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成長型魔法使いと死神の飼い猫  作者: 稲狭などか
力の代償と飼い猫の憂鬱編
40/289

第二話 暴走する理想に猫が鳴く

人間なんて簡単に血迷わせる事が出来る。中途半端に秀でている人は特にね


 パワードスーツをラボで制作していると言われたが、古都ワスレは待つことが出来なかった。

 男子生徒の自尊心はもう踏みにじられ、女子生徒にオーダーでの居場所や立場を奪われてしまった。それでも行動しているのは専用のパワードスーツを持っている遠山トオルぐらいなものだ。

 結果を残さなければならない。

 魔法なら自信がある連中だ、それがプライドを支えている。事実、戦闘能力は男子生徒に分があるだろう。だが、女子生徒も弱くはない、その上で質の良い武装を手に入れられては手柄なんて取られてしまう。

 古都ワスレはラボに入るとメカニックを探す。そこには桜子と百合の姿があった。彼の姿に百合は焦った様な声を出す。


「あっ、まだ男子生徒への武装は」

「待てない、こうしている間にも男子隊員達は追い込まれている! 優等クラスなら解るだろ! 結果を残せない連中がどうなって行くかぐらい!」

「わかってるよ! でも、パワードスーツの改修なんて短時間じゃ出来ない」


 古都ワスレは辺りを見渡すと緑色のパワードスーツを見ると魔法でそのスーツの奥に人数分の同タイプの品物があると見抜く。


「これは? 凄いな、パワーは? 防御が改善されてれば」

「それは、まだ調整が」

「そんなもの、俺達なら簡単に出来る」


 古都ワスレは桜子の説明を無視してパワードスーツを魔法でキューブに凝縮する。

 その時だった。


「ちょっと! 抜け駆け!? 私達の装備、まだなんだけど?」


 オーダーの女子隊員達がラボに入って来た。

 古都ワスレはバツの悪い顔をすると、噛みついてきた女子隊員へと言い返す。


「ヴァルキュリアは十分な性能を持っている。しかも、変更は銃だけだ。我々のパワードスーツが先だ」

「結果も残せず、装備のせいにする負け犬に言われたくは無いわ」

「そうよ! 最近は隊長の足を引っ張るだけじゃない!」

「雑魚に手間取ってさ!」

「どの口で、貴様ら!」


 古都ワスレが一人で言い合っていると、そこに他の男子隊員達も駆けつけて来た。


「おい! 何因縁つけてんだよ!」

「お荷物の装備より、主力である私達の装備が優先されるべきよ」

「何! 主力なんて誰が決めた! 今は協力して」

「体制はね! でも、結局足手まといは現れるわ!」

「ふざけるな! 俺達はお前達のおまけじゃない!」


 白熱する口論に、桜子は震えてうずくまっている。優等生達はそれぞれプライドが高く、時には決闘とは名ばかりの殺し合いまでやることがある。

 しかも、間が悪い事に今日は鳴神華音が活動休暇でこの場にいないのだ。しかも、北条美樹は外回りの最中だ。

 百合も顔を青くしていたその時、事件発生の知らせが全員の腕時計型の魔具を光らせた。


「学区内で事件? 嘘だろ?」

「男子に遅れを取ってられない! 行くわよ! せいぜい新しい装備で何もできずに居ることね!」

「なに! 貴様ら!」


 桜子と百合は未完成のパワードスーツを持ち出して行く男子隊員の前に立って必死に辞めるように伝える。


「魔具を安定して使えないの! 下手したら誤射する可能性や、威力の調整が出来ずに魔法術式の暴発を起こす! この人数で事故が起きたら確実に死人がでる!」

「俺達は精鋭だ! そんな暴走はしない!」


 男子隊員達は桜子と百合を軽い電撃魔法で気絶させてしまう。最早男子隊員達には女子隊員達よりも先に手柄を奪う事しか考えが無かった。


「行くぞ! 連中に目に物を! 俺達も隊長の役に立てるって事を教えてやれ!」


 パワードスーツをまとった古都ワスレの号令に男子隊員達は雄叫びで答えるとラボを飛び出して行った。

 かすれる視界に、百合は悔し涙を流していた。

 止められなかった、安全面の前に人数分のスーツを作ってしまったことを悔いていた。

 そんな彼女の視界に一人の男が写り混んだ。


「へぇ、良いねぇ。君は、ふふふひひっ! 良いのを持ってるねぇ! 非常に醜い感情が心の奥で渦巻く」

「え、あ」

「憎悪と、馬鹿馬鹿しい程の劣等感! また、会おう」


 誰かはわからなかったが、百合の意識はそこで途切れた。


1


 ヴァルキュリア姿の魔理に白猫を見せた。

 彼女は笑顔で猫を受けとると優しく抱き締めている。

 魔理のヴァルキュリアはなんかこう配慮と言うか。大元のヴァルキュリアのように露出は低いな。だが、身体にぴったりと張り付くスーツには変わらない。太ももや肩の露出を抑えて、背中のブースターはまるで翼の様だ。

 ヴァルキュリアのブースターも翼の様ではあるが、魔理のそれはコンパクトに変形する事が可能だった。


「どうしたの? この子を届けに来ただけ?」

「まぁ、そんな所だな。最近どうだ? いや、一緒に住んでいるのにこの質問はおかしいか」

「最近? 更衣室で他の女子たちに背中を見られると怖がられるだけかな?」


 俺は小さなため息を吐くと、魔理の頭を撫でる。

 彼女は小さな声を上げると顔を少し赤くする。子供扱いされて照れたのだろう。


「翔、もう大丈夫だから」

「魔理、その力が使いこなせるようになったら・・・・・・俺と一緒に戦って欲しい。もう、子供扱いしないぞ? お前も戦えるんだからな」

「へへ、望むところ!」


 魔理は元気な表情を見せると親指をグッと立てた。

 胸に抱かれていた白い子猫も前足を上げて「にゃー」と鳴いた。それと殆ど同じタイミングで腕時計の警報が鳴った。俺は身体にパワードスーツをまとう。


「行ってくる、じゃあな」

「うん、いってらっしゃい」


 俺は訓練場から飛び上がり、現場へと直行する。だが、その最中に並々ならない圧力を学園の中から感じた。いや、多分魔法の類ではない、もっと根本的な所からやって来る嫌な予感の様な物だ。

 劣等クラスから?

 でも、事件が・・・・・・隊員達も弱くはない。少しの間だけ待ってくれ!

 俺は急降下すると、劣等クラスの裏庭にある噴水庭園へと降りた。一応両腕に魔法陣を展開していつでも魔法を撃てるように構えておく。

 懐かしいな、この噴水庭園だけは何故が不気味だから近づかなかったが、改めて見てみると整理されて綺麗になっている。


「何だったんだ? 今の妙な圧力は?」

「空から白いパワードスーツが降って来るか、何だか今日は珍しい天気だ」

「誰だ!」


 声は噴水の裏から聴こえて来た。

 流れる水で不鮮明な人物が姿を現した。バッチを付けたキャップに、手には電子タバコとでも言うのだろか? それを咥えている。綺麗な顔をしてはいるが、イメージ的にはヤンキーのお姉ちゃんだ。

 俺が感じた圧力の正体は、彼女の物だった。


「ん? そのパワードスーツ、隊長か? オレはしがない劣等クラスの生徒だ。物騒だな、その魔法を下げてくれ。それとも、面が気に喰わないか?」

「お前、なんで劣等クラスにいるんだ? その気配は、普通じゃない」

「は? 意味わかんねぇ。オレは何もしてねぇ、授業サボってタバコふかしてただけだよ」

「お前、何者だ?」


 彼女は俺の言葉を煙で返すと、付き合ってられないと言った様子で庭園から出て行こうとする。

 ここで逃がしては不味い気がする!


「待て! その気配は普通じゃない!」

「僕の連れに何か用?」


 俺が彼女に手を伸ばすと、横から腕を何者かに掴まれた。なんだ? 俺はパワードスーツを着ている上に、魔力で身体能力も上げている。それなのに、力強い事が感覚でわかる。

 相当な大男かと思って振り返ると、そこには俺と同じぐらいの体格でクセ毛の男子生徒がいた。体格もどちらかと言えば細身に見える。

 得体が知れない。


「オーダーだ。彼女に無視できない程の・・・・・・何かを」

「は? いくら優等クラスだからってそんな理由で女の子に攻撃魔法の術式を向けるの? 最低だね、優等クラスの人間らしいよ」


 クセ毛の男は嫌悪感を顔に浮かべて俺を睨み付けて来る。その顔は、少し前までの俺がしていた物だろう。優等クラスへには恨みしかなかった。

 こいつも同じような物だろう。


「すまなかった。攻撃魔法を向けた事は謝る、だが、彼女は何処かまともじゃない」

「それって悪く言ってるよね? 速く自分たちの場所に帰りなよ。君には関係ない」

「兄弟達と言う連中を知っているか? 彼女も同じかも知れないんだ」

「な、何を訳の分からない事を言っているの?」

「八雲、早く行こうぜ。相手する必要なんかねーよ、頭の良い連中の考えなんかわかんねぇし、オレはただの不良だっての」


 イライラした様子で彼女は煙を勢いよく吐き出すが、その眼つきは俺でも震えが来るほどに凶暴に鋭く光っていた。

 この八雲と言う男も、温厚そうだが上手く言い表せない、存在の密度とでも言うのだろうか? 同世代とは思えない覇気がある。確実に何かがある、コイツらただの劣等生なんかじゃない。


「何か、隠しているのか!? 説明できないがお前も彼女もどこかおかしい!」


 俺は八雲の制服を掴む、少し乱暴だが確保しておく事に越したことは無いだろう。その瞬間、強い衝撃で俺は身体のバランスを崩して地面を転がっていた。

 顔を上げると、電子タバコの彼女が右足を上げている所だった。蹴りやがったな?


「おい、横暴が過ぎるな。言っておくが、ビビんねーぞ? ダチに掴みかかった上に、変な因縁つけやがって」

「巧ちゃん、ケンカするなら付き合うけど?」

「あぁ、優等クラスのお坊ちゃんだ。二人掛かりでも泣き事なんざ言わねぇよなぁ!」


 電子タバコの女の子は巧と言う名前なのだろう。

 彼女は全く躊躇せずに俺の顔面に蹴りを放って来た。避けようとするが、俺の背後に回っていた八雲が俺の頭を脚で抑えていたせいでまともに受けた。中々の威力がある蹴りだ、俺はブースターで少し飛ぶがそこに石が投げられる。

 衝撃にふらつくと八雲に足を掴まれて、地面へと叩き付けられた。その瞬間に巧の蹴りが胸に飛んで来た。

 なんて奴らだ。喧嘩慣れしているうえで全く手加減なんてしてくれない! ここは少し本気で叩き潰して大人しくしてやるか。

 俺はブースターを利用して姿勢を正すと、その勢いのまま蹴りを八雲へ返す刀で勢いを乗せた掌底を巧の腹部へと撃ち込む。

 八雲は噴水へと叩き付けられ、巧はベンチに突っ込んでそれをバラバラしてしまう。

 しまった! やり過ぎた!


「やべぇ、やり過ぎたな」

「その通りだこの屑野郎! 死ね!」


 俺は顔を上げた瞬間に顔面にベンチの骨組みだった鉄骨を叩き付けられていた。硬質な音が響くが、衝撃は蹴りなんかとは比較にならない。

 その直後に後頭部をまた硬いもので殴られた。


「全く、そうだよね。いっつぅ・・・・・・骨が軋んで」

「くそ! あと少しで吐いてたぞ!」


 嘘だろ? 俺が焦るぐらいの一撃だったんだぞ!?


「お前達、一体何者だ? 普通なら気絶しているぞ!」

「鍛え方がちげぇんだよ!」

「骨が折れるかと思ったよ」


 くそ、話をしたかっただけなのに!

 魔法を使うか? いや、俺は威力の調節がまだ出来ない。きっと殺してしまう! 本気で戦うにも怪我をさせてもヤバい。

 その上で、この二人は強い!


「「せーのっ! うらぁ!」」


 俺が悩んでいるのもつかの間に二人は息を合わせて空中で身体をひねって浴びせ蹴りを俺の首に左右から繰り出して来た。

 パワードスーツが守ってくれたから俺へのダメージは少ないが、体術というか、何と言うか泥臭い戦い方だが連携が取れている上に生身なら一撃で戦闘不能になる部位を攻撃してきやがる。

 もう本気でやるしかない! それに、劣等クラスでここまで強いなんてやはりおかしい!


「俺も、本気だ! 死なないでくれよ!」

「おう! 来いよ坊ちゃん!」

「舐めないで欲しいね」


 俺が拳を構えて二人とまさに激突しようとした時に、白い影が俺と二人の間に割って入った。

 その瞬間に俺の身体は宙へと放られていた。それはあの二人も同じだったようで仲良く地面へと叩き付けられている。俺は空中で身体をひねって着地すると影の正体を確かめるために顔を上げる。


「止めてよ! 八雲さん! 巧さん! お姉ちゃんと約束してたのに!」

「真紀ちゃん、発端はその男だよ。巧ちゃんをよくわからない理由で連れて行こうとしたんだ」

「妹! オレを投げたな! ははっ! 友達はどうだった?」

「少し元気なさそうだった。少し無理に笑っているみたい」


 八雲はしかめっつらをして、巧は何故か倒れながら大笑いしている。

 何をされたんだ? 全く状況が解らなかった。


「君は、真紀ちゃんか? 伊達正明の妹の」

「翔太郎君も、私の友達を変な理由で連れて行こうとしないで! みんな血の気が多いから危ないよ!」


 珍しい、姉の背中じゃなくハッキリと俺の顔を見て怒っている。

 後ろの八雲と巧は立ち上がると、真紀の近くに並ぶ。


「坊ちゃん、これぐらいにしてやるよ。今度妙な因縁つけて来たりしたら、ぶち殺すからな!」

「はぁ、弱い者いじめはやめて欲しいよ」


 2人はそれだけ言うと何事も無かったようにその場から離れていく。

 俺はその後を付いて行く真紀を呼び止めていた。


「待ってくれ! 君は、何人いるんだ?」

「ん?」

「始めはお姉ちゃんの後ろにいた、次は泣いていた、そして今は戦いを止めたばかりか、怒りまで表す程に性格がハッキリしている。君は、心が何個もあるか?」

「無いよ。心は1つだけど変わるだけだよ、水みたいなモノ。今は泣くときじゃ無いし怯える場面でもない、今はケンカを止めて、ケンカはダメって怒る時ってだけ。でも私は変わらないよ? じゃ、またね翔太郎君」


 真紀はそう言うと二人についていった。

 俺はしばらく呆然としていた。劣等クラスにはもしかして、落ちこぼれの他に実は隠された曲者がいるのだろうか?

 それが連中だったり、伊達姉妹の様な連中なのかもしれないな。

 俺はその時に異常な圧力が消えている事に気が付くと、急いで現場へと向かった。

力とは破壊

守りとは障害の排除

豊かになるとは、奪うこと

誰も罪無き者ではない

平和と戦いは同じもの、気付いた時には

破滅の足音が聴こえるとき

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