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第十四話 「冒険者の家系」

 故郷シュミットを後にして馬車に揺られている。 


 しかし何て言うか、濃密な別れとでも言うかとんだドタバタ劇だったな。


 急にソフィーが許婚になったり、ソフィーの父親であり領主クリストファー様はブルーノ達の冒険者仲間だったとか、2年後にはサンクルーズ魔法学校に入学する事になったりと故郷(シュミット)を離れる寂しさなど感じる暇も無い位だった。


 馬に似た動物2頭が引く馬車をブルーノとデュークさんが交替で御者を務め、俺とクラリスは馬車のワゴン内で快適に過ごしながら移動をしている。


 俺たちが引っ越す先はチコレットと言う街でシュミットから西に向かう。


 デュークさんが言うには馬車で約1ヶ月位の距離らしい。


 馬車で1ヶ月と言われてもどれ位の距離なのかは分からないが1ヶ月も移動時間を費やすとは結構な長旅だよな?


「母様はチコレットと言う街には行ったことあるんですか?」

「チコレットは私達が冒険者だったころにはまだなかったから行った事ないわね。でも冒険者時代には色んな街や森、山に谷、それから迷宮(ダンジョン)なんかも行ったけどね」


 おお…キタ迷宮(ダンジョン)

 これも異世界の定番だよね!


迷宮(ダンジョン)ってやっぱり魔物の巣窟なんですか?」

「そうね、迷宮(ダンジョン)の大きさによるけど基本的に魔物の巣窟になってるわね、何しろ迷宮(ダンジョン)は魔力の吹き溜まりだから魔物が自然と呼び寄せられるからね」


 ほうほうイメージ通りだな。


「そもそも魔物ってどんなのがいるんですか?」

「色んな魔物がいるけど大まかに分けると魔獣系、植魔系、魔鳥系、水魔系、魔虫系、石魔系、竜系、魔魂系と言った所かしら、要は地域や場所によって様々って事ね、まあいやでも道中たくさんの魔物に会うでしょうね」


 おお、何だろ?魔物に会うと聞いて胸が躍るとは俺も戦闘民族として覚醒したか?


「その時は僕も戦っていいですか?!」

「え?ええ…も、もちろん良いわよ…」


 クラリスの表情が一瞬引きつった様にも見え、何やら言葉に詰まる感じで答えるな。


「どうかしました?」

「い、いえ、まさかヴィンスから戦いたいなんて言葉聞くとは思ってなかったから、ちょっと驚いちゃって」


 ああ、そう言う事か、前の俺からは想像も出来ないセリフを今の俺が言ったから戸惑ったのか。


「お~い、またブルーノが泣いてる、ってーーー!痛ってーーな!」

「いちいちうるせーんだよテメェは!」


 御者席では相変わらずの漫才が繰り広げられている様だ。


「ちなみに魔物以外に我々人族みたいに種族って言うとどれ位いるんですか?」

「そうねぇ、まず私たち人族でしょ、それから魔族、獣人族、竜人族、尖耳族(エルフ)炭鉱族(ドワーフ)、後は種族じゃないけど神族ってとこかしら」


「結構な種族が存在するのですね」

「そうね、種族によって文化も歴史も違うからしょっちゅういざこざが起きたりしてるけどね」


「そうなんですか」

「ええ、残念だけど…」


 まあ前世は人間しか種族はいないにもかかわらず戦争が絶えなかったものな、それこそ種族が違う者同士が生きる世界だから争いがあっても不思議じゃないな。


「お~いヴィンス、魔物が出たぞ~」


 っ!?


 魔物!?

 魔物が出たって言う割にはデュークさんはまるで風呂沸いたぞぉ〜みたいに何だかのん気だな、なんて思いながら俺も御者席に移動する。


 御者席から前方を見ると100m程先に小さい人みたいのが8匹いるのが確認できた。

 あれってもしかして……。


「ゴブリンだな」


 デュークさんが教えてくれる。

 おお、異世界のやられキャラ!


「こんな街の近くまで来てやがんのかよ」

「放っておく訳にはいかねーな」


「んじゃ、俺が行くか」

「ああ、任せた」


 そう言うとブルーノは馬車を止め、デュークさんが華麗に回転しながら馬を飛び越え馬車の前に立つ。


「おお、デュークさん格好良いですね!」


 やっぱこの人も身体能力ハンパねーな。


「かっかっか!ヴィンス、格好良いのはこれからだぜ?」

「アホか、いいからさっさと狩ってこい」


 おお、自ら格好良いと言うとはどんな風にゴブリンを狩るんだろ?って言うかハードル自ら上げるな…けどこれがデュークさんか。


「ひがむな、ひがむなブルーノ」

「早く行かねーと馬車で轢き殺すぞ」


 調子づくデュークさんに軽くイラっとしたブルーノが手綱を引くポーズを取る。


「はいはい、んじゃヴィンス、俺の勇姿を見逃すんじゃねーぞ?」

「はい!!」


「ほらデューク、奴等も気づいてこっちへ向かってきてるぞ」


 確かに先程からブルーノとデュークさんが漫才している間にゴブリン達は猛ダッシュでこっちに向かって来ている。

 まあ、小さいから猛ダッシュといってもそこまで早くは無いが。


 デュークさんはゴブリン達の方へゆっくりと振り向くと剣を抜くでもなく、ただゆらりと立っているだけだ。


 確かに知能は低いと言われてるゴブリンだけあってデュークさんの余裕を警戒するでも無く、ただ粗末な武器をアホみたいに振り上げてワーーーーとか言いながら突進して来ている。


 俺の認識ではゴブリンは雑魚キャラで知能も戦闘力も低いとされているが、初めて魔物を見る俺にとってはなかなかの迫力だ。


 緑色の皮膚に赤い目、大きな鼻の先は何やら黄色い。耳は尖り、爪はボロボロになっていて確かに醜悪な見た目で雑魚キャラ扱いされてるけど、前世であんなのが夜中、道端にいたら絶対ビビるよな。


 なんて考えている間に流石にゴブリンもデュークさんの目と鼻の先まで迫っている。


 俺達に背中を向けているデュークさんの表情は伺い知る事は出来ないけど、焦る事なく変わらずゆらりと立っているだけだけど大丈夫か?


 あんなに余裕ぶって突っ立っるデュークさんに普通なら逆に警戒するんじゃないかと思うがゴブリンは何の疑問も持たず一斉に飛びかかる!


 ゴブリン達が一斉にジャンプしたその瞬間デュークさんが中腰になって目にも留まらぬ速さでその場で円を描く様に一回転した!


 飛びかかったゴブリン達が空中で止まっている…。


 デュークさんの手にはいつの間にか抜き身になった剣が握られていて、その剣にはゴブリンの血であろう緑の液体が滴っている。


 1匹のゴブリンが異変に気付いたのか本能で動いただけかは分からないが空中で駆け足する様に足を動かした次の瞬間!!


 ゴブリン達の腹から下が一斉に地面に落ち、無くなった下半身を追う様に上半身も地面へと落ちた。


 ゴブリン達は殺られた事にも気付かず、断末魔をあげる間も無く一瞬にして肉塊になった。


「おいデューク、早いとこ燃やして消し炭にしちまえよ」


 あっけに取られている俺を尻目にブルーノが当たり前の様に片付けしろと指示する。


「分かってるよブルーノ、それよりどうだ?ヴィンス、俺の技のキレは?」

「す、すごいです!!デュークさん!流石です!」

「なっはっはっは、そうだろ、そうだろ!」

「いいからさっさと始末しろ!置いてくぞ?」


 ホントに凄かった。技のキレもそうだけど何て言うか戦い方がスマートと言うか華があると言うか。


 デュークさんは汗ひとつかかないどころか鼻歌まじりに肉塊になったゴブリン達の下に土魔術で大きな穴を開けて落とし、火力の高い火魔術でゴブリン達を燃やしている。


「狩った魔物はああやって燃やすんですか?」


「ああ、殺したままにしておくと新たな魔物や魔獣が集まってきちまうし、最悪アンデッド系の魔物に生まれ変わっちまうからな、ああやって跡形も無く始末するのが定石だ」


「なるほど」


 言われてみれば確かに死骸なんかは魔物にとっては最高のエサかも知れないな。


「まあ、これがゴブリンじゃ仕方ねーが魔物によっちゃあ、金にもなるんだがな、特にドラゴンは棄てる部位が無いくらい貴重だ」

「じゃあどうせ魔物に遭遇するならドラゴンが良いですね」


 どうせ狩るなら経験値も積めて金にもなる魔物の方が良いに決まってる。


「そりゃそうだがドラゴンは滅多に会わねーし、会ったら会ったで、その強さは半端じゃねーぞ」

「父様やデュークさんでも敵わないのですか?」

「ん〜正直ドラゴンの種類にもよるがいずれにしても一対一じゃキツイな、飛ばない地竜だったら俺とデュークの二人掛かりで何とかってとこだな」

「やっぱり強いんですね、ドラゴンは」


 強い上に希少種なのかドラゴンは……。

 知らなかったら出会ってラッキー!みたいなノリで今のゴブリンの如く返り討ちにあったかも知れないからやっぱ慢心には注意しないと。


「ヴィンスも混じればドラゴン相手でも結構イケんじゃねーか?」


 デュークさんが何事も無かったかの様にヒラリと御者席に舞い戻ってきた。


「馬鹿言うなデューク」

「だけどよ、ブルーノお前だってヴィンスの能力の高さは知ってんだろ?」

「訓練と実戦はまったくの別モンだ」

「そりゃそうだげどよ、俺だっていきなりドラゴンと戦わそうってんじゃなくってそれなりの経験を積んだら、って話だよ」

「ふん、確かに可能性はあるがな」


 そう言いながらブルーノが俺を見る。


「僕も戦ってみたいです」

「………分かった、ヴィンス。ドラゴンとは言わねーが次に魔物が出たら一緒に戦ってみるか?」

「はい!お願いします!」


 ブルーノから許可が出た!


「お!良かったな、ヴィンス。じゃあ次魔物が出たら俺と()ってみるか」


 デュークさんが俺と肩を組み誘ってくれる。


「おい!ちょっと待て!今、俺が最初にヴィンスと戦うって今言っただろ?」


 食い気味にブルーノが突っ込む。


「い~や、お前は次に魔物が出たら一緒に戦うかって言っただけで、誰ととは言ってねーぞ」

「それはお前、言わなくても俺だって分かるだろ」


「いんや?分かんねーな、それより普通に考えて先ず記念すべきデビュー戦は師匠である俺とに決まってるだろ」

「馬鹿かテメー、なんで親である俺を差し置いてテメーとデビュー戦飾るんだ?ああ?」

「馬鹿はテメーだろ、っとあぶねー」


 ブルーノがいつも通り手を出すが流石にデュークさんも読んでたみたいでスッとスウェーで避ける。


「テメー何避けてんだ!」

「テメーみてぇな単細胞はスグ手ぇ出んのは分かってんだよ!」

「誰が単細胞だ?コラァ、ああ?」


 だいぶ俺もこの突っ込み漫才にも慣れたな。


「はいはい!そこまで!いい加減にしなさいアンタ達!!」


「うっ……」

「ぐっ……」


 そしてこれまたいつも通りクラリスに一喝される2人。


「アンタ達の馬鹿さ加減には付き合いきれないわ、ヴィンスのデビュー戦は私がサポートする!それで決まり、分かった?!」


 え?それは想定外の展開だぞクラリスさん?


「な、ちょっと、待てよ姉ちゃん!」

「そ、そうだぞ?クラリス、何でお前が…」


 この2人も想定外の展開の様でしどろもどろになっている。


「アンタ達に任せてたらいつまで経っても埒が明かないでしょうよ、だからデビュー戦はヴィンス一人で戦って私が後衛としてフォローに回るって事にするわ」


「いきなりヴィンス一人で戦わせるってか姉ちゃん」

「そりゃちょっと危険じゃねぇーか?クラリス?」


 うんうん、俺も流石に一人ってのはちょっと……どうなの?


「アンタ達が一番ヴィンスの強さ知ってるんじゃなかったの?第一この辺じゃあそこまで強い魔物は出ないし私が後衛について、アンタ達二人が見守っていれば万が一もないでしょ?」


 ああ、そう言う事だったのか、なら心強いし安心だな!


「ま、まあ、そうだけどよ…」

「な、なんて言うか、記念?すべきデビュー戦なんだし、その…」


 上手く返す言葉もなくモゴモゴとする2人、だけど男って何かそう言う記念とか何とかにこだわるよねぇ、まぁ、かくいう俺もそうだけど。


「だったら記念すべきデビュー戦は皆で見守ってあげれば良いじゃない?まあヴィンスがそれじゃ怖いって言うなら話は別だけど?」


 クラリスが俺の答えは分かっていると言わんばかりに振ってくる。


「僕なら大丈夫ですよ、三人が見守っていてくれるなら不安の欠片もありませんよ」

「だとよ、ブルーノ」

「う、うむ…な、なら仕方ないな…」


 俺の答えに納得せざるを得ないよね。


「じゃあそう言う事でいいわね?アンタ達、ヴィンスも!」


「お、おう」

「く、くれぐれも無理すんじゃないぞヴィンス」


「はい!お願いします!」


 母は強し、だな、野郎どもは俺を含め完全に仕切られてる。


 そんなこんなで話はまとまった、と思ったら俺は何やら怪しい影を発見した。


「あれは!?魔物ですか?!」


 俺は右前方の森に潜む様にしている黒い物体を指差す。


「お!ホントだ、ありゃウォーグじゃねぇーか?」


 デュークさんが気づき教えてくれる。

 どうやらウォーグって言う魔物らしい。


「何か弱ってそうじゃないですか?あれなら僕のデビュー戦にちょうど良いのでは?」


 見た目は黒い大型の狼みたいだが脚を引き摺って憔悴している様に見える。


「ヴィンス、よく見てみろ」


 ブルーノさんにそう促されて、ようく見てみる。


 ん?憔悴している様に見えるけど……よく見ると毛づやは良いしに肉付きも良くしっかりしている。

 ヤツが足を引き摺って頭をうな垂れているから弱っていると思ってしまったけど、まさか演技…?


「かっかっか、気づいたか?ヴィンス、野郎はああやって弱っている様に見せかけて誘き寄せるのが常套手段なんだぜ?」

「そうなんですね?なかなか賢い魔物ですね」


 危うくヤツの罠にまんまと引っ掛かるとこだったぜ。


「野郎は自分の間合いに入ってきた者に対し1対1で勝てると読めばその場で襲い掛かるし、手強そうだと感じれば逃げる様にして仲間が待ち受ける場所まで誘い込む、なかなか狡賢いヤツだ」


 ブルーノもヤツの手口を教えてくれる。こうやって色々知識があるとこ見るとやっぱ冒険者なんだなって改めて感心する。


「まあ、ヴィンスのデビュー戦にはもってこいじゃねぇか?」


 え?デュークさん??


「そうね、我が子のデビュー戦には御誂え向きね」


 え、ちょ、ママまで!?


「いや!?いやいや、ちょっと待って下さい!いくらなんでもデビュー戦にしてはデカ過ぎやしないですか?!」


 いくら何でも立派過ぎる狼ですよ?!前世の狼だって2mはないでしょ?!あるのかな?!

 どっちにしても前世の狼の一回り、いや二回りはデカいよ?!何なら軽自動車か5ナンバーセダン位ありそうなサイズですよ?!完全に魔物って言うかバケモノですよ?!しかも知恵が回るし!


「何、大丈夫だヴィンス、いざって時は俺がいるし」


 その逞しい二の腕に力こぶを作ってみせるブルーノ。


「お前をナメて襲ってくれば1対1のタイマン勝負だから何とかなるだろうし、誘き寄せんなら誘き寄せるで俺らも後からついていくから心配するな」


 何とかって…デュークさん?


「いやいや、ふつうに無理だと思いますけど、ね、母様?」


 あんなデカい狼相手にタイマン張るのは流石に厳しいっしょ!?


「我がギャレット家長男なら大丈夫よ」

「え?母様?一番根拠が無いっスよ……」


 ヤバいよヤバいよ、この流れ。

 脳筋の2人はともかく、母親の貴女までそんな事言いだしたら歯止めが利かなくまりますよ。


「そうだぜヴィンス、何事も思い込みが大事だ」

「いやデュークさん、思いっきり思い込みって言ってますやん」


「心配するなヴィンス、ウォーグごとき何百匹退治してきたか分からない位退治してきたから大丈夫だ」

「や、それはあなた達が何百匹って退治してきたって言う自慢話で、それと俺が大丈夫だって言う事には繋がらないでしょ」


「とにかく、誰にでも最初はあるものよ。もちろん私達にだってウォーグを初めて倒した時はあったわ、ヴィンス、あなたにとって初めては今よ」

「いや、だから、あなた達が一人でウォーグを倒した時って大人になってからですよね?」


 コイツ等の理屈は常人には通用しないぞ?


「俺がウォーグ狩ったのは確か5歳の時だったな」

「俺も5歳だったな」

「私は4歳だったわ」


「うっそ?!この世界の子供化け物なの、か…?」


 しれっと言ったが野郎2人が5歳ってのも異常だけど、ママは4歳の時って言ってたな今…。

 こうなると要注意人物はママンか…?!


「この世界の子供って、ヴィンスお前もこの世界の子供だろ?なら大丈夫だ」

「え~っと…ウォーグは大体みんな子供のうちに倒しちゃう魔物なんですかね…?」


 もしかして見かけによらず雑魚キャラか?ウォーグとやらは?


「いや、普通はどうなんだ?15歳位か?」

「いやぁ20歳過ぎてからだろ?」

「でも大人になっても倒した事無い人が大半じゃない?」


 え?全然雑魚じゃないやん……。


「へぇ~そんなもんか?」

「じゃあ子供ん時に倒してる俺らって何なんだ?天才か!?」

「そうかも!」


 おい!ママさんよ…お前さんもそっち側だったのか…?


「だっはっはっは!」

「あっはっはっは!」

「かっかっかっか!」


「………バカだ…バカなんだ、基本的にこの人達……」


 俺は気が遠くなるのを感じていた…。


「と言う訳でチャチャチャっと倒して華麗なデビュー戦飾ってこいよ」

「チャチャチャって……」

「大丈夫よヴィンス、私が後衛に付くって言ったでしょ」

「母様…」


 今やあなたの信用度も低くなってますが…?


「俺たちだって根拠無し大丈夫とは言ってねぇぜ、お前と何日間か稽古した俺のお墨付きなんだからよ」

「ヴィンス、俺も以前のお前ならこんな事は言ってなかった。だが今のお前なら出来ると信じているから愛する息子を魔物と闘わせるんだ」


「デュークさん、父様」


 そうだよな!馬鹿っぽく見えるけど、いや、失礼……海千山千の2人が言うならきっと大丈夫なんだろう!


「さ、準備は良い?ヴィンス!」


 そしてこの逞しい母様もついてる!


 そうだよな、この体の身体能力と魔量なら大丈夫なはずだ。

 冒険者として名を馳せたブルーノ、クラリス、デュークのバックアップもあるし、大体にして金と銀とが一緒になってこの世界の救世主になるとかなんとかって言うのにたかが狼の魔物にビビッてちゃ先に進めないよな。


「はい!!母様!行きましょう!」

「覚悟が付いたみたいね」


 そう言うクラリスの顔は晴れやかだ。


「いいかヴィンス、稽古でやった魔術と剣術を思い出して冷静に対処するんだ、そうすればあんなの敵じゃねーからな」


 デュークさんは相変わらず楽天的な言葉と笑顔だけど逆にそれが大丈夫だって言う根拠にも思える。


「ヴィンス!」


 最後にブルーノに呼ばれ振り返る。


 っ!?


 ブルーノから硬く重いモノが俺に投げられ受け止める。


「その剣、返す時が来たみたいだが戦いの最中にぼんやりすんじゃねぇーぞ」


 前にブルーノに取り上げられた剣だ。


「はい!!」

「じゃあ行くわよ、ヴィンス!」

「はい!!とぅ!!」


 さっきのデュークの宙返りを真似して馬上を超え着地する。


「は!やるじゃねぇかヴィンス!」


 デュークさんが冷やかす。が、いとも簡単にこんな曲芸が出来るなんて本当にこの体の身体能力はスゴイな。


「は!」


 クラリスも回転こそしないまでも軽やかにジャンプし馬を飛び越え音もたてず着地してみせる。


「それでは行ってきます!」

「油断すんじゃねぇぞ」

「クラリス、頼んだぞ」

「任せといてちょうだい、もしウォーグが森の中に誘い込む事があったらフォローお願いね」


「ああ、そん時ゃむしろ喜ぶぜ?なにしろ参加できんだからな」

「そうだな、それなら俺らもデビュー戦に参加する口実になるな」


 この2人はホントに戦いに参加したいみたいだな。


「その時はお願いします」

「あのウォーグにヴィンスの力量が測れるだけの知能があれば良いけどね」


 クラリスもあの魔物にある意味期待している様な言い回しをする。


「よし!じゃあブルーノ、あのウォーグにそれだけの知能があるか賭けようぜ」

「何を賭けんだ?」

「もし共闘になった時、ヴィンスと組んで攻撃役をかって出る権利だ、負けた方は援護射撃役な」


 人差し指を立ていたずらっぽくデュークさんが提案する。


「何ぃ?ならもしウォーグにその知能が無いって賭けて当たったらどうすんだ?」

「そん時ゃ、次回の魔物との戦いでヴィンスと二人っきりで戦える権利だ、どうだ?」

「よし乗った!じゃあ俺はウォーグにその知能は無ぇー方に賭けんぜ」


 ブルーノもニヤリと笑みを浮かべる。…悪そうな面だ…。


「お!気が合うじゃねぇか、俺はウォーグは森に誘き寄せる方に賭けるぜ」

「まったくアンタ達は…」


 この呑気さが逆に頼もしいけど、何でも賭け事にするのはどうなの?


「それじゃ母様が得しないんじゃないですか?」


 野郎同士で盛り上がっているがクラリスの事忘れてない?


「あ、そっか」

「そうだな」


「いいのよ、私は今からヴィンスの初陣に先行出来るんだからあなた達だけでやったら」


「じゃ、母様お願いします」


 そうして俺はデビュー戦の相手になるウォーグに向かって歩を進めるのであった。

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