第十二話 ー告白(2)ー
今話で登場するキャラクター紹介です。
ノルン 謎の女性 年齢不詳、170cm、体重不詳
「俺はこの世界の人間じゃない。それと俺は死ぬことが出来ない、これが証拠だ」
テツが告白する。そして彼は自分の心臓に刀を突き刺した。刃は体を貫き血が流れ始める。テツは刀を体から抜くと、そのまま仰向けに倒れ動かなくなった。
時間にして1分ほどが経ち、傷口がみるみる塞がり始めた。それが完全に塞がったと同時にテツは目を覚ますと、刀を拾ってフラフラと起き上がり、荷物から布を取り出して血を拭う。彼は刀をしまい、部屋にある椅子にゆっくりと座って、皆の方に向き直ると再び話し始めた。疲れているのは明白だった。
次に彼はこの世界に来た経緯と自分の肉体について分かっている事を説明した。
「俺も……この身体について全部知ってる、訳じゃない。今分かっているのは……」
①切り傷程度であればすぐに治る事
②大きさによって時間は変わるが欠損した部位は遅くとも1分程度で欠損前と同様に治る事
③離れた部位はそのまま残る事
④死因にもよるが死んだ時は早くて1分、遅くとも1日程で蘇生出来る事
⑤首が切断された場合は頭の方から再生が始まり、時間にして蘇生に3日は掛かる事
⑥蘇生後は上手く動けない事
⑦老化が完全に止まっている事
⑧血を一定量摂取した者は動物植物問わず死ぬ事
「……これ位、だな」
テツは頭を押さえ呼吸を荒くしている。どうやら蘇生には体力をかなり消耗するようであった。
「四肢の、再生ならもう慣れたが、……蘇生はまだキツいな」
ハハッと笑いながら彼は言った。そこでリットが疑問を投げかける。
「あの、今疑問に思ったんですけど、もし魔物とかに丸呑みにされたり頭部だけ食べられたりした場合はどうなるんですか……?」
「そこは俺も気になってたんだ。まさか、うん」
リットがこれ以上は言わせまいとクレールの口を思いっきり抑える。彼女は抵抗するが、力では敵わずしばらくして抵抗を止めた。そんなやり取りを見ながらテツは苦笑いで答える。
「昔試してみようと思ったが、流石にためらった。今、もっとやりたくなくなったよ。……何も言うなよ?」
冗談っぽく言うテツの呼吸は少し穏やかになっていた。そして今度は彼がエルンストに質問をした。
「もう聞きたいことが無ければ俺から質問させてくれ。エルンストさん、いつから気付いてたんです? 洞窟で一緒に戦った時、俺を人間ではないと……」
「君と館で話した時さ。君は島国にいたと言っただろう? それを聞いて私はまずあり得ないと思ったのさ」
エルンストは説明を始める。
「この世界で島国は2つしか存在しない。1つは北にある死の民の国ニフル、もう1つは南の果てにあるムスペルという国だ。死の民の特徴は君も知っての通り、白い目に白髪、この時点で君は死の民ではない。そしてムスペルの民はすでに滅んでいると言われている。特徴などは一切明らかになってはいないのだが、唯一分かっているのは彼らが恐ろしく強かったという事だけだ」
一呼吸置いて続けるエルンスト。
「となると君は、ムスペルの生き残りか、はたまた異界から召喚された者のどちらかに絞られる。だが、異界から呼び出せるのは魔力を持った魔物や精霊、悪魔や神獣の類だ。人間の召喚など聞いたことが無い。どちらにせよ君がただの人間ではないはずだとは思っていたよ。だが……」
説明を終えたエルンストは穏やかな笑みを浮かべながら言った。
「最初は少し君を警戒していたが、あの時、真っ先に人助けに行く君を見て信頼に値する男だと確信した、それに娘も救ってくれたではないか。改めて本当にありがとう、そしてどうか我々の事も頼ってほしい」
「……ありがとうございます」
少しうつむき気味に言うテツ。彼は立ち上がりフラム達を見て微笑を浮かべた。
「金にはならないが手伝ってくれるか?」
「もちろん!」
フラムが元気に答える。
「終わったらうまい酒奢れよ?」
クレールも満更でもないようであった。テツがリットの方に目を向けると彼は無言で力強く首を縦に振った。
「皆、ありがとよ。じゃあエルンストさん、早速馬車の手配を」
「そんなんじゃ、間に合わないわよ?」
突如部屋に響く声、彼らが声のする方を見ると、そこには女性が壁にもたれかかって煙管を吸っているのが確認できた。彼女は薄い紫の長髪と瞳を持ち、肩を露出させ胸元が大胆に開いた暗い紫色のロングドレスと、黒のとんがり帽子を身に付けている。色っぽい雰囲気で、男なら誰もが目を引かれるであろう。
一同は女を視認するや否や戦闘態勢を取る。だがそんな彼らに一切物怖じせず、彼女は平然と煙管を吸い続けていた。
「もう、助けてあげようと思ったのに何よ」
「貴様、何者だ。どうやって入ってきた」
エルンストが睨みつける。
「あら分隊長さん、大分老けちゃったわねぇ。私はノルン。聞いたことはないかしら?」
ノルンは煙管を吸いながら答えた。
「貴様など知らぬ」
「う~ん、分隊長如きじゃ知らされなかったのかしらねぇ……」
「ババア、聞こえたぞこらぁ!」
小声で呟くノルンに武器を構えて向かっていくクレールだが、眼前で身体ごと弾き返されてしまう。
「痛ぇ……」
「ババアじゃなくてお姉さん! もう、遊んでる暇は無いのよ。私は彼に用があるの」
そう言って彼女はテツを指差す。テツはノルンを凝視しながら尋ねた。
「どういうことだ?」
「貴方、エルフを助けに行くんでしょ? 当然馬車じゃ間に合わない、だから私がミズガルズ王国まで連れて行ってあげるわ」
「何故? あんたには関係ないはずだ」
「いえ、エルフ達には生きててもらわないと困るわ。私の為にも、世界の為にも、ね?」
煙管を胸元にしまいノルンはテツに左の手の平を向ける。手の平には何かの紋章が浮かび上がっていた。
「事が済んだら色々と教えてあげる」
すると、テツの足元にぽっかりと光る空間が開き彼はそのまま落ちていく。そして空間は一瞬にして消え去った。
「テツ!」
「貴方、テツさんに何をしたんですか!!」
リットがノルンに詰め寄る。
「言ったでしょう? 送ってあげたのよ。じゃあ、私は行くわね」
彼女はそう言うと光に包まれいなくなってしまった。
「あのクソババア、あいつだけ連れていきやがった!」
「ねえ、あたしたちは……足手まといってこと?」
フラムが悲し気な顔で言う。
「いや、あいつは手伝ってくれって言ってただろ? なら俺らも行くしかねぇだろ!」
「うん、信用は出来ないけど今はあのノルンって人を信じるしかないと思う」
「皆、行こう! エルおじさん!」
フラムはエルンストに声を掛ける。
「分かった、すぐに用意してもらおう。少し待ってなさい」
「あ、忘れてたわ。貴方達はこっちよ」
ミズガルズ王国。この国は海に面しており、漁業が盛んである。建物は全体的に白く塗られており、その街並みは美しいものであった。街を行き交うのは人間が圧倒的に多く、異種族はほとんど見られない。
「あ、あのう、大丈夫ですか?」
男に声を掛けられてテツは目を覚まし、辺りを見回す。
「ここは?」
「ここはミズガルズです。急に空から降ってくるもんだからビックリしちゃいましたよ」
「そうか、あの女……おっさん、1つ聞きたいんだが」
「なんでしょうか?」
「あんたヨルムンガンドって連中を」
「し、知りませんな。おっと、私はこれにて失礼します」
男はそそくさと走り去ってしまった。
(へぇ、よっぽど恐ろしいんだな。……しまった、荷物が無い……まあ、どうにかなるか)
少々落胆しつつもテツは街を探索し始める。ここもヴァニルの街に負けない位の活気があるが、歩いていると見るからに怪しい男達が路地裏に入って行くのを何度か見かけた。彼は追跡を開始した。
路地裏は薄暗く、家々も表通りのものとは違ってレンガ製の暗めの色合いの建物が大半を占めている。人の数も極端に少なくなっており、いるとすれば猫やネズミ、身なりの汚い怪しい者達であった。彼らは入ってきたテツをジロジロと見ている。
(歓迎はされないみたいだな)
しばらく歩いていると、どんどん人が見えなくなってくる。かなり奥まで来たようであった。テツは周囲を警戒しながら探索を続ける。すると、1人の男がある建物に入るのが見えた。物音を立てないよう慎重に、足早に男に近づいていく。
彼は男に気を取られ油断していた、己の強さに対する慢心もあったのかもしれない。背後に迫るもう1人に気付けなかったのだ。鈍器のようなもので後頭部を思い切り殴られる。一瞬で意識が飛び、テツはその場に倒れた。
※ ※ ※
暗い石造りの一室で意識を取り戻したテツ。初めに目に入ったのは鉄格子であった。動こうとするが身動きが取れない、両手両足を枷で拘束されていた。首は動かせるので周囲を見渡す。彼以外にも複数人いるようでそこをじっと見つめるテツ。
「……ネーベル?」




