第十四話 ー邂逅ー
ヨルムンガンド頭領の討伐を終え、エルンストの村へと戻って来たテツとネーベル。日は傾き始め夜になろうとしていた。戻った直後、村人の1人がテツに駆け寄ってきた。
「なあ、テツさん、エルンストさんやフラムちゃん達を見なかったか?」
「いや、一緒ではないですが……」
「なんてこった! 馬車を用意してほしいと言ってたから準備をしたんだが皆いなくなっちまったんだ!」
彼は少し怒っているような口調で言った。
「何も言わずにいなくなってしまったのですか?」
テツが村人に尋ねる。
「そうだ、いきなり皆どっかに行っちまってな。でもおかしいな、あの真面目な人たちが何も言わずに去るなんて考え難いがね……」
「……まさかあの女」
次の瞬間、テツは眩い光に包まれその場から消え去ってしまう。一瞬の出来事であった。
※ ※ ※
「ご苦労様」
ノルンがテツに声を掛けた。彼女は切り株に腰掛けて相変わらず煙管を吸っている。再び移動させられたことにテツが気付くのには時間は掛からなかった。
連れてこられたのは広大な草原で、中央にはエルフの森の木を遥かに上回る大樹が根を張っていた。大樹の周りには透き通った大きな泉がそれを囲む様に湧いており、その畔に石造りの小さな家が1軒建っていた。
また、先程まで暗くなりかけていたはずの空は青く澄み渡り、日の光が泉に反射してキラキラと輝いている。
「さて、色々と教えてもらおうか」
「あら、動じないのね」
「もう慣れた。それであんたは何者だ、何故俺達がエルフを助けようとしているのを知っていた? フラム達はどこだ?」
テツはノルンに尋ねた。彼女は微笑んで問いに答える。
「はいはい、じゃあ1つずつ答えていくわね。まずは私が何者かについて。あなた、これに見覚えは?」
そう言ってノルンはテツに左の手の平を見せる。すると、彼女の手に紋章が光を放って浮かび上がる。テツはそれを見て目を丸くした。
「まさか……」
「そう、あの球体を作ったのは私。私が貴方を呼び出したの。ちなみにその時に言語解読の魔術を掛けたわ、しかも永続的に続くように。大変だったのよ~?」
得意気に言う彼女は煙管を吸って続ける。
「私の名はノルン、預言者って呼ばれてるわね。でもちょっと違う、私にはもう全てが“見えている”の」
「つまり、エルフの件も知っていたのか」
テツの問いに頷くノルン。続けてテツは質問した。
「なら何故襲われる前に知らせなかった?」
「あのねぇ、私も暇じゃないのよ? 結果的に貴方が助けてエルフ達は壊滅を免れた、それで良いじゃない」
「それも“見えていた”んだな?」
ノルンは問いに答えず微笑んだ。彼女は煙管をしまい、立ち上がってテツに近づく。
「私の事とエルフの事、これで2つ答えたわね」
「なら追加だ、俺を呼び出した目的は?」
テツは彼女を警戒していた。
「欲張りね、特別よ?」
ノルンは振り返って再び切り株に色っぽく座り、テツと向き合って真剣な顔で話し始める。
「この世界は滅びる、そう遠くない未来の話よ。でもね、十数年前に別の未来が見えてきたの。それは破滅を免れた世界、その命運を左右するのは異界の人間」
再び煙管を取り出して吸い始めるノルン。
「それで私は貴方を選んだ。適当に選んだ訳じゃないわ、鍛錬で蓄えたその強さと時折見せる非情さ、ちょっと甘いのは予想外だったけどこの人間なら出来ると思って選んだのよ」
「そっちの一方的な都合か。全く、傍迷惑なこった」
テツが不機嫌そうに返すと、ノルンは妖しい笑みを浮かべた。
「もし貴方が“運命”を信じるのなら、貴方の望みはこの世界で叶うかもしれないわよ?」
「……あんた、何を」
「さあ最後よ、フラムちゃん達の居場所まで連れていくわ。はい、これ」
ノルンは言葉を遮り、テツにいつの間にか持っていた彼の愛刀を投げ渡す。そしてすぐさまテツに左手を向けるとテツの身体は光に包まれまた消えてしまった。
※ ※ ※
街を出て北に少し進んだところにヴァニル王国の城が建てられている。城本体はエルフの城よりも二回り大きく、周囲をさらに巨大で堅牢な城壁で囲んでいる城郭都市となっていた。内部では貴族や金持ちの冒険者や王国騎士団員達が暮らしている。
内部に侵入するには、2つしかない跳ね橋を渡る他に道は無い。さらにその付近も騎士団が守衛しており野盗や魔物の侵入は困難であった。
(今日で何度目だ?)
「何者だ!」
テツは城内の謁見の間に移動させられていた。彼が周囲を見渡すと、鎧に身を包んだ騎士が6人、剣を構えて囲んでいるのが見える。そして奥には玉座に座りテツを驚いた表情で見る男の姿があった。
男は立派な髭を蓄え、長い白髪と華奢ながらしっかりと鍛えられた肉体を持ち、老けてはいるが若い頃は美青年だっただろうと思わせる顔つきであった。男はテツに声を掛ける。
「ほう、預言者の言っていた通り、余の命を奪いに来たか」
(あいつ、もしかしてこの国の……)
テツが男の姿を捕捉した瞬間、抜刀し、騎士と騎士の隙間を掻い潜って男に飛びかかっていく。男は不敵な笑みを浮かべたまま微塵も動かない。
テツの刃が届く寸前、彼の刀は正面から弾き飛ばされ手から離れる。直後、素早い斬撃がテツに襲い掛かり、彼は辛くも後ろに跳んでこれを避けた。
(速い、こんな太刀筋見たことない!)
「間に合って良かったな、スキア」
男は目の前にいる全身鎧の人物に言う。その人物の鎧は純白で、兜はまるで竜の頭部を模したような形であった。
「スキア、その男を処刑しろ」
「……御意。お前たち、下がれ」
鎧の人物、スキアは、先程テツを囲んでいた騎士に命令し彼らは素早くそれに従った。スキアは刃が白く輝く両刃の剣を両手で構えてテツの方を向く。テツも拳を構えるが額には脂汗が滲んでいた。
(長らく死を意識、恐怖したことは無かった……久々に怖くなったな)
テツはニヤリと笑って見せるが、表情に余裕が無いのは明白だった。
睨み合いを続ける両者。先に動いたのはテツであった。素早くスキアの眼前まで踏み込み右の拳を真っ直ぐ兜に叩きこもうとする。
「許せ」
スキアが彼の目の前から消えたのと、テツが首に痛みを感じるのはほぼ同時であった。幸いにも切断はされていなかったが、彼は首から血を吹き出しそのまま倒れ死んだ。
「……」
スキアは無言で刃に付いた血を拭う。
「流石は騎士団長。しかし、少し浅かったのでは?」
「寸前でずらされました」
「そんなはずは無いだろう。まさか、手加減したのではあるまいな?」
男は悪人の様な笑みを浮かべながらスキアを睨む。
「いえ、そのような事は……」
スキアは微かに動揺し、その姿を見た男はフンッと鼻を鳴らした。
「まあ良い、これで余の命は救われた。では」
言いかける最中、男は左こめかみに回し蹴りを喰らい、玉座から吹き飛ばされる。男は壁に体を打ち付けられて気絶してしまった。
「貴様、何故生きている?」
「あ~あ、見られちまったな~」
テツは再び拳を構える。その表情は険しくもどこか楽しそうであった。
スキアも剣を構え、先程以上の速さで斬りかかる。テツはそれを紙一重で避け、スキアの左背後に回り、その膝裏を足の甲で素早く蹴る。
(ちったぁ慣れたがこいつ、速すぎる!)
「!!」
スキアは体勢を崩すも、すぐさま上体を捻って背後のテツ目掛け剣を横薙ぎに払う。不意の攻撃に反応が遅れ、首元ギリギリを掠るスキアの剣。後ろに跳び避け、テツは体勢を立て直す。首の傷はすぐさま塞がっていった。
「その肉体、魔術か?」
「似たようなものだ、呪われちまったのさ」
スキアの問いに溜め息混じりにテツは答え、2人は再び睨み合いを始めた。
突如扉が開く音と同時に、室内に響く少女の声が響く。
「テツ!? 何でここに!?」
声の主はフラムであった。彼女の後ろには、クレールとリット、そしてエルンストが、先程テツが蹴り飛ばしたはずの男を抱き抱えていた。
男の肉体は酷く痩せていて、上には何も身に付けておらず、辛うじて息をしている状態である。
テツとスキアはフラム達の方を振り向く。スキアはエルンストが抱える男の姿を見て驚愕した。
「フレイ王!!」
今話で登場したキャラクター紹介です。
フレイ ヴァニル王国の王。 183cm 71kg




