表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「ソランへの手紙」  ……完全無欠の万能神は永遠とも思えるその生涯に、過去に犯した姦淫の“詫び状”を書き続ける罰を自らに科した/許して欲しいと殺して欲しいの気持ちが揺れる時、咎人は燃え尽きて灰になる  作者: 20年・ハード羊羹
[第5章]……“千年世紀守護神”攻略編(パラレル・ワールドはテロリストの血に染まる)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

86/86

74.“風が吹けば桶屋が儲かる”は、バタフライ・エフェクトか? 前編


挿絵(By みてみん)




 海千山千、趣味と実益を兼ねて身体を売る商売女だったことさえあるらしいビヨンド教官は、己れの不誠実さが(うと)ましかったのか、一種、武道家のような研ぎ澄まされた不幸を(にじ)ませていました。

 私の最初の指導者だったシンディBig sisterとは犬猿の仲と言うか、ゲハイム・マインから“愚者の戦線”のメンバーで変態ビヨンドを肯定する方は誰一人も居ないのですが、それでも確かに盟主の最初のバディとして一目置かれています。

 (わざ)となのかは分かりませんが、言動の(ことごと)くが非道く下衆いと言うかクズそのものなのですが、神の手に依って鍛え上げられたとしか思えない鋭利な刃物のような闘気が抜きん出ているのもまた、曲げられない事実でした。


 だからと言う訳ではありませんが、導師(グルー)エルピスとメシアーズの立案した起死回生の妙計……“ブーステッド・バタフライエフェクト作戦”の敢行で皆が方々に散った際、ビヨンド教官がシンディ様に気遣うような言葉を掛けていたのは意外と言うか、付き合いの長いメンバーにしか分からない(きずな)が確かに有るのだと、少し羨ましく思ったのを覚えています。


 私に下賜されたフランキーの指揮命令権を持つ、高位思念体に為ったマルジャーナに問い掛けてみたことが有ります。

 私にも、“最初の5人”と同じような繋がりを持つことが出来るだろうか……(いささ)か子供じみた私の問いに、マルジャーナは暫し黙考しましたが(やが)て、

 “56億7000万年を闘い抜けば、私も貴女も共にマスターの忠実なる(しもべ)として等しく胸を張れる”

 そんな意味のことを答えました。


 母上、アニーは悲運の死を遂げた母上の分まで長生きします。




挿絵(By みてみん)




 若い彼と不倫の関係に為って、もう2年になる。



 取引先のひとつだった小野田物産の若いホープだった上杉将也(うえすぎまさや)とはその前からの顔見知りだったが、いつしか一線を超えて関係を繰り返す仲になった。

 昔、一度だけ夫に言えない過ちを犯した相手だったが2年前に仕事で再び顔を合わす機会が有り、焼け木杭(ぼっくい)に火が点いて仕舞った。


 再燃した切っ掛けがなんだったかはっきりとは思い出せないが、丁度中国の公社との共同開発に胃を痛めていた頃だから、屹度(きっと)小野田物産営業二部との合同会議で野心をひけらかすことも無く物腰の柔らかさを武器にする彼が印象に残っていたのだろう。肌を合わせた昔の()まわしい記憶が時折り思い出されて、忘れた振りをするのにその(たび)に蓋をした。

 少なからず気に掛けていたのは間違いない。

 中国語に堪能な彼の、接待の席でのスマートな心遣(こころずか)いを好ましく思ってもいた。


 罪悪感が無いと言えば嘘になる。

 結婚して18年、高校生になる息子は難しい年頃だ。母親が婚姻外の肉体関係に溺れた(みだ)らな女だと知れば家庭は崩壊するだろう。幾ら家庭より仕事に生きて仕舞った私とは言え、掛け替えの無い家族だ。

 息子に軽蔑されたくはなかった。

 この歳に為って離婚騒動に晒されたくはなかったし、主人に愛想を尽かされるのだけは絶対に嫌だった。

 第一、社会的信用が重視されるコンプライアンス大事の企業理念を掲げた我が社にとって醜聞は致命的だ……有ってはならない。

 一流企業の部長職にまでキャリアを積み上げた身分も、一瞬で破滅する。


 倦怠期、気の迷い……何も言い訳が出来ない、(ただ)れた後ろめたい関係だった。


 だから、私は用心の上にも用心を重ねている。

 連絡は専用のプリペイド携帯にプリペイドSIMを利用して、家族や会社に使うスマホのGPS機能は常時OFFにしている。

 際どい下着や派手に着飾ったりとか、化粧やフレグランスにも浮ついたところが無いよう常に(いまし)めている。

 キスマークなど以っての外、最近また(はま)り出した緊縛プレイでも縄の痕が残らぬよう細心の注意を払っている。


 「そのイタリア製のシルクでしたっけ、乳首と股間が丸見えのスケベな下着は興奮しますね……ジャパン・フィットのサイズから選べるんですか?」


 そう、普段抑制している分、一旦プレイになれば容赦はしない。

 卑猥で男を(そそ)る官能的な下着はここでしか身に付けないから、態々(わざわざ)ここに来てから着替える。

 ここでだけ私達は、本当の欲望を開放する。

 常に責任を問われる業務のプレッシャーも、家庭の中での良き妻、良き母としての顔も、全てを金栗棄(かなぐりす)てて唯々(ただただ)歪んで変態染みた性欲に正直になり、(むさぼ)るような行為に耽溺(たんでき)する。

 私も彼、上杉も外聞だけは真面目を絵に書いたような人間だ。

 人に見られている場所ではきちんとしなければいけないと思うので、反動で(かせ)が外れた時間だけは、変態的なセックスがどんどんエスカレートしていった。

 彼と私の嗜癖(しへき)が一致しているのも際限無い痴悦図を繰り広げる要因に一役買っている……彼も私も、自分達の快楽の為なら良識的な禁忌など歯牙(しが)にも掛けない裏の顔を持っていた。家族には知られたくない素顔だ。

 若い頃の私の無分別な性癖を知っても丸ごと愛して呉れた夫にも、知られてはならない……明確な裏切りは、これ迄の夫の愛を踏み(にじ)るものだから。

 だからこの時間だけは夫の顔も、息子の顔も思い出さないようにしている……その方が大胆になれるから。

 非日常の、この切り取られた空間だけが私のひっそりと息衝く堕落した性癖の捨て場所、発散出来る機会だった……(しび)れるような肉欲の快感と頭が真っ白になる絶頂に(おぼ)れていく。


 絶対失いたくない逢瀬は、絶対秘密にしなければならない。

 何処で誰が見てるか分からない公共の場でのデートは(おろ)か会員制のバーや富裕層の倶楽部すら利用することはないが、会員限定の不動産紹介システムを利用して出来得る限り情報を辿(たど)れない物件を契約してヤリ部屋にした。

 月極賃貸借の支払いは、夫には内緒の口座を作り、ヘソクリでお金の遣り繰りをして怪しまれないよう工夫している。


 都内の高層マンションだが陽当たりや景色はどうでも良かった。逆に覗かれないよう利用する殆どの時間はバーチカル・ブラインドを閉じている。ケータリングを買って簡単なディナーをするぐらいのテーブル・セッティングとキッチンは備えているが、それも華美な物ではない。

 お金を掛けたのは()()()()興奮を誘う淫猥(いんわい)な設備だ。ラブホテルに有るような電動のラブ・チェア、鏡張りのパーティション、Xクロス・フレームの磔台(はりつけだい)や天井吊りの拘束具、医療プレイのカテーテルやクスコ、吊るす浣腸器のイルリガートル、アナルプラグにバイブレーター、ボンテージ用の革のコスチュームに麻縄達、縛り付けて下から開いた穴を通して股間を(いじ)(まく)る革製の木馬などだった。

 子供を産む前の若い頃を思い出して揃えたが……見られるだけで社会的に葬り去られるレベルだ。



 夫にはなんの不満も無かった。

 息子が(さず)かった時も育児を手伝い、洗濯、ゴミ出し、掃除から私が遅くなる時は晩ご飯の準備までして呉れる家庭的な夫だった。

 ()いて言うなら、出世に全くと言っていい程興味が無い。


 夫は若い頃から私を支えて呉れた、掛け替えの無い伴侶だ。

 私が将来を悩み逡巡していた時に進むべき道を示して呉れた。私が自分を見失い掛けた時も、私の魂を救済して呉れた無二の恩人と言っても過言じゃない。


 偏差値の高い進学校の同級生時代から相思相愛だった。

 将来を誓い合って同じ最高学府に進むが、夫は理学部物理学科に、私は経済学を専攻する。夫は卒業後も研究室に残り、博士課程を履修する。

 私は夫を愛していた。

 それが証拠に大学時代も其れ成りに誘惑の多かった私だが、そんな他からのアプローチには眼も呉れなかった。

 しかし野心とか功名心などに全く関心の無い夫は結婚後も大学に残り、地道に論文を発表し続けてはいるが、助教止まりで未だに講師にも成れていない。

 私の知る限り夫程才能に恵まれている人間を他に知らない……(ただ)、脚光を浴びるのを極度に嫌うのだ。それ(ゆえ)、目立たない生き方をしている。

 だが私は満足だった……夫の暖かい愛に包まれた家庭は私の幼き頃からの夢だったから、なんの不足を嘆くことも無い筈だった。


 間違いを犯す迄は………




挿絵(By みてみん)




 「ねぇ先輩、調査対象の夫より不倫相手の女を見張るのはどうしてっすか?」


 「(うるせ)えな、少し静かにしろ……目立つだろうが!」

 「浮気相手の素性や行動パターンを調べるのはセオリーなんだよ」

 「後、声がでかい……」


 陣取ったテラスの木陰から余り出過ぎるなと注意して、探偵学校からの研修生だと言う臨時の助手に説明する。

 ……今日日(きょうび)、学校では基本中の基本も教えないのだろうか?

 基礎って言えば、リップリーディングは習得に時間を要するがヒソヒソ話のこつぐらい教えとけっての。

 カルフォルニアに有るって提携校から、交換留学生で初めて日本に来たって割には日本語がペラペラなんで助かったが、なんにしても金髪は目立つ。

 帽子からはみ出した無駄にゴージャスな明るいストロベリーブロンドは明るい薄紅色懸かったって言うのか、なんにしても目立つ。

 俺より背が高いのも目立つ要素だ。

 しっかしボマー・ジャケットにベースボールキャップは良いとして、そのダサい黒縁メガネはなんとかならんのか?


 「あっ、先輩、対象が動きますよ?」


 「見りゃ分かる、車で移動は無いだろうが念の為俺は社用車で待機する」

 「シンディ、お前は一旦別れて女を尾行しろ……ブルートゥースを付けとけ」


 「OK、AirPodsの方が自然しょ?」


 ガジェット気触(かぶ)れの小娘を無視し、連絡はスマホにペアリングしたイヤホンでするよう言い置いて俺は素早く社用車のグレーのデミオに駆け戻る。

 世界的な総合商社、鷹乃羽(たかのは)開発の女性営業本部長と言う肩書きの割には地味なランチだが、大衆的なパスタの店なんで離れての見張りは遣り辛かった。

 女性の部下を数名引き連れていたから社に戻るだけだろうが、一応撒かれないように他の可能性に対処出来るよう準備はしておかなければならない。

 こういった場合、監視対象の行動スケジュールを把握するのが今後の方針も立て易く手っ取り早いので、集音マイクなんかを使って盗聴するのが楽なんだが、まだ調査を開始したばかりでチャンスを(うかが)うしか無い。

 ……スマホの呼び出し音が鳴り、シンディからの着信に応答する。


 (もしもし、小泉沙代子(こいずみさよこ)、オフィスに入っちゃいましたよ……ここ、社員ID無いと入れませんよね?)

 (どうします、警備室にでも聞き込みしてみます?)


 「余計なことはせんでいい、あと、監視対象の個人名は出すな……誰かに聞かれでもしてみろ、依頼された調査が台無しだ」


 (あっ、ちょうど警備員さんが居た、ちょっと話、訊いて見るっすね!)


 「バカ、やめろっ、…………切りやがって、何考えてんだ、あいつ!」

 何度か掛け直すが、出やがらねえ。

 勝手な行動をするなって実地研修の誓約書を一筆入れてる筈なのに、馬鹿が!



 焦った俺は大急ぎで、鷹乃羽(たかのは)開発本社ロビーに暴走するバカ娘を回収するべく駆け付ける、1階のエントランス、2階、3階のエレベーターホール、地下の商業施設まで探し回ったが見つからない。

 再びのシンディからの着信に俺は怒鳴り付けた。


 「何考えてるんだ、てめえ、巫山戯(ふざけ)るなよっ!」


 (……警備員さんと仲良く成りましたあ、有力な情報を得たんで裏の警備室まで来て下さい、ヨロ~♪)


 何がなんだか分からなくなったまま、兎に角調査活動が大っぴらにならないようフォローしなくちゃ俺まで首になっちまうと涙目半分で、どうしたらいいか考えがとっ散らかったまま監視センターを兼ねた警備員室に恐る々々顔を出した。


 「……んでね、……シュマリのステルス付与解除条件はぁ……」

 「ああっ、先輩、こっち、こっちぃ!」

 ビクビクしながら警備員室の扉を開けると、明らかに警察官OBじゃないかってガタイの良い年配者の人集(ひとだか)りが有った。どうやらメメントなんとかってRPGゲームの豆知識や隠し技で盛り上がっていたようだった。

 中心で得意気にスマホのソーシャル・ゲームの解説をしてるシンディが、能天気に手を振っている……色々考えられた想定外の中でも最悪だ。


 「紹介するっす、ここの警備責任者の熊谷(くまがや)さんスッ!」

 一際図体(ずうたい)のでかい、胡麻塩頭(ごましおあたま)の制服男が向き直った。

 顎が四角張っていて、なんか格闘技でもやっていそうだ。


 「お仕事中、うちのがお邪魔して申し訳ありません私、“OPリサーチ”南東京事務所の蒲田(かまた)と申します!」

 90度に腰を折ったまま、名刺を差し出す。


 「あぁっと、そいつを貰っちゃうとプライベートで済まなくなっちゃうから……俺達、シンディちゃんと世間話してるだけだからさぁ」

 「ここの入退出記録も録画されてるんだけど、俺達なら操作出来るからね」


 あっぶねえな、この親爺……アウトソーシングだとしても、こんなに良い加減な勤務姿勢でもし本物の産業スパイが来たら、機密漏洩を防げるのか?


 「そんなに(かしこ)まらなくてもいいよ、俺達、ちゃんと警備のプロだから」

 「ほんとは雇用筋の個人情報に関する部分は守秘義務があるんだけど、俺達も気になってたからさ……小泉営業本部長でしょ?」

 「シンディちゃんから聴いたよ、身辺調査してるって」


 咄嗟(とっさ)に眼をやると、ニカっと笑うシンディがテヘペロみたいな顔をする。

 眼の前が真っ暗になった。長い探偵生活でこんな危機的状況に陥ったのは数える程しか無い。この場をどうやって収拾するか、混乱する頭で必死に考える。

 「どっ、どうかこのことは内密……」


 「ああ、だいじょぶ、だいじょぶ、俺達忘れっぽいし、ちゃんとお口にチャックしておくよ……それより小泉本部長のことだよね?」

 「これ見てよ……」


 真っ青になったり、真っ赤になったり、業界に長い俺でも気持ちの切り替えに追い付けないが、示された大型監視モニターのひとつに調査対象の小泉沙代子が映っていた。メインのマルチスクリーン・ディスプレイじゃなく、どうやら切り替えの効くスポット・モニターのようだ。


 「ここ何処っすか?」、調査のイロハを守るどころか調査の内情を第三者にペラペラと(しゃべ)る掟破りの娘が、悪怯(わるび)れもせず質問を繰り出す。


 「23階の営業フロア……確か、海外向け案件を担当する第三営業部が大半を占拠してる、そこのユティリティ・スペースだね」

 「……昔、フリーアドレスのオフィスにしようって試みが有ったんだけど社員からは不評でね、それの名残(なごり)みたいなもんさ……見て貰ってるのは録画さ、ほら、手許を見てごらん」


 モニターがズームする。

 どうやらパン・チルト機能のあるカメラのようだ。


 「メールかラインを打ってるようですね、お買い物のメモをしてるようには見えない……今時、ガラケーか、珍しくないっすか?」

 黒縁の眼鏡を持ち上げたシンディが指摘する……倩々(つくづく)身の程知らずな奴だ。


 「サブ携帯みたいなんだ、メインのスマホを使う様子は他の映像で確認されてるから、何処かに連絡を送る時だけこいつを使ってるみたいなんだ、通話してる様子は確認されていない……最初、機密情報のリークを疑ったんだけど、そんな素振りも無いし、今のところ様子見なんだ」

 「一応、リーガルを担当するコンプライアンス部には報告してある」


 「画面が読み取れる映像は無いんすか?」

 なんでこいつは助手の癖に主導権握ってんだ?


 「今んとこ……ここは暗黙の了解で管理職しか利用しないんで本部長も一人に成り易いんだろうけど、カメラも一個しか無いんだ」

 「しかし面白いよね、こうして社内のあちこちに防犯記録カメラがあるのに、社歴の長い中堅社員にしろ、事情通の重役クラスにしろ、殆どの人間はカメラの存在を忘れている……」

 熊谷警備主任は、話しながらアプリで映像画面を切り替えた。


 「それよりこっちを見てよ……屋上を俯瞰する広角レンズなんだけど」


 画面が切り替わると、植栽を配した庭園のある屋上だった。

 千代田区竹橋の周りには余り大きなビルはないが、強風を避ける、多分、複層の倍強度ガラスで囲われていた。

 カメラがパンして行くと、小さな朱塗りの鳥居と(ほこら)が在った。その前に小泉沙代子が(しゃが)み込んでいる。


 「新しいビルが立つ前の旧会館に有った(やしろ)を移築したんだけど、その昔の見附に鎮座ましますお稲荷さんが前身らしい」

 「定期的って言うか、毎週月曜日にお参りしてるんだよ、本部長……その様子が余りに真剣って言うか、気になるんだよね……雨の日も来てるし」


 対象が身じろぎする様子に少し向きを変えたか、横顔が見えた。

 何か呟いている。


 ……シンディが何か言った。「ゴ・メ・ン・ナ・サ・イ、アナタ、ヒデタロウ、ゴメンナサイ……そう繰り返してるっすね……懺悔(ざんげ)?」


 「お前、……もしかして、この角度でも唇が読めるのかっ!」


 「No doubt(ノーダウト:もちろん)、シンディは読唇術も得意っすよ」




挿絵(By みてみん)




 黒薙(くろなぎ)家は“神人(かむんど)の里”の黒目付けのお役目にあった。

 代々世襲制で神通力の異能を引き継ぐが、同時に体術や武芸十八般の他、間諜や人身操作なども含め、厳しい修行が幼い頃より課せられる。

 里の治安を守り、外敵からの攻めを防ぎ、遥か昔に定められた“神里諸法度(かみさとしょはっと)”の(おきて)に従い、生きて来た。


 “神人(かむんど)の里”は神代(かみよ)の昔から続く、言祝(ことほ)ぎを時の為政者に奏上するを生業(なりわい)にする一族達の隠れ里であった。

 単なる拝み屋ではない。里長(さとおさ)の家に生まれた者には、実際に未来を予見するだけでなく、予祝(よしゅく)と言って、言葉や儀式の祈願で未来を変えて見せることが出来た。

 (ただ)里長(さとおさ)の家に生まれなければこの不思議な力を引き継ぐことは出来ない。

 それも血の濃い薄いに関係が有るかは分からなかったが、中には神隠しや失せ物などを言い当てることは出来ても、未来を見通す力を発現出来ないまま生涯を終える者も居た。

 里長(さとおさ)の譜系は血が薄まることに因って異能が弱まると信じた。

 逆に言うと、血が濃くなれば力が強まると信じた……科学的な根拠など遠く及ばなかった時代より連綿と近親婚を繰り返してきた。

 閉ざされた里での同族同士の婚姻を繰り返せば、遺伝子的にも奇怪(あや)しくも可怪(おか)しくならない筈が無かった。里長(さとおさ)の家系では、親兄弟で(ちぎ)ったり、母親と息子を(つが)わせたりと言う狂った行いが平然と(まか)り通っていた。

 主家の遣り方に着いていけない里人の一部は逃散して、全国に散った。

 間者や防諜などを活計(たつき)にし、子孫に技を残した。

 その中枢が近代政治の裏に生き残り、一般市民は知る(よし)も無い内閣秘密公安などの、幾つかの組織の(いしずえ)に為ったとされている。


 その時々の為政者に取り入って歴史の裏に生きて来た“神人(かむんど)の里”ではあったが、下界に散った市井(しせい)を裏から支配する草影(くさかげ)達を統べる立場も、近代では急速に(おとろ)え、すっかり(さび)れて仕舞った。

 完全に滅びたのは我が門派、黒薙(くろなぎ)家が主家に対して反旗を(ひるがえ)したからだ。

 我が一門には我が一門だけに伝わる古伝書が有った。


 ……里長(さとおさ)が家系に、身体に櫻紋が有る女子(おなご)が産まれたら心せよ。

 その者、黒薙(くろなぎ)が命を()しても守り抜かん。


 それが我が家に代々引き継がれている言い伝えであった。


 そして平成の御代(みよ)になって櫻紋の有る女児が誕生する……今迄の幾星霜、変転の流れの中に於いて初めてのことであった。

 里長(さとおさ)が家系、家名を(やまと)と称した。

 (やまと)の家では年頃になった子供に異能が発現しない場合、()()()と名目して、殺しはしないが人買いなどに売り渡すなどの(むご)い処分を常としていた。


 間引きされる運命が迫っていた沙代子と言う娘を、黒薙(くろなぎ)一門が救い出した。


 本名、倭沙代子(やまとさよこ)……今は僕の妻だ。




 ***************************




 「矢張り血は争えんな、里長(さとおさ)が家は(みだ)らを好む」


 「黒薙(くろなぎ)が“神人(かむんど)の里”を焼き払ったと聴いていますが、幾ら幼かったからとは言え倭沙代子自体に当時の記憶は無いのでしょうか?」


 「おそらく記憶を封印されておる、完全ではないかもしれぬが少なくとも惨劇の夜の場面は思い出せないだろう」「出来得る限り平凡な暮らしをさせて遣りたいとの情け心だろうが、黒薙(くろなぎ)は甘い」


 内閣直属公安部は表向きには存在しない機関だ。

 内閣諜報室が内閣府本府庁舎内に席を置くのに反して、影の公安部は警視庁桜田門庁舎に面した一般企業の持ちビルを隠れ蓑にしている。

 遥か昔に“神人(かむんど)の里”と(たもと)を分かった我ら赤薙(あかなぎ)の眷族は現代社会に於いても、影に徹すると言うお役目を貫いている。


 奥まった防音設備の長官室に窓は無く、昼日中(ひるひなか)だと言うのに抑えられた照明の下でさえラウンド型のサングラスを外そうとしない赤薙(あかなぎ)第一席、赤薙宗士郎(あかなぎそうしろう)に呼ばれて出頭していた。

 小泉沙代子と亭主である小泉秀雄(こいずみひでお)こと黒薙(くろなぎ)秀雄両名の動向と、今後の対応予定の詳細を報告する為だ。

 小泉沙代子が選んだ浮気相手、上杉将也には今のところ疑わしい糸は付いていないように思われた。


 丸で明治時代から在るような重厚な執務机に収まった長官は、机以上に臈長(ろうた)けた皴と肝斑(しみ)(おお)われた顔を歪めて、薄ら寒く苦笑している……そんな鳥肌立つ、悪寒を伴った印象が有った。

 一世紀近くも生きた、実質上の赤薙(あかなぎ)一族の指導者は大きな大理石の灰皿に時代遅れの太い葉巻の灰を落とした。だぶついた皮膚の不健康を絵に描いたようなこの老人が、日本の治安を守って来たことを知る者は少ない。

 だが、それは何も無かった時のこと……平時なれば我等が赤薙(あかなぎ)一門も見過ぎ世過ぎのお役目で済んだが、当代には櫻紋のある(やまと)家直系の女性が生きている。

 赤薙(あかなぎ)には赤薙(あかなぎ)の伝承が有った。

 それに従い、密命を受けたチームが今日まで倭沙代子の動向を見守っている。


 「閨房術にも()けた黒薙(くろなぎ)が沙代子にその技を使わなかったのは、その血に眠る淫乱の気を目覚めさせたくなかったからじゃろうが、この歳になってから色に狂うとは因果なものだ……」


 「ところで老師、沙代子は亭主に上手く隠し(とお)せていると思い込んでいますが、上杉将也側のガードは甘かった……怪しんだ女房が興信所に依頼を出しました」

 「“OPリサーチ”と言う業界大手です、東京都公安委員会に圧力を掛けさせましたが調査は続行中です……余り(うるさ)くなるようでしたら実力行使に出ます」

 「構いませんか?」


 「……出来る限り穏便にな、この件で余り一般社会人を巻き込みたくない」




 ***************************




 別動班が上杉将也を尾行、浮気の密会に使われていると思われる港区田町のタワーマンション、“芝浦アイランド・トラディショナルタワー”を突き止める。

 時間差で小泉沙代子が訪れたのを、宅配業者に扮したシンディが1階ロビーの宅配ボックスに用事があると見せ掛けて、間近で確認している。

 メールコーナーはコンシェルジェデスクからは死角になってるようだ。


 「カードキーを()り盗ってスキミングして来ましたあ、ちょっと中身を解析してみますね」、ウキウキした様子で本当にスキップして来たシンディは、偽装した軽のバン車に戻ってノートPCを起動させる。

 こいつ犯罪者かよ! しっかしこいつは多彩だな、アメリカの探偵学校の奴って皆んなこうなんだろうか?


 「違法だろっ!」、俺は(とが)めながらも、あの一瞬でカードを()り、読み取ってまた戻すと言う業前(わざまえ)に舌を巻いていた。


 「……やっぱり駄目ですねえ、カードキーには鍵のロック情報だけ、部屋番号を特定するまでは出来ないっす」

 カードリーダーから抜き取りながら、()して残念そうな顔も見せず振り返る。

 相変わらずダサい眼鏡が邪魔だった。

 ……なんで邪魔だって思ってるんだろう、俺?


 「こうなったらマンションの管理人室に突撃してみますか?」


 「やめろって! これ以上調査を引っ掻き回すな」

 「俺達は犯罪捜査をしてるんじゃない、単なる浮気調査だ!」

 立ち上がれない程狭いバンの荷室で、シンディの顔を間近に俺は小声で怒鳴ると言う芸当をしていた。

 こいつの息、好い匂いするな。


 「……範疇を(わきま)えろ」


 「んじゃあ、管理会社のサーバーをハッキングしてみますか?」

 「わたいらの業界、バレなきゃなんでも合法っしょ!」


 こう言うのは豪放磊落(ごうほうらいらく)とは言わない、単なる無鉄砲だ。

 俺の制止を無視して、いつの間に借り出したのか5G対応の最新モバイルWi-FIルーター、Speed Wi-Fi HAND 5Gミニマムとチップもメモリーも高性能に改造したハイエンド・ノートを取り出した。

 暫く、物凄い勢いでコマンドを打ち込んでいたが、(やが)て次々と進入先の情報の窓が開いて行く。


 「ビンゴっす、名義自体は無記名っすがマンションのコンシェルジェさんにお世話にならない訳にいかないので本名を明かしてますね」

 「……37階の376号室っす」


 こんなに早く情報を入手出来るなら、足で稼ぐ探偵なんか最早(もはや)時代遅れなんじゃないか……そんな考えが頭をよぎった。


 「明日、電設業者を装って潜入してみましょう……確実な証拠を抑えるのに盗撮カメラとマイクを仕込むっす」

 自分から()()って言うんじゃない!


 「不法侵入だろ、違法に入手した映像は証拠にならないっ!」


 「偶々(たまたま)っすよ、偶々(たまたま)……匿名の第三者に依って不倫してる行為の映像がサレ妻さんに送り付けられた、ってことにすれば離婚訴訟にぐうの音も出ない確実な証拠になるっす……管理人室の直通は、あぁこれ、これ」

 止める間も無く、慎重さの欠片(かけら)も無い小娘はパソコンから直接タワーのコンシェルジェに電話を掛けた。


 「もしもし、376号室の小泉です、実はこの間からプロジェクターが映らなくなって仕舞って明日10:00に修理の業者さんが入ります、テレコム・サービスと言う会社ですので通してあげて下さい、……ええ、ワンタイムの予備カードキーは渡してあります……連絡先は東京03の887……」

 「信用調査済みの信頼出来る業者なので、立ち合いは大丈夫です」

 驚くべきことにシンディは、誰かの声色(こわいろ)を真似していた。

 これは……小泉沙代子の声音(こわね)なのか?


 「それじゃあ、よろしくお願いしますね」

 そう言って通話を終了するシンディに吃驚(びっくり)して物問いたげな顔を向けると、事も無げに返された。

 「カードを()るときにちょっと世間話をしたっすよ、声のトーンや喋り方、イントネーションの癖を知りたくて……声帯模写は変装術の基礎中の基礎だから、シンディに取っちゃ朝飯前の楽勝っすね」

 「初歩の基礎講座の座学で散々練習したっすよ!」


 パソコンから電話のコール音が響く。

 「ほら来た、折り返しの確認すっ」、シンディは即座に通話をオンにした。


 「ハイ、東京テレコム・サービスお客様対応窓口です、家電製品修理のご依頼からリフォームに関するご相談までこちらでお伺い致します」

 今度は低い、丸で小父さんが話してるんじゃないかって声音だ。


 「えっ、ああ……はい、はい、ちょおっと確認しますんでお待ちくださいね」

 「……はい、確かにトラディショナルタワーの376号室に伺う予定になってますね、ええ、明日です、午前中にお伺いすると思います」

 「はい、間違い無いです、小泉さんからの依頼で……よろしくお願いします」


 こいつ、有能過ぎる……通話を切った後も暫く、交換留学生のインターンシップだと言う職場体験の娘を、茫然と見詰め続けていた。




 ――――業務時間終了後、俺は臨時の助手を誘って行き付けの立ち飲み屋、六本木の芋洗坂にある路面店、ショット・バー“ロンジン”で一杯引っ掛けていた。

 硝子張りでこちらの姿が表から丸見えだってのに俺のお気に入りなのは、長っちりをしたく無いのと安月給の懐具合に()る。

 其れ成りに良い酒も置いてるんだが、リーズナブルにも楽しめる良心的な店だ。


 「初めてっすね、先輩が飲みに誘って呉れるなんて」

 「あれすかぁ、わたいの超ナイスバディに惚れちゃったとかあ……口説かれるのは(やぶさ)かじゃないんすけど、大火傷(おおやけど)しても知りませんからね!」


 「バカ言ってんじゃねえ……それより、シンディ、お前は一体何もんだ?」

 「お前の実力を見ているうちに、カリフォルニアの留学生なんて建前(たてまえ)は嘘に思えてくる……本当は何か裏があるんじゃねえのか?」

 俺はいつものグレンフィディック12年のシングルモルトを舐めるように(すす)りながら、こいつの正体を見極めようと()め付けた。

 こいつ、仕事帰りの変装した宅配業者の作業着のまんまじゃねえか!


 「先輩、もしかしてハードボイルド系が好きっしょ、古典すか?」

 「やっぱレイモンド・チャンドラーとか読んじゃう人……それともローレンス・ブロック……コスビーの“すべての罪は血を流す”も良かったすよね?」

 こいつ、庶民には高嶺の花のサントリー“山崎50年”を頼んでやがる……一杯数十万円もするのに、成金か何かか? 分不相応って言葉知らねえのか?


 「あれっしょ、先輩、フィリップ・マーロウに憧れて探偵目指した口っしょ」

 幼稚過ぎる志望動機が恥ずかしくて、誰にも言えなかった秘密が、こんな小娘に図星を突かれると動揺しない訳にはいかなかった。


 「あははっ、先輩分かりやすぅ、顔に出易いって言われません?」

 俺は無言の抗議をするしかなかった。


 「怒んないで下さいよぉ……お詫びに一杯(おご)りますからあ、オーナー・バーキーパーのカナちゃんでしたっけ?」

 「さっき仲良くなったんすけどぉ、マッカランMのラリック社製クリスタルデキャンタを落札したんですって、気前良くショットで飲ませて呉れるそうっす」


 こいつ、本当に資産家の娘かなんかか?

 幻の山崎50年もぶっ飛ぶが、絶対一杯数万円はする筈だ!

 マッカランMのデキャンタだぞ! 好事家だったら絶対封は切らない……資産価値が落ちるからだ。



 江戸っ子は宵越(よいご)しの銭は持たねえ、とか訳分からん時代錯誤の啖呵(たんか)を切ったシンディは随分と気前が良かった。

 現金なもので続く2杯目、3杯目に“山崎50年”を振る舞われた俺は、男前なシンディ様の下僕に為ってもいいかなとほろ酔い加減で、節操無く考えていた。




 ***************************




 私には鷹乃羽(たかのは)財閥の創業者の門閥、忠美(ただみ)家の養子になる前の記憶が無い。

 幼い頃の出自と経緯が丸で無い。

 何処で生まれたのか、どう言った血筋だったのか、どうして天涯孤独になったのか……遠い親戚の両親が事故で二人とも他界して仕舞ったとか、適当な作り話を長じるまで吹き込まれたが、私には最初から嘘話だと分かっていた。


 どうしようもなく悲惨なことが有ったのだと、漠然とした情景が刻まれていた。

 だが、どうしても思い出すことが出来なかった。

 華族の系図だと言う忠美(ただみ)家には世襲で仕える使用人も沢山居たし、規律正しい家令やメイド達を初め、私と養子縁組して呉れた義理の両親も何も教えて呉れなかったし、況してや親戚筋など堅く口を閉ざしていた。

 どんなに探りを入れても駄目だった……もしかすると、この人達は本当のことを知らないのかもしれない。



 高校で出会った小泉秀雄と言う名の同級生は、そんな私の過去に閉ざされた(かたく)なな心を初めて理解して呉れた。この出会いを、私は今でも感謝している。


 麻布代に在った私立済州館高校の初年度、今は珍しくなった噴水の有る中庭のベンチに能く読書をしてる男子が居た。私も自称文学少女ではあったが、文芸部には属さず(もっぱ)ら図書館派だった。

 別に孤高を気取っている訳ではなく、心に抱えた闇が他人との触れ合いに一歩引かせて仕舞うからだ。


 秀雄君……当時は旦那のことを、秀雄君と呼んでいた。

 秀雄と知り合った切っ掛けは他愛の無いものだった。中庭のベンチで読書する男子が読んでいたのが、私の好きな芥川龍之介だと気が付いたからだ。

 多分、新潮文庫の「藪の中」だったと記憶している。

 タイトルをチラ見して、同士が居ると心弾(こころはず)んだ私には話し掛けるのを我慢する理由が無かった。遠慮がちに声を掛けた私に、最初秀雄君は含羞(はにか)むようにベンチから私を見上げていたが、その屈託の無い無邪気さが当時の私を(とりこ)にした。

 読書の傾向も、好きな作家も共通点の多かった私達は次第に二人で居ることが多くなった。(ただ)、意外なことに(あら)ゆる方面に顔の広かった秀雄君は人に頼まれると嫌とは言えない性分で、私も巻き込まれることが度々(たびたび)だった。

 青春時代の多感な頃を共に過ごせたのは、私と言う人格を形成する様々な経験を能動的に受けれたことに他ならない。この出会いが無ければ、屹度(きっと)私は忠美家の跡取りとしての在り方に真剣に向き合って、頑張れて来なかっただろう。

 私は心から、この出会いに感謝している。


 私立の済州館高校には大学受験を目指す希望者の為の強化補習が2年生から受講出来たが、私も秀雄君も仲間達の多くも参加していた。

 夜遅くまで残って受験対策の学習に(つい)やして、定時制に通う学生の為に開放されていた学食で小腹を満たすことが多かった。私立には珍しく、就学支援金制度を取り入れていた済州館高校は働きながらも勉強したいと(こころざ)す若者にも門戸を開いていたので、私達よりも年上の学生とこの学食で知り合いになることが出来た。

 秀雄君は違った立場の子達との交際にも積極的で、この時の交流と見聞が有ったからこそ私の目指すべき道が見えて来たように思う。

 (ただ)、秀雄君が少しばかり化粧の濃い年上のお姉さんと仲良くしてるのは、(かたわ)らで見ていてモヤモヤした。


 親から名門忠美(ただみ)家の跡取りならば、婿養子を取る前に日本最高学府の雄、東京理工科大学に進んで見せろと御託宣(ごたくせん)が有った。その為の進学塾へ通う手配もコース選択も既に届出済みだと言う。

 ……忠美(ただみ)家の多くが東京理工科大学を卒業している。

 実は私の志望の一番も、ここ……東京理工科大学経済学部の優秀な教授陣の元で学ぶ理想も願ったり叶ったりで私に否やは無いが、(ただ)ひとつ、秀雄君と離れ々々になるのだけは避けたかった。


 思い悩んだ私は秀雄君に相談する。

 通う予定の河合台(かわいだい)予備校四谷教室は、可成り多額の入学金と授業料を要した。

 おそらく一般的な家庭だろう秀雄君のお宅には負担になるだろう。


 この時まで秀雄君のプライベートな事情に触れて来なかった自分の迂闊(うかつ)さと薄情さに愕然となった。

 中間、期末テストも随時実施される学力テストも必ず一番を捕る秀雄君の真の事情は、済州館高校の奨学金制度の枠で修学していると言う事実だった。

 二親を亡くした秀雄君は施設で育った。

 今も施設から登校している。成績優秀な立場をキープすることで学費を免除されているのだと言う。

 知らなかった……こんなにも自分の(かたわ)らに居て呉れる存在の生い立ちを知ろうともしなかった自分の馬鹿さ加減と、人との付き合い方の礼儀の為ってなさに私は初めて秀雄君の前で涙を見せた。


 「泣くなよ……別に隠してる積もりは無かった」

 「……四谷教室のことは、なんとかするからさ」


 私は(ただ)、申し訳無さと恥ずかしさから泣いて謝り続けることしか出来なかった。

 ご免ね、ご免ね、と繰り返す愚かな自分を覚えている。



 不思議なことに、どんな裏技を使ったのか2年の3学期から始まった開講日の初日、四谷教室の同じクラスに秀雄君は居た。

 秀雄君は、()()()()()()と言う言葉を守った。




 ***************************




 「うわあぁ~、エッチい感じっすねぇ、スケベ満艦飾、総天然色快楽御殿って感じじゃあないっすかあ? 」

 376号室の奥に進んだ瞬間、眼に入ったのはSMホテル顔負けの数々の淫らな設備だった。丸でその為だけに用意された淫奔(いんぽん)な空間は、見てるだけでも動悸がして来るように思われる。

 「うっひゃあ、すっげえなこれ、こんなんお尻に入ります、普通?」


 第一声、素っ頓狂な感嘆の声を発したシンディは、部屋の様子に見取れること無く、冷静に隅々(すみずみ)を物色し出す。

 「おい、家具の位置とかズレてたら怪しまれるだろ!」


 なんかの間違いじゃないかと思った。

 身辺調査を続ける内に浮かび上がる小泉沙代子の人物像は、家に在っては良妻賢母、家族想いで教育熱心な良き母、夫を支え、夫に献身し、どんなに忙しくても精一杯の出来る家事をする……そんな、世の中の女性の見習うべき手本のような人生を歩んだ。

 一方仕事人間として、確たる信念を持って日本経済を支える為に邁進した。経済の発展が日本国内の雇用拡大に繋がるとの持論が有ったようだ。実際、社内の有志を集めて経済研究会を立ち上げ、同じ(こころざし)を持つ後進の育成にも努めている。

 鷹乃羽(たかのは)グループの総帥(そうすい)の一家の養子になり、将来を期待されるプレッシャーを跳ね除け、独自に自分の居場所を創った。立志伝驀地(まっしぐら)の伝説を創ってる最中だ。

 そんな(ひと)が、こんな馬鹿みたいな真似をするだろうか?


 「撮影機材は有りませんね、流石(さすが)にここ迄しても映像を残すのは命取りとか考えたんすかね?」「大抵、不倫するような奴等(やつら)は自撮りしたのを見て興奮したり、撮ること自体に(たかぶ)りを感じる変態チックな嗜好が有るんすけどね……」

 家探しするシンディは執拗(しつよう)に、至る所(あまね)く、(くま)なく調べて行った。持ってきた脚立を使って高い位置まで探る。

 俺達は盗撮カメラを仕込む方で探す方じゃねえだろ?


 「最近は厄介で、スマート・ホームなんかの見守り機能が有ったりするっす」

 「指紋や痕跡は残さないから大丈夫っすよ、セキュリティ用の動作検知カメラとか有ったら藪蛇っすからねえ……一応、チェックしませんと」

 変装用の作業ユニフォームにサイズが無かったのか、ケツも胸もぱつんぱつんだな、こいつ……作業帽から(こぼ)れた金髪が揺れている。

 目立ち過ぎる容姿に、俺は溜め息を()いた。


 「これ、太くないっすか、すっげえな、これ!」

 「これをあの奥さんがねえ……どんな風に乱れるのか、ちょっと見てみたく成りましたね、俄然やる気が湧いてきたっす」

 シンディが特殊な形状のアナル・プラグを摘んで取り上げ、繁々(しげしげ)と眺める。

 ニトリル製のゴム手袋をしちゃあいるが、よく触れるな?


 おいっ、臭いを嗅ぐな! 正気か、こいつ!


 ……(やが)て本来の目的を思い出したシンディは楽しそうに北叟笑(ほくそえ)みながら、遠隔操作の効く静音駆動の4K高解像度のカメラと無指向性盗聴マイクを淡々と仕込んでいく。その様子が何処か不気味ですらあった。

 「うふっ、うふふふっ、……楽しくなって来ましたねえ」


 ふと手に取ったボング……簡易的な水パイプが気に掛かった。

 嫌な予感がする、こんなものを使用するのは(ろく)でもない場合が多い。

 調べてみようとしたら、シンディが奪い取って臭いを嗅ぐ……こいつ、臭いを嗅ぐのは習性か!


 「ブロッコリーすね」

 矢張りそうか、最悪だ……



 「ん、お客さんみたいっすね……それも、どうやら好ましくないタイプの」

 急に振り返るから何かと思ったが、その途端に言われなければ気が付かなかった程の、玄関が開く(かす)かな音がした。

 続いてのそりと言う感じでリビングに入って来たのは、(いか)つい顔付きのダークスーツの男が3人……無言で入ってくる姿が堅気(かたぎ)じゃない。

 特徴の無い無個性な相貌と無表情だが、いずれも身長が高く、鍛え抜かれた身体にスーツがはち切れそうだ。


 「どちら様っすかあ、ここは小泉さんのお宅っすよ?」


 「「「……………」」」


 「だんまりっすか、プロの臭いがプンプンするっすね?」「問答無用ってことは非合法の筋ってことでいいっすか……なら会話は不要っすね」


 出口を(ふさ)ぐように広がる不審者に、次の瞬間、シンディが宙に舞った!

 何が起こったかはっきりは見えなかった、空中跳び回し蹴り?

 驚く間も無く、3人が昏倒する……転倒する二人の頭部が床に強打しないよう、着地したシンディが()つかる前に支えた。三人目が仰向けに倒れるのを素早く足で防いだ。曲芸か?

 剰りにもアクロバティックな動き……風切(かざき)り音が有ったのか、服の擦過音(さっかおん)が有ったのか、一瞬のことで覚えていない。


 「血痕が飛ばないよう注意しましたが、念の為打痕(だこん)とか争った形跡が残って無いか見て貰えるっすか?」


 「どっ、どっ、どっ、どうすんだ、これ!」

 行き成り何して呉れてんだ! 普通、何も聞かずに攻撃するかっ?

 「不法侵入の上に傷害罪だろ、ああ、俺はもうお終いだ……洒落(しゃれ)にならん!」


 「落ち着いて下さいよう、こいつら絶対警察沙汰にしたくない関係だから」

 気が付けば気絶した3人の懐を(あさ)るシンディが、背広の内側の改造防弾ベストや初めて見るタイプの伸縮警棒、ショルダーホルスターで携行した拳銃を示した。

 「この掌底と母指球部の拳胼胝(けんだこ)見てくださいよ、海兵隊式マーシャル・アーツで能く出来る奴です……どう見てもチンピラじゃないでしょ?」


 「ハム(公安警察)じゃないのか?」


 「身分証を持ってませんし、免許証は(おろ)かクレカの(たぐ)いまで、IDを特定するものは一切身に付けてません」

 「第一、日本の警察関係はチェコスロバキア製Cz75前期型ショートレイルを正式採用してないっす、しかもこいつ、サイレンサー取り付け用の螺子(ねじ)が切られてますね、純正バレルを交換してるっす」

 手慣れた所作で、シンディは銃の遊底を引いたり()めつ(すが)めつ調べ出した。


 「……古い銃っす、スライドもチャンバーも製造刻印を削り取ってるっすけど、今時こんなのを後生大事に信奉してるのが新興ヤクザの筈がない」

 「スマホの履歴も……残って無いっすねえ、多分、賭けてもいいっすがシリアルやアカウントも改竄(かいざん)されてるっす」

 「十中八九、秘密組織の連中っしょ」


 「そっ、そう言うお前はなんなんだ! さっきの格闘術っ、どっかの国の非合法工作員か何かなんじゃないのか?」


 「はあ? あの程度の護身術、普通は探偵学校で習うでしょ?」

 絶対嘘だ! 絶対有り得ねえ!

 演技か? 演技なのか、その、()()()()()()()()()みたいな顔は?

 “馬鹿なの、死ぬの?”ってジト眼は止めろ、思わず俺の方が常識知らずって勘違いしちまうだろうが!


 「それはそうと、ちょっと厄介に成りましたね……こいつらを残してズラかる訳にもいきませんし、連れて帰って拷問して、正体と目的をはっきりさせないと今後の方針も立てられないっす」

 もういかん、もう付いていけねえ……俺は本気で、今の異常な状況を社の調査本部に報告して、どう対処すべきか指示を仰ぐべきだと思った。


 「建物内外の防犯カメラを全てハッキングするしかないっすね、撤退ルートをシュミレーションしてランダムチョイスした別日の同時刻の映像を繋ぎ合わせてループ加工、外部カメラは雨の日の素材は使えない」

 「エレベーター内はAI加工、いやこの時間帯なら無人の箱……その為には各フロアのエレベーターホールで誰も乗ってない中層階用の箱を選ぶ必要が有る?」

 「そもそもわたいらが退出する記録も残さなきゃいけないし……面倒臭いけど、この場から細工を始めた方が良さそうっすね」

 そう言うと、いつの間に忍ばせていたのか工具箱から改造版ノートPCと高性能モバイル・ルーターを取り出した。


 「まずこのフロアの通路に1箇所、共有スペースA、C、Dに各1、この階と地下のエレベーターホールに1箇所ずつ、常駐警備員が居る事務所の前の業者用搬入通路に1、駐車場に2箇所……管理会社の防災センターサーバーから必要なデータを持ち出し可能な動画ファイルに変換、自動コーデックに圧縮して手許にダウンロード、それぞれの箇所の通過時間約3分程度を動画加工ソフトで編集し、回線を乗っ取ってリアルタイムの信号と差し替えるっす」

 話しながらも次々とサイバー・セキュリティを突破して、既にダウンロードを開始している。時間は掛かったが動画のダウンロードに成功する。

 作業時間短縮の為に隠していた2台目、3台目のパソコンを取り出す。


 バケモンだな、こいつ!




 ***************************




 大学受験の勉強を見てやったのも、彼女がキャンパスライフを実り大きなものと感じられるよう仕向けたのも、全て僕への依存度を高める為のものだった。



 早くから在野に広がっていた黒薙(くろなぎ)一族は社会の(あら)ゆる方面に浸透している。

 先を読んだご先祖様が、一族の一部を在野に解き放っていた……天下の趨勢(すうせい)を握ることが、(やが)て生まれる神人(かむんど)の頂点を(いただ)くのに都合が良いと考えたからだ。

 法曹界、政界、金融経済界、文学界、防衛省、出版放送メディア、医学に化学研究最先端、フォーマル・サービス分野、各種学会を含めた文化教育面、外交、非営利団体のコンソーシアムに至る迄、考えられる全てのゲゼルシャフトに広範に広がっている……それも中枢に喰い込むよう、多様な分野に於いて。

 それこそ店舗プロデュースから調理学校経営まで多肢に渡り、今の日本はおそらく黒薙(くろなぎ)家と言う裏から支配する一族が居なければきっと真面(まとも)に機能しない。

 (ただ)ひとつ、警察関係だけは昔に里を捨てた赤薙(あかなぎ)家が牛耳っていた。


 僕が育った私設の児童養護施設、“萩香院(しゅうかいん)”も丸ごと、そんな黒薙(くろなぎ)家が運営する場所だった。“神人(かむんど)の里”を焼いた日、僕の両親は騒乱の内に(やまと)宗主本家の手の者に返り討ちになり、二人とも亡くなった。

 10歳だった沙代子様は僕の祖父の一家が身柄を確保し、記憶を封印した。

 安全な里親を()てがい、陰乍(かげなが)らその成長を見守る。


 今は用意された戸籍で年齢も(いつわ)っているが、僕が二親を失った当時は13歳だった。実年齢でも仮の年齢でも、曲がりなりにも普通の社会生活に馴染む為にはまだまだ保護者が要る未熟な歳だった。

 母の妹だった香苗(かなえ)叔母さんの世話になる道も有ったが、用心には用心を重ね、血筋を辿れない遠い親戚を保証人に施設で暮らすことを選んだ。

 無論、叔母さんや叔母さん一家、里で顔馴染みだったその他の親類筋も連絡こそ頻繁に取れないものの、僕の生活を不自由が無いよう支えて呉れた。


 黒薙(くろなぎ)の悲願……神人(かむんど)宗主の未来予知や御託宣の能力に、黒薙(くろなぎ)家の心眼や神獣化に因る尋常ならざる怪力や不死身性の異能を掛け合わせて、完全なる新人類を生み出すことこそが一族の意思だった。(やまと)の血筋は長い親子婚、兄弟姉妹婚などの狂った近親婚を繰り返した為に、外からの婚姻では子が出来にくい。

 (ただ)ひとつ、櫻紋を持つ巫女なれば族外婚での受胎が可能だった……その予言こそが、黒薙(くろなぎ)家の伝書に記されている秘密だった。


 そして沙代子様が生まれる。

 櫻紋こそ有ったが、何もそれらしい能力を発現しない沙代子様は間引きの運命が迫っていた……黒薙(くろなぎ)家の当主だった僕の父親は里の一族を秘密裏に(まと)め上げ、(やまと)本家に夜討ちを掛ける。

 敵も味方も多く失ったが、この日、沙代子様を除いた(やまと)の血筋は滅びた。


 そして当初の計画通り、彼女に黒薙(くろなぎ)(たね)を仕込む長期作戦が実行に移される。

 この時代で最も黒薙(くろなぎ)の家の血を色濃く引継ぎ、最も優秀な子種を有し、年の近い男子だった僕がその役を負っていた。

 中学生の年頃だったが、自慢じゃ無いが当代の黒薙(くろなぎ)で強さを競えば僕の右に出る者は居なかった。刺客のお役目で里の外に出ることも有ったが、初めて人を殺したのは確か6歳の誕生日前だったと記憶している。

 身内の中では、“黒き死神”と言う二つ名まで有る。


 明治時代の華族を祖とする一族に貰われて行った沙代子様の動向を知るのは、一族が(くさ)と読んだ下目付役の(もたら)す情報だけだったが、愈々(いよいよ)満を持して高校デビューの歳になった。年齢を(いつわ)るズルを抜きにしても、聡明さでも(まさ)る僕の学力は全国でも抜きん出ている……それも黒薙(くろなぎ)家での自分の能力のひとつだった。

 高校受験の全国統一模試で偏差値80を叩き出している自分に取っては、多くの資産家や旧家の富裕層の子息子女が通う済州館(さいしゅうかん)高校の実態が黒薙(くろなぎ)の息が掛かる学び舎だったとしても、余裕の実力で進学出来た。


 沙代子様と懇意になるのに然してテクニックは必要無かった。

 (くさ)からの報告で文学少女気触(かぶ)れなのはリサーチ済み、芥川龍之介のファンとなれば澄江堂主人ちょうこうどうしゅじんとしての文芸活動の逸話や、著書“侏儒の言葉”の()()()()()()()に対する蘊蓄(うんちく)を語ってやれば、興味は一発で傾いた。

 高校時代は清い交際を心掛けた。

 叔母の香苗さんから黒薙(くろなぎ)流閨房術の秘伝を手解(てほど)きされていたが、若い頃から淫気を開放して仕舞えば、沙代子様は不図(とんだ)色情狂に成り兼ねない。

 (やまと)家の人間は男も女も色を好む……それはもう、遺伝子的に植え付けられた本能と言ってもいい。一般的な子孫繁栄とは異なる目的で子を為さねば成らなかった宿命なのか、将又(はたまた)多産を善しとする精神改造なのかは今となっては知る(すべ)も無いが、(やまと)家の者は例外無く強迫的性行動症……詰まりセックス依存症だった。


 僕は行動心理士としてカウンセラーを学んだこともあるので、沙代子様のそっち方面の緩和ケア療法として、依存相手である僕に対しトラウマ級の深い感銘を刻むと言う手段を取った。それにより、例えば沙代子様にその場限りの性衝動が起きた

としても僕と言う存在がブレーキを掛ける筈だからだ。


 僕は(わざ)と表向きの生い立ちである施設育ち、と言う不遇を(よそお)った仮の身分を明かしていなかった。

 ……想定の範囲内で、名実共に彼女の実家となった忠美(ただみ)家は、東京理工科大学受験と言う難関の為に彼女へ超名門進学塾への通学を勧める。

 案の定、僕との時間が少なくなるのを危惧した沙代子様は塾通いの件を相談に来る。そこで初めて、僕は今迄触れて来なかった苦学生と言う恵まれない立場を説明する……彼女には想像も出来なかった努力の人と言う作られたイメージは、自分を不実と責めて嗚咽(おえつ)する醜態を見せた。

 実際は普段の会話で僕の私生活には触れないよう、触れないよう、誘導していただけだ。沙代子様はチョロかった。

 温室育ちの鳥籠娘(とりかごむすめ)、人の世の裏側を見ようともしない箱入りは、赤児のように(だま)され易かった。


 河合台(かわいだい)予備校に黒薙(くろなぎ)伝手(つて)は無かったが蛇の道は蛇、どうとでもなる。

 裏から手を回し、沙代子様と同じクラスの受講生に金を積み、更に代わりに得られるインセンティブを示して枠を譲って貰った。

 黒薙(くろなぎ)式潜入術は相手の(ふところ)に入るコミュニケーション術を基本とする。

 予備校でも友達を作り(まく)って、人脈作りに努めた……その中心に沙代子様を据える。理想的な学生時代かどうかは分からないが、沙代子様の人格形成はなるべくノーマルなものであって欲しい。

 以前より笑うようになったのは、好い傾向だと思う。



 同じ東京理工科大学に進んだが、彼女は自分の理想を追い求める為に経済学部に席を置き、僕は日本の技術力最先端とも言える理学部を選んだ。

 少し沙代子様と距離を置きたかったのだ。


 例の(やまと)家の女は全て淫売の血筋って問題に、予防接種が必要だと思ったのだ。

 ヤリサーなど何処の世界の話だってくらい、軟派とは縁の無いキャンパスだったが其れ成りに異性との出会いが有るのが大学生活だ。

 沙代子様と()を成すのは決められたレールの上を走っているようなものだ。

 だが、疑似恋愛を経験させてやるぐらいはせめてもの情けだった。



 少し仕込みだってしたのだが、残念ながら学内に溶け込んだ(くさ)に見張らせた限りでは彼女が誰かと肌を重ねた昼間のアバンチュール……厳しい家柄だから外泊などは出来ない環境だったから、機会があるとすれば講義の無い時間かサークル活動、他大学との交流を深めるインカレ形式の合同研究室への参加などだが、いずれも空振った。昼間の時間帯の制約が(かせ)となったのか、大学時代、誰かとその場限りに逢

瀬を楽しんだと言う事実は無かった。



 僕への依存度がここ迄高かったのは計算外だった。

 離れて暮らすキャンパスライフは逆に僕への気持ちを(つの)らせる結果になった。

 人を(した)う気持ちは尊いもの……少し薬が効き過ぎたか、本気でそう思っているような(ふし)が有った。

 僕は社会に出て目立つよりも大学院へ進むつもりだったが、沙代子様が卒業すれば結婚する手筈が整う。

 しかしここ迄手玉に取っておいて、処女妻を(めと)るのは少し気が引ける。


 社会人になれば更に男女の出会いは幅広くなる。この際、媚薬でもなんでも使って沙代子様に経験させておくしかないか?




 ***************************




 業者が通る受付の警備員室を、表のコミュニティガーデンで捕まえた土鳩を放り込むと言う奇策で通り抜けた。どさくさに(まぎ)れて忍び込み、入退室管理用のタブレットの記録をシンディが神業のような素早さで細工する。

 不審者3名の入館記録が正規のものか確認すると共に、痕跡を削除……(ちな)みに防犯カメラの記録はサーバー内のデータを差し替え済みだ。

 万全じゃないが、万が一捜査の手が及んだとしても怪しげな連中の身元確認は遅れるだろう。


 驚くべきことにプロレスラーかと言う体重80キロ超えと思われる意識の無い男3人を抱えて、シンディは信じられないスピードで脱出ルートを移動した。

 最初一人を任すと言われて(かつ)ぎ上げようとしてみたが、だらしなく蹌踉(よろめい)てもたつく俺を見兼ね、全ての運搬を買って出たのだ。


 「火事場の馬鹿力って、知ってるっすかあっ!」

 文句ひとつ言わず、(ただ)黙々と、両肩に担ぎ、一人を背中に(くく)り付けて器用に交差させた袖口を口に(くわ)えながら素早く動くこいつは、本当に化け物だと思った。

 (うめ)きもせず、息も乱さない。


 ……シンディ君の指示に従うように。

 自社の調査本部に電話したら、そんな思ってもいなかった返事が返って来た。

 自分の耳を疑って、(しば)し呆然と固まるしかなかった。

 流されるようで嫌だったが、社の意向となれば仕方ない……俺はヤバイ綱渡りと知りながら、シンディと行動を共にすることにした。

 既に一回、用事を済ませた修理業者として出ていく形跡を残してから引き返しての脱出行だ。その間放置するのに、完全に意識を失ってる奴等に猿轡(さるぐつわ)を噛ませ、後ろ手にした両手親指同士を()げるかと思う程タイラップで縛り、気絶してるのをいいことに足首の関節を外すと言う念の入れようだった。

 気絶してても激痛で飛び起きるんじゃないかと思ったが、熟達した関節整復師なら無痛で施術する技に精通するんだとか、訳分からん説明をされた。


 人間て、ここ迄残酷になれるんだな………

 眉唾(まゆつば)かと思ったが、シンディは運び出す前の侵入者3人に対し、更に深く眠らせるとか言う経穴を何箇所か突いていた。

 「中国三千年の奥義、経絡秘孔の秘術を舐めないで欲しいっすね……まっ、用心に越したことはないんで」



 「()けられてますね、仲間かな……?」

 失神してる3人に睡眠誘導剤を注射しながら、そう呟いた。


 適当な電設会社に偽装したワンボックスに、見付からないよう大の男3人を押し込むと、ミダゾラムと言う睡眠誘導剤で眠って貰うと行き成り注射器の用意をし始めた。(とが)めると、自分はドクター資格持ちだから何も違法性は無いと、しれっと言い訳をした時だった……油断無く外の気配を(うかが)う、シンディの人一倍鋭い嗅覚が何かを(とら)えたらしい。


 「バックアップ部隊でしょうか? 思ったより大きな組織のようっすね」

 「少しここを離れましょうか、トラディショナルタワーさえ離れて仕舞えばどうにでも料理出来るっす」


 追跡者の有無を信じられないまま、俺は言われるままに首都高に乗って湾岸線からグルグル環状を走り回り、結局江東区清澄(きよすみ)辺りの寂れた倉庫街に出た。

 途中給油して日が暮れるまで見えない尾行者を撒きもせず引き摺り回したのは、相手方の集中力を途切らせるのと夜陰(やいん)(まぎ)れた方が何事も遣り易いかららしい。


 「わたいが片付けて来ますから、ここを動かないで欲しいっす」

 そう言い置いて車を離れてから戻って来る迄の小一時間、俺は生きた心地がしなくてガタガタ震えながら待った。

 車を止めた廃屋のような倉庫の裏手の空き地には、遠くの街灯の明かりも届いておらず、夜の8時ともなれば真っ暗闇に等しかった。食べ(そこ)ねた昼の代わりに途中立ち寄ったドライブスルーのハンバーガー屋で仕入れたセット・メニューも、咽喉を通らず放置してある。

 静けさの中で伝わって来る遠くの車の喧騒や、小さく(またた)くハーバーライトの明かりが現実感を遠ざけていた。やけに自分の呼吸音が(うるさ)く聴こえた。

 緊張の余り、吐きそうだ。


 突然勢いよく引き開けられたワンボックス・カーのドアに、心臓が飛び出る程に驚いた。情けなく弱々しい悲鳴が、口から漏れた。

 「……死体を埋めるのに手間取ったっす、ファイブ・マンセルの小規模のチームでしたが、サンボの達人だった護身術の先生直伝のサイレント・キリングの腕前には呆気(あっけ)なく沈みましたね」


 「こ、こ、こ、こ、殺したのかっ!」

 驚天動地(きょうてんどうち)、殺人罪の共犯で指名手配される未来が垣間見えた俺は、一瞬で血の気が引いた……嫌な脂汗が噴き出て来るのが、自分でも分かる。

 もうお終いだ、なんで俺はこんなのと一緒に仕事したんだろう!

 「嘘だろ……?」

 俺はもう逃げ出したかったが、何処へ逃げればいいのか見当も付かなかった。


 「大丈夫っすよ、絶対身元が割れないよう、入念に顔も潰しましたし指紋も削りました……所持品もほら、全部取り上げてあるんで」

 何が()()()なのか、安請け合いするこいつが何処か見知らぬ世界の血も涙も無い残忍な怪物に見えて来る。

 何処から拾ってきたのか、大き目の麻袋を示して見せた……財布から武器まで全て回収してあると言う。酷薄な遣り方だ……こいつ、本当に人間か?

 入念で手慣れたこいつの遣り方に思わず寒気(さむけ)がした。


 「片付ける前に最後の一人を捕らえて吐かせたっす、痛覚の神経を直接(いじ)る鍼灸術を心得てるんで、平和ボケした日本のエージェントなんて未熟過ぎて笑っちゃう程弱っちかったっすね」

 戦利品の麻袋から銃器を抜き出して、何かガチャガチャ始めるシンディ……稼働を確かめてるんだろうか、剰りにも手慣れ過ぎていて不気味だ。


 「これからどうする気だ?」

 動転し過ぎた俺は、知りたくも無い質問をして仕舞った。


 「相手方の本拠を叩きます、今回の件から手を引かざるを得ない迄に徹底的に弱体化させて、完膚無き迄に叩き(つぶ)すっす」

 何言ってんだ、こいつ! 暴力団の組事務所にカチコミ掛けるのと訳が違うんだって、分かってんのか、こいつ!

 あっ、いや暴力団事務所だって正気の沙汰じゃないんだが!


 「後ろの奴等も始末するっす……もう生かしとく必要も無いんで」

 「埋めますから少し待って欲しいっす、息の根止めるの見たくないんなら車に居て欲しいっす」

 事も無げに恐ろしい決断を下すこいつは、もう人間じゃねえ!

 ここ何週間かですっかり見慣れた筈の、黒縁眼鏡で自分勝手マイペースの金髪ネーチャンが、見知らぬ魑魅魍魎(ちみもうりょう)(たぐ)いに見えた。


 「なんでここ迄する? 俺達は浮気調査をしてた筈だろ?」

 弱々しく問い掛ける俺の声は自分でも吃驚(びっくり)する程小さく、そして震えていた。


 「えぇ~、だってええ、あの取り澄ました小母さんがドエロ変態不倫の浮気マンコで無様に悶える様子を、皆んなに見せてあげたいじゃあないですかあ、その為に邪魔な障害を取り除いてるだけっすよお?」

 本気か? そんなことの為にここ迄するか?

 人まで殺したんだぞ、可笑しいだろ、こいつの価値観!

 目的の為に手段を選ばずの範疇(はんちゅう)を完全に間違えてる。


 「あぁ、大丈夫っすよ、先輩のことはちゃんと守ります」

 「先輩が警察のご厄介になるなんてことは、このシンディ姉さんの眼が黒い内は絶対に有り得ませんから……天地神明(てんちしんめい)に誓って、約束するっす」

 何言ってんだ、こいつ?

 大量殺人鬼だぞ! 犯罪者が何を保証するって言うんだ。


 「大船に乗った積もりでいて欲しいっす!」


 泥舟の間違いだろ!

 完全に頭のイカれたシリアル・キラー女と相棒になったばっかりに、俺の人生はお先真っ暗だ……パニックになった俺は遮二無二(しゃにむに)シンディに(つか)み掛かっていった。


 大人しくしていてくださいっす……そんな言葉に、何処をどうされたのかも分からないまま、俺の意識は遠退(とおの)いた。




挿絵(By みてみん)




 夫は私の進むべき道を示して呉れた。

 同じ歳なのに夫は昔から博識で、何故か顔も広く老人顔負けの人生論を語らせたら円熟の哲学者の如しで、関東八大学のディベート大会でも彼の研究室が参加した場合は負け知らずであった。


 間違い無く私の青春時代は、夫に支えられていたと思う。

 ばかりか、忠美(ただみ)家に於ける我が身の(ぐう)し方には何遍もアドバイスして貰った。

 経済学部を履修したのも、そんな私の夢への第一歩だった。

 実家の経済基盤である鷹乃羽(たかのは)開発に自分の居場所を作る……そんな長期的なヴィジョンを想い描いたのも、理想を現実にする老獪(ろうかい)な遣り方を説いた夫に依るところが大きい。

 夫は私の知る限り最も多才で、しかもどの分野においても天才だった。

 もうこの頃には、添い遂げるのは夫一択しか考えられなかった。

 そう、心に決めていた。


 大学時代、同じ学部に済州館(さいしゅうかん)高校から進んだ顔見知りが居た。

 高校時代は夫の仲間内の一人だったが、はっきり言って自信過剰が鼻持ちならないタイプの男の子だった。夫は来るもの(こば)まずで、多少人格に問題が有っても平等に付き合った。

 柏崎幹雄(かしわざきみきお)は何を演っても夫には(かな)わなかった。

 成績は言うに及ばず、美術部で高校生全日本美術展に応募する機会が有って応援を頼まれた夫に対抗心を燃やした柏崎が参戦してきたが、夫が見事最優秀賞に選ばれたのに対し柏崎は一次選考にも漏れた。

 晴れがましいことを嫌う夫はリッツ・カールトン高輪での授賞式にさえ行かなかった。ピアノを弾かせれば夫はプロ顔負けの腕前で、私は実家が実家だっただけに招聘(しょうへい)された国際的ピアニストのリサイタルにも能く行ったので耳は肥えている……夫の演奏は世界レベルでも遜色(そんしょく)無かった。

 実際、在学中だと言うのに何処から聞き付けたのかニューヨークのジュリアード音楽院からオファーが掛かったことが有った……無論、夫は辞退して呉れたが。


 何を演っても勝てない、自己肯定感と自尊心の塊のような柏崎には耐えられなかったのだろう……(やが)てインスタやツウィート、Facebookと言ったネット・サブカルチャーの世界でマウントを獲ろうと足掻(あが)き始める。


 教養学部の有った三田園(みたぞの)校舎にはJRの谷原町(やはらまち)駅や地下鉄、もしくは都バスを利用する学生が大半だったから最寄りの商店街は通学路と言うこともあり、丸で学生街の様相を呈していた。

 私は運転手付きの小型リムジンで自宅から通っていたが、他の学生に見咎(みとが)められるのが嫌で学生街の(はず)れで乗り降りするのを常としていた。

 夫とは能くこの辺りで待ち合わせて喫茶店デートをしたものだが、学部が違うので余り頻繁には逢えなかった。

 そんな学生生活の中、私が所属する日本経済史研究の同好会に柏崎幹雄が入会して来た。なんだか初めから下心剥き出しで、テニスンの詩だか何かを(ささや)くこいつが嫌で(たま)らなかったのを覚えている。草刈なんとかって言う俳優の若い頃に似てるって周りが褒め(そや)しているのも気に入らなかったが、相談した夫は明白地(あからさま)に邪険にしてやるなと忠告したものだ。

 夫(いわ)く、世の中の気に喰わない人間を全て敵に回していたら其処いら中敵だらけになって仕舞う……それより相手が何を考えて、何を感じているのか理解しようと努力する方が何万倍も前向きだろ、そうして得た考察から懐柔策……いや、理想的な打開策が生まれる。

 ……この時の夫の教えは、鷹乃羽(たかのは)開発グローバル事業部営業本部長の役職に()いた今も忘れないようにしているし、実際に役立つ有益な考え方だと思っている。


 そう言えば、夫に性的欲求について打ち明けたのもこの頃だ。

 私がオナニーを覚えたのは大学入学し立ての頃だから、平均より遅いと思う。

 休みの日は日がな一日、夫の事を考えてオナニーに(ふけ)っていると告白するのに当時の夫は、そんなに切なければ栄誉ある君の初めてを散らす役を買って出ないこともないし指南もしてやれるが、なるべくなら純潔は大切に取っておいた方がいい、と(さと)すだけだった。

 大学時代の夫は学問三昧で(今もそうだが)、女性関係が有ったとも思えないがそちら方面の経験が豊富なのかは怖くて訊けなかった。


 私には生来、男を寄せるフェロモンでも出ているのか、柏崎の他にも色々な男から声を掛けられた。自画自賛ではないが人並み以上に容姿も優れていたからか、私の素性を知っても寄ってくる無謀で怖いもの知らずの虫も少なくはなかった。

 いずれも夫に比べれば頭の軽い有象無象(うぞうむぞう)に思えてお付き合いまで発展することは無い。夫に言われてからは素気無くはしないが、適度に距離を置く交友に留めるよう注意した。


 本校のある神田愛小和(あいおわ)町に移ってからも女としての未体験は変わらなかったし、相変わらず言い寄ってくる男に悩まされてもいた。

 或る日、悶々とした気持ちの迷いを沈めたかったのか、退講の道すがらに本校の近くに在った神田熊野天満宮(くまのてんまんぐう)に寄ったことが有った。

 神頼みなんて普段の私からは考えられないが、生理で不安定になっていたのと、本当に参っていたからかもしれない。


 蓬々然(ふらふら)と参拝していると、何処から現れたのか一団を引き連れた、年配の小袖に緋袴(ひばかま)、長い黒髪の女性に声を掛けられた……一目見て巫女職だと分かる格好だが、季節のアルバイトなどではなく神職に近い位置にいるのではないかと思われる(おごそ)かさが有ったし、第一凄く綺麗だった。


 「……もし、行き成りで不躾(ぶしつけ)ですが貴女には()()()()が出ています」

 「宜しければ、お(はら)いをして進ぜましょう……手間は取らせませぬゆえ、どうぞ奥の拝殿までいらしてください」

 神職でもないのに厄払(やくばら)いをすると言う怪しげな巫女様と思ったが、そうか、“男難の相”かと、不思議と納得する部分が有った。

 遠慮する間も固辞する間も無く、付き従った若い巫女達に案内されて奥まった拝殿に連れて行かれた。大幣(おおぬさ)神楽鈴(かぐらすず)を用いた(はら)いの神事が執り行われたが、最後に形代(かたしろ)を封じてあると言うお守り袋を渡された。


 「肌身離さず大切にしてください、これは貴女の淫気を(はら)います」


 私の淫気とはなんだろう?

 その意味するところの分からないまま、神田熊野天神を後にした。

 何か狐に摘まれたような気がしたが、あれ以来天神様に(もう)でてみても、あの不思議な巫女様を見掛けることは無かった。



 その後私は、柏崎幹雄や面と向かって交際を申し込んでくる、或いは臆面も無く口説いてくる男達に対してはっきりと、自分には将来を誓った意中の恋人が居ると宣言するようになる。




 ***************************




 何か気付け薬のようなものを嗅がされたのか、急に意識が浮上してくる。

 朦朧(もうろう)とする頭がズキズキして、何か(もや)でも掛かったようにはっきりしない。

 アンモニアのような刺激臭に気持ちが悪くなった……吐き気を(もよお)したが、朝から何も食べていない所為か空嘔(からえずき)だけだった。


 「今から殴り込みを掛けます、わたいの後ろに隠れるようにぴったり付いてくれば死ぬことは無いっす」

 気分は最悪だったが、更に追い討ちを掛けるように傍らには金髪、黒縁眼鏡の悪魔が(ひざまず)いていたから、一気に鬱系の気分に拍車が掛かった。


 「……ここで待ってちゃ駄目か?」


 涙目で懇願する俺に、無慈悲な死神は冷たかった。

 「それでもいいっすけど、先輩の身の安全を保証出来ないっす」

 「……断言してもいいっすけど、この状況ではわたいの側が一番安全っす!」


 行くしか無いのか? こいつと一緒に居ない方が余っ程安全な気がするんだが、駄目だろうな? 俺はもう発狂寸前だぜ……早く家に帰ってシャワーを浴びて、冷えた缶ビールが飲みたい。撮り溜めてる秋アニメも見てねえし……はぁ、現実逃避してる場合じゃねえな……


 「ゴチャゴチャ言ってないで、早く行くっすよ!」

 丸で朝寝坊したドラ息子を叩き起こす母親みたいに、シンディは一切感情の欠落した無情さで俺を引き摺り起こす。

 ちゃっかり身体の彼方此方(あちらこちら)(くく)り付けたホルスターに、殺した男達から奪った銃と弾倉を装備していた。

 アフガニスタンやイラクから帰って来た兵士がPTSDになる要因の八割方は、きっと状況を把握しない無謀な上官の所為(せい)に違いないって今なら分かる。


 「何処だ、ここは……?」

 夜更けの時間だと言うのに、車窓に差し込む明かりはやけに眩しく見えた。

 ワンボックス・カーを出てみると、日本人なら誰もが見慣れたビルがライトアップされ、内堀通りに走る車両の群れが夜中だと言うのに途切れない。


 「世界に誇る日本警察機構の象徴……警視庁桜田門本庁舎と道を一本挟んだ向かい側のビルっすね、裏は旧法務省の赤煉瓦棟っす」

 「食欲無いかもですけど、これ飲んどいてくださいっす」

 そう言って手渡されたのは機能性ゼリー飲料……俺の好きなバナナ味だった。

 一緒に飲まされたアミノなんとかって顆粒薬はゲロ不味(まず)だったが……


 「途中、牛丼屋さん寄ろうかと思ったんすけど、メンタル弱々の先輩、神経病んだか、グースカ寝込んでて全然起きないんっすもん」

 「今からそれじゃあ、年金暮らしの前にストレス症候群の仲間入りっすよ」

 俺の意識を奪っといて佳く言う、俺の神経が磨耗してるのは100パーセント、お前の所為(せい)なんだがな……建物の裏手に向かって、シンディは颯々(さっさっ)と歩き出す。丸で其処らのコンビニに買い物にでも行くようだ。

 無言で抜いた銃にサイレンサーを捻じ込むのは止めろっ、怖いから!


 「へへっ、ここのセキュリティは要塞か核シェルター並みに頑丈なんで、ちょっとは手薄な裏口を責めるっす」

 「ここ、名目は民間企業の警備会社で看板も掲げ、警察OBを斡旋するのを主業務とするって表向きはなってるんすけど、その実態は内閣直属秘密公安……聞いたこと無いっすか? 一般には知れ渡っていない影の非合法組織っす」

 裏の通用門と言っても立派なエントランスの硝子フロントドアが有った。

 堂々とアプローチ階段を進んでみても、人の気配は無さそうだった。


 「ここはせしめたカード・キーで突破出来るっす」

 「ほら、あそこ、裏側の通用守衛室も夜間は無人になるんでシャッターが閉まってるっしょ、ただし監視カメラはあそことあそこで24時間体制で集中警備コントロールセンターに見張られてるっす」

 硝子戸の中を指し示して色々と説明しながら、シンディは拝借したカードを非接触型リーダー端末に(かざ)し、続いてテンキーに長い数字コードを打ち込んでいく。

 裏口玄関の施錠が(はず)れる音がした。

 照明の落ちた薄明かりのホールに悠揚(ゆうよう)迫らず忍び込むと、直ぐにシンディはカメラを潰した。上に向けた射撃は難しいって何かで聴いたことがあるから、連射の一発ずつで仕留めたシンディの腕は確かなものらしい。


 無人の通路を奥へと進むと分厚い耐火扉のような場所に出た。


 「さて、ここから奥が本番す、転ばないで付いて来てくださいよ」

 腰に下げたポーチから何か奇妙なものを取り出した。手だ、人間の手を握っている。それは手首から先を斬り落とされた、人間の生手首だった。


 ヒィッイイイイイイイイイイイィィィッ、俺は声にならない悲鳴を漏らして、後退(あとずさ)った(はず)みで尻餅を突いた。


 「バッチくないっすよ、ちゃんと止血処理したっすから……指紋認証っす、最後の奴を締め上げたときに指紋認証のことを吐かせたっす、んで(つい)でに手首をちょん切って頂いてきたと……ここのベトンのような隔壁を突破するのも手首ひとつで事足りるなんて、天下の秘密公安もチョロいもんすね」

 もうこいつの精神構造には付いていけねえ、逃げたい、逃げなくちゃいけない、そんな本能的な恐怖に支配される俺を尻目に、シンディは壁に埋め込まれたスキャナーに手首の指を充てがった。


 バッシュウウウッと、油圧なのかなんなのかロックが解除される音がした。


 「しゃがんでっ! 来るっすよ!」


 途端に鳴り響く侵入者警報なのか、消魂(けたたま)しい局内サイレンが響き渡る。

 深夜に近いと言うのに何処から湧いてくるのか黒尽くめの男達が集まって来た。

 皆、銃器を手にしている。ここは法治国家日本じゃないのかっ!


 シンディが先に撃った。

 一人、また一人、(うめ)きもせずに男達が倒れて行く。

 俺はシンディの影に隠れて頭を抱えて震えていたが、敵の銃声が多いのか少ないのか、それさえ分からない迄に動転していた。

 シンディも体勢を低くしたまま、両手に消音器付きの拳銃を握って物凄い速度で撃ち捲っている。あっという間に弾倉を交換し、気が付くと確実に男達を倒していた。一撃必中、一発で相手の眉間を撃ち抜いてるようだ。

 眼を(つぶ)ったら死ぬ……そんな思いが俺の両眼を見開かせたが、図らずもシンディの卓越した戦闘技能を目撃して仕舞う。

 信じられないことに、シンディは応射する男達の機先を制して、丸で針の穴に連続で糸を通して行くような奇跡的な緻密さで絶命させている。

 多分、無駄玉は一発も無い。距離ではなく、応射しようと予備動作をする相手から順に(たお)している。


 「走るっすよ!」


 俺は座り小便でもしたいぐらいビビっていたが、ここで置いて行かれたら生きて帰れないと必死で後に続く。惨劇の割りに飛び散った血は少ないが、40人ぐらいは(たお)したんじゃないか?

 ウワアアアアアアアアアアァァァァァ――堪らず叫んでいた! 心臓が口から飛び出しそうだ。胸の奥から何かが迫り上がって来て、情けない悲鳴を上げてる自分の咽喉が詰まりそうだった。視界がぼやけて耳鳴りで音も巧く聴こえない、何かフィルターが掛かってるような感覚だった。

 何処だここは、紛争地帯か?


 奥へ、奥へと進む内にも会敵する相手を撃ち倒した。

 一見、奇抜な曲芸染みた動きをするものの、後から考えると理に(かな)っていて、シンディの進撃には一切の無駄が無い。

 敵が視覚に入る、詰まり視認さえすればシンディの速射に(かな)う者は居なかった。途中、拾ったり奪ったりした銃器の動作確認も(おこた)りなく遣るが感触だけだ……目線は周囲の状況確認に片時も離さない。

 アサルトライフル2挺を腰溜めに撃つのにも驚きだが、射程距離がどの位だか知らないが可成り遠くの奴まで撃ち抜いていた……照準無しで百発百中だ。

 弾倉のリロードも(かす)む程に(はや)い。

 物陰から銃口だけで(めくら)射撃してくる奴には、まず銃器を(はじ)き飛ばしていた。

 待ち伏せのブラインド攻撃には、先制してショットガンを斜めから撃ち込んで沈黙させた。見えなくても気配だけで人数や(しゃが)んでるのか立射の構えなのか分かると言う……嘘つけ、てめえ!


 「おっ、ブリュッガー&トーメっすね、良い装備してんなあ!」

 「うぇっ、こいつグリップになんか塗ってんなあ、滑り止めチョークのパウダースプレーか? ……まあ、松脂(まつやに)じゃないだけ増しかぁ」


 「先輩っ、ガスマスクの付け方、分かるっすか?」

 殺した相手からグレネード・ランチャーかな? を奪い取り、被ってたガスマスクを剥ぎ取って、俺に装着を(うなが)す。汗で粘る手を服で拭い、見様見真似で被ってみるが直ぐにシンディに直された。

 映画でしか見たことの無いフルフェイスのゴーグル付きの奴だ……シンディは次いでヘッドセット式のトランシーバーと、自分の分のガスマスクを手に入れた。


 「お前がバケモンだってのは能く分かったが!」

 「多勢に無勢……この弾幕の中、一発も貰わずに済む訳ないだろおおっ!」

 俺は大声で怒鳴った積もりだったが、実際には弱々しく(かす)れていた。


 「簡単す、撃たれる前に撃つっす」

 不可能なことを事も無げに言い切るこいつに、俺は全てを理解した。

 こいつは馬鹿だ! そして俺は今日死ぬ!


 「階段を使うっす、エレベーターは危険っすから!」

 途中、死体から回収した軽機関銃で降りてくる敵に先制する。

 パッパッパッパッパッパッと言う情けない音だったが、確実に敵は倒れた。

 奪ったランチャーで催涙弾だか発煙弾を各階毎にばら蒔いたので、煙突効果か階段もガスで真っ白になる。

 こいつ、拾った銃器で着膨(きぶく)れてんなっ、スリングだけで何本掛けてんだよ!

 3階、4階、5階迄行ったら廊下を走り出した。


 「同じ階段を使ってると集中してくるっす、登る階段を変えるっすよっ!」

 「傍受した無線だと、今あっちが手薄っす」

 夜中だってのに、どうしてこんなに人が居るんだ?


 幾つか階段を変え、撃っては進み、進んでは(たお)す小競り合いを際限無く繰り返して、給湯室近くのベンダーでモカ・ブレンドのホット珈琲を買って小休止、シンディは疲労困憊の俺の為にチョコレート・ナッツのカロリーバーを差し出した……(めぐ)んで貰ったそれは、少しグチャッと潰れていたが、極度の緊張状態に甘いものが美味かった。

 血も涙も無い殺人鬼じゃなきゃ、本当に先輩想いの優しい奴だ。


 チッ、――鋭い舌打ちに俺はまたチビリそうになる。

 「どっ、どうした、なんか(まず)いのか?」


 「マツキヨで買ったウォータープルーフ・マスカラがクッソ溶けてきたっす、4000円もしたのに!」

 「銀座五丁目店、今度、火を付けるっす」

 この女は本当に遣りそうで怖い……どうしてこんなに沸点が低いんだろう?


 「給料出たら、今度絶対落ちないマスカラ、探しにいこ、なっ、なっ?」

 生きて帰れたらの話だけどな……いかん、これ、死亡フラグか?



 ――16階まで辿り着いた。

 途中、一息()けたがもう膝が笑って走れそうもない。


 つい先程、籠城(ろうじょう)側(?)の最後の牙城を連射出来るショットガンらしきもので蹴散らしたが、最初に放ったスプレー缶のようなものが手榴弾のように爆発したのに

も驚いた……連写可能な散弾銃が世の中に有ることさえ知らなかった俺にシンディは言葉少なく説明したが、SRMアームズのなんたらってモデルは4本のチューブを操作して16発を速射することが可能で、爆発した手投げ弾はさっきガメたランチャーの男が持っていたパウダーのスプレー缶だと言う。

 眉唾な話だが、1射目でブタンガスの缶圧に破裂するのに合わせて、2射目で上手く火花を放ってやれば粉塵爆発を起こすらしい。


 もうこれで最後かと思ったら、更に何かスペシャリティーらしき連中が道を塞ぐように現れたのには、もう淹悶(うんざり)した気分だった。

 俺の生涯にはこんな荒事に巻き込まれる経験は無かったし、得意じゃないって泣いて頼んでもシンディは許してくれないし……


 「先輩、よく頑張ったっす……こいつらを蹴散らしたら目的の長官室は、直ぐ目の前っすからね」


 立ち塞がる人壁は5人程と少なかったが、何か異様な雰囲気に包まれていた。


 (ああおい目をしたおにんぎょはあ~、アメリカ生まれのセエェルロイド)


 端の奴だろうか、古い童謡を口遊(くちずさ)んでるのが不気味だった。

 高い、(かす)れるような声だった。


 「“OPリサーチ”とか言う興信所が嗅ぎ回ってるのに圧力を掛けた積もりだったが、退()きそうもない……どうも現場の調査員に直接分からせた方が早そうだと思ったんだが」

 「対処に当たってるチームからの連絡が途絶えた……正可(まさか)こんなに早くカウンター・アタックを仕掛けてくるとはな……お前、何もんだ!」

 真ん中に立つ(いか)つい指令筋らしい男が、シンディを問い詰める……いや、威嚇(いかく)してるのか?


 「スナイパーはこの距離じゃ役に立たないっす、右端のあんた、歌に幻惑の催眠を乗せる術者っしょ……その手の詐術(さじゅつ)はこっちが大声で唄えば破れるっす」

 「その隣の人はナイフ使いっすかね……立ち姿から見て赤薙(あかなぎ)流暗殺術っすね?」

 シンディが何を言ってるか分からなかったが、どうやら相手の得意技を言い当ててるようだ……相手方が心做(こころな)しか警戒したような気配が有った。


 「意外っすか、アメリカのディテクティブ・アカデミーも捨てたもんじゃないっしょ……日本の古流神道の流れを汲む赤薙(あかなぎ)黒薙(くろなぎ)白薙(しろなぎ)の三つの宗派が有るのは知れてるっす」……瞬間、相手の殺意が高まったような気がした。


 「ああぁおいい、めをしたあぁおにんぎょはあっ! ア・メ・リ・カうまれのおセエエルロ・イ・ドォッ!」……叫ぶようだったが、美しい声だった。

 意外にもシンディの声は歌姫(ディーバ)のようだった。

 急に大声量で唄い出すから何事かと思ったら、シンディの姿が(かす)んだ。

 今日だけで見慣れたが、残像を残すような素早さだ。

 着膨(きぶく)れる程の重装備も全く意に介さない。

 人間業じゃねえ!


 「この筋肉の付き方、南禅寺流(なんぜんじりゅう)活殺術……この中ではあんたが一番強いよね」

 「……もう、聞こえてないか?」

 飛び付き三角締めだと思う体勢の中で、黒尽くめの女が一人……女だよな?

 ……事切れたようだ。ゴキって音がしたのは首の骨が折れたのかもしれない。

 次の瞬間、消音器付きの拳銃の鈍い音が立て続けに起き、3人の眉間に穴が空いたかと思ったら、更に次の瞬間、真ん中に立っていた一際立派な身体つきの男の咽喉を斬り裂いていた。


 「ビル・ハリスのチタンブレード・モデルっすか? 中々いい趣味っす……(わざ)と急所は外してあるっす、長官室に案内してくれたら止血を考えなくも無いっす」

 咽喉を掻っ切った男の眉間に片手で照準を合わせながら、右手に握られたナイフに眼を落としていた。


 「ゴフッ、ガッ……し、信じられねえ、あの一瞬で三隅(みすみ)からナイフを奪い取っだと言うのか? 俺達全員を制圧するのに30秒と掛かっぢゃいない」

 蹌踉(よろ)めき血を吐く男は、それでも辛うじて踏み止まり、出血を抑えようと傷口を手で覆った。其処に情け容赦無くシンディは後ろ跳び回し蹴りを叩き込む。

 メキイィッ、と言った感じで横倒しに吹っ飛ぶ。

 これは、前腕骨は逝ったな……


 「んで、案内するかしないか早く決めて欲しいっす、わたいら朝から働き詰めでも時間外手当付かないチョーブラックな職場なんで、気が立ってるっす」

 「社畜って知ってるっすか? シャ・チ・ク!」

 丸で俺達の方が悪党みたいだった……いや、こんなに死体の山を築いて只で済む訳は無いよな?


 相手の隊長さんがズタボロで痛々しかった。




挿絵(By みてみん)




 なんの前触れも無く、沙代子様に白薙(しろなぎ)が接触したらしいと報告が有ったのは確か大学3年の初夏の頃だったと思う。

 運転手として忠美(ただみ)家に潜り込ませてある(くさ)から報告があったから、遠見(とおみ)神通眼(じんつうがん)を用いたが、白薙(しろなぎ)の結界があるからか上手く()()ことは叶わなかった。


 白薙(しろなぎ)には白薙(しろなぎ)にだけ伝わる術が有り、黒薙(くろなぎ)と競うようにして“神人(かむんど)の里”から分かれた彼女等には彼女等の明かされない目的がある。

 女系門閥を善しとする白薙(しろなぎ)は全国の神社仏閣に深く喰い込み、其処を根城に祖霊崇拝や仏教、土着信仰を生業(なりわい)に勢力を拡大している。

 曹洞宗であれば瑛平寺(えいへいじ)貫首、布瀬(ふせ)神宮では現祭主が白薙(しろなぎ)の人間の筈だ。しかしながら白薙(しろなぎ)にはそれらを統括する、神巫女(かみみこ)と呼ばれる巫女頭(ふじょがしら)役が君臨している。

 確か当代の家長は白薙晴江(しろなぎはるえ)とか言う女だ。千里眼で垣間見(かいまみ)た、沙代子様に声を掛けた女がそうだろう……資料でしか見たことは無いが、間違いない。

 なんの為の接触だったのか、その後音沙汰も無くたった一度の邂逅(かいこう)の意味するところを怪しんだが、黙って様子見をすることにした。

 絶対に何か仕掛けてこない訳は無い……長期戦になるかもしれないとの予感はしたが、表立って対立するのは避けたかった。


 その後、こちらの警戒を余所に何事も無く僕達は大学を卒業し、沙代子様は養親(ようしん)である忠美(ただみ)家のフラグシップ企業、鷹乃羽(たかのは)開発に縁故採用される。

 僕は大学に残り、隠れ蓑の為に博士課程を履修し、日本物理学の権威である東京理工科大学基礎物理学研究室に籍を置くことにした。


 彼女は彼女で、自分の理想とする社会変革の為に頑張ることにしたようだ。

 自社の企業理念やビジョンは育った環境が環境なだけに、成長期と共に身に染み付いている。学生から社会人へのマインドセット教育だって、財界人の懇談会や祝賀会に十四、五の頃から連れて行かれた彼女には必要最低限以上にビジネスマナーや基本スキルは身に付いている。

 実際、新人研修のグループワークなどのアクティブラーニングでは、交代制にも拘らず毎回リーダー役を努めていたらしい。


 時価総額が大きい大手企業の常として、有望な社員に対し海外留学制度を設けているが、鷹乃羽(たかのは)開発にも海外トレーニー制度が有った。

 異例のことでは有ったが、入社一年目にして沙代子様はこの権利を勝ち取った。僕の助言に従い、コネを使い(まく)って成り振り構わず()りにいった結果だ。


 この頃の僕等の関係も付かず離れず、オペラ観劇やクラシック・コンサート、(たま)に奮発して豪華ディナーや海上クルーズの酒宴と言った清い交際を続けていた。

 僕は極めて巧く立ち回り、そう言う雰囲気にならないようなプラトニック・デートを繰り返した……沙代子様の精神を操り、意識誘導さえ行って。


 飽きさせない為にトレンディな夜カフェや話題のデート・スポットのリサーチも欠かさないが、その日も渋谷のホテルのバー・ラウンジで待ち合わせていた。

 やや遅れてやって来た沙代子様は、(うつむ)き加減で緊張してる様子だった。

 ようやっと海外短期留学の日程を切り出す気になったのだろう……総てを御膳立てしたのが僕だとは、悟られてはならない。


 「今まで黙っていて御免なさい、実は折り入って相談があるの……」

 開口一番、コロンビア特別区のマサチューセッツ工科専門大学ワシントン校でのMBA取得コース集中講座は一年間であり、長い別れになる……特別カリキュラムだから途中で帰郷する休暇も無い。

 だから抱いて欲しいと(うった)えた。

 秀雄君と(はぐく)んだ愛が本物だと疑ってはいないし、気の迷いとか流されてシテ仕舞うとか淋しさ(ゆえ)に間違いを犯すとか、そう言った裏切りは絶対無い筈だ。

 だが、一年間逢わなければどんな変化が有るかも分からない。旅立つ前に(ちぎ)りを結びたい。要約するとそんな内容の、切羽詰(せっぱつ)まった心情を沙代子様は辿々(たどたど)しくも言葉を尽くして懇願して来た。


 「帰って来たら結婚しよう、だから君の(みさお)はその時まで大切に取っておいて」

 そう説得して沙代子様を旅立たせるよう腐心(ふしん)した。

 何を隠そう、沙代子様に男を経験させる最後のチャンスだ……彼女と夫婦になる前になんとしても男を知って欲しかった。でなければ謀略の為に子供を(はら)ませる道具として、一生(だま)される彼女が余りにも哀れだった。

 黒薙(くろなぎ)総本家の跡取りとして、先祖伝来の悲願は(ゆず)れない。

 だが、可笑しな心理かもしれないが、幼き頃より見続けて来た彼女に僕以外の思い出が無いのは可愛そうと思えたのだ……そう、彼女の渡米は僕が計画した。


 ――残念ながら計画は失敗に終わる。

 態々(わざわざ)影警護の為の(くさ)を付けさせたのだが、一年間の海外生活にひとつも道を踏み外すことは無かったのだ。最早、貞女の(かがみ)と言ってもいい。

 彼女に請われて、エンゲージ・リングを贈ったのがいけなかったのだろうか?

 留学の間、その指輪を眺めては、無聊(ぶりょう)を慰めていたらしい。

 抑圧された沙代子様の性欲は、思ってもみなかった斜め上の発露に開花していたので、荒療治が必要になった。

 旅立つ前、人並みに性愛を教えなかったのは返す々々も悔やまれる。

 ()()が有れば、道を踏み外すにしても、外さないにしても、も少し増しだったのかもしれない。


 斯くして僕は、遂に処女妻を(めと)ることになるのかもしれなかった。



 ***************************




 「赤薙(あかなぎ)家首席総帥にして秘密公安の事実上の最高司令長官、赤薙宗士郎は20代の頃からここの任にあるとか、彼此(かれこれ)90年以上生きてるんすかね?」

 「用心の為に難攻不落の要塞に立て籠もり、自宅に帰らず長官室で寝泊りしてるっての信じて、深夜の訪問を決行して良かったすよ……こんな時間まで仕事しないでもいいんじゃないっすか?」


 長官室は時代錯誤で重厚な調度品に溢れていた。

 多分、本物の骨董品だ。

 今時珍しいインク壺が載った執務机も、何人座るんだって豪壮な応接セットも、柱時計や書架、猫脚(ねこあし)の飾り戸棚迄何も彼もが古色蒼然(こしょくそうぜん)としている。

 壁に掛けられた華美な額縁の大きな睡蓮(すいれん)の絵が数点……豈夫(まさか)モネの本物か?

 窓はひとつも無く、外界と完全に遮断された部屋だ。歩く(たび)に靴が沈み込むような豪華なカーペットが敷き詰められている。

 シンディは遂に目的らしい長官室に辿り着いていた……案内役の隊長さんはマホガニーの観音扉の側に座り込んでいる。

 もしかしたらもう虫の息なのかもしれない……シンディ、今日だけで何人殺したら気が済むんだよ?


 「老人はあんまり眠らないってのは本当なんすね……」

 ここ迄事を大きくして、(ただ)老人を虐めに来た訳じゃないよな、シンディ?


 「わたいらの要求は(たった)ひとつ、あんたらが邪魔してる小泉沙代子の件から一切手を引いて欲しいっす」


 「何故そこまで固執する?」

 「……何処迄、知った?」

 たったそれだけを言うのに、醜怪な老人は呼吸も容易じゃない感じだった。

 ゼイゼイって呼吸音が静かな部屋に、やけに大きく聞こえた。


 「幽霊の正体みたり枯れ尾花(おばな)、天下の秘密公安長官も警護課員が居ないと途端に意気地無しっすね……面目形無しじゃないっすか?」

 「これ以上長生きしたけりゃ、葉巻なんて()めた方がいいっすよ……長生きしたいんすよね?」「見た目、寝たきり老人まっしぐらなんすけど……」

 鈍器に使えそうな程重くて頑丈そうな灰皿に残された、乱暴に揉み消された葉巻の吸殻を目で示して、シンディはそう言った。

 最後のは若干小声だったが聞こえてるって、容赦ねえな、こいつ!

 シンディに掛かれば、この妖怪染みた老体も(ただ)の汚らしいジジイだった。


 「おっ、コイーバ・ベヒケの56っすよ、キューバ産の最高級っす……確か一本50000円以上してた筈っす」

 「先輩、葉巻要るっすか?」

 ローズウッド製の葉巻入れを勝手に(あさ)るシンディ……喫煙の健康被害を警告した癖に、ちゃっかり拝借しようとするんじゃない!


 手に取った古美術品染みたシガーカッターをカシャカシャ(いじ)るシンディ……なんか善からぬことを考えているようで怖いから止めて欲しい。


 「“神人(かむんど)の里”の紛紜(いざこざ)(まつ)わるそちらの事情なんて、正直どうでもいいっす、わたい

らは……わたいは、あのオバハンがどんなアヘ顔で、エロく(あえ)いだり、悶えたりするのか見てみたいだけなんす!」

 かむんど? なんのことか分からんが、()()()()()()()に言い直したのは正解だったな、シンディ……けど、オバハンは頂けない。


 「そうオバサン、オバサン言ってやるな、あの人だってまだ四十代、見た目だってまだ若いだろ?」


 「四十は立派にババ……ええええええぇっ、もしかして先輩BBA好きっ!」

 「あ、いや、熟女系っしたか、そんならそうと早く言ってくださいよう、ケンタッキーに居るわたいのママン紹介するっすか?」

 「びっくり箱オッパイと超絶テクニックの持ち主すから、男はみんな昇天間違い無しっすよ……膣内括約筋の絞め技、サソリ固め、味わって見るっすか?」


 こいつのオカンってどんなのかな?

 やっぱり、シリアル・キラーだったりするのかな?

 あぁ、早く家に帰りてえなあ……醒めない悪夢、早く終わんねえかな?


 「ありゃ、なんか長官殿、ブツブツ独り言始まっちゃったっすよ……ボケ、誘発しちゃったすかね?」

 「こっちの要求、大丈夫っすかね……でも、まっ、これだけ人手不足になれば、当面は通常の活動は無理ってもんでしょ!」

 心の中でブツブツ言ってんの、俺も一緒なんだけど……小泉沙代子の浮気動画を撮りたいが為だけに秘密公安って巨大な裏の組織を壊滅に追い込むなんて、誰がどう考えても本末転倒だろっ!



 ――撤退する時もビル内の残党を始末しながら逃げて来た。

 これ、絶対明日ニュースになるよな!

 秘密公安だからって、隠蔽(いんぺい)されたりしないよな!

 駄賃に警備室の録画データ他、足が付く記録は全部抹消して来たけど、結局、秘密庁舎内の人間、殆どシンディ独りの所為(せい)で皆殺しになってるんだけど?


 「平成6年9月15日に富山県中新川郡(なかにいかわぐん)立山町芦峅寺(あしくらじ)黒部峡谷の山村で、住民が皆殺しになると言う惨劇が有りました……報道規制が掛かって、当時は余り大々的にニュースにはなっていません」

 「これは以前から報道メディアにも巨大な影響力を持つ、黒薙(くろなぎ)一族の陰謀に依るものっす……あっ、これは最初に締め上げた公安の職員から訊き出したネタじゃなくって、わたいが在学してるロサンゼルス・サウスウェスト・カレッジの資料室で読んだ事件記録の暗記っす、わたい記憶力には自信あるんで」

 事件現場を逃走する際にワンボックス・カーのナンバープレートにダミーのを被せて走り出すと、窓から目に付く限りの街頭防犯カメラを銃で潰していた。

 完全に犯罪者のセオリーだよな!


 現場から遠ざかる車内で、長官室で聴いた()()()()と言う言葉、()()()()と言う門閥の他にも幾つかの隠された閨閥が有るらしいことを問い詰めると、ポツポツと語り出した。


 「平安時代よりもっと(さかのぼ)るらしいんすけど、時代々々の為政者に取り入り、亀卜(きぼく)で豊穣や政策を占う一族の里が在ったらしいんす……()()()ってあれっすよ、陰陽師なんかが亀の甲羅を焼いて、(ひび)割れ方で運勢や吉凶を占うって奴っす」

 「ところがこれが良く当たる……そこで疑われるのが、未来予知能力っす」

 「“神人(かむんど)の里”と呼ばれた一族の嘗ての本拠地が、平成6年以降、地図上消滅した神里村だったと言われてるんす」


 予想もしなかった壮大稀有(けう)な話で唖然となるが、それと今回の浮気調査とどう繋がるんだ? 俺達は浮気調査をしてた筈だろ?


 「ここからはわたいの推理っすが、さっきの赤薙宗士郎の反応を見ていて確信したっす……おそらく小泉沙代子は“神人(かむんど)の里”の人間す」


 “神人(かむんど)の里”を構成するのは卜占(ぼくせん)の能力に()けた(やまと)本家、そして様々な諜術(ちょうじゅつ)を補佐する守り人や裏目付(うらめつけ)と呼ばれる赤薙(あかなぎ)黒薙(くろなぎ)白薙(しろなぎ)の三家が在ったらしい。

 それぞれに独立した利で動いていた三家の内、赤薙(あかなぎ)一門は昔に(たもと)を分かって里を捨てた。市井に(まぎ)れて刑部省(ぎょうぶしょう)検非違使(けびいし)、奉行所、警保局、特高警察に溶け込んで敗戦後のGHQ占領下を(しの)ぎ、戦後復興と共に表舞台に立つのを嫌って秘密公安を設立したのだと言う。

 平成の時代になって何かが起こり、(やまと)宗家に仕えるべき黒薙(くろなぎ)家が謀反を起こす。

 (やまと)の一族は死に絶えて里は焼かれ、里内の黒薙(くろなぎ)白薙(しろなぎ)も離散した。


 「公安の下っ端を痛め付けて聞き出したのは、この時にたった一人10歳の女の子が最後の(やまと)の血筋として生き残ってるってことっす……最後まで()かせる前に加減を間違えておっ死んじゃったのは失敗でした」

 「今時の公安なんて、本当、弱っちいっすよね」


 平成6年に10歳ってことは……今、42歳か?

 年齢的には合うな……


 「ところで知ってました? 今の日本、政財界を初め(あら)ゆる業界に黒薙(くろなぎ)の一派が幅広く、深く、しかも中枢に喰い込んでいるっす、それこそ黒薙(くろなぎ)無くしては日本って国が回らなくなっちゃうぐらい、裏で糸を引いてるんす」

 「この黒薙(くろなぎ)の当代当主の戸籍上の名前が、小泉秀雄……小泉沙代子のサレた亭主と、同姓同名っすね」




挿絵(By みてみん)




 私は(けが)れて仕舞った。


 一年の留学を好いことに、親元を離れた解放感から行き過ぎた自慰に(ふけ)って仕舞う……会社と提携している留学エージェントの用意した学生寮を辞退し、実家が手配したセキュリティ面で安心出来る賃貸マンションを選んだのがいけなかった。

 ケーブル・テレビに別契約のポルノ番組があることを発見して、つい誘惑に駆られたのだ。インターネットTVも連携したオンデマンドの成人向けコンテンツは、カナダやアメリカだけでも星の数程有る。

 ペイパー・ビューのストリーミングサービスも含めると噫気(げっぷ)が出る程だった。

 私は日本でアダルト・ビデオと言うものを見たことが無い。

 興味が無かった訳ではないが、厳格な見識を求める実家住まいと言うハンデが機会を奪っていた。自室のノートPCですら、無修正サイトなど以ての(ほか)だった。

 留学に際しては実家から自由に出来るお小遣いを貰っていて……必要な参考書やお洒落着、生活雑器や家具、家電製品にもしもの時の医療費も必要だろうと、少し多めに持たされていた。私名義の個人カードなので、利用明細は実家にバレなかった。つまり全ての条件が揃って仕舞ったと言う訳だ。

 日本のアダルト放送がどんなものかは知らなかったが、こちらのハード・コア作品は男女の局部が大写しになるものが殆どで、白人も黒人も異常にペニスが大きかった。私はアメリカのポルノ番組で、男性の勃起した状態を初めて知ることが出来たのだ。最初に間借りした自宅の大画面で激しいセックス・シーンを見た時、私は興奮し過ぎて下着を金栗捨(かなぐりす)て、素っ裸で3時間以上オナニーをし続けた。

 それからは毎晩、テレビを見ながら全裸オナニーをするのが日課になった。

 バイセクシャル、複数での乱交や輪姦、アナルセックスは当たり前の過激な内容が毎日見れる環境は、私を確実に堕落させた。

 私が留学していた当時は、定額制ビデオオンデマンド・サービスが丁度台頭(たいとう)して来た頃で、今では最大手になったPrime Movieなんかも年会費制で怪しげな番組を提供していた。深夜帯に限られるのだが、一般家庭のスワッピング目的の夫婦が自分達のプロフィールや性癖をアピールして夫婦交換の相手を募集する、なんて内容のコンテンツが有り、いい歳をした中年女性達が股間も(あら)わに画面の向こうの相手にセックスアピールを振り撒く様は、私を異常に(たかぶ)らせた。

 秀雄君のことを思い出さなかった訳じゃない……昼間は指輪を見ると、秀雄の暖かく包み込むような愛情と優しげに微笑(ほほえ)む無邪気な表情を思い出す。日本に帰ったら幸せな結婚をするんだと想いを()せて、まだ頑張れると気合を入れ直す。

 けれど夜になると駄目だった。

 画面の中に出てくる女達のように自分も大勢の男達に犯されて、自ら股を開く下品なセックスがしたい、自分もアナルでセックスがしてみたい……そんな想像をしながらオナニーをする。


 朝、目が覚めると秀雄君への罪悪感で一頻(ひとしき)り泣いた。

 日本に居た頃はあんなに秀雄君を恋慕(れんぼ)しての自涜(じとく)行為に夢中になって居た筈なのに、今は逆に行為の最中では良心が痛んで思い出すのを避けていた。

 繰り返し溺れて堕ちていく行為の中で、私の心と身体は何か得体の知れないものに(むしば)まれていく……そんな恐怖に立ち(すく)んでいた。


 将来を誓ってくれた男性以外に凌辱される願望でオナニーをし続ける女なんて、酷く不誠実で、女としては最低だと思えた。

 自己嫌悪で死にたくなった。

 でも夜が来ると、昼間は立ててある秀雄君のフォトスタンドを伏せて、羨望のアブノーマルなセックスに呑み込まれることを夢見て、不潔な自慰を繰り返した。

 止められなかった。

 気持ち良かった。失神する程の絶頂で、身体中に快感が走り抜け、痙攣しながら下品な痴語を叫んだ……イヤらしい、変態な自分を開放することで更にオルガスムスは高まった。本当は惑溺(わくでき)して、(ただ)れて仕舞った自分が心底嫌なのに、そんな堕落した行為だからこそ、ゾクゾクした。

 アダルト放送に繰り返される(おぞ)ましい変態セックスのイメージに深く、深く(はま)って行った私の醜穢(しゅうかい)な願望は最早(もはや)普通のオナニーでは満足出来なくなっていた。

 もっと異常な、もっと倒錯した手淫を求めて自縛やシャワールームでの放尿などを繰り返すようになる。

 本当に私は、汚醜(おしゅう)にまみれたマンズリ三昧(ざんまい)の日々を過ごした。


 それも暫くすると物足らなくなって、女性アクター陣が猥褻ビデオの番組の中で使っていたり、通販のコマーシャルで見たアダルト・グッズが欲しくなった。

 比較したことはないが、アメリカのAmezonで購入出来るアダルト・グッズは日本のよりエグいように思われる。電動マジック・ワンドと言った比較的普通のものから様々なバイブレーター……極太で凶悪な形状のものから、(はま)った後に抜け落ちないもの、天井のGスポットを刺激するよう湾曲したもの、アナルを開発するシリコンや金属の様々な拡張プラグやイボイボが付いたスティックやアナル・ビーズ、ステンレス製のアナルフック、自縛用のボンテージ・ハーネスと際限なく新しいものを常に買い続けるようになり、クローゼットはそんな悪趣味で低俗なセックス・トイで溢れていた。

 女性の留学仲間や友達を部屋に呼ぶ時は、クローゼットに鍵を掛ける。


 注文を繰り返す内に、サイト内の広告から過激な情報を知りたくて、興味本位でセクシャル・サイトへのネットサーフィンを繰り返すようになる。

 ……性道徳や性癖と対比する非常識な、そしてだからこそ昂揚を抑えられないキンキネス、性的フェティシズムを実践する人々の実態や行動、尿性愛(ウロラグニア)、パラフィリア障害、スウィンギングやグループセックスを実践するサークル団体、ダブルペネトレーションやアニリングス、サッフィズム、デイジーチェーン、フィスティングと言った行為、LGBTコミュニティやBDSM活動の団体、服従と支配に於けるドミナントに対するテーブルやハンブルと言った従順を示すポーズ、唾液愛好症(サリロフィリア)とか一夫多妻制(ポリフィデリティ)……2008年の性先進大国アメリカでの、成人女性に対する有害サイト規制は吃驚(びっくり)する程低い。

 様々なクレイジーな情報が散乱するアメリカ、翻訳ソフトのあるブラウザーでも変換出来ないスラングを調べるのに、免疫力の低かった私は没頭して行った。

 知らないことが沢山(たくさん)有った。

 流石(さすが)は自由の国アメリカ、有りと有らゆる驚愕の性癖のオンパレードだ……全ては自己責任と言うことなのだろうか?

 アメリカにはマスターベーションの権利を守り祝う為の、全国マスターベーションデーが制定されているばかりか、毎年9月にサンフランシスコのサウス・オブ・マーケット地区で開催されるフォルサムストリートフェアってお祭りでは、ボンデージハーネスの女性が犯されるパフォーマンスが有ったり、飛び入りの参加者が実際に路上でセックスしたりするらしい。

 それに比べれば部屋の中で一人慰めている自分なんか、まだまだ大人しい方じゃないか……そう思えた。


 ……見せ付ける為の露出セックス……少しドキドキする。




 ***************************




 社に戻っても守衛しか居ないだろうと考えていたが、身の回りに危険が迫る可能性も有るからとシンディの部屋に泊まるように提案された。

 裏若き乙女の部屋に上がり込むのを渋ったが、こいつは俺なんて手玉に取れる程強いのを思い出す。


 「(たかぶ)った気を鎮めたいなら、手コキぐらいして上げるっすよ、可愛い後輩の生乳首、舐めてみたくないっすか?」

 こいつの下品さにはそろそろ慣れなくちゃならないなと、俺は考えるのを放棄して厄介になることにした。

 色々有り過ぎて、もう疲れた……泥のように眠りたい。

 大量連続殺人犯、サイコキラーのこいつに寝首を掻かれるなら、それも仕方ないなと思える程、俎板(まないた)(こい)状態だった。


 小ぢんまりとしたマンションは閑静な住宅街に在った。

 リモコンで開閉する自動シャッターの駐車場は、短いスロープで降りていく地下になっていて、住人の駐車場と言うよりなんだかプレス機や旋盤らしきものが置かれた工作場のようだった。

 それもその筈、勘違いしていたが、どうやらこのマンション一棟丸ごとシンディが所有してるらしい。

 なんでもシンディの実家は嘘か真か、ケンタッキー州レキシントンで競走馬の繁殖・育成を行う農場を経営する大富豪なんだとか、短期留学する娘の為にポンと気前良く住む家を買い与えたらしい。


 ちょっとしたパーティ会場かって程広いメインのリビングに通されたが、一流ホテルのスィートでも面目丸潰れって程のラグジュアリーなインテリアで、こいつの普段の薄汚い格好はなんだったんだってギャップに、開いた口が(ふさ)がらない。

 間接照明を多用した天井は吹き抜けで、床は磨き上げられた大理石、クロムメッキの什器が多用され、豪華で大きな中国製かと思われる幾つかの花瓶に百合や薔薇など色取り々々の花が生けられている。

 中国陶器は詳しくないが、なんとか窯とかなんとか焼きって、博物館にでも有りそうな見事なもんだ。


 シャワーを浴びるよう案内されたバス・ルームは、何処かの旅館の大浴場みたいだった。黒御影石の浴槽は、循環させているのか常に湯が満たされている。

 湯に浸かりながら身体の異常を調べてみたが、今日一日の修羅場で打ち身とか(あざ)彼方此方(あっちこっち)に出来ていたけれど、不思議と擦り傷などの外傷はひとつも目に付かなかった……強引に巻き込まれたって感じだったが、俺は今日一日、シンディに守られていたんだなって思えた。

 湯から上がり、ドライヤーを使うパウダールームに出てみると、用意された部屋着の上に湿布薬の箱が置かれていた。


 キッチンに併設された大きいダイニングに案内されると、市販では見たことも無い馬鹿でかい冷蔵庫からローストビーフやカナッペ、コールド・ミートやサーモンマリネ、ハモンセラーノなどが供される。昨日のケータリングの残りだと言う。

 あれこれ世話を焼くシンディは、やけに身体のシルエットが分かる部屋着に着替えていたが、ショートパンツ姿の生脚が(なまめ)かしくて眼の遣り場に困った。

 俺も其れ成りに女遊びを(こな)して来たから、こんな黒縁眼鏡の小娘にドギマギする筈は無いんだが、どうも調子が悪い。


 食前酒だと出して呉れたシェリーが胃の腑に滲みたが、直後に飲まされた漢方薬の芍薬甘草湯しゃくやくかんぞうとうってのは非道く不味くって顔が歪んだ。


 「そんな顔しないっすよ、寝てる間に脚が()ったりするのを防ぐ効果があるっすから……先輩、さっきは走り詰めだったから絶対飲んどいた方がいいっす」

 「可愛い後輩が手ずからマッサージして上げてもいいんすけど、先輩絶対チンチン大きくしちゃうっしょ……今日は大人しく寝て欲しいっす」

 と話し掛けながら、何やらIHヒーターで()でている。


 「はい、レトルトっすけどペンネ・アラビアータの大盛りっす、チーズとバジルはお好みで……運動した後の炭水化物の補給は大事っすよ」

 差し出されるパルミジャーノレッジャーノの塊とレストランでサーブされるような棒状のチーズグレイターに戸惑っていると、シンディが見兼ねて大量に削り出したので、あっという間にパスタの皿は山盛りのチーズで見えなく為った。

 勧められるままフォークを取ったが、出来立ての湯気が立ち昇るいつ以来かの温かい食事に、俺は感極まって涙を流した。


 「うっ、美味い、美味いよ、これ……うっ、うっ、ズビッ」


 「大袈裟(おおげさ)っすね……ほら、鼻水拭いて、慌てないでゆっくり食べるといいっす」

 差し出されるティッシュが恥ずかしくて、奪い取るように俺は鼻を()んだ。


 食事の追加に冷凍のラザニアとすっぽん雑炊、どちらが好いか訊かれたが俺は断った。代わりにウイスキーを呉れと強請(ねだ)ったら、出されえたのがグレンフィディックの25年だったので驚いたが、有り難く頂戴すると急に眠気(ねむけ)が差した。

 張っていた神経が緩んだのだろうか、目蓋(まぶた)が重くて堪らなくなる。


 「ゆっくり休むといいっす、明日の朝はちゃんとした手料理をご馳走するっすから楽しみにしてて欲しいっす」

 「そうそう、わたいの伝説級ディープ・スロートはまたの機会ってことで……だから、悪い夢なんか見ないでくださいね」


 目が覚めたら、歴史上最悪の大量殺人犯罪の共犯者として逮捕されるかもしれない恐怖が頭をよぎったが、もうどうでもいい程眠かった。


 鬼畜のような犯罪者の癖に、優しげに(いた)わるようなこいつの顔が微笑(ほほえ)むのを見ながら、俺の意識は遠のいて行った。




挿絵(By みてみん)




 誘惑も有った。

 大学生の頃、神田熊野天神(くまのてんじん)で不思議なお守りを貰った。私の“男難の相”を(はら)うと言ったお守りだ。事実、肌身離さずこのお守りを持ち歩いていた時は男性から声を掛けられる機会が減っていたように思う。

 化粧ポーチやお財布などに入れていつも身に付けるようにしていたのに、気が緩んでいたのか、留学する際に私はこれを日本に置いて来て仕舞った。

 気の所為(せい)かもしれないが、私とて20代の女性で人並みに性欲はあるのだろうが日本に居た頃はこんなにムラムラすることは無かった……不思議なお守りとの関連性は(にわか)には信じ難いが、もしかしたら霊験(れいけん)は有るのかもしれない。

 持って来るのを忘れたお守りが気になっていた……そして現実的な、見るからに増えて行く異性からのアピール。


 経営学修士プログラムのコースは多忙を極めたが、経営戦略論やマーケティング理論、資金調達方法や投資判断を学ぶファイナンスなどの主要科目は講義が中心になる。これに対し一般的な経営学の基礎の他に、特定の分野に特化した専門科目を深く学ぶ選択科目が有る。人的資源管理や生産管理、サプライチェーン管理などのプロセス管理手法を学ぶコースでは実際のビジネスケースを用いた分析やグループディスカッション、フィールドワークなどの実践が重視される。

 事例研究(ケースメソッド)を用いたグループ発表では、教授陣やクラスの皆んなの前でプレゼンテーションしなければならないと言うクラス実習もある。

 必然、男性とのコミュニケーションは増える。

 それでなくてもクラスで東洋人は珍しいのか、男性のクラスメイトに頻繁(ひんぱん)に声を掛けられる。同じ鷹乃羽(たかのは)開発から派遣されたメンバー達数名はもっと年配の方で、私の素性(すじょう)を知ってるからか何処か余所々々しい。

 それに対して欧米人の男性は幾ら学究の徒と言えど、もっとフランクだ。

 顔を合わせれば、可愛い、チャーミングだ、と褒め(そや)されるのが常だった。

 マサチューセッツ工科専門大ワシントン校のMBA取得の為に各国から集まっているメンバー達だから、殆どが私より年上だ……彼等から見れば東洋人は幼く見えるのだろう。女性は褒め(たた)えるもの、と言うのが彼等の女性に対するマナーだ。

 ランチに誘われるばかりか、夕方に軽くアルコールやホーム・パーティにと声を掛けられる。彼等のペニスはどんなだろう……彼等は私が望むアブノーマルなセックスを与えて呉れるだろうか?

 そんなことを考えて一人悶々とすることがある。中には直截的に肉体的な性愛を持ち掛けてくる男もいたが、勿論秀雄君を裏切ることは出来ない。

 けれど、その誘いに乗れば私はもっと強烈でトラウマ級の凄絶な快楽を得ることが出来るのだろうか……そんな考えが(ぬぐ)えなかった。


 私は異常なのだろうか?

 留学も後半になると最初は伏せていた秀雄君の写真立てに向かって、見せ付けるように股間を開いてディルドを突き立てる行為に溺れた。(わざ)と卑猥なポーズで腰をくねらせながら泣き叫ぶ……絶対に人前では口にしない女性器の名称を連呼して逝き果てるようになる。

 絶対に知られてはいけない人に対して、自身の下劣な痴態を(さら)し、自分の本質が肉便器願望に塗り潰された尻軽(しりがる)の色情狂だと見せ付ける、そんな最低で背徳的なイメージに、私は酔っていた。


 電話や通話アプリで秀雄君とは頻繁に連絡を取っている。学校で有ったことやカリキュラムの進捗、習慣の違いから来る日常生活の不便さなどの愚痴、なんでも話せたが、マスターベーションに狂っている秘密だけは話せなかった。

 クラスの仲間は軽いダーティジョークを交わす仲だったとしても、こんな異常願望を相談出来るような女友達も居ない。

 私は異常なのだろうか?

 思い悩んでパソコンで検索する日々が続いた。

 ……“マスターベーションの解放:自己愛についての瞑想”と言う啓発本を書いたベティ・ドッドソンと言う女性のセックスポジティブ運動家は、自ら開発した実践プログラムで女性が自分の体や性感帯と繋がり、恥を癒し、快楽の認識を改善し、自己愛を促進するのを助けることを目的としたワークショップを主宰した。

 女性達は自分の体を探求し、一緒にマスターベーションをするように導かれ、女性一人で、またはセックスパートナーと一緒にオーガズムを得る方法を指導とともに学ぶ。ドッドソンの2時間のセッションには15人の裸の女性が登場し、それぞれがセルフ・プレジャーのテクニックに付いて指導を受けたらしい。

 マスターベーション自体は恥ずかしいことじゃないと思えるようになったが、私の変態性欲を他人にカミングアウト出来る自信は無かった。

 グロリア・ブレイムと言う性科学者でセックスセラピストの女性は、自ら運営するサイトで合意に基づくBDSM、性的フェティシズムを擁護する立場で、カウンセリングを行っていた。

 著書の“変態セックスの常識ガイド”他、何冊かの本も読ませて貰ったけれど、私は結局、私の精神疾患にも似た自慰依存症を見ず知らずの他人に告白するなんて勇気も無くて、(わず)かに残ったプライドも相談申し込みを躊躇(ためら)わせた。


 大問題として、決して他人のペニスを受け入れた訳ではなかったけれど太いディルドを用いた過激なセルフ・プレジャーで私の処女膜はすっかり失われていた。

 待っていて呉れる秀雄君になんて言い訳すればいいのか、私は途方に暮れるようになる。不仕鱈(ふしだら)だと責められるだろうか?

 それでも打ち明けるべきだろうか?

 実際にした訳じゃないけれど、私の中にある男女入り乱れた変態乱交願望を正直に話すべきだろうか?

 否、絶対に言えない……あの秀雄君なら、絶対に軽蔑されて拒否される。

 言うべきじゃない。



 散々迷った挙句、帰国の際に今まで買い集めた恥と罪の象徴、そして物的証拠になる様々なアダルト・グッズは泣く泣く処分した。

 そして恥多き罪と、夜毎(よごと)に繰り返された破廉恥で淫らな自慰の記憶を対価に、私はMBA……経営学修士号を取得した。




 ***************************




 目が覚めると見知らぬ天井だった。

 縦型のブラインドに(おお)われた窓からは、日中の陽射しが漏れていた。防音設備が整ってるらしい上質だが簡素なベッドルームだ。

 ベッドサイド・クロックを見ると、もう10時近い。


 急に昨晩の悪夢を思い出して戦慄した。俺は家出人捜索や企業の信用調査、個人の身元調査や素行調査を専門にする民間の探偵社の一調査員だ。

 決してハンフリー・ボガードに成りたかった訳じゃない。

 ここ数日だって会社の上司から説明の有った浮気調査を、社是(しゃぜ)に定められた法的遵守と公正を守って忠実に実行する(ただ)のサラリーマンだ。


 それがどうだ!

 アメリカから来たとか言う頭のイカれた金髪女の所為(せい)で、大量殺人テロの共謀犯として追われるかもしれない身だ。

 俺の記憶に間違いが無ければ、過去最大の単独犯の大量殺人事件は2011年にノルウェーで起きたなんとかブレイビクって野郎の政府庁舎爆破と銃乱射に依るもので、それでもたったの80名前後だった筈だ。

 昨夜の金髪の悪鬼羅刹(あっきらせつ)……シンディの(ほうむ)った数の足元にも及ばない。

 24時間稼働の生産工場宜しく昼夜2交代制だかは知らないが、あの要塞のような伏魔殿(ふくまでん)は間違いなくワンフロア10名以上の即応体制にあった。


 冷や汗と悪寒と共に飛び起きた。

 ゲストルームらしいキングサイズのベッドから飛び降りると、室内履きも気にせず裸足のまま、部屋の壁に備え付けられた100インチ以上はあるだろう大型メディアヴィジョンを点けようと辺りを物色した。

 サイドテーブルに有ったリモコンを引っ手繰るようにスイッチを入れる。

 地上波、BS4Kチャンネルとザッピングしていくがそれらしいニュースは演っていない。

 CATVに切り替えてニュース専門チャンネルを幾つか見るが昨晩の惨劇に触れる気配は無かった……ネット機能を使って、専用のホーム画面から最新の報道一覧のポータルを表示させるがそれらしい記事は載っていない。

 配信動画のYou streamは、ゴシップやワイドショー好みのセンセーショナルな三面記事が直ぐに上がって来るのだが見当たらない。


 ナイトテーブルに俺の所持品が置かれていたので、スマホで検索してみたが矢張り結果は変わらない。寝巻きのジャージを脱ぎ捨て、畳まれたユニフォームに着替える……変装用に社から借り出して来たものだが昨晩の戦闘での(俺は逃げ回っていただけだが)飛沫血痕なんかの汚れは、綺麗にクリーニングされていた。

 ふと見ると、俺のアンダーウェアが真新しい新品に擦り替わっている。

 パンツもだ……正可(まさか)シンディが穿き替えさせたのか!


 大きいのと小さい動揺を捻じ伏せて、俺は取り敢えず会社に連絡した。

 コール音ももどかしく、俺のセクションへの直通に出たのは暫く産休で休んでいた同僚の朱実(あけみ)だったが、総務省や警察、法務省もしくは検察関係、或いはその筋から何か重大な不祥事や事件について問い合わせが無かったか取次筋斗(しどろもどろ)に訊き出そうとする俺に、朱実の返事は鰾膠(にべ)も無かった。


 (何寝惚(ねぼ)けてんの……それより、シンディちゃんからの定時連絡で聞いたよぉ、昨日、シンディちゃんちに泊まったんだって?)

 (あんた、若い娘に手え出すのやめな!)


 けんもほろろに電話は切れた。

 どう言うことだ、本当に秘密公安は情報統制と隠蔽工作に回ったと言うのか?

 曲がりなりにも隣のビルだぞ!

 警視庁桜田門のお膝元で派手な銃撃戦が有ったのに、気が付かない訳はない!


 俺は寝室を出てシンディの姿を探したが、人の家で勝手が分からない。

 大声で呼ぶのも(はばか)られ、廊下を行くとエレベーターが有った。昨日のリビングが確か3階だったからそこ迄行ってみることにした。

 3階フロアを端から見て回ったが人影が無い。

 途中、トイレが在ったので借りたが剰りにも高機能(ハイスペック)過ぎて戸惑った。

 全自動便座とか、軟弱過ぎてハードボイルドじゃない。


 奥の方に明かりの漏れてるところが在った。硝子の自動ドアで仕切られたそこは多くの企業が自社データをサービス・ビューローの提供するクラウド管理に移行してきた昨今、昔からの一流企業だけが持つオフコンの自社サーバー運営の電算室かと見紛(みまが)う施設だった。

 中小企業の財務管理用ミニコンピューターなんかとは訳が違う。

 大型のメインフレームらしきものが立ち並び、静かに明滅している。本物のスパコンだとしたら廉価版(れんかばん)でも十億円単位じゃないか……よく知らんけど。

 更に奥まった中心にシンディは居た。

 上下左右、複数のモニターと(にら)めっこしていた。ちらっと振り返る素振(そぶ)りに、横顔には二カッと笑ったような気配が有った。


 「ベルガモットのアロマを置いといたんすけど、よく眠れたっすか?」

 言われてみれば、ベッドルームには柑橘系の香りが……マティーニの風味にも似ていたような気がする。


 「何してる……?」


 「昨晩の証拠や痕跡が何か残っていたら抹消するのに、彼方此方(あっちこっち)ハッキングしてたんすよ……あれだけどんちゃん騒ぎしたのに、どうやら秘密公安はこちらの予想通り昨夜の襲撃を無かったことにしたいみたいっす」

 メッシュの、これは本物のアーロンチェアかなって思える高機能サポートチェアからクルッと立ち上がると、付いて来るように(うなが)される。


 「まあ、他にも色々分かったことあるんで、ご飯にしながら話すっす」

 「約束通り、朝飯(おご)るっすよ!」


 連れて来られたのは昨夜の場所ともまた違う、ホテルの厨房かキッチンスタジオみたいに機能性重視の場所だった。

 キッチンの片隅のオールステンレスの配膳台に座らされた俺は、やれ、わたいに和食のイロハを教えた料理学校の小母さんは煮干しの頭はちゃんと指で()がなきゃ駄目だとか、一晩水に漬けろとか口煩(くちうる)くて参った、なんて話を聞かされながら、鍋に味噌を研ぎ入れ、卵を焼き、薬味を刻み、(いわし)の丸干しをグリルする火加減を見、大根を卸す手際を見守っていた。

 能く分からんけど、少し年季が入ってるが卵焼き器と大根を卸していた卸し金、海苔を(あぶ)っていた手編みっぽい焼き網は純銅製みたいだった。

 日本の刃物は俺も少し詳しい……卵焼きを切り分けるのに使っていたのは、見るからに仰々(ぎょうぎょう)しい刻印の銘から直ぐに分かるが、“堺一文字光秀”の薄刃包丁だ。

 じっと手許を見詰める俺の視線に答えて、

 「実は、弘法は筆を選びまくるんすよっ」とシンディは胸を張った。


 「お米は土鍋で炊いたっす、お代わりも有るっすから、たんと召し上がれ」

 「雲井窯の飴釉信楽焼(あめゆうしがらきやき)っすよ」


 それが炊飯用土鍋の最高峰だってのはシンディの受け売りを聞くまで知らなかったが、確かに銀シャリの色艶、炊き上がりは尋常じゃない完成度に見えた。

 膳に並べられて行くのは、飯茶碗に盛り付けらえたほかほかの炊き立てに湯気が香る法蓮草(ほうれんそう)と油揚げの味噌汁、焼き魚に卵焼き、蓮根(れんこん)の金平、鹿尾菜(ひじき)の煮付け、お新香に納豆とごくシンプルなものだが、アメリカ人が造ったにしちゃあ眼から鱗の出来だ……艶々の飯を一口頬張った途端、正直、こいつが血塗られた犯罪者じゃなけりゃ嫁に欲しいと思った程だ。

 剰りに米が美味過(うます)ぎるので、魚沼産コシヒカリの特別米“雪椿”か岐阜県のブランド米“銀の(みかづき)”かと思ったら、スーパーで買ったカルフォルニア米だと言う。


 「ライスソムリエの認定持ちっすから、一応米粒のハンドピックは遣るっすけどね……小笠原醸造のプレミアム味醂(みりん)を一滴垂らすのがコツっす」

 おさんどんっぽく、今は見なくなった御櫃(おひつ)(たずさ)えて来た。職人の手仕事になる樹齢百五十年以上の天然秋田杉の柾目を使用した最高級品だと言う。


 「納豆は断然碾割(ひきわ)り派なんすよ、シンプルに醤油と芥子(からし)で溶くのが一番っす」

 同じ食卓に着いて納豆の小鉢に醤油を()しながら、俺にも芥子(からし)の薬味入れを勧めてくる。エプロンもしたままだし、頭を結んだ三角巾もしたままだから、あれ程の暴威を振るった奴と同一人物とは思えないな。

 味噌汁を(すす)り、シンディの造った美味い朝飯を堪能していると、昨日のことが嘘のように思えてくる。

 どれも手の込んだ料理じゃないが、ひとつひとつが完璧な仕上がりに思えた。


 「腕前は上がってるんすけど中々人に食べて貰える機会に恵まれないっす……今日は先輩に味わって貰えて良かったすよ」

 なんだか(ほだ)されていいんだか判断に迷う雰囲気だが、俺は(だま)されない。

 こいつはアサシン顔負けの熟達した殺人者……何処で訓練を積んだんだか、ワンマン・アーミーを()でいける暴力の申し子だ。


 食後の昆布茶を出された後に切り出された。

 湯呑みが曜変天目(ようへんてんもく)みたいなんだけど、怖くて訊けなかった。


 「昨日、秘密公安から退()くときに行き掛けの駄賃に監視サーバーを破壊したじゃないすか……あん時に保安部の重要機密データを圧縮送信するよう細工をしといたんすよ、無論後から追えないよう、その場限りの中継を何箇所か()ましてるっす」

 「矢張り小泉沙代子は(やまと)家の最後の生き残りで間違いないっす」


 それから語られた内容は、一般社会人は決して知ることの無いであろう日本と言う国を舞台にした、目的すら曖昧模糊(あいまいもこ)とした巨大な陰謀だった。

 大体、黒薙(くろなぎ)と言う平安朝から続く影の門閥が裏から国家を操っているなんて打っ飛んだ荒唐無稽(こうとうむけい)を誰が信じると言うんだろうか?

 ――赤薙(あかなぎ)家の目的と言うかお役目は、元々今は消滅した神里村……“神人(かむんど)の里”に於ける赤薙(あかなぎ)黒薙(くろなぎ)白薙(しろなぎ)の三家のバランスを取ることだったらしい。

 だから早くから里を出て他の二家を見張るよう足場を固めた。他の門閥が突出して勢力を伸ばさぬよう調整するのが、赤薙(あかなぎ)一族に課せられた使命だった。

 ところが野心ある黒薙(くろなぎ)一派は一枚上手だった。赤薙(あかなぎ)看取(かんしゅ)を掻い潜り、目立たぬ内に巷間(こうかん)に実権と影響力を築いて仕舞う。黒薙(くろなぎ)家の能力は千里眼や憑依、獣化に依る身体強化、妖異召喚、火遁、水遁、風遁などの忍術、陰陽道(おんみょうどう)の呪術、遁甲術(とんこうじゅつ)などを得意とし、戦国時代の豪族や武将に取り入り、間諜や兵法指南(ひょうほうしなん)、戦場の撹乱を能くしたと伝わっている。その後も人の世の暗部に生きた。

 しかしその本質は(やまと)本家への忠誠に他ならない。

 そしてこの話には裏が有り、黒薙(くろなぎ)家の門外不出だった伝承では忠誠を尽くすべき(やまと)本家の持つ未来予測の神通力と自らの戦闘に特化した血筋を掛け合わせることに依り、真の神人を生み出すのだと言う。

 眉唾な話だが(いわし)の頭も信心から、現に黒薙(くろなぎ)家の一族はその眉唾な悲願の為に今も生きている……問題は(やまと)本家の血筋は遥か昔からの近親婚を繰り返した所為(せい)で、他家との間に児が出来難(できにく)い不妊体質。

 黒薙(くろなぎ)の伝承に(いわ)く、身体のいずれかに櫻紋有りし女子(おなご)なればそれが可能……そして平成の時代にその櫻紋を持って生まれたのが倭沙代子(やまとさよこ)、詰まり現在の小泉沙代子に他ならない。

 平成6年晩夏の頃、10歳になっても御託宣の能力を発現しない倭沙代子は間引きと称して人買いに売られるか或いはもっと酷い処分の運命に(さら)されていた。

 一計を案じた黒薙(くろなぎ)当主は(やまと)本家筋に対し弓を()いた。

 結果、(やまと)総本家と“神人(かむんど)の里”は跡形も無く燃え落ち、保護された倭沙代子は生き残った黒薙(くろなぎ)と共に落ち延びる。黒薙(くろなぎ)の秘術に依り惨劇の記憶を封印された倭沙代子は黒薙(くろなぎ)の息は掛かっているが遠縁の財閥、忠美(ただみ)家の養子に入る。

 黒薙(くろなぎ)の悲願を引き継いだ現当主、黒薙秀雄こと小泉秀雄は正体を隠して忠美沙代子に近付き、自然な成り行きを装って交際を開始する。

 無事に結婚、妊娠、出産、現在高校生の惣領(そうりょう)長男、小泉秀太郎はピアニストを目指して東京都立国立(くにたち)音楽大学附属高校に通っている。

 赤薙(あかなぎ)は失われた(やまと)本家筋の再興と三家のバランスを取り戻す為に、密かにチャンスを(うかが)っている。上杉将也のサレ妻から依頼の有った今回の浮気調査案件の対象、小泉沙代子は未だ自分の正体を知らず、暢気(のんき)に不倫を繰り返している。

 不明なのは小泉沙代子が大学生の頃、たった一度接触を図った白薙(しろなぎ)の目的で、以来沈黙を守っているので、その思惑(おもわく)は余人には知られていない。


 時代錯誤も(はなは)だしいが、話は要約するとそんな感じだった。

 途中、日本と言う国の成り立ちが根底からくつがえされる闇の歴史に竦然(しょうぜん)となる俺にシンディは気付けのエスプレッソを淹れて呉れようとするが、硬く泡立てたミルクたっぷりのカプチーノにして貰った。

 本当の俺の本質は、デリケートでナイーブなチキンハートなんだ。

 真空キャニスターから取り出した豆を挽いていたグラインダーはドイツ製のマルケニッヒEK43、エスプレッソマシーンは現物を見たのは初めてだが、多分マルゾッコのリネアミニ・ステンレスモデルで100万以上する代物だ。

 びびって味なんか分からないと思ったが、記憶に残る至高の一杯だった……焙煎も遣るそうだが、コロンビア産のアラビカ種とウガンダ産ロブスタ種をブレンドしているそうだ。

 キッチンに立ち込める珈琲の豊潤な香りは、俺の強張(こわば)りをほんの少し和らげた。

 カプチーノにまぶされたシナモンパウダーはセイロン産無農薬栽培の一級品だと言うが、意外にもヘーゼルナッツ・ソースは業務スーパーのものらしい。

 「色々試して、業スーで売ってたので問題無かったっす」


 「明日、箱根に行って見るっす」

 業スーの話から何故行き成り箱根行きに飛躍するのか、理解が追い付かない。


 「えっ、小泉沙代子の身辺は見張らないのか?」


 「あのオバサンがプレイするのは金曜日って決まってるっす……調べた行動パターンに有ったっしょ? 仕掛けたカメラが効力を発揮するのはまだ先っす」

 「今の内に白薙(しろなぎ)の目的を探るっす、現当主白薙真奈美(しろなぎまなみ)は箱根権現馬頭龍観音(ばとうりゅうかんのん)に在るらしいっす」


 お前、それ完全に浮気調査、逸脱してるよね?

 俺も行かなきゃダメか……ダメだろうな?

 毒を喰らわば皿までなのか? 俺まだ、死にたくないんだけど……


 ……パンツを穿かせたのがシンディかは、遂に訊けず仕舞いだった。




挿絵(By みてみん)




 一年間の留学を終えて帰国する婚約者を迎える為に、ボストン直行便が着く羽田に出向いた時のことだ。

 成田に代わって羽田の国際線就航が本格化した頃だったと思う。


 久し振りに見る沙代子様は、千載一遇に待ち侘びた筈の恋人の顔を見ても何処か恟々(おどおど)と頼り無く、顔色が悪かった。

 向こうで何か有ったのかと問い詰めると、話があると(うつ)ろな眼で言うので優待ラウンジの個室を使うことにした。

 付き従う彼女は親に叱られる子供のように(おび)えていた。


 「言おうか言うまいか散々迷ったんだけど、一緒になる貴方に黙っているのは隠し事をしているような気がして……これから先の長い結婚生活に……秘密を抱えて生きるのは……卑怯だと思ったの……」

 途切れ途切れに語る彼女の声は震えていて、これは報告には無かったが遂に男遊びを経験したのかと少し期待したが違っていた。


 彼女の懺悔(ざんげ)は丸で最も敬虔(けいけん)なクリスチャンのようで、留学中に性的不道徳に溺れた自分の罪を罰して欲しい、と言うものだった。

 自分が如何にスケベで最低の肉欲に溺れてオナニーを繰り返したか、何度も何度も繰り返し切々と語る彼女は、最早(もはや)痛ましくさえあった。

 アメリカの有料ポルノ放送に嵌った彼女は夜な々々、オージー・パーティで大勢の男達や時には女達に(なぶ)られる自分を想像してオナニーに悶え狂ったのだと告白し続けた。そう言った雌豚願望が、今迄知ることも無かった惨めで哀れな自分の薄汚れた正体だと吐露(とろ)し続けた。


 「そんな便所豚のような(きた)ならしい女は、貴方には相応(ふさわ)しくない……けれど、それでも一緒になって呉れるなら、私はなんでもする、貴方の為に一生涯尽くして生きると誓う、絶対に裏切らないし間違わない……捨てられても何ひとつ文句は言えないけれど、出来れば一緒に居たい……貴方のことが好きだから」

 「卑猥で乱れたセックスなんてもう二度と望まない、もし許して貰えるなら……愛のある夫婦生活だけに生きると誓う」

 嗚咽で始まった告解(こっかい)は、仕舞いには号泣になっていた。


 否、無理だろう。

 どんなに頭では善悪の判断が付いていたとしても、淫蕩(いんとう)な血の為せる業には(あらが)えない……それが、何代にも渡った“神人(かむんど)の里”の(やまと)総本家の跡取りとして生まれ付いた血族の宿命だ。

 これは潮時かもしれない、婚姻届は直ぐにでも出せるが財閥の娘という立場がある……式の手配を急がせるよう、トイレに立つ振りをして配下に指令を出した。


 それにしてもワシントンDC迄派遣した(くさ)は何を遣っていたんだ?

 男との出遭いをサポートする筈が……まぁ、無理も無いか、私室を監視するのは控えるよう厳命してあったからな。


 「ご免ね、男として今迄君を抱かなかったことが却って君を追い詰めたのかもしれないね……悪かった、僕の方こそ謝罪をしなければならない」

 「しかし、泣いている君をこのままには出来ない」

 (しゃく)り上げながら差し出すハンカチを受け取る沙代子様は、もう泣き過ぎて癲癇(ひきつけ)を起こしそうだった。


 「君が心から望んでいるのなら、僕は将来の亭主となる男として君の鬱屈(うっくつ)した欲望に応えて上げなければならないって思う……少し寄り道をして行こう」

 忠美(ただみ)家の家令に命じて、鷹乃羽(たかのは)開発の必要部署に帰国した忠美沙代子は本日は休暇を頂き明日から出社する(むね)を伝えるよう命じる……何を隠そう、忠美(ただみ)家の家令も黒薙(くろなぎ)の人間だ。

 こと此処に至っては致し方無し。

 一種のショック療法だが、僕は沙代子様が取り憑かれて仕舞った歪んだ性的欲求を満たしてやりたいと考えた。

 だが、それは矢張り(つがい)となるべき僕の役目であって欲しかった。


 生憎(あいにく)の曇り空の下、空港の駐車場に停めたマツダのスポーツセダンに彼女を案内すると、小さなキャリーバッグをトランクに積んだ。寒いボストンから来た所為(せい)なのかLLビーンの黒いロングダウンを羽織っていたが、中はタイトスカートの仕立ての良いテーラード・スーツだ。

 低い助手席に乗り込む彼女に手を貸した。化粧直しをしても泣き腫らした眼許は隠せていない。ここまで弱さを見せた彼女は初めてかもしれない。

 静かに車を出すと、僕はこれから何をする積もりなのかを彼女に話し出した。


 これから僕等は夫婦としての初体験をする。

 だがそれは、君が心から望んでいた異常な体験になるだろう……確実に君にトラウマを残すような非常識な体験になる。もしかすると、君は激しく後悔するかもしれない……そう静かに説明を始める。

 赤坂に露出狂が集まる特殊なSMホテルがある。そこは個室で行為をするべき場所にも拘らず、部屋から出てカップル同士が廊下や階段で互いのプレイを見せあったり相手を交換したりする場所で、勿論SMホテルだから裸に縄を掛けたままの見ず知らず同士が見せ合って興奮すると言う変態同士の社交場になっているのだと、噛んで含めるように教える。

 今日は君とそこでプレイをする。もし可能なら僕以外の男を受け入れても良いし相手の女性が了解するなら女性同士愛撫し合っても良い……但し覚えておいて欲しい、子種を受けるのは僕だけにして欲しい。

 僕以外との子を妊娠するなんて、夫婦としてとっても(まず)いのは分かるよね?


 途んでもない話を切り出す僕に、唇を青くしてガタガタ震え出す沙代子様……無理もない、僕は今迄ずっと品行方正を演じてきたからね。

 だがその反面、薄っすらと鼻の付け根に掻いた汗で彼女が興奮しているのが分かる……黒薙(くろなぎ)流性術では女の反応で何処迄発情しているかを見極める技を、初伝で習う。多分、沙代子様は今日、道を踏み越える。


 ホテルのフロントで金を払って(なめ)し済みの新品の麻縄を貰う。プレイルームの備品だと誰が使ったか分からないから、せめてこれくらいは衛生的なものを使って上げたいって良心だった。

 黙って付いて来た沙代子様だったが、足元も覚束(おぼつか)ない足取りで入った部屋の様子を一目見た瞬間、凍り付いたように動かなくなった。

 女を壁や柱に縛り付ける為の拘束ベルトや、如何にも禍々(まがまが)しい拷問具のような固定ラック、女を縛り付けて後ろから犯す為の革製の木馬などの実物を見るのは初めてだったんだろう。

 (やが)て僕は呆然と(たたず)む沙代子さんの衣服を剥いで行く……これも性術(しょうじゅつ)初伝で習う技だが、女の服を奇術かマジックみたいに一瞬で奪う技だ。

 常人には真似出来ない。

 スーツ、ブラウス、ストッキング、最初、何をされているのか分からなかったんだろうが、徐々に衣服を剥ぎ取られていくのに気が付いた沙代子さんはイヤイヤをしてる振りをするが、その眼が期待に輝いていた。矢張り生来の好き者と自らを揶揄するのは、本当らしい。

 男の……婚約者の前で肌を(さら)す快感に鼻息も荒く(たかぶ)っているのが、それを隠そうとする羞恥心と裏腹に分かり易過ぎる。

 全裸に剥いた後、素早く黒薙(くろなぎ)流秘術菱縄縛りに縛り上げる。ブレストボンデージで喰い込む縄に(くび)れた乳房、乳首(ちくび)が突出してくるのが分かる。性感帯が開発されてるのも本当らしい。

 ロープボンテージは海外でもポピュラーかもしれないが、我等が黒薙(くろなぎ)流性術には捕縛術から派生した縄術がある。アメリカのポルノ番組じゃお目に掛かれない代物の筈だ……沙代子さんも未知の体験に打ち震えている。

 視線を追えば、鏡に映った自らの緊縛された裸体に恍惚(こうこつ)となっている様子が分かる。変態性癖の告白も嘘じゃないらしい。

 ……成る程、オナニーに狂っていたと言うのも満更嘘ではないようだ。


 黒薙(くろなぎ)流性術には古流骨法(こっぽう)の流れを汲む骨指術(こっしじゅつ)指淫法がある……久しく試していない技だが、どんな女も2分以内に昇天させることが出来る。

 手品師かピアニストのような繊細な(たくみ)の技、緩急を付けた絶妙な指捌(ゆびさば)きで激しく愛撫し、魂消(たまぎ)るように大きな悲鳴で腰を痙攣させ、スキーン腺液を派手に噴き出す迄、老いも若きも誰彼構わず(さら)させる……そう言った修練を積む。

 僕はこの術を香苗(かなえ)叔母さんに習った……里を落ち延びた当初、亡くなった母の代わりに僕の面倒を見て呉れた母の妹だ。

 丸で子供用遊具の背の低い子馬のような所謂(いわゆる)スパンキングベンチに、沙代子さんを(うつぶ)せに押し付ける。沙代子様、お覚悟ください。

 ここからは先は手加減出来ません。


 黒薙(くろなぎ)流性術の抽挿法では上三、下五、回し突きにて奥六を繰り返し徐々に速度を上げる。そして極め付けは自在に操れる男根の形状変化……黒薙(くろなぎ)流五行養生訓にて鍛えられし男根は単なる海綿体の膨張に留まらず、随意に硬さ、大きさを変えられるばかりか、骨格筋の如く己れの意思で動かせるようになる。

 奥伝を極めし者、如何なる閨房術を持ってしても敵ではない。


 「沙代子さん、覚悟してください……長い夜になります」




 ***************************




 ガレージを飛び出すのはリアにブーメラン型ウィングとか見たこともないエアロ仕様のハイパーカー、ちゃんとナンバー・プレートは付いてるから公道は走れるんだろうが完全にオーバー・スペックだと思う。

 480kmは出るって言うけど何処でそんなスピード出すんだよ!

 スウェーデンのケーニグセグ・ジェスコって言うらしいが初めて聞く車だ。

 V8ツインターボの1600馬力だって言うんだけど、座席が低過ぎる。

 怖いから安全運転で行こ、なっ、なっ?


 連泊での俺の疲労回復の為のリカバリーマッサージとストレッチの施術は容赦無かったが、上げ膳据え膳のお蔭か今朝までの俺はパリッとしてたんだ。

 今日の分のパンツだって、今朝の寝惚け(まなこ)のシャワーの後に今度はちゃんと手渡された。俺の愛用するBVDのローライズが準備されてるのが()せなかったが、サイズはぴったりだった。シャワー上がりの朝立ちチンコを行き成り握られても、俺は冷静でいられたんだ……俺は俺の克己心を(はぐく)んで呉れた、そして“男女七歳にして席を同じゅうせず”と厳しく(いまし)めて呉れた両親に感謝した。


 「飛ばすっすから、口閉じといてくださいよぅ、舌噛んじゃうっすから」

 こいつ、人の恐怖心(あお)るの得意過ぎねえっ?


 あっと言う間に首都高から東名を抜けて厚木インターチェンジを抜ける迄生きた心地がしなかった。肝が冷えるとはこう言うことなのだろう……シンディの危険な追い越し運転はスリリングを通り越した、自殺願望以外の何物でもない。

 流れて行く外の景色が尋常じゃなくて酔いそうだった。

 朝飯喰ったばかりでも健啖(けんたん)なシンディが、港北SAで名物のモツ煮カレーを食べると言い出さなけりゃ、屹度(きっと)俺はそのまま気を失っていたかもしれない。

 イートインじゃ珈琲だけ飲んでた俺の目の前でゲップしやがって、こいつ……デリカシーとかエチケットってのに縁が無いか忘れて来たか、女を捨ててんな!


 有料271号から国道1号を抜けて、箱根湯本を経由、道幅が狭くて速度が出せないのは有り難い。

 そんなこんなで、芦ノ湖畔の箱根神社に到着したのは途中に買い物にも寄ったので13時過ぎだった。


 昼時で公魚(わかさぎ)定食が食べたいと言うシンディがスタスタと定食屋に入って行くので付き従う。俺ってここんとこ、いつもシンディの後ろにくっついてんなあ……

 観光地なのに平日だからか、それ程混雑はしてなかった。

 シンディは地元の名物料理だって限定ワカサギ御膳、俺は姫鱒(ひめます)公魚(わかさぎ)のミックスフライ定食を頼んだ。


 目的の神仏混交、馬頭龍観音本宮(ほんぐう)の奥の院は徒歩じゃないと辿り着けない場所に鎮座すると言う。

 途中の買い物はトレイル装備を整える為だった。

 厚木のアウトドア・ショップに寄って、メリノウール製吸湿速乾の機能性下着からソックス、トレッキングシューズ、マウンテン・パーカーにレイヤーのフリースと一式買い揃えた。雨具や給水用のボトルなど細々したものは体力で勝るシンディが持って呉れるそうだ。

 会社の変装用衣装は宅急便で備品課に送り返すことにした。


 「このウルトラ・ライトのデイパック、最高っすね……いい買い物したわ!」

 「そうそう、先輩のブリーフ、あんまバッチいんで捨てときました……オシッコ臭いし味噌パンツだし、流石(さすが)のわたいも手洗いする気になれなかったんで」

 店のフィッティングルームを借りて着替えてる最中に、隣のブースから大声で話し掛けられて赤っ恥を掻いた。

 恐怖の一夜でオシッコちびったのは認めるけど、俺の知られたくない秘密のプライベートを店舗中に暴露(ばくろ)しやがって……俺は店員や他の客と目を合わせないように大急ぎで退散した。


 案の定、疲労困憊で俺がダウンしてる間に下着を全取っ替えしたのはこいつだって判明した瞬間だった……人生はハードボイルドじゃなくてもいいけど、味噌パンツってだけは言われたくなかったな!



 ――正直、箱根の山道舐めてた。

 俺だって普段スクワットや腹筋は欠かしてないんだが、もう歳かなあ?


 「ほらほら、そんなペースだと陽が暮れちゃうっすよ、一応ヘッデン買って来たっすけど帰りもあるんすから」

 体力お化けのこいつは情け容赦もねえ……俺はカーボン製だってトレッキング・ポールに(すが)りながら、諦めたように重い足を引き摺った。


 (やが)て朱塗りの(やしろ)、馬頭龍観音奥宮(おくみや)を見晴らす場所まで辿り着いた。

 結構大きくて広い。

 ヒューヒュー漏れる息を整えていると気配を消すように(うなが)される。

 物陰に潜むよう身を寄せると、シンディは何やらゴソゴソとザックから取り出した。手の平に乗るかと思う、極く小型のドローンだ。


 「わたい、日本のライセンス取る暇無かったんすけど腕はバッチリっすよ」

 「静音駆動のホバリング機能を誇る最新型っす、AIで対象を追う4K高解像度カメラに超指向性集音マイクを搭載してるっすが、オプション機能が凄いんす……なんと、有線のコンクリートマイクを打ち込むことが出来るっす、あっ、勿論特注仕様なんで市販はされてないっすけどね」

 そんな商品、業界でも聞いたことねえな……こいつ、ほんとにスパイかなんかじゃねえの?


 ゴーグルとコントローラーを操り社殿に進入して行く様子は、タブレット画面とイヤフォンで共有していたが、ぐるりを周回しても中々奥へは進めないようだ。

 意味のある会話も拾えない。

 少し様子を見るよう滞空したと思ったが、次の瞬間に八幡造りの拝殿が連なる横の空気抜きだろうか、(わず)かに開いた切妻の上部に飛び込んだ。そして複雑に入り組んだ神社建築の天井裏を絶妙のコントロールで擦り抜ける。

 例え事前に中の構造を熟知していたとしても、こうも見事に上下左右に旋回し、宙返りするアクロバティック飛行を繰り広げることは不可能だ……奇跡と言ってもいい。だが振り仰ぐとそこには、なんの緊張も無いままジョイスティックを片手で握り、鼻糞をほじくるシンディが居た。


 「しっ、何か小泉沙代子に持たせたお守り?」

 「……について喋ってるっす、これは現当主、神巫女(かみみこ)白薙真奈美と……どうやらその母親、詰まり前任の当主が会話してるようっす」

 屋根裏に密かに打ち込まれたコンクリートマイクが、運良く室内の振動を探り当てたようだ。


 「俺には聴こえないぞ……」


 「わたいは蝙蝠(こうもり)並みに耳もいいっす……待ってください、今増幅するんで」

 視覚ゴーグルを外して、タブレットにインストールしてある増感アプリらしきものを起動する。ノイズリダクション機能の有る自作ソフトだそうだ。


 (母上は何故そこ迄、(やまと)の生き残りに肩入れなさろうとするのか?)

 (とんと理解が出来ませぬ)


 (確かに(やまと)の遣り方には我等白薙(しろなぎ)(さじ)を投げました、されどあの守り袋の形代(かたしろ)に念を込めるのを止めれば、(たちま)ち彼の者は色欲道に堕ちるは必定(ひつじょう)

 (同じ里の女子(おなご)見在(みすみす)不幸になるのを見過ごせず、一度救うと手を差し伸べた先任神巫女(かみみこ)の決定を無下にするとおっしゃるのか?)


 (母上は人が良過ぎます、そのような不浄な者など、勝手に身を滅ぼせばよろしいかと……祖先の悪行(ゆえ)とは言え自業自得ではありませぬか)


 (我が娘ながら情の(こわ)い…………はて、この気配……)


 チッ、

 シンディが鋭く舌打ちをした。

 「なっ、なんだ、どうした? またマスカラか?」


 「どうやら盗み聴きがバレたっす」



 シンディと組んで調査する(それが調査活動って言えるかどうかはもう考えたくもないが)ってのは、心臓が幾つ有っても足りないって、ここ数日で嫌って程理解した積もりだったが……またかよ。

 トラブルに愛されてるって言うか、トラブルを引き込むって言うか、トラブルに自ら飛び込んで行くって言うか……ほんと、穏やかに日常を過ごすって言う生き方は、こいつの頭ん中には無いのだろうか?






毎度お世話になっております、拙作「ソランへの手紙」の最新話を投稿いたしました……途切れ途切れの投稿で中々読者が増えませんので、虫の良い話ですが、応援して頂ける方は拡散をお願い致します

第74話、「“風が吹けば桶屋が儲かる”は、バタフライ・エフェクトか? 前編」になります

余りにも強大な敵、謎の巨大組織“千年世紀守護神”が立ち塞がり、物語は新しい局面に突入していきます

その巨大組織を背景に万能の未来神に伸し上がったドロシー達“三人の御使い”の真実とは如何に……乞うご期待!


バタフライ・エフェクト=力学系の状態に僅かな変化を与えると、その僅かな変化が無かった場合とはその後の系の状態が大きく異なってしまうという現象/カオス理論で扱うカオス運動の予測困難性、初期値鋭敏性を意味する標語的、寓意的な表現である/気象学者のエドワード・ローレンツによる、「蝶がはばたく程度の非常に小さな撹乱でも遠くの場所の気象に影響を与えるか?」という問い掛けと、もしそれが正しければ観測誤差を無くすことが出来ない限り、正確な長期予測は根本的に困難になる、と言う数値予報の研究から出てきた提言に由来する/自然現象は時間の経過に従ってその状態を変える……ニュートン力学ではそのような自然現象の変化の法則、すなわち物体の運動の法則を発見し、将来の状態を予測する方法を確立させていったが、このニュートン力学に代表されるようにある状態の次の状態が確定した法則に従って一意に決まるという考え方は、決定論という呼び方で知られている/量子力学の登場によりミクロのスケールでは運動の状態は確率的に決定されることが明らかとなったが、日常的に目にするようなマクロのスケールでは多くの現象がニュートン力学に従っている/このような決定論的・ニュートン力学的法則に基づく物理法則から将来の状態を予測するにはその系の初期状態〈初期値〉が先ず必要となる/思考実験のひとつであるラプラスの悪魔は完全無欠な初期状態を得て、そこから過去と未来の全ての正確な状態を予測するが、現実には完全に正確な初期状態を知ることは出来ない/そのような場合においても、自然科学の研究では、真の初期状態との違いが僅かであれば最終状態においても僅かな違いしか生まれないだろうと、しばし仮定されてきた/しかしカオスという現象の発見により、決定論的・ニュートン力学的法則に従うような系でも確率論的にランダムかのような振る舞いを起こし、尚且つ初期値の僅かな差が将来の状態に無視出来ない大きな差を発生させる現象があることが明らかになった/ニュートン力学のように時間経過とともにその状態が変化し、その変化の法則が決定論のような一定法則で与えられ初期状態が決まればその後の状態も一意に決定されるようなシステム、あるいはそのようなシステムを扱う数学分野を力学系と呼び、ある系において初期状態に存在する差が時間経過に従って指数関数的増加を起こし、無視出来ないほど大きな差を生むとき、その系は初期値鋭敏性を有するという/バタフライ効果とは、この初期値鋭敏性の寓意的な言い換えであり、初期値鋭敏性はカオス理論でカオスと呼ばれる現象の特徴、あるいは定義の一部である/大気運動などは非線形な力学系方程式に従い、尚且つ初期値鋭敏性を有すると考えられている/初期値鋭敏性すなわちバタフライ効果を有するかは、リアプノフ指数が正の値を取るかなどで定量評価される/バタフライ効果という表現は気象学者のエドワード・ローレンツが1972年にアメリカ科学振興協会で行った講演のタイトル「予測可能性:ブラジルの1匹の蝶の羽ばたきはテキサスで竜巻を引き起こすか?」に由来すると考えられている/バタフライ効果という言葉が一般的に引用されるとき、ローレンツの講演タイトルのような形で説明を付けることが多いが、説明に出てくる地名と発生する現象には様々な違いが見られ、ベストセラーとなった1987年のジェイムズ・グリックの著書 「カオス―新しい科学をつくる」では、“今日の北京で1匹の蝶が空気をかき混ぜれば、翌月のニューヨークの嵐が一変する”という形で説明されており、元の講演タイトルと比較すると「ブラジル」が「北京」に、「テキサス」が「ニューヨーク」に変わっている/ポピュラーカルチャーでの例としては1990年の映画「ハバナ」でロバート・レッドフォード演じる主人公が“1匹の蝶が中国ではばたけば、カリブでハリケーンを起こす”というセリフをヒロインに話すシーンがあり、「ブラジル」が「中国」に、「テキサス」が「カリブ」に、「嵐」が「ハリケーン」に変わっている

ローレンツの研究、バタフライ効果という用語が与えられる以前からもバタフライ効果が意味する初期鋭敏性、すなわち非常に小さな事象が因果関係の末に大きな結果に繋がるという考え方はフィクション作品の中で多く見られる/グリックは著作の中で、そのような古い例として童謡マザー・グースの「釘がないので」を挙げており、ローレンツ自身も講演以前の作品として、ジョージ・リッピー・スチュアートによる1941年の小説「嵐」などでバタフライ効果を意味するようなセリフやストーリーがあることを例として挙げている/ジャーナリストのピーター・ディザイクスはボストン・グローブのコラムで、ポピュラーカルチャーの中ではバタフライ効果という用語が「歴史や運命を決定する一見些細な出来事や、因果関係の繰り返しの果てに人生の行き先や世界経済にまで影響を与える最初の切っ掛けが存在することの意味するメタファー」として愛されていると述べている

ビヨンド教官=孤高の剣豪にして類い稀なるストイックヒロインの筈なのだが、生来の変態性が暴走して自他共に認める気色悪さナンバーワンのポジションをキープし続けている/嘗て人間不信に陥っていたソランに、命を掛けて救いの手を差し伸べた硬骨漢〈怜悧な美人だが義理人情の面では男前〉/駆け出し冒険者だった頃のソランに色々と手解きし、稽古を付けたが、この頃から色々と恥知らずを隠そうともしなかった

アニー=旧王家の正当な血筋オランディーヌ・ロセ・ブラヴァンを母に持つ悲劇のヒロイン、クーデターで国を追われたイングマル・ブラヴァン皇国第三皇女アンネハイネ・アナハイム・ブラヴァンの身内内での愛称/元居た世界の知己達に別れを告げてソラン達に付き従ったので、今ではこの名を呼ぶのは自身と恋人であるエレアノールだけ(通常、皆はアンネハイネと呼ぶ)

プリペイド式携帯電話=予め料金を前払いしておく方式の携帯電話のサービス/旅行客など短期滞在の外国人や子供の使い過ぎを防ぎたい、主に着信待ち受け〈有効期限当たりの前払い金額が基本料金換算で安い〉などとして利用されている/専用の端末を購入するか、利用する端末をキャリアショップに持ち込み契約を行い、一定額のプリペイドカードをキャリアショップやコンビニエンスストアなどで購入して電話機の操作でカードに記載された固有番号を登録する/当初、購入に身元の確認が不要だったがその危機管理のずさんさを突かれ、 麻薬・覚醒剤等の密輸、特殊詐欺、オークション等の詐欺や誘拐などの犯罪に利用されるケースが多く発生した

その為、端末購入時の本人確認書類の提示など本人確認の強化が行われたものの、インターネットなどを通じて転売している為、依然として違法行為に利用されるケースがある/しかし合法的な利用者も多く、生活に支障をきたす恐れもある為、端末全ての利用を停止させることができない/通信料金の未払いなどにより新規に携帯電話の契約をすることができない層も当サービスを利用している

バーチカルブラインド=垂直方向に複数のルーバーを付けて、その個々の回転で調光し、左右に開閉できるようにした縦型のブラインド

Xクロス・フレーム=2本の斜めのX字型のバーで構成されたセックス用家具で、被支配者は足首、手首、腰の拘束ポイントを固定される/Xクロスに固定されると被支配者は立ったまま両足を広げた姿勢で拘束される

イルリガートル=点滴と同じ原理で薬剤を入れた容器を高所に吊り下げ、水圧を使って薬剤を注入する方式で、1000ml~2000mlの大量の薬剤を注入する場合に用いられる/この際に用いられる薬剤を入れる容器をイルリガートルと呼ぶ

アナルプラグ=直腸に挿入して性的快感を得るために設計された性具/幾つかの点で張形に似ているが、器具が直腸内で失われるのを防ぐ為により短く、端にはフランジが付いている傾向がある

リップリーディング=読唇術とは声が聞こえなくても唇の動きから発話の内容を読み取る技術を指す/実際にこういった技術を持っている人々の多くは聴覚障害者であるが、しばしば「遠く離れた人の会話をすべて読み取るスパイ技術」として描写されるも、多くのフィクション作品で描かれるものとは異なり「読話」によって読み取れる発話内容は極めて限定されており、極めて熟練した読み取り手が、補聴器などから得られる情報を参考にしつつ、「読話」されていることを充分に理解してゆっくりと明瞭に話している発話者の正面で、しかも至近距離から読み取ったとしても100%の内容を読み取れるものではない/実際に子音を言い鏡で見ても、区別などつけることはできない/聴覚障害者のコミュニティにおける手話の発達はその傍証である

ボマー・ジャケット=フライトジャケットとは航空機に搭乗するパイロットおよびクルーが着用するジャケットで、軍用機での運用を想定し国家の威信をかけた軍用品として開発されたものであり、士気高揚のため見た目が良く、満足すべき機能を備え、詳細な規定に基づき正規契約を交わしたメーカーにより製作される/それらを模して作られたミリタリーファッション製品のほとんどは素材が廉価な代替品であったり、詳細部分の省略が多かったりと機能的には実物に遠くおよばないことが多いが、なかでもBで始まるモデルは“ボマージャケット”とも呼ばれ、ファッション業界においてはブルゾンの一種として扱われることもある……無論、シンディのものは正規の軍用品で有る

ブルートゥース=Bluetoothはデジタル機器用の近距離無線通信規格のひとつ/数メートルから数十メートル程度の距離の情報機器間で電波を使い簡易な情報のやりとりを行うのに使用される/現在は3COM、ルーセント・テクノロジーの2社が脱退し、Apple、およびノルディック・セミコンダクターが加わり、9社がプロモーター企業となっている/IEEEでの規格名はIEEE 802.15.1で、2.4 GHz帯を使用してPC等のマウス、キーボードをはじめ、携帯電話、PHS、スマートフォン、タブレットでの文字情報や音声情報といったデジタル情報の無線通信を比較的低速度で行う用途に採用されている……ここではシンディの所持するスマホから通信会話をイヤホンで受けることを示している

デミオ=DEMIOは2019年までマツダが製造・販売していたコンパクトカーで、北米ではサブコンパクトカーに、欧州ではBセグメントに車格がそれぞれ分類されている/2代目以降の日本国外向けの車名はMazda2であったが、日本市場においても2019年9月12日より発売される4代目の一部改良モデルから日本国内向け専用のペットネームを廃止し、車名を日本国外向けと同一の“MAZDA2”に統一している/短期間、低コストで開発された為、ベースにはフォード・フェスティバおよびオートザム・レビューのプラットフォームの系統である既存形のマツダ・DWプラットフォームを使用した/なお当初はレビューの後継車種として企画開発されていた/原設計は前身のDBプラットフォームのため極めて古いものであったものの操縦安定性は念入りにチューニングとテストが繰り返されており、結果としてレスポンスの良いハンドリングを実現している/エンジンはレビューおよび2代目フォード・フェスティバ同様、1300ccSOHC16バルブエンジンと1500ccSOHC16バルブエンジンを搭載する

メメントモリ=バンク・オブ・イノベーションの新規IPによるiOS、AndroidおよびPC向けRPG/2021年8月20日に事前登録を開始、2022年10月18日に配信が開始された/リリース後の2週間で、世界での収益は32億円を突破している/水彩調のグラフィックとキャラクターごとに用意された専用曲 “ラメント” が特徴/日本古来の美的理念「もののあはれ」に象徴される儚さの表現をコンセプトとしている/タイトルの“メメントモリ”は「自分がいつか必ず死ぬことを忘れるな」「人に訪れる死を忘れることなかれ」という意味のラテン語の警句に由来する

フリーアドレス=図書館の閲覧室のように社員が個々に机を持たないオフィススタイル……和製英語である/机と椅子が用意されたカフェスタイルの部屋に社員が携帯電話や無線IP電話、無線LAN、ノートパソコンを持って、空いている机で仕事をするスタイル/書類などは全て個人用のキャビネット、あるいは部署の共用キャビネットに保管し、個人専用の空間は設けないのが特徴である/筆記具などの個人用の道具はキャスター付きのワゴンやトートバッグなどに保管し、適宜移動して使用する/個人が机を持たないために個人の持ち物が大幅に削減できるという/反面机が無い事で疎外感を持ったり、退社時に書類や荷物を机の上に置くなどして暗示的に占有を宣言する社員なども現れる為、運用には組織的な風土・民度の高さが要求される

No doubt=「間違いない」「確かに」「もちろん」という意味を持つスラング

スキミング=カード犯罪で多く使われる手口のひとつで、磁気ストライプカードに書き込まれている情報を抜き出し、全く同じ情報を持つクローンカードを複製する犯罪である/カードの磁気に記録されている各種データをカード情報を読み取る機能を持ったスキマーという装置により盗み取ること/カード供給側も対抗対策として暗証番号を磁気カードから取り除いたカードの切り替え〈ゼロ暗証番号化〉、暗証番号をその都度サーバ側に照会する「ゼロ暗証番号方式」に改めた/一方技術的な進歩によって、スキマー等機器の小型・高性能化が進んでいる

インターンシップ=特定の職の経験を積む為に企業や組織において労働に従事している期間のこと/商人・職人の為の徒弟制度と似ているが標準化や監査などはされていない為、指すところの内容は様々である/略称してインターンとも呼ばれる

グレンフィディック12年=スコットランドのダフタウンにあるウィリアム・グラント&サンズにより所有、製造されているスペイサイドのスコッチ・ウイスキー/グレンフィディックはスコットランド・ゲール語で「鹿の谷」を意味し、その為グレンフィディックのボトルには牡鹿のシンボルが付けられている/12年は世界で最も売れているシングルモルトスコッチウイスキーで、洋梨やレモンを思わせるフルーティな香りとバニラの甘みと微かなオーク樽の風味が特徴/初心者から上級者まで愛される非常にバランスの取れた味わいで、バーでの相場は1杯約1300円前後とリーズナブルでもある

レイモンド・チャンドラー=1932年、44歳のとき大恐慌の影響で石油会社での職を失い、推理小説を書き始めた/最初の短編「脅迫者は撃たない」は1933年「ブラック・マスク」という有名なパルプ・マガジンに掲載された/処女長編は1939年の「大いなる眠り」/長編小説は7作品だけで、他は中、短編であるがチャンドラーの長編はほとんど先に書いた中篇が元になっている/1作を除き長編はいずれも映画化されている/死の直前にアメリカ探偵作家クラブ会長に選ばれた/ダシール・ハメットやジェームズ・M・ケインといった他のブラック・マスク誌の作家と共にハードボイルド探偵小説を生み出したとされている/彼が生み出した主人公フィリップ・マーロウはハメットのサム・スペードと共にハードボイルド系「私立探偵」の代名詞とされている/ハンフリー・ボガートが映画で両者とも演じているが、チャンドラー自身はマーロウに一番近い俳優としてケーリー・グラントをあげている/チャンドラーの長編小説の一部は文学作品として重要とされており特に「大いなる眠り」「さらば愛しき女よ」「長いお別れ」の3作品は傑作とされることが多い

ローレンス・ブロック=ニューヨーク州バッファロー出身で1960年よりペーパーバック・ライターとして娯楽小説にて作家デビュー/作品はニューヨークを舞台にしたものが多く、主人公も探偵、空き巣、殺し屋など様々な設定がある/中でも「マット・スカダー・シリーズ」と「泥棒バーニイ・シリーズ」で人気を集めた/「八百万の死にざま」、「死者との誓い」でシェイマス賞最優秀長篇賞、「倒錯の舞踏」でエドガー賞 長編賞を受賞

S・A・コスビー=サザンノワールを基調とした犯罪小説・ミステリ小説作家で米国バージニア州出身/クリストファー・ニューポート大学で英文学を学んだのち、警備員、建設作業員、葬儀社のアシスタントなど様々な職業を経て作家に

山崎50年=サントリー山崎蒸溜所が製造し、サントリーが販売している純国産シングルモルトウイスキーで“50年”は2005年5月に100万円で50本限定発売、翌日完売/2007年9月11日に50本限定発売、当日完売/2011年12月13日に150本限定発売、翌日完売している/酒齢50年を超える超長期熟成のモルト原酒のみを厳選しヴァッティングした、サントリーの最高峰シングルモルトウイスキーでミズナラ樽由来の伽羅のような芳香と圧倒的な熟成感が特徴で、極めて希少な幻の逸品として世界中で高額な取引がされており、近年のオークションや高級酒市場では数百万円から、状態の良いものは数千万円~約1億円の価格が付けられる

マッカランM=“シングルモルトのロールスロイス”と称されるザ・マッカランの最高峰シリーズ、「ザ・マッカラン Mデキャンタ」 は匠の技が結集した超高級シングルモルトウイスキー/1940年に蒸留された超希少な長期熟成原酒を含む、厳選されたスパニッシュオークシェリー樽原酒を100%使用し、ファビアン・バロンが設計し、フランスの高級クリスタルブランド「ラリック社」が手がけた美しい幾何学的なデキャンタに収められている

「藪の中」=芥川龍之介の短編小説で初出は「新潮」1月号〈1922年〉、初刊は「将軍」/今昔物語集を下敷きにしたいわゆる「王朝物」の一編であり、芥川の作品中でも特に多くの論文が書かれている/平安時代のある藪の中を舞台に殺人と強姦という事件をめぐって4人の目撃者と3人の当事者が告白する証言の束として書かれている/それぞれが矛盾し錯綜している為に真相をとらえることが著しく困難になるよう構造化されており、未だ「真相」は見出されていない/その未完結性の鮮烈な印象から、証言の食い違いなどから真相が不分明になることを称して「藪の中」という言葉まで生まれた

スマート・ホーム=IoTやAIの技術を活用し、スマートフォンやAIスマートスピーカーの制御デバイス、テレビ、照明器具などの生活家電やエアコン、給湯器、スマートロック、インターホン、シャッター、換気システムなどの住宅設備などのデバイスを接続し、より快適な生活を実現する住宅のこと/外からでも部屋の中が確認できる室内カメラで何時でも何処でもペットや家族の様子を見守ることができる

し、外出先から見守るだけではなくスマートフォンアプリとカメラで会話が可能/ドアセンサーによる感知をアプリにメッセージで配信して、子供の帰宅を確認したり、ドアセンサーと人感センサーにより外出の有無やセンサーに反応しない場合、アプリ経由で呼びかけをできることにより高齢者の見守りもできる

ボング=西洋式の水をフィルターとして通すことで煙を冷却・濾過して吸う喫煙具だが、中近東の水パイプであるシーシャのような複雑な構造はしておらず、多くはフラスコやシリンダーのタイプでガラス製やシリコン製

ブロッコリー=ネット上の絵文字から派生しているがマリファナを意味する隠語/他に「ヤサイ」「野菜」「クサ」「リキッド」とも表記される

ハム=公安警察を指す隠語で「公」という漢字を上下に分解すると「ハ」と「ム」に見えることに由来している

Cz75=1968年に開発が計画され1975年に製造されたチェコスロバキア製の自動式拳銃で、名称のCzはチェスカー・ズブロヨフカ国営会社にちなむ/第二次世界大戦後、共産党が政権を握ったチェコスロバキア共和国は国内の武器生産能力を維持しながら外貨を獲得する為、タイプライターやディーゼルエンジンなどの工業製品を製造し、その傍らで民間向けの自衛用銃器も製造した/チェコスロバキア製銃器は設計技術と高品質が評価され、輸出高は急速に拡大し外貨獲得の一大産業に成長した/1968年、輸出市場向けに9mmパラベラム弾薬を用いる拳銃の開発が企画され、フランティシェク・コウツキーは新型ピストルの開発指揮の為、チェスカー・ズブロヨフカ・ウヘルスキブロッド社と契約する/当初、コウツキーはコンパクトで単列〈シングルカラム〉弾倉を持つピストルを考えていたが、1972年にチェコの産業貿易省は軍や警察の需要を見越し、複列〈ダブルカラム〉弾倉を装着することを設計要件に加えた/デザインチームはいくつかの試作品でテストを行い、1975年にCz75ピストルが完成した/ブローニング型ショートリコイル作動方式にダブルアクションを採用したメカニズムとなっており、手動安全装置はコックアンドロック方式、弾倉は複列単給弾ダブルカラムシングルフィード方式となっている/フレームには鋼材を採用し、フレームがスライドを包み込む結合する方式となっていて、フレームとスライドの結合はSIG SAUER P210と同じ方式/長所はスライドとフレームとの組み合わせガタを少なくでき、命中精度を高めることができる/製造国のチェコスロバキアはワルシャワ条約機構の一部であったからアメリカでは高額の輸入関税が課されており、正規輸入する場合、納税済みの書類手続きに約900ドルの費用が掛かった/当時の他の拳銃の価格はS&W M19は約200ドル、コルトゴールドカップは約370ドル、コルト・パイソンが400ドルであった/その為1980年代前半の間は、アメリカ内に流通するCz75はドイツまたはカナダなどを経由して個人レベルで持ち込んだものや、間接的に輸入されたものに限られていた/コウツキーが取得していた四つの特許〈Cz75のDAトリガー機構の部品構成に関するもの〉は、チェコスロバキア軍がCz75の採用を検討していたことから機密扱いになっており、国内特許であった為、イタリア、スイス、スペイン、トルコ、イスラエルなど不利な関税制限の無い国でコピー製品が製造さ

れ、アメリカに輸出されていた/1989年以降になるとチェコの共産主義政権は崩壊し、それに伴って輸入関税は課されなくなった為、同国内でもCz75の価格は他の製品と競争できるまでに降下し、アメリカ内には後にCZ-USA社が設立され、改良が加えられたCz75Bをはじめとして様々なバリエーション製品が製造販売されている/チェコスロバキアは当時共産圏であった為にコストパフォーマンスを第一に考える必要がなく、強度のある最高級のスチール削り出し加工で部品を薄くすることができた/これに人間工学的な設計を加えることでグリップ形状に特徴を持たせ、握りやすさを向上させている/チェコスロバキアは政治的に東側の一員だったが西側諸国にも多数が輸出され、現在でも前期型は高価で取引されている

「馬鹿なの?死ぬの?」=主に2000年代のインターネット掲示板〈2ちゃんねる等〉やブログで流行したネットスラングで、ライトノベルおよびアニメ「ゼロの使い魔」に登場するキャラクター“ルイス”のセリフが元ネタと言われている

澄江堂主人=大正時代を代表する文豪芥川龍之介の代表的な号〈ペンネーム〉のひとつで、元々は「我鬼窟」と名乗っていたが、大正11年頃から自身の書斎を「澄江堂」と改め、そこから“澄江堂主人”や“澄江堂老人”などと署名するようになる

「侏儒の言葉」〈しゅじゅのことば〉=芥川龍之介晩年の作品として有名な随筆・警句集で大正12年〈1923年〉から、芥川自殺の年である昭和2年〈1927年〉にかけて書かれた/文藝春秋社の雑誌に1923年1月号から1925年11月号にかけて連載された/なお、1939年〈昭和14年〉に軍人を侮辱しているという理由で次版改訂の処分を受けている/題名の「侏儒」とは体の小さい人、また知識のない人の蔑称、また俳優の異称でもある……作中に登場するのは「人生は一箱のマッチに似ている。重大に扱うのは莫迦々々しい。重大に扱わなければ危険である。」、と言うフレーズ

ミダゾラム=ベンゾジアゼピン〈BZP〉系の麻酔導入薬・鎮静薬のひとつで、日本での商品名はドルミカム〈丸石製薬製造販売:アステラス製薬より販売移管〉およびミダフレッサ静注0.1%〈アルフレッサファーマ製造販売〉、ブコラム口腔用液10mg〈武田薬品工業製造販売〉/静脈内注射後、通常10秒から2分以内に効果が発現し、1〜 6時間継続する

サイレント・キリング=イギリス人のウィリアム・E・フェアバーンが編み出した格闘術/イギリス海兵隊員だったフェアバーンは上海共同租界工部局警務処に勤務する為に1907年上海共同租界に渡る/上海滞在中、天皇に日本武術を指導した者の二番弟子を称する岡田直次郎が開いた乍浦路の楊心館に入門し楊心流の柔術を学んだが、フェアバーンは柔術修行の一環のとして講道館柔道も学び二段位を受けた/また1907年には、中国皇太后の護衛隊にも訓練指導していたツァイ・チンドンから詠春拳も学んだ/さらに市街戦や屋内戦に適した射撃術も編み出し、上海市警察内にSWATの原型ともいえる内容の部隊を編成した/1940年に部下で格闘術の弟子でもあったエリック・A・サイクスを連れてイギリス本土に戻り、陸軍大尉となり、サイクスとともに特殊部隊、諜報機関、軍の一般部隊などで格闘術を含む近接戦闘戦術を指導したが、その間により実戦的な“サイレント・キリング”〈無音殺傷法〉を編み出した

リッツ・カールトン=マリオット・インターナショナルが世界規模でチェーンを展開しているホテルブランド/マリオット・インターナショナルに属している他のブランドとは一線を画した運営を行っている/歴史的にはセザール・リッツが1898年パリに創業した「ホテル・リッツ」と、1899年ロンドンに開店した「カールトン・ホテル」、1906年に同じくロンドンに創業した「リッツ・ロンドン」などのリッツが経営と運営に関わったホテルは上流階級を中心に高い評価を受けた/セザール・リッツは1918年に死去したが、その後も未亡人が中心となりリッツの名を冠したホテルの展開をヨーロッパにおいて進めた/北アメリカにおいてはアルバート・ケラーがフランチャイズ権と「リッツ・カールトン」の商標の使用権を獲得し、「リッツ・カールトン投資会社」を設立してホテルを展開した

ジュリアード音楽院=アメリカ合衆国ニューヨーク州ニューヨーク市に本部を置く私立の音楽学校で1905年設立/「スクール」の名称をとるが学部課程〈音楽・舞踊・演劇〉と修士課程をもつ大学組織でもあり、現在は隣接するリンカーン・センターの専門教育部門を担う/校名は創設初期に巨額の遺産を寄付した資産家、ジュリアードの名にちなむ/2023年時点で約1400名の学生が学ぶ第二次大戦後にヨーロッパから著名な音楽家・舞踊家を教師として受け入れ、クラシック音楽からジャズやポップスまで戦後のアメリカ、ことにニューヨークを世界的な音楽の舞台へ引き上げるのに大きく貢献した/クラシックでは伝説的なバイオリン教師として知られたドロシー・ディレイのもと、ギル・シャハムやサラ・チャン、五嶋みどりなど世界的なソリストが育っている/長く世界的なカルテットとして活動したジュリアード弦楽四重奏団も、結成時は本校の教員らによるグループだった/またメトロポリタン歌劇場とはジェームズ・レヴァインが常任指揮者に就任していたころ関係を深め、音楽科の修了制作として行われる学生たちのオペラ上演でレヴァインらの目にとまり幾人もの歌手が歌劇場へ抜擢されるようになった

アルフレッド・テニスン=ヴィクトリア朝時代のイギリスの詩人、美しい措辞と韻律を持ち日本でも愛読されている/イギリス・リンカンシャー州サマズビーに牧師の子として出生し1831年までケンブリッジ大学に学び、1827年兄のチャールズやフレデリクとともに詩集「Poems by Two Brothers」を出版したが、単独の詩集「Poems Chiefly Lyrical」はジョン・キーツの影響を示している/次いで1833年「シャロットの妖姫」を発表したが酷評され、以来10年間沈黙する/1832年に学友のアーサー・ヘンリー・ハラムと大陸を旅行するが、その翌年にハラムが急死し、強い衝撃を受けて彼を弔う長詩「イン・メモリアム」を書き始め、十数年にわたる自己の思想の成長をも織りこんで1849年に完成させた/友人の死と進化論によって揺れ動く信仰をうたった詩であり、序詩は「つよき神の子、朽ちぬ愛よ」として讃美歌275番に収録されている

1842年「Poems by Alfred Tennyson」で名をなし1845年に年金を授与された/1847年に叙事詩「The Princess」を発表し、1850年ウィリアム・ワーズワースの後継者として桂冠詩人となった

大幣=神道の祭祀において修祓〈しゅはつ〉に使う道具のひとつで、木綿や麻、後世には布帛や紙が用いられる/「ぬさ」は麻の古名で幣あるいは麻、奴佐と当て字される「ぬさ」の美称が「おおぬさ」である/白木の棒で作ったものは祓串〈はらえぐし〉とも言う

PTSD=心的外傷後ストレス障害……強い精神的衝撃を受けることが原因で著しい苦痛や、生活機能の障害をもたらしているストレス障害、及びそれらによるその後のショック状態のこと

アミノバイタル=味の素株式会社が展開するスポーツサプリメントのブランドで筋肉のエネルギー源やリカバリーに欠かせないアミノ酸を手軽かつスピーディーに補給できる/通常、食事でたんぱく質を摂ると消化吸収に3〜4時間かかるが、アミノ酸の状態で摂取することで約30〜40分でスピーディーに体に吸収、筋肉のエネルギー源やコンディショニングに重要なBCAA〈分岐鎖アミノ酸〉などもバランスよく配合されている

ブリュッガー&トーメ GL-06=スイスのブリュッガー&トーメ社が開発した40×46mmグレネード弾を使用する擲弾発射器/ヨーロッパ諸国の警察からの要請で主に暴動鎮圧用に催涙弾やゴム弾などを発射するグレネードランチャーとして開発された/人間工学に基づいたデザインでピストルグリップ、折り畳み式ストックを備える/作動方式は中折れ式単発のダブルアクション、また銃身とフォアエンド部にピカティニーレールを備え、光学照準器やフォアグリップ、フラッシュライト等を装着できる

SRMモデル1216=米国のSRMアームズ社が開発した4本のチューブマガジンを束ねた回転式シリンダーが特徴のセミオート散弾銃/最大16発の散弾をわずか数秒で撃ち尽くせる圧倒的な連射性能と独自の装填システムで広く知られている

ビル・ハリス=優れた実用性と美しいスタッグハンドルなどのクラシックなデザインで知られるカスタムナイフ/ハンドクラフトならではの完成度を誇り、鍛造によるブレードと厳選された天然素材を組み合わせた工芸品レベルの仕上がり/ 高品質なステンレスや炭素鋼のブレードに、木材や鹿の角などの自然な風合いを生かしたハンドルが特徴

クロード・モネ=印象派を代表するフランスの画家で代表作「印象・日の出」は印象派の名前の由来になった/1859年にパリに出て絵の勉強を始め、ピサロ、シスレー、バジール、ルノワールといった仲間と知り合った/成功後、自宅に「花の庭」と睡蓮の池のある「水の庭」を整えていったが、1898年ごろから睡蓮の池を集中的に描くようになった/“睡蓮”には未公開〈または長らく行方不明で再発見された〉作品が現在も存在し、著名な例として2016年にルーヴル美術館の収蔵品から松方コレクションの「幻の睡蓮」大作が発見され、修復を経て一般公開されたことが話題になった/また個人所蔵などで長らく秘蔵され、近年になってオークションに登場した未公開作品も存在する……モネは生涯で200点以上の“睡蓮”を残しており、現在も世界中の美術館や個人のコレクションから再発見されるケースが有り得る

インターネットTV=従来のテレビ放送〈地上波・BS・CS〉の代わりにインターネット回線を利用して映像コンテンツを配信・視聴するシステムやサービスの総称/専用の機器やスマートテレビを使うことで、YouTubeやNetflixなどの動画配信サービスを大画面で視聴できる/伝統的マスメディアが視聴率を基準として万人受けするプログラムを編成しているのに対し、インターネットテレビは膨大な量のコンテンツをサーバに置き、ユーザーは個々の好みでコンテンツをダウンロードして視聴できる為、特定層だけに人気があるようなコンテンツを揃えることでロングテール戦略が取れるようになったこと、ピア・ツー・ピアによって個々のユーザー情報をサーバ側が管理することでオンデマンド配信が可能となったこと、Web 2.0の出現によって視聴者と製作者の壁が破壊され、テレビがソーシャルメディアの一部となったことなどの違いがある

ペイパー・ビュー=放送では主にケーブルテレビや衛星放送、インターネットで利用されており、視聴者は1番組ごとに視聴料金を支払い、テレビやスマートフォン及びタブレット、パソコン等で番組を視聴する/放送される番組は、スポーツ、映画、音楽、アニメ、ポルノなど多岐に渡る

日立マジック・ワンド=長さ30センチメートルでAC電源方式のスティック型バイブレーターで、本来この器具は筋肉のこりやハリを解消するために使用する一般向けの電気マッサージ器だが、英語圏では単に「ヒタチ」とも呼ばれセックストイとしての使い方のほうがはるかに有名になった/この場合はクリトリスを刺激するのが効果的で、女性がオーガズムに達しやすい/マジックワンドはバイブレーターのキャデラック、ロールス・ロイスと言われたり、「究極の」バイブレーターとも言われている/実際、雑誌のコスモポリタンによればセックスセラピストが最もよく勧めるバイブレーターがマジックワンドである/モバイル・マガジンが2015年にとった読者を対象にしたアンケートでは、マジックワンドがiPodを抑え「史上最高のガジェット」の第一位になったほか、テクノロジーブログのEngadgetはマジックワンドを「地球上で最も見た目がわかりやすいセックストイ」と呼んでいる

アナルフック=見た目が釣り針に似ていることが多いセックス玩具で、肛門への性交やその他の性行為を目的として使用する/アナルフックの素材はステンレス鋼が最も一般的で、形状は通常、湾曲した金属棒で片端に金属球、もう片端にリングが付いている

ダブルペネトレーション=二穴同時挿入、2人の男性が1人の女性の膣と肛門にそれぞれ陰茎を同時挿入する男女3人での性行為のこと/二穴同時挿入の表現はカーマ・スートラや多くのローマのエロティックなオブジェに描かれている

芍薬甘草湯=漢方方剤の一種で出典は「傷寒論」/下肢の痙攣性疼痛〈腓返り〉や胃腸の激しい痛み等、急激におこる筋肉の痙攣を伴う疼痛などに用いる/漢方薬としては珍しく速効性があり、服用してから平均6分程で効果が発現し、4~6時間効果が持続する/肝硬変症患者126 例〈芍薬甘草湯群65例、プラセボ群61例〉による二重盲検ランダム化比較試験において、芍薬甘草湯はプラセボ群に対して筋痙攣回数改善度最終全般改善度〈痙攣持続時間や痛みの程度〉が有意に改善した

パルミジャーノレッジャーノ=イタリアを代表するチーズのひとつで“イタリアチーズの王様”とも呼ばれる/日本でパルメザンチーズとして販売されている粉チーズの多くはこのパルミジャーノ・レッジャーノをベースにしているがイタリア以外で製造されたものであり、パルミジャーノ・レッジャーノとは別物である/DOPの認定を受けたものだけが刻印を押されて“パルミジャーノ・レッジャーノ”を名乗ることができる/水分を完全に抜き切り、18ヶ月から36ヶ月、長いものでは5年以上熟成させる為、超硬質のハードチーズでアミノ酸が結晶化して白い斑点ができる

グレンフィディック25年=実際には私達の世界には25年もののボトリングは存在しない

サプライチェーン・マネジメント= SCM、供給連鎖管理とは、商品の原材料調達から生産加工や在庫管理、流通や販売、各プロセスに携わる物流など、商品の開発から消費者の手に渡るまでの一連の流れを指す/また複数の企業間で統合的な物流システムを構築し、経営の成果を高める為のマネジメント手法ともなる/なお、この場合の「複数の企業間」とは旧来の親会社・子会社のような企業グループ内での関係に留まらず、対等な企業間で構築される物流システムもサプライチェーン・マネジメントと呼ばれる/しかし実際には企業間の取引は対等であると限らず、現実と理論との乖離があり、その隙間分析が重要になる/またサプライチェーンが顧客に届くまでの複数企業間の流れであるのに対して、バリュー・チェーンは一企業内の業務の流れを指す

ベティー・ドッドソン=アメリカ合衆国の性教育者にしてエロティック・アーティスト/性に肯定的なフェミニストとして女性の自慰行為と性的絶頂に関する啓発活動を行っており、長年の弟子にアニー・スプリンクルがいる/1987年に出版された著作「私が私を愛するとき」〈Sex for One: The Joy of Self-Loving〉はヒット作となった/同書は日本語訳され、二見書房から出版されている

グロリア・ブレーム=ジョージア州アセンズを拠点とするアメリカの性科学者にして作家、セックスセラピスト/認定臨床性科学者であり、BDSM、フェティシズムや性の健康、性機能障害を専門とするセックスセラピーを行っている/診療は成人限定で、ブレーム博士は安全で健全な合意に基づく関係を提唱する作家、教育者、擁護者であり、AASECT 〈米国性教育者・カウンセラー・セラピスト協会〉の名誉会員かつ米国性科学委員会〈American Board of Sexology〉から性科学者としての認定〈認定番号25727〉を受けており、数十年にわたる臨床経験、豊富な研究業績、そして性的自由の分野への貢献が認められ、ABS認定専門家の称号を授与されている

ベルガモット=ミカン科ミカン属の高さ3~4メートルの常緑低木樹の柑橘類で主産地はイタリア/遺伝子解析の結果、ミカン属の3つの原種〈ブンタン・マンダリンオレンジ・シトロン〉が関与した交雑種であるとが判明し、レモンとダイダイの雑種と仮定したモデルに良く適合した/ベルガモットの果実は苦味が強く、生食や果汁飲料には使用されない/専ら精油を採取し香料として使用され、古典的なフレーバーティーのアールグレイは、ベルガモットで着香した紅茶である/フレッシュな香りを有する為、オーデコロンを中心に香水にもしばしば使用される

アーロンチェア=1994年にDon Chadwick、Bill Stumpfらによってデザインされたハーマンミラー社の高機能デスクチェア/人間工学に基づいて設計されており、その多機能さやデザインセンスの良さから、高価格の高機能チェアの中でもアーロンチェアは日本において最も知名度の高いデスクチェアのひとつ/多数の人々から非常に快適と評価されているが、その理由として、ユーザーの体型・使用環境に応じて細かく調整できるカスタマイズ機能が挙げられる/これにより一般的な体格である99%の成人であれば男女を問わず快適なデスクワーク環境を実現することができる/実際にアーロンチェアに座るとトランポリンのような弾力のある座面に加え、一般の低価格チェアにはないフワリとした不思議な感覚のリクライニング機能を体感できる/それと同時にしっかりと骨盤を受け止める構造となっており、長時間座っても疲れにくくなっている/画期的なデザインのためニューヨーク近代美術館において、「永久コレクション」としての地位を獲得している

堺一文字光秀=1953年創業の大阪難波の「千日前道具屋筋商店街」に本店を構える老舗の高級包丁専門店・ブランド/伝統的な「堺打刃物」の技術を継承し、プロの料理人から一般の家庭用まで幅広い高品質な包丁を取り扱う/職人の手によって一本ずつ丁寧に仕上げられ、食材の断面を崩さない鋭い切れ味が特徴

雲井窯飴釉信楽焼=一流料亭や高級ホテルなどプロの料理人から絶大な支持を集める中川一辺陶が手掛ける最高峰の土鍋で、選び抜かれた特別な陶土と熟練の技が生み出す機能美と堅牢性を兼ね備えた一生ものの調理器具/何年間も石室で貯蔵された門外不出の貴重な陶土を使用して一般的な土鍋の数倍もの厚みがあり、非常に頑丈/肉厚な設計により、熱をじんわりと蓄えてから全体に均一に伝える為、米の芯までしっかりと熱が通り、極上のご飯が炊き上がる

小笠原味醂=小笠原味醂醸造が手がける「プレミアム味醂」とは、愛知県碧南市で伝統製法により造られる「一子相傳〈いっしそうでん〉」四年熟成本味醂/砂糖不使用でありながら、米の糖化によるまろやかな甘みと豊かなコクを持ち、飲めるほどに美味しい最高級品

碾割り納豆=碾き割り、即ち砕いた大豆を発酵させることによって作られる納豆でひきわり納豆に対し、割っていない大豆を使った納豆は“粒納豆”、または“丸大豆納豆”と呼ばれる/ひきわり納豆は粒納豆に比べてポリグルタミン酸は少ないが、全体的な表面積の広さにより納豆菌自体は多く、発酵が早く、消化にも良いとされる上カルシウムを効率的に吸収する役割のビタミンKが豊富である/つぶ納豆を刻んだような形状をしていることから発酵後に納豆を刻んだものと誤解されることがあるが、実際は発酵以前の浸水前に大豆を砕いている/秋田県など北東北では古くからひきわり納豆が作られていたが他地方ではひきわりは「くず豆」の印象が強く敬遠されていた

曜変天目=現代の陶芸家が独自の技術で再現に成功した「曜変天目」は購入可能だが、本物は数十億円の価値があるため現代作家による再現作品は数万円から数百万円の価格で販売される/元々が曜変天目とは天目茶碗として元は茶葉の産地だった中国の天目山一帯の寺院に於いて用いられた天目山産の茶道具で、天目釉と呼ばれる鉄釉をかけて焼かれた陶器製の茶碗から更に、天目茶碗のうち最上級とされるものが曜変天目と略称され、焼き上げる過程で黒釉が変化して斑紋が生じているのが特色で南宋時代に作られたと推定されているが、真作と認められ、かつ完品の個体は日本に所在する三碗のみであり、全て国宝に指定されている

漆黒の器で内側には星のようにもみえる大小の斑文が散らばり、斑文の周囲は暈状の青色や青紫色で角度によって玉虫色に光彩が輝き移動する

マルケニッヒEK43=ドイツのブランド、マールクーニック〈Mahlkönig〉のモデルEK43は世界中の一流バリスタが愛用する最高峰の業務用コーヒーグラインダー〈電動ミル〉/垂直に配置された大型のフラットディスク刃〈98mm〉により、粉の粒度が極めて均一で、微粉の発生を最小限に抑えコーヒーの雑味のないクリアな味わいを引き出す/粗挽き〈ネルドリップやフレンチプレス〉からエスプレッソ用極細挽きまで幅広い挽き目に対応し、世界中のトップバリスタたちが競う「ワールド・バリスタ・チャンピオンシップ」でも公式グラインダーとして採用されるなどコーヒー業界で“King of Grinders〈グラインダーの王様〉”と称される

マルゾッコ・リネアミニ=イタリアの高級エスプレッソマシンメーカー「ラ・マルゾッコ〈La Marzocco〉」が展開する、家庭用最高峰のエスプレッソマシンで業務用の本格的な抽出・スチーム性能をコンパクトな100V電源のボディに凝縮しておりプロ仕様と同じデュアルボイラー〈抽出用とスチーム用が独立〉なので連続抽出でも温度がブレない

LLビーン=アメリカ合衆国のアウトドア用品のメーカーで本社はメイン州フリーポートにある/1912年にレオン・レオンウッド・ビーンにより創立し、商品第一号は現在も「ビーン・ブーツ」の名前で販売されているメイン・ハンティングシューズ

ケーニグセグ・ジェスコ=スウェーデンの自動車メーカーケーニグセグが開発したハイパーカーで2011年から販売されていたスーパーカー、アゲーラの後継であり、One:1に続く「メガ・カー」の第2弾となる/搭載されるエンジンはケーニグセグ自製の5.0LV型8気筒DOHCツインターボエンジンで92mm×95.25mm、圧縮比は8.6:1だが、このエンジンはアゲーラに搭載されていたユニットを改良したものでエアダクトやフラットプレーンクランクシャフトを新規設計し、5kgの軽量化とレブリミットの高回転化〈8,250 rpm→8,500 rpm〉がなされている/エンジンマウントはアゲーラと同一の部品が使用されエンジン振動の低減を図っている/ターボチャージャーにはカーボンファイバー製のエアタンクが20個装備され、大容量のエアインジェクターを介して20barの圧縮空気が送られ、これによりターボラグの解消や大幅なブーストアップを可能とした/独自に開発した“ライト・スピード・トランスミッション〈LST〉と呼ばれる9速マルチクラッチトランスミッションが組み合わせられる/従来のデュアルクラッチトランスミッション〈DCT〉では不可能であった隣接するギア以外へのシフトチェンジ〈いわゆる「飛ばしシフト」〉を可能としたことが大きな特徴/シフトラグは20ミリ秒で、本体重量も90kgと軽量に収まっている

メリノウール=メリノウールの機能性下着はメリノ種という羊の極細ウールを使用した高機能インナーで、最大の魅力は「天然のエアコン」と呼ばれる高い調温・調湿性とチクチクしない極上の肌触り/汗をかいても蒸れにくく、夏は涼しく冬は暖かさを保つ為、オールシーズン活躍する/天然の防臭抗菌効果で臭いの原因となる雑菌の繁殖を抑える為、汗をかいても嫌な臭いが発生しにくく、繊維自体が水分を吸収・発散し、汗をかいても肌に張り付かずサラサラの状態をキープする

ヘッデン=頭やヘルメットに装着して前方を照らす小型ライトのこと……山岳関係者独特の言い回しで、通常はヘッドランプ

コンクリートマイク=壁や床などの固い構造物越しに音を拾う特殊な集音機器で、もともとは建築調査や救助活動など正当な目的にも使われてきたが近年は盗聴機器として転用されている/先端に搭載された高感度センサーを壁や天井、床などの面にしっかりと密着させ、その内部を伝わる極めて微細な振動を検知して音として再生する/内部の振動は人の耳では直接聞き取れないほど小さい為、センサーがこれを電気信号に変換し、専用のアンプやイヤホンを通じて明確な音として聞き取れるようにアウトプットする


応援して頂ける、気に入ったという方は是非★とブックマークをお願いします

感想や批判もお待ちしております

私、漢字が苦手なもので誤字脱字報告もありましたらお願いします

別口でエッセイも載せましたので、ご興味のある方は一度ひやかしてみてください

短めですのでスマホで読むには最適かと……是非、通勤・通学のお供にどうぞ、一応R15です

https://ncode.syosetu.com/n9580he/


挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
拙作「ソランへの手紙」にお越し頂き有り難う御座います
お気に召された方はブックマーク★★★★★感想をいただけると嬉しいです
別口で“寝取られ”を考察するエッセイをアップしてあります
よろしければお立ち寄り下さい
https://ncode.syosetu.com/n9580he/
小説家になろう 勝手にランキング

html>
― 新着の感想 ―
ウワァ!ムラムラビットなコンテンツ満載の尻懇バレーな不倫グルズって奴。(•▽•;)(難友、犬が見つけーの陰棒を不倫廻すムラムラ斜怪な汚離し!)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ