暴走する理想に猫が鳴く 2
爆発は私の正義
2
事件現場はまたまたお誂え向きな展開となっていた。銀行が狙われるのは多く経験したが、今回は警察が突き止めたテロリストがアジトに籠城。しかも、そのアジトは街のど真ん中。辺りは野次馬とそれを抑える警察、建物の窓から中級魔法や銃弾をばらまく犯人グループ。控えめに言って修羅場だった。
この街は本当にド派手な犯罪が多い。でないとオーダーなんてい自警団的な組織を国が認めるはずはない。
古都ワスレは男子隊員達を引き連れ、現場に到着すると敵戦力をパワードスーツの頭部に付与された魔法で分析すると後輩達に指示を出す。
「敵は今回、数が多い! 使ってる魔法からマーク中のギルドかと思われる! 二年は建物の後ろに一年を連れて回れ! 正面は俺達三年が抑える、挟み撃ちにして的確に、一撃で戦闘不能にしろ!」
「「「了解!」」」
今は隊長が不在だ。
どう言うことかは解らないが、隊長の方も何かあったのかもしれない。隊長がいたなら正面は殆ど一人で済んだのにとワスレは思うが、今は目の前の事件に集中するしかなかった。
その時に背後から犯人グループに挨拶もなしに一斉射撃が行われた。誰かは予測がつく、ヴァルキュリア、女子隊員達だ。
「バカ野郎! まだ背後を取ってない! そっちに北条隊員はいないのか!」
「運が良いのか、悪いのか! 彼女、隊長を探しに行ったわ。今は私達だけ」
「くそ、最悪だ! 一年、一般人を守れ! 二年ついてこい! 抑えるぞ! 女子隊員に遅れを取るな!」
ワスレはパワードスーツの左前腕に小型の魔具が取り付けられている事に気付くとそれを発動させる。
それは防御魔法で、左手から半身を隠すほどの大きな魔力の力場を形成した。タイミングがよかったのだろう、飛んできた中級魔法の雷をそれが完全に遮断してくれた。
「すげぇ、これは・・・・・・今までのパワードスーツとは段違いだ!」
ワスレは陽動のために数名を正面に残して建物へと侵入する。
ヴァルキュリアは室内用の武装ではない。窓から侵入しようにも撃ち落とされるがおちだろう。ワスレ達は正面口のバリケードを破壊し、建物の中へと侵入し道中にいる犯人達を一撃で制圧しながら奥へと進む。
「オーダーか! くそ!」
「大人しくしろ、もう終わりだ」
銃を突きつけて来た刺青から光を放つ男に軽い攻撃魔法を当てて気絶させると、ワスレはそいつの腕を魔法で作った即席の手錠で拘束する。その手際はオーダーで三年間も全線にいただけのことはある見事なものだ。
後に続く隊員達も奇襲を仕掛けてくる犯人を危なげ無しに制圧して行く。どうやら身体の刺青に魔法を閉じ込める技術を持っている連中のようだが、オーダーの戦闘部隊が持つ魔法の才能と新型パワードスーツのスペックには到底及ばない。
そして、ワスレ達は犯人が籠城している部屋の前まで音もなくたどり着いた。パワードスーツの脚部には消音の魔法が込められているようだ。
「合図でドアをぶっ飛ばせ。銃の出力を調整しろ」
「了解」
隊員の一人が銃に手をかざして術式の出力を高めに設定する。
「では、3・2・1。ぶちかませ」
その時だった。
隊員が持つライフルが突然異常な術式を組み立て、凄まじい魔力の奔流を撃ちはなった。その威力はドアはおろか、隣のビルまでも撃ち貫いた。
「なっ! 威力の、調整が!」
「今は目の前の犯人確保を優先しろ! 突入!」
ワスレは想定内であると言わんばかりに部屋の中へ突入して犯人達を次々に倒していく。
だが、倒れた犯人を抑えていた二年が焦りの声をあげると何を言う暇もなく。
パワードスーツが爆散した。
「くっ! 解除! パワードスーツを解除しろ!」
「ダメだ、パワードスーツがコントロール出来ない! ぐわぁ!」
また一人、爆破。
死んではいないようだが、重傷であることは火を見るより明らかだった。
その爆発に巻き込まれ、犯人達も同じく重傷だ。
ワスレはその時点で、頭が真っ白になっていた。頭が良いせいなのか、この暴走を止めることは不可能だと思ってしまったのだ。
その暴走は連鎖し、挙げ句にはライフルは四方へと攻撃魔法を撃ち続け、隊員達の半数がパワードスーツの爆発に巻き込まれて重傷を負った。
そのどさくさに紛れて逃げた犯人達は外にいた女子隊員達が確保したが、結果的に犯人達が隠れていた建物は倒壊、その瓦礫が飛んできたことで野次馬や警察にも怪我人が出た。
倒壊する建物からワスレ達はなんとか怪我をした隊員達を転移魔法で外へと逃がし、死人は出なかったが、事件は最悪の結末を向かえる事になった。
*
正明は華音につれられ、金髪の男子生徒に向き合っていた。仲間達も相席しているが正明の顔は素人でも嫉妬しているのがわかる。
男子生徒は何処か、と言うより、見た通りの俗に言うDQNとか言う人種だ。なんで、華音は正明を含めろくな男に好かれないのかと京子は苦笑いをしている。
「えっと、同級生の伊藤柚希君」
「へぇ、劣等クラスにしちゃ可愛いじゃん」
志雄の額に血管が浮き出ているが、アイリスが彼女を抑える。最悪の相性だ。志雄が一番嫌いなタイプに衝突した。この場に八雲がいない事が悔やまれる。
彼女を一番抑えられる面子は彼だけだ。
「あ、そうだ。今日から華音は俺のだから、よろしく」
「え!? 待ってよ! 私、良いよなんて」
「もう拒否権ねーよ? お前は俺の」
「ぶっころして、もが」
志雄が立ち上がろうとするが、アイリスが彼女の口を抑える。無言で殴らなかっただけで奇跡だ。
正明は嫉妬から怒りに変わっているのだろう、左目から冷たい光を放っている。
「あっ、友達とられて少し怒った? ごめんねー、でも、劣等クラスの分際で華音と友達っての見逃しているからお互い様だよな」
「待って! 今日は付き合えませんって断りに来たの! だって、好きな人が、いるから」
突然の華音のカミングアウトに柚希は目をかっぴらく。正明はそのまま固まってしまった。
その様子に、志雄がガッツポーズを取る。アイリスも両手を上げて得意気な顔をして、京子も同じく嬉しそうな表情を浮かべる。
「えっ!? 待てよ! 誘いに乗っておいてそれはねぇよ!」
「誘いって、話したいって言うから来たの! いきなり恋人になってなんて、私は出来ないから」
「おいおい、その好きな人って優等クラスか? どんな奴よ?」
まるでいきなり別れ話を切り出されたような態度を取る柚希だが、全てこいつが勝手に盛り上がってるだけである。華音は昼休みにいきなりされた告白への返事をしき来ただけのようだ。
正明は彼女の好きな人がいると言う言葉に意識が半分無いようで、ボケっとしている。
そんな彼に気付かず華音はその(好きな人)の特徴を、恥ずかしそうに話し始める。
「えっと、その人は、背は私より低いんだけど凄く土壇場で強い人でね。直ぐに傷付いて、泣き虫で、わがままで、運動出来なくて、怒ると怖いけど根は凄く優しいの。良い人間なのかは私も解らない・・・・・・悪い人なのかも、それでも空っぽなんかじゃない。多分、魔法が無くても諦めたりしないんだろうね。どんなに傷付いても、最後には必ず立ち上がって無力でも側にいてくれる人。だから、好きになったの」
顔を真っ赤にしているが、華音はそう言い終えると隣の正明をチラッと見る。
そこには机に突っ伏して左手を人差し指を立てた状態で上げている正明がいた。
「あれ? 寝ちゃたのかな、正明」
そんな正明を華音は優しい表情で撫でる。少し正明の身体が揺れるが、直ぐに力が抜けたように大人しくなってしまう。
「ん? 待って? そいつ男なの?」
突っ伏している正明を指さして柚希がそう言うが、華音が直ぐに。
「女の子だよ? お父さんが男の子を欲しがってつけた名前で、少し前までコンプレックスだったんだよね」
「随分、可愛がってるな」
「可愛いからね。子猫に変身するのが得意だからそれも可愛いんだよね」
正明は本当に寝てしまったらしく、寝息をたてている。その姿に、志雄はため息をつく。
どんくさい訳ではないのだ。ただ、彼女の気持ちに気付いてしまうのが恐くて彼は逃げようとしているだけだ。
だが、多少の独占欲が出てきていると言うことは、もう目覚め始めてるのかもしれない。
正明が持つ、烈火の如し恋心が。
「な、納得できない! 君の好きな人を見つけ出して、俺がぶっ倒す! そしたら、華音! お前は俺の女になるんだ!」
柚希が突然そう言うと、転移魔法で何処へでもなく消えてしまった。
その場に残された華音は少しイジワルな笑みを浮かべて眠っている正明を見つめると、
「見逃しちゃったね」
と志雄達に聴こえない様に小声で呟いた。
まぁ、兎の人外であるアイリスにはバッチリ聴かれているが。
「所で、みんな」
京子にみんなが視線を集める。
「アイツお金払って行った?」
「「「あっ」」」
テーブルには柚希が頼んだアイスコーヒーが置かれていた。
瓦礫に座る悪意は月光を飲み込む
揺れるグラスの反射に彼は過去の夜を思う
理想は、遠ざかること
敵とは親愛なる隣人
グラスに注がれたものは?なに?




