85、二種類のポーションと、シトラスのスパイ?
「貴重な物を持ってても、使わないなら邪魔でしょう? 私がポーションを使うときって、大切な人を治すときだけだもん」
私がそう言うと、オルガくんは顔を赤くして下を向いた。あれ? 照れちゃった? ふふ、かわいい。
「あ、アニスちゃんの回復用は、暗黒神用の極回復が二本くらい必要ですから……」
「それはいらないよー」
「どうしてですか。他では手に入らないですよ」
「だって、私が瀕死の状態になったら、自分で小瓶を開けられる気がしないもの」
「えっ……でも、一応持っておく方が……」
「私が持ってると失くしちゃうかもしれないもん。それに、そんなときはオルガくんが、私を助けてくれるんでしょ?」
「は、はいっ!!」
「ふふっ。やっぱ、私は二種類の中回復だけでいいよ〜」
私達のやり取りを、子供達が不思議そうな顔で聞いている。私、なんか変なこと言ってる? 当たり前のことしか言ってないよ?
オルガくんが、彼らに指示をしてる。ポーションの小瓶が20本ほど布袋に入れられた。そんなにたくさん? あ、でも、ある方が安心かな。私は回復魔法は使えないもの。
そしてオルガくんは、皮袋に入った小瓶を何本か受け取ってる。奥から出してきたものだから、貴重品みたい。たぶん私のためのポーションね。オルガくんが持っておくのね。
「アニス様、こちらをどうぞ。透明な小瓶は、人間用の中回復、そして黒い小瓶は、暗黒神や治癒魔法が苦手な闇系用の中回復です。それぞれ10本ずつ入れています」
「わっ、たくさん、ありがとう」
「いえ、とんでもございません。これは、報酬代わりのものですから、オルガに渡した分を含めても、全然足りないくらいです」
「ん? 報酬?」
私が聞き返すと、彼はしまったという顔をした。オルガくんの方を見ると、ムッとした顔をしていた。オルガくん、ずっと機嫌が悪いよね。
「まさか、治療院の不治の奴らを……」
オルガくんは、案内してくれた女性を睨んでいる。
「あら、そのために、セージにいらしたのでしょう?」
なんだか、この女性、ちょっと性格悪い。オルガくんと仲が悪いだけかもしれないけど、バカにしたような眼差しね。
でも報酬ってことは、私に何かをさせたいのね。
オットーさんが、好機だと言っていたから、何かあるとは思ってたんだけど……。でも、普段のオットーさんなら、事前にキチンと説明するよね? あー、私が呪いのせいでイライラしてたから話せなかったのかも。
「父ちゃんは、様子見だけだと言っていたけど」
「あら、オットーは現状がわかってないのね。不治の病人の部屋が定員を超えてるのよ。減らしてもらわないとね」
オルガくんは彼女を睨んでるけど、彼女はお構いなしね。減らせというのは、どういう意味なんだろう? 私は回復魔法は使えないから……始末しろってこと?
しかし、この話し方、というか目つきかな? ちょっとムカつく。なんだかシトラスさんみたい。
私は、彼女の頭の中を覗こうとした。ん? また、魔法が使えないよ。私はスゥハァと深呼吸をして落ち着いてもう一度……。
パリン!
「きゃっ! ええっ!? どうして?」
彼女の胸元のペンダントの石が割れて床に落ちた。すると、彼女の情報が一気に流れてきた。やはり、そういうことなのね。
彼女は、シトラスさんの孫娘みたい。彼女の母親がシトラスさんの娘。ふぅん、超神って、分身という形で子供を作るのか。だから、ウィルさんって水の神によく似てたのね。
「あ、ごめんなさい。貴女が私の上位神に似てるような気がすると思って、ちょっと頭の中を覗いたの。孫娘なのね。だから話し方が似てるんだ」
私がそう言うと、オルガくんが驚いた顔をしてる。あれ? 知らなかったんだ。あはは、まずかったかな?
「アニス様……。まさか、この石を壊されるなんて……」
「魔導石?」
「闇の魔石です。正体が知られないようにと、お婆様が作ってくださったそうです」
「そうなんだ。また、作ってもらって。でも、素性を隠す必要なんてないんじゃない? 誰の孫だろうと、そんなこと関係ないよ。貴女は貴女なんだから」
「でも、オルガやこの場にいる子供達は……」
「誰も知らなかったの?」
「ええ」
「オットーさんも?」
「ええ。私は父親の血を濃く受け継いでいるから、ただの悪魔族だと思われています」
「へぇ、じゃあ、びっくりするね」
「ええ」
「オットーさんとの結婚は、シトラスさんに決められたの?」
そう尋ねると彼女は返事をしなかった。でも考えていることはわかっちゃうんだよね。生まれたときから決められていたかー。
どうやら、シトラスさんは、そのために分身を作ったのね。孫や、ひ孫を、自分の直臣と結婚させたんだ。まるで政略結婚みたいなやり方よねー。
あ、違うか。そうやって裏切らないようにさせるんじゃなくて、シトラスさんは監視目的だ。密かに懐に忍び込ませるスパイって感じなのね。
「どうしよう……バレちゃって」
彼女は、顔面真っ青って感じね。正体を暴かれたスパイなら、当然、めちゃくちゃ困るよね。
「でも貴女だけじゃないでしょ? シトラスさんはあんな性格だから、すべての直臣と、自分の孫やひ孫を結婚させてるでしょ。気にしなくていいんじゃない? さっきも言っだけど、貴女は貴女なんだから」
「……驚きました。アニス様は、上位神を恐れていないのですね。それに、そんな風にかばってくれて」
「シトラスさんは、性格悪いし、残酷だし、冷徹非道だけど、服やインテリアのセンスは悪くないの。だから、好きじゃないけど、嫌いでもないわ」
「まぁ」
「だけど、強制的に何かの手駒にされたりするのは嫌。だから、貴女には少し同情する。でも、オットーさんはいい人だから、貴女は幸運だと思うよ」
私がそう言うと、彼女は深々と頭を下げた。ん? なぜそこでお辞儀なの?
「アニスちゃん、父ちゃんには……」
「話せばいいよ。別に隠すようなことじゃないし。びっくりするよねー。ふふっ」
「はい、わかりました」
オルガくんは、ホッとした顔をしている。
「シトラスさんは性格悪いけど、素性がバレないようにしてたのは配慮かもしれないね。上位神の孫娘なら、特別待遇にしなきゃとか面倒だもん」
私がそう言うと、彼女はまた深々と頭を下げた。
子供達も、なんだか納得したみたい。うん、配慮ってことにしておこう。絶対、配慮なんかじゃないだろうけど。
「アニス様、そろそろ治療院の方へ、お願いします」
シトラスさんの孫娘は、急におとなしくなっちゃった。




