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第十三話 「処分と責任」

 4日振りに現れたソフィーは顔に大きな傷を作ってきた。


「ソフィー……!!その傷どうしたんですか!?」


 修行の類でついた傷じゃない……明らかに何かと戦ってできた傷だ、それも出来たばかりっぽく生々しい。

 服も所々破れ汚れている。


「ああこれ?…別に何でも無いわ」

「な、何でも無いって……そんな風には見えないですけど?」

「いいの、ホントに大丈夫だから。言ってみれば名誉の傷みたいな感じだから」


 ソフィーは面倒くさそうって言うか傷の事に触れて欲しく無い様で素っ気ない。


「名誉の傷って…ソフィーちゃん。その名誉ってのは何だ?」


 デュークさんももちろん気になって聞く。


「大切な何かを守った事と新しい友達が出来た事です、師匠」


 よく分からないけど複雑な事情はありそうだ。


「だとしてもだ、とりあえずクラリスんトコ行って治癒魔術かけてきてもらえ、ソフィーちゃん」


 ブルーノもよく分からないけどとりあえずは傷を治す方が先だとソフィーを促す。


「治癒魔術ならかけて服はボロボロですけど体の傷は治っていますから大丈夫ですブルーノさん、顔に傷はあえてこのままにしているんです」

「よく分んねぇが女の子が顔にそんな傷つけるもんじゃねぇ、痕にでもなったらどうするんだ?」

「痕になります、この傷は毒を含んだ切り傷なので」


 ソフィーはしれっと頬の傷を指差す。


「な、何ぃ?!何だってそんな真似を?!分かっていたなら早く治癒魔術かければ痕にならずに済むんだぞ?」


 デュークさんも驚き慌てる!


「デューク!!ソフィーちゃんの心理はともかく、お前の下手な治癒魔術でいいからかけろ!」

「あ、ああ。治癒魔術(ヒーリング)


 不満そうなソフィーをよそにブルーノにせかされる様にしてデュークさんがソフィーに治癒魔術を施す。


「…遅かったかぁ」


 頬の刀傷は治らずそのままだった。


「だからいいんです。これで」


 どこか自慢げに話すソフィー。


「何がいいんだ、女の子が顔に傷作っていい訳あるか」

「ブルーノさん、これは名誉の傷であり私自身への戒めなんです。自分の未熟さへの戒めと友達が出来た名誉の傷なんです。そんな事よりあんた達!!」


 傷の事をはぐらかす様にソフィーが後ろにいるガスラン君達に睨みを利かす。


「「「っ!?」」」


 いきなりソフィーから振られたガスラン君達は反射的に直立不動になって姿勢を正す。


「何ボーっとしてんのよ!早くしなさいよ!」

「う、うん………」


 ガスラン君が一歩いや、半歩前に出てうつむき加減のままチラチラと俺をはじめブルーノやデュークさんの顔色を伺う。


「ああ、そういう事か?」


 デュークさんが何やら察した様だ。


「そういう事って?師匠」

「いや、さっきソフィーちゃんが言っていた新しい友達って言うのはガスラン君達の事で紹介したいって事だろ?」


 ドヤ顔で言うデュークさん…いや違うと思うけど……。


「はぁあ??何言ってんですか?師匠!!冗談もほどほどにして下さいよ!何で私がこいつらと友達になってその為に傷を残すんですか?!」

「え?何?違うの?」


 はずれた事にビックリって感じのデュークさんだが逆にそれがビックリだわ。


「師匠……師匠だから堪えますけど他の人だったら八つ裂きにしてるトコですよ、ほらあんた達もモジモジしてないでさっさとしなさいよ!」


「いやぁ…ソフィーちゃん…もういいんじゃないか…?」


 何故かブルーノがガスラン君たちを庇う。何でだ?


「何がもういいんですか?ブルーノさん。ブルーノさんにもこの後聞きたい事、ありますから!」


「ん…あ、あぁ…」


 完全にソフィーちゃんにやりこまれてるなブルーノ、何か後ろめたい事でもあるのだろうか……?


「一体どうしたって言うんです?」


 事態を飲み込めない俺はソフィーに問う。

 ソフィーはイライラしてるし、ガスラン君達は半ベソだし、ブルーノは何か知らないがドギマギしてるし、デュークさんは天然かましてるし完全に混沌(カオス)状態だ。


「ほら!あんた達!」


 ソフィーに背中を叩かれガスラン君が強制的に2、3歩前に出される。


 慌てるガスラン君はこっちを見たりソフィーの方を見たりしていたがソフィーにアゴで諭され口を開いた。


「あ、あ、あの……ヴィンス……ごめんなさい……」

「え?僕……?」


 急にガスラン君が俺に謝ってきた……。


 その後ガスラン君から俺に謝った理由が話された。途中からガスラン君達は泣きじゃくりながら俺、と言うかこの体の元の持ち主が落下した経緯、結果助けざるを得ない状況だった事、ブルーノが真実を突き止めガスラン君ちに来た事などおおよそ全てを話した。


 なるほど、ブルーノがガスラン君ち、つまりバルドック家で理不尽な事に腹が立ち暴れたって言うのはそういう事だったのか。


「で?ブルーノさん…何で早々と真実を知っていたのに私達、特にヴィンスに言わなかったのです?」


 次はお前の番だと言わんばかりにソフィーがブルーノに詰め寄る。


「や、それは……」


 ブルーノまでガスラン君達みたいに恐縮する。


 だがそれは俺も疑問に感じた。

 何で言ってくれなかったんだ?


「それはブルーノなりに気を使ったんじゃねーか?」


 ブルーノに変わってデュークさんがフォローする。


「師匠…どういう事です?」


「なんつーか…ヴィンスは記憶こそ失くしたが、命は助かった訳だし性格も前向きになった。それにこれはおまけだろうけどヴィンス自身がコンプレックスだった銀髪も金髪になった。言ってみればヴィンスは生まれ変わったって訳だ」


 デュークさんの生まれ変わったってフレーズにドキッとする。


「確かにそうですけど、それとブルーノさんが内緒にしていたのとどう繋がるのです?」


「つまりだ、過去は過去として大切だし良い事も嫌な事も成長に必要不可欠だし、全ては経験の上に成り立って今を生きてる訳だが、ヴィンスが生まれ変わって前向きに生きるんなら、過ぎた過去より今からを大切させようと思ったからあえて言わなかったんじゃねーかな?」


「…そうですの?ブルーノさん?」


 問い詰める様にソフィーちゃんがブルーノに問う。


「ん…まぁ…な…」


 対照的にバツが悪そうに答えるブルーノ。


「橋から落ちて死ぬ程怖い思いして痛い目にあった…その記憶が無いなら無いでいいのさ、なぁヴィンス?」


「は、はい…僕自身はまったく記憶に無いのですし…」


「とは言え、悪ふざけが過ぎてもしかしたらヴィンスを殺してしまったかも知れないガスラン君達には犯してしまった罪の自覚が必要だ。そこでブルーノはチャド君にルロイ君に事の重大さを理解させ反省させた。ガスラン君にも同じ様に償わせるまでしないまでも反省はさせたかった」


 皆がデュークさんの説明に聞き入っている。

 もちろん俺もだ。


「そこまでは良かったがブルーノが計算違いだったのはバルドック家に行ってから経緯はともかく暴れちまった事だ、違うか?ブルーノ」


「…ふん、まぁ…そういうこったな…」


 さっきのボケが嘘の様に名探偵のごとく事情をブルーノに変わって説明するデュークさん。

 観念したまるで犯人の様なブルーノ。


「だったら!ブルーノさんが処分受けるも何も無いじゃない!悪いのはガスランとバルドック家じゃない!」


 ソフィーがガスラン君を殺しかねない殺気で見る。


「や、だ、だ、だ、だから、ぼぼ僕…謝ったじゃないか…」


 必死に弁明するガスラン君。


「ガスラン君の言う通りだソフィーちゃん、ガスラン君にチャド君、ルロイ君は十分反省しただろう、それに騎士の俺が貴族の家で暴れたのは事実だしな」


「反省したからいいなんて甘すぎますブルーノさん!ブルーノさんが暴れたのは正当防衛でしょ!?こうなったらブルーノさんに怒られてでも私のポリシーに反してでも我がカルヴァート家の家名でも権力でも何でも使ってバルドック家に謝らせますわ!!」


 鼻息荒く息巻くソフィーちゃん。ソフィーちゃんとしてはどうしても解せないんだろう。


「やめてくれソフィーちゃん。前にも言っただろ?結局は身から出た錆だってな、まぁ唯一気がかりはヴィンスやクラリス、デュークに迷惑かけちまう事だな」

「俺なら全然大丈夫だぜ?ブルーノの迷惑なら嫌って程知ってるしな」

「僕も、何があろうと多分大丈夫です!」


「ふん……お前ら…。つー訳だソフィーちゃん、心配してくれてありがとな、だがウチは大丈夫みたいだ」


「ブルーノさん……」


 諦念の表情を浮かべるソフィーちゃん。


「あ、あ、あの…!!」

「ぁあ?何よ!ガスラン!!あんたが口挟む余地無いわよ!つまんない事言ったら例の氷の刃でその頭と体、別々にするわよ」


 ソフィーがお嬢様の欠片もなく斜め45度に構え睨みを効かせる。


「ひぃいぃぃ…!!ち、ち、ちち違うんだよ!!ぼ、ぼ、僕!今からウチに帰って父様に本当の事言って、ブルーノさんの身の潔白を晴らすよ!」


「ふん、ようやく反省した様ね。よぅし、ならさっさと行って来なさい!!」


 ソフィーが腰に手を当て、もう片方の手でバルドック家の方角を指差す。


「う、うん!!行くぞ、チャド、ルロイ!」

「「うん!!」」


 っ!?


 ガスラン君達が踵を返し自宅へ向かおうとした先、つまり我が家の玄関に高貴そうな一団がいる事に気付く。


「お父様…?」


 ソフィーちゃんが父様と呼ぶ人物はただ1人、カルヴァート家当主であり、この地シュミット領主であるクリストファー様だ。


 クリストファー様を先頭にした高貴な一団が我が家へ入ってくる。


「父様…」


 どうやらガスラン君の父であるバルドック家当主も帯同している様だ。


「ブルーノよ邪魔するぞ……ソフィア、やはりここか」

「はい、お父様」


 問うクリストファー様に毅然とした態度のソフィーちゃん。


「ガスラン、お前までこんなトコにいるとは!こんなとこで何をしている!?」


 完全に想定外といった感じで驚くガスラン君の父…。


「と、父様…実は…」

「いや、お前の事はどうでもいい、そんな事より重要な話にクリストファー様自らがお越しだ。ささ、クリストファー様…」


 ガスラン君の父はガスラン君の発言を打ち消す様かぶせ、息子の存在などどうでも良いかの様な態度に父親としての違和感を覚える。


「うむ。ブルーノよ、先のバルドック家での暴動につき処分を言い渡しに来た」


「は!クリストファー様。しかし何故わざわざこの様な場所までクリストファー様自らお越しに?通常であればお呼び出しを受けこちらが出向かうのは通例かと」


「それだけクリストファー様は器の大きなお方だと言う事よブルーノ。クリストファー様自らこの様な錆びれた場所に来て頂いた事に感謝しろ」

「ガルロよ!少し黙っててくれないか?」

「ははぁ、これはクリストファー様、失礼いたしましたぁ」


 ガスラン君の父、ガルロとか言う奴はは前世でよく見る典型的な上を向いて仕事するタイプだな。


「今回の件があったとは言え、いつも娘のソフィアが世話になっているからな、1度挨拶に来たいとは思っていたが、まさかこんな形で来る事になるとはな…」


「申し訳ございません……」


 バツの悪そうなブルーノ、そりゃそうか…。


「ちょっと待って下さい、お父様」

「何だソフィア、今から大事な話をするからお前も黙っていなさい」

「いいえお父様、大事な話をする前にもっと大事な事実がありますのでそちらを先に聞いて下さい」


「何だ大事な事実とは?」


「それはガスランの方から申し上げます、さ、ガスラン」

「え!?ぼ、ぼ、僕…!?」


「当たり前じゃない、今さっきあんたが本当の事を言うって言ったでしょ!?」

「そ、そ、そうだけど…」


 ガスラン君は父親や多くの大人達から注目を集めビビってしまった様だ。


「クリストファー様、我が息子ガスランは虚言癖がありまして、何を言うつもりか分かりませんが大概が嘘ですので放って置いて方が宜しいかと…」


 何かを察したのかガルロが口を挟む。


「ガルロ様!自分の子供の言う事が信じられないですって?あなたよく息子の前でそんな事が言えますわね、ガスラン、あんたもあんたで言い返しなさいよ!」


「いや…僕は…」


 ガスラン君はすっかり萎縮している。


「いいんだ、ソフィーちゃん、それでクリストファー様、私への処分とは?」


 ブルーノが割って入る。


「ちょっと、ブルーノさん…!お父様、待って下さい!ガスランが言わないなら私から言います!」

「ソフィア様!!クリストファー様の御前ですぞ?どうぞお静かに」


 慌てながら若干キレ気味にソフィーを止めるガルロ、ちょっとした混乱(カオス)状態だ。


「ガルロ様、よっぽど私やガスランが喋ると困るみたいですね」

「な、何を…おっしゃられますソフィア様」


 ソフィーちゃんに睨まれながらもシラを切っている様子のガルロ。


「ガスラン!あんたも…」

「静かにしろ!皆の者!」


 っ!?


 クリストファー様の護衛の人がクリストファー様に促され一喝する。


「ブルーノよ」


 ようやく静かになった場でクリストファー様が静かに口を開く。


「は、クリストファー様」

「そなたには遠方への出向を言い渡す」

「は!」


 あっさりと処分を言い渡しあっさりと受け入れるブルーノ。


「ちょ、お父様!!何でブルーノさんが遠くの地に行かなければならないのです?」

「何で?それはブルーノがバルドック家で暴動をはたらいたからに決まっているだろう」


「そんな事を聞いているのではありません!私が聞いているのは何故無実のブルーノさんに処罰が下るのかを聞いているのです!」


「ブルーノが無実?ブルーノがバルドック家で暴動など起こしていないと言うのか?どうなんだ?ブルーノ、ガルロ」


「はい!クリストファー様、このブルーノは間違いなく我が家にて暴力をもって私と我が家の警備の者に理不尽な力を振るいました」


「違いないか?ブルーノ」

「…ガルロ様のおっしゃる通りでございます」


「ちょっと!ブルーノさんまで何言ってるの!?」


 ソフィー以外はこの場の雰囲気とクリストファー様、いやブルーノの覚悟と言うか漢気と言うか、何て言うか二人の空気に読み沈黙する。


「静かにしないかソフィア、こうして被害者も加害者も両方の意見が合致している以上、この処分は決定なのだ」


「見損ないましたわ、父様!!ガルロ様とブルーノさんのどちらが正しいかも分からないなんて」

「ソフィア様!?お父上であり領主であるクリストファー様に対して口が過ぎますぞ!」

「ガルロ様は黙っていて下さい!真実が明るみに出るのが怖いからと言っていちいち口を挟まないで下さい」


「な?ソフィア様…」


「ソフィア、騎士が貴族の家で暴力をはたらいた。これだけが事実として残っているのだ。ならばそれ相当の処罰が必要なのだ…」


「恐れながらクリストファー様、それ相当の処罰にしては甘過ぎるのでは?私めは死ぬところだったのです、死を持って償わせる事こそ妥当かと…」

「ふざけないで!ガルロ様!あなたよくもいけしゃあしゃあと言えますわね!貴族としてのプライドは無いのですか?」


「いい加減にしないか!ソフィア、ガルロもだ、私が総合的に判断して決めたのだ」


「何が総合的に判断してよ?そんな判断は間違った貴族贔屓の悪しき風潮判断よ!!ガルロこそ死刑に値する悪党なの分かってないの?!そんなんだったら…」


 っ!?


 興奮して我を見失いかけていたソフィーが固まる。


 左頬を抑えて。


 ブルーノがその厳つい人差し指でソフィーの頬を叩いたからだ。


 時間が止まった様に皆が沈黙する。


「ソフィア様、さっきから黙って聞いてれば親や目上の人に言葉が過ぎますぞ」


 沈黙を破ったのはソフィーが必死にかばっていたブルーノだった。


「な、な、何でよ?ブルーノさん!!何で私が…!!」

「見、見、見ましたか?!クリストファー様!!ブルーノの奴、カルヴァート家の大切なご令嬢に手をあげましたぞ!!」


 ガルロが鬼の首を取った様に言う。


「は、はははっ、これでブルーノの暴力性が証明されましたな!はっ!もしや先程から気になっておりましたがソフィア様の顔の傷と言い服がボロボロで汚れているのもブルーノの仕業じゃ?そうだ!そうに決まってる!」


「先程より静かにしろと言っている、ガルロ!」


 良く喋るガルロにクリストファー様が一喝する。


「は、ははぁ!こ、これは失礼いたしました…!」


「ブルーノよ、ジャジャ馬の娘を叱ってくれて礼を言う」

「いえ、大変申し訳ございません。この処罰はなんなりと」

「いや、今までも娘の面倒を見てくれて感謝している、ブルーノをはじめクラリス、デューク、それにヴィンスも」


「…………………」


「その感謝とそなたの人格を鑑みた今回の処分だ、異論は無いなガルロ」


「は、ははぁ…」


 ガルロは悔しさが滲み出ている。

 だが全てが証明出来れば処分されるのはガルロの方だ。

 痛み分けどころかガルロにしてみれば十分、得した結果に違い無いだろうに。


「ブルーノも言いたい事はあるだろうが分かってくれれば幸甚だ」

「は!寛大な処分に感謝致します」


 結局大人達は全てを語らずとも納得したみたいだ。

 もちろん中身が大人の俺もだ。


 納得いかないのはソフィーとガルロの2人でガスラン一派は事態が分かっていないだろう。


 遠方への出立は5日以内という事で長い様な短い様な日程だが俺達は引越しの準備をしながらだが、それ以外はあえてと言うか暗黙の了解と言うか普通に過ごした。


 ソフィーも普通に毎日遊びに来ていたし。





 ~~出立の日~~



 我が家は家を売り、当面の資金と馬車の購入に充てた。


 見送りにはソフィーと領主のクリストファー様、ソフィーの母親フェリシアさんが来てくれた。


 ガスラン一派やバルドック家は来ていない。というか来てほしくも無いが。


「ブルーノ、そなたとデューク、クラリスがいれば道中問題無いだろうが気をつけてな」

「は、ありがとうございます」


「今回の件、本当に済まない…ソフィアから真実は聞いたが何分証拠も第3者的証人もない。私が言うのも何だが私なりに出来る限り貴族連中へも騎士の者達にも遺恨が残らない形で処分を決めたつもりだが結局はブルーノ、そなた方ギャレット家だけに泥を被せてしまった…本当に申し訳無い」


 領主ともあろう方が騎士に頭を下げる。


「やめろ、ケリー。その頭上げろ」

「そうだぜ、ケリー。領主のお前さんが俺らに頭なんか下げてるトコを誰かに見られたらどうすんだ」


 え??どうしたの急に?領主様に対してウチの輩どもが随分上から目線じゃね?


「いいのよ、この人ったら未だに冒険者パーティ時代の序列であなた方を兄弟の様に慕っているんですから」


 え?フェリシアさん?今、冒険者って言った?


「ふん、まぁ確かに俺らから見たら冒険者としてはまだまだだったな」

「言うなってデューク、お前とはそんなに違わなかったぜ?」


 何だ?クリストファー様が急に輩感を出してきたぞ?


「ざけんな、俺の方が数倍上だっつーの!」

「お前は偏りがあんだよ、魔術、剣術の総合力なら俺のが上だろ」


 まるでデュークさんみたいな喋り方するな…。


「あの…もしかして前に言ってたイーグルクローってパーティ組んでいた時のケリーって、クリストファー様の事だったんですか?」


「ああ、実はそうなんだよ。まぁ立場上公には出来ないがな」


 ああ、そう言う事…。


「だから領主で貴族のソフィーが騎士の我が家へ1人で毎日の様に遊びに来てても領主様が文句言う事は無かったんですね」


「ああ、そう言う事だヴィンス。そう言う訳だから遠方に行ってもソフィアとは友達でいてやってくれ」


 クリストファー様はそう言いながら俺の頭をくしゃくしゃと撫でる。

 何だか言われてみれば確かにブルーノ、デュークと雰囲気が似てるな。


「ヴィンス」


 ソフィーに声を掛けられる。


「ソフィー……」

「あなた2年後サンクルーズの魔法学校に入学しなさい」

「へ?魔法学校?」


 何を唐突に言い出す?


「そうよ、私も2年後にサンクルーズ魔法学校に編入出来る様、頑張るからあなたも必ず来なさい」

「だ、だけど…父様とデュークさんが金もかかるし、それに見合う内容なんざ学校には無いって言ってたから…」


「何?ブルーノ、デューク!お前らそんな事吹き込んだのか?」


 クリストファー様が驚いた表情で2人に詰め寄る。


「吹き込んだって言うか…なぁ、ブルーノ?」

「いや、俺は学ばしたいって言ったろ?」


「やっぱりデューク、お前か」

「きったねーブルーノ、お前裏切ったな!」

「いやだから俺は途中でやめたがその先に得られた物もあったんじゃないかって…」


「もういい、お前ら。ヴィンス、ヴィンスは学校で学びたいか?」


 クリストファー様が膝をつきしゃがみ俺と同じ視線になって聞いてくる。


「はい」

「よし!なら決定だ、2年後、サンクルーズ魔法学校に入学しろ」


 クリストファー様は笑顔でポンッと俺の肩をたたき立ち上がる。


「決まりね」


 フェリシアさんも異論はないみたいだ。


「で、でも…」


 とは言えだ、いくらかかるか知らないけど入学金を出してもらうって言うのは流石に……。


「何、金なら気にすんな、我がカルヴァート家に任せておけ。な、いいだろ?フェリシア」

「もちろんよ!今回の件もそうだけど冒険者時代からの借りをここで返さないでいつ返すの」


 カルヴァート家は気にするなと言う。


「いいのかケリー?」


 ブルーノが困った様に聞く。


「ああ、もちろん。その代りしっかり力つけておけよヴィンス、サンクルーズ魔法学校はエリート中のエリートが集まる学校だからな」

「ヴィンス、約束よ」


 ソフィーが手を差し伸べる。


「…分かりました」


 申し訳ないなと思いながらも俺も右手を差し出し握手する。


 硬く握手したその手を引っ張られる!


 っ!?


 力のあるソフィーに急に引っ張られ、つんのめって前に出た俺の唇にソフィーの唇が重なる。


「「「おぉ〜〜〜」」」


 大人達が冷やかす様な歓声を上げる。


「お父様。私の大切なファーストキスをヴィンスに奪われました」

「ああ、見事に奪われたな」


 え?え??


「確かにヴィンスがソフィーの唇を奪っちまったな」


 え?ブルーノ?


「ヴィンス。この責任どう取るつもり?」


 え?ちょ、えぇ?


「ヴィンス、親の私の前で大切な娘のファーストキスを奪ったんだから責任は取ってもらうぞ」


「えーっと…それって……」


「結婚…だな」

「えぇ?!」

「何?えぇ?!って?ヴィンス、まさか嫌なの?」


「いや、嫌とかじゃなく…」

「嫌じゃないなら何よ?」


「話の展開についていけてなくて…」


「まぁ今すぐに結婚出来る訳じゃないから安心しろ」

「安心しろってどういう意味ですの?ブルーノさん」

「いやぁそうじゃなくって…」


「つまり許婚ってヤツだな」

「そう言う事ね」


「だからヴィンス、あなた遠方に行って誰か他の女の人とどうにかなってみなさい、絶対に許さないわよ」

「は、はい……」


 何だか犯された様な気分だがまぁいいっか。

 ソフィーは可愛いし、まだ俺たちは子供だからどこまでマジなのか分からないしな。


 そんなドタバタ劇の中、俺達は遠方に向け出立するのだった。

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