしてぶつかり合うと言う事は。

 そんな風景にジェフリーもカルロも、ライスボール教授ですら馬鹿丸出しの顔で僕を見守っていた。

 安心しろ、この男は僕が葬ってやる。

 僕も、アームも双方の拳がお互いの体に届く距離まで届いて、対峙して僕たちは立ち止まった。


『…………』


『…………』


 僕らとも変身して姿もまともではない。表情も一切読み取れない。

 しかし、僕から見てもアームの瞳に映る感情は読み取れる。

 ──殺してやる。

 そう見てわかる。そして僕自身も客観的に考えて分かる。この男を殺したい。

 呼吸が重なり合い、殺意も共に重なったとき僕たちはその衝動を互いにぶつけていた。

 僕とアームの拳が交差して互いの顔へと吸い込まれる。

 アームの顔へ僕の拳が叩き込まれるが、強固な性質を見せるセルナノメタルのせいで僕の拳が砕けて鮮血が舞った。

 対してアームの拳は僕の顎を的確に打ち抜き下顎が吹き飛んだが、僕は心の底で笑った。

 痛みなどなかった。あったのは快感だった。

 吹き飛んだ下顎に細胞が泡のように寄り集まり再形成してゆく。

 これが僕の体と教授の作ったセルナノメタルが織りなす特性だった。

 超再生。人知を超えた治癒能力だ。


『悪魔にはお似合いの能力だな』


『そうりゃどうも──!』


 拳同士の応酬。僕もアームも一歩も譲らずに殴り合い続ける。

 はた目から見ればきっと僕の方が不利に見えるだろう。何せ全身から血を拭き散らしているのだから。

 しかしだ、それも的外れな見解だ。

 拳が硬くなっている、比喩的な意味ではなく物理的に。

 殴りつけられた箇所も、徐々に、ゆっくりと修復と共に強固になってゆく。

 この体の特性を僕は理解し始めている。この体は『体の特徴』を顕著に表したような特徴をしている。

 人体は骨折をした場合、そこをより強固に修復して再度その箇所を破損しないようにする。その特性を顕著に、明瞭に、歴然と、その特性を反映している。

 度を越して硬いアームのセルナノメタルの一撃も防ぎきるほど、壊れてしまうほどの力で殴りつけても壊れないほどに。

 硬く、固く、強固に、頑強な強さを強かに獲得した。

 アームの拳をかいくぐるようにクロスカウンターを決めた時、この殴り合いで初めてアームの体躯が揺らめいた。

 踏ん張るように体を低くしたアームに追い打ちを掛けようと拳を振り上げた時、爆音がアームの拳から炸裂した。

 意識が点滅して、何が起こったのか理解できなかった。

 アームとかなりの距離が開いている、そして僕はなぜかパイナップルの缶詰を格納したコンテナに突っ込んで、甘い汁に塗れていた。


『ッシュ──……』


 拳を突き出して、僕を睨みつけるアームの白銀の甲冑姿、その口元より夜の薄暗がりに白い蒸気を吐き出した。

 ズキズキと胸板が痛んだ。

 それもその筈で胸板はがっぽりと大穴が開いたように陥没している。

 あれだけ殴られて頑丈になった体でも穴が開いていると言う事は、そしてこれだけの距離が開いていると言う事は──。


「ブレイク・メタホリズムだ! アームの必殺技だ!」


 教授が必死で叫んで教えてくれる。ブレイク・メタホリズム? 。

 意味はよく分からなかったが、必殺技であると言う事だけは理解できた。

 理解できたが、何をされたのかが分からなかった。何故こんなに負傷したのかが。

 思考を速めて必死でそのこうなった状況の要素を探し出して、僕の脳味噌は解析する。


『──マッハパンチか』


 あの一瞬、アームの体勢が崩れ追い打ちを掛けようとしたとき、反撃の一撃の拳が爆音を発したのはソニックブームによるものだったのだ。今迄の硬さとボクサー並みのパンチに戦闘機の速度がプラスされただけだ。


「あまり攻撃を受けるな! 細胞修復にもセルドライバーに内蔵されたセルナノメタルが消費される! 攻撃を受けづ攻撃しろ!」


 無茶なことをいう教授に僕は悪魔の顔を綻ばせて、親指を立てて答えた。

 分かっている。でも、この気分の良さは彼らには計り知れないだろう。


『ああ、気分がいい……。なあ、アーム、気分がいいな』


『……そうだな。怪物、初めての相手だよ。──お前のようなのは!』


 一息に踏み込んで一足飛びで僕との距離を縮めるアームのその拳。爆音が再度響き渡る。


『──嘘だろ』


 しかし、その拳。アームのブレイク・メタホリズムを紙一重に避けていた僕は、狂人の足取りでコンテナから躍り出て天を仰いでいた。


『クソが!』


 何度も、何度も、何度も何度も何度も。

 拳が爆ぜ、目にも留まらぬ速度の拳を放つアームであったが僕には当たらなかった。


『どうなってやがる。何で当たらない!』


 罵声を吐いて僕に言うアームは今にも泣きそうな子供のような声色であった。

 これではあまりにも可哀想だ。今の僕はものすごく気分がいいし教えるのもやぶさかではない。


『見えるからだよ』


『あ!?』


『見えるんだよ。アンタの拳は、もう俺には見える』


 アームへと見えるように僕は目を見開いて見せた。

 それが見えたのだろう、驚愕したように後ずさったアームは今にもへたり込みそうな勢いでその威勢のいい雰囲気が消え失せた。

 本当に瞬く間であった。この体を理解して、発展させてみてみれば意図も容易く、拍子抜けしてしまうほど呆気なかった。

 僕の目はもう二つではない。この例えは部位的なことを言うのなら正確ではない。

 瞳の中、その眼球の構造を変化させた意味である。

 僕の眼球は今──複眼だ。

 片目を複眼化させ、アームのマッハに達する拳を見切ることは容易く、スローモーションでも見ているような感覚だった。

 鈍重な拳を避けることほど簡単なことはないだろう。僕は大声で高らかにアームの目の前で笑って見せた。


『化け物が!』


 拳をふりかぶって殴りかかろうとするが、ガックと膝をついてしまうアーム。

 全身から蒸気を噴き上げて、力が入っていない様子であった。

 もう余興もお終い。時間切れだ。僕のではない──アームの。

 今迄に中途半端な変身でセルナノメタルを消費し続け、そしてダメ押しにブレイク・メタホリズムの連発でセルドライバー内のセルナノメタルは底を突き始めたのだ。

 今の姿を維持している事だけでようやくなのだろう。こうなればもう好きなようにできる。

 僕にセルドライバーの制約があるのならば、ヒーローにも制約があってもおかしくない、その予想が外れなかったのは僕の運が良かっただけだろうが、それでいい。


『終わらせようアーム!』


 僕は両手を広げて、沸き上がる力を外へと解放した。

 全身から伸びる筋線維が周囲のコンテナに張り付き、その外壁をはぎ取って僕の体へと集約させる。

 感覚的に出来るかもしれないと安直な発想でやってみたが、どういうことかこれが出来てしまうのだ。

 まさに神業、そして僕の強運の賜物。

 コンテナの外壁は鉄製、その鉄を体内で分子的に分解して再構築する。

 筋線維の一本がアームに絡みついて締め上がる。もう体も満足に動かせないようでピクリとも藻掻かないアームを僕は止めを刺そう。


『あばよ。アーム・クランチ。お前は死刑、死刑、死刑だ! 串刺しの刑! 執行だ!』


 僕は叫んで、体内で練り上げた鉄を構造的にアームの装皮も超える硬度を持つ杭へと変えて幾本も発射した。

 アームの瞳に映った漆黒の杭たちを認識した時にはアームは体中を杭で貫かれ、絶命していた。

 その様子に、カルロもライスボール教授も、あれだけヒーローを殺すことに固執していたジェフリーも声を失っていた。

 だが僕は全力で笑って、串刺しになったアームへと飛び寄って、体に刺さった杭を握り込んでその死体を引き裂いた。


『アーハハハハハッ! 殺した殺した! ヒーローをぶち殺してやった! GAAAAAAAAAAAAAA!』


 港に木霊する悪魔の、僕の声は地獄のそこより響く声。

 姉さん僕はやりました。姉さんの復讐を、うかばれない復讐を! 。

毎日投稿が疲れたので一週間投稿に変更します。

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