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86、治療院にびっくり

 私はオルガくんと一緒に、シトラスさんの孫娘に連れられて、治療院へと移動した。


 治療院に隣接する売店の、ポーションを扱う小部屋の奥には連絡通路があった。ポーションを運びやすいように、工夫されているのね。


 治療院は、かなり薄暗い。


 ここは、暗黒神だけじゃなく、闇系の種族の治療院として使われているんだって。明るさが苦手な種族のために、薄暗くしているのね。


 でも、この薄暗い場所には、休憩所のような小部屋ばかりで、ベッドはないみたい。入院してる人がいっぱい居るんじゃないの?


「オルガくん、この治療院もオットーさんがやってるの?」


「はい、父ちゃんは、もともとは、この治療院の院長なんです。草原に家を作ったら、だんだん集落みたいになってしまって」


「そっか。いま、オットーさんはずっと食堂にいるけどいいのかな?」


「はい、それがあの方の命令なので大丈夫です」


「そう、オットーさんは、私の教育係というか監視係ね」


 私がそう言うと、オルガくんは返事に困っていた。だよね、図星なんだもんね。




 治療院は、外から見ると少し大きめの小屋だと思ったけど、全然違ってた。私達はいま、どんどん坂道を下り、階段を降りている。どこまで行くの?


「うわぁ! なんか、すごい、基地みたい〜」


 パッと視界がひらけた。暗黒基地って感じ。広い地下空洞には、たくさんの近代的な建物が並んでいる。整然と整備された街とも言えるかもしれない。それを、高台から見下ろしている感じ。


「ですよね。ここが治療院です。基本、暗黒神は地底に住んでいるので、ここは、地上と地底の中間あたりになります」


「へぇ、そうなんだ。知らなかったよ〜」


「あれ? あの方の情報は?」


「与えられた知識には、住まいの情報はないの。きっと隠してるのね」


 私がそう言うと、オルガくんは苦笑いしていた。否定しないということは、彼もそう思ってるのね。


 シトラスさんは、性格が悪いだけじゃなくて用心深いんだと思う。この知識を与えられたのは、暗黒神になったときだからだよね。


 私がどんな行動をするかわからないから、きっと教えなかったんだ。過去に、直臣に襲撃されたことがあるんだろうな。




 突然、案内係の彼女の気配が消えた。振り返って捜すと、坂道の途中で立ち止まっているみたい。


 私が振り返ったことに気づくと、彼女はペコリと頭を下げた。ふぅん、ここから先は勝手に行けってことかな。


「アニスちゃん、あの人はここまでです」


「オルガくん、担当とかが決まってるの?」


「いえ、あの人には耐性がないから」


「ん? シトラスさんの孫娘なら、いろいろな能力が高いんじゃないの?」


「逆だと思います。たぶん、あの方が作られた子は、必要最低限の能力しか与えられていません。暗黒神だけど、ぼくより圧倒的に弱いですし」


「シトラスさんの娘なのに?」


「はい、分身ですから、その……」


 あー、なるほど。自分をおびやかすような存在になると困るのね。だから、必要最低限の能力しか渡していないんだ。やはり、シトラスさんは用心深い。


「そっか、だから、さっき、彼女はほとんど悪魔族だって言ってたのね。父親の血が濃いからって言ってたから、変だと思ったのよね」


「そうですね。あの人は何もわかってないので、言っていいことかどうかが判断できないんです。魔族は通常なら、親の良いとこ取りをして生まれてくることが多いですからね」


「うん、シトラスさんからの知識でも、そうなってる。それが逆に、数が増えすぎない抑止力になるのね。魔族も用心深いのね」


 子が増えると、逆に自分の地位を奪われる。だから、きっと強い魔族はあまり子を作らないんだ。魔族の性質を熟知したような、上手い仕組みね。




「アニスちゃん、案内が待っているみたいです。あの人は、父ちゃんの配下です。いま、治療院の院長代理をしています」


 坂道をさらに下り、近代的な建物が並ぶ場所まで降りてくると、そこには数人の男性がいた。


 どの人がオットーさんの配下なのかな? あー、わかった。一人だけ闇が濃い。背の低い丸顔のオジサンだ。他は護衛みたいね。腰に剣をさげてる。




「アニス様でしょうか? 治療院の院長代理をしているサガンと申します」


「はい、アニスです。初めまして」


 私が軽く挨拶すると、彼は深々と頭を下げた。やはり、背の低い丸顔のオジサンが院長代理ね。様呼びは不要だと言おうとしたけどやめた。結果はわかってるもの。


「サガンさん、ぼく、アニス様の配下になったので、今後は対等にお願いします」


「えっ? 坊っちゃんが主君を得たのか? しかも、アニス様?」


 いま、坊っちゃんって言った? オルガくんの顔を見てみると、うん、すんごく不機嫌ね。


「だから、坊っちゃんはやめてくれと言っているんですけど」


「あははは、そりゃ無理ですよ。坊っちゃんは、ずっと坊っちゃんじゃないですか」


 なんだかよくわからないけど、オルガくんのことを優しい目で見てる。でも、このオジサン、なかなかのやり手みたい。けっこう強そうね。



「あの、サガンさん、私は何をさせられるのかしら? オットーさんから何も聞いてないんです」


「そうですか。話しにくいことですからね」


「不治の病にかかっている人達を殺せということ? 私にそう言うってことは、貴方達では始末できない事情があるの?」


 私がそう言うと、彼はオルガくんの方をチラッと見た。その目つきは冷たい。


「案内の人がちょっと口走ってた」


「それでよく、ここまで来ていただけたんですね」


「アニス様は、途中で投げ出したりしないから」


 オルガくんがそう言うと、サガンさんは表情を緩めた。


「アニス様、ご案内します」


 そう言うと、彼は歩き始めた。



 上から見ていたときに基地みたいだと思ったのは、黒光りする色のせいかもしれない。整然と整備された街の中を歩いてるみたいな気分。


「ここの建物は、何でできているのですか?」


「アニス様、外壁は闇の魔石です。魔石がここの環境を整えています。ただの石造りの小屋に魔石を貼り付けています」


「へぇ、こんなにたくさんの魔石があるんですね。そういえば、地上には怪しい池があっだけど、ここは池の下くらいの位置ですよね」


「いえ、池は先程の通路の上ですね。ここは、その奥の死者の森の地下にあたります」


「死者の森!? なんか暗い感じだったけど」


「闇エネルギーが満ちた森です。病人には居心地のよい癒しの場所ですよ。到着しました、こちらへ」


 彼は、結界が張られた建物の前で立ち止まった。



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