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庭園の国の少女  作者: ぎじえ・いり
大地の魔獣
16/25

優美な花

「まだ見て回るんですかー?」


既に4軒目にもなると、リデルもうんざりしてきたようだった。

リックとリデルと共に街を歩く。

昨日買った馬、リリアンヌはとりあえず、牧場で預かってもらっている。

街から出る時にあらためて受け取る事になっていた。


街に戻り、剣を探す。

そのために今日は街を回るわ。


そう宣言すると、リデルは最初喜んでいた。


しかし、1軒、2軒と回り、その度に色々と注文を付けては剣を出してもらっていたので時間が掛かった。


「そんなに迷うんなら、もう最初から作ってもらった方が早いんじゃないですか?」


この街の工房の腕は悪くはなかった。

それでもあの橋の剣の事を考えると、なかなか納得がいかない。


「それだといつ街を出られるか分からないでしょう?」


それに、私は今すぐに剣が欲しかった。

腰の辺りが軽いのは落ち着かない。


結局、その日は1日見て回って、何も収穫が無かった。


「無駄骨でしたね」


宿に戻って言ったリデルのその言葉は労いではなかった。






翌日、朝起きてすぐにギルドの使いが来た。

どうやら例の盗賊の件が片がついたようだ。

朝食を食べてすぐに向かった。


特に気の利いたやりとりもなく、事務的な手続き。

確かにあれは盗賊で、届け出た荷も他の街のギルドから届くはずの荷が届かないという事で、調査依頼が出ていたようだ。


少なく無い報酬を貰ってギルドを出る。

これでこの街にいなければならない理由は無くなった。


「どうします?」


その事を察して、リデルが問いかける。

特に行く宛てがあった訳では無い。

それでも自然と弓工房へと足が向かった。


「足も出来たし、このまま西に向かいましょうか?」


ギルドでも軽く依頼を見てみたけれども、大した依頼は無かった。


「それなら出る前に色々と食べ歩きましょう!お金はあるんですから!」

「リデル。あんまりそう言う事は大きな声で言わない方が良いわよ」


保護者か。

そんな事を考えて、思わず笑った。






「ウチが扱ってるのは弓だ。剣の事なんぞ知らん」

「まあ、そうでしょうね」


弓工房を訪れると、座ってろ。今、茶を入れるから、と席に座らされた。

雑談ついでに何か情報があればと思い聞いたものの、結果は想像通り。


「色々と詳しそうだったから、ついね」

「街の事に疎いつもりは無いが、どこの誰がどんな物を仕入れてるだのなんだのなんて言う事までは知らん。弓の事ならともかくな」

「まあ、そうですよねー」


リデルは完全に他人事で、テーブルの上に直接座り込み、カップを傾けてお茶をすする。


「あそこの工房はいったか?割と評判良いぞ」


言われた工房は既に昨日、行っていた。


「作り置きで良い物は無かったわ」

「注文すれば良いじゃねえか」

「そんなに待ってられないの」


聞いたところ、2、3週間は先になると言われた。

そんな先まで待ってられない。


「なんだ、急ぐのか?」

「急がなくちゃならない理由はないけれども、そろそろ街を出ようかと思って」


そう言うと、職人の顔がしかめられた。


「そうか。残念だな」


職人は考え込むように顎に手を当て、黙った。

そして。


「明日、またここに来な。ちょっと俺の方でも色々と聞いてみる。どんなのが良いんだ?」

「探してくれるんですか?」


リデルがちょっと驚いたように声を上げた。


「ああ。餞別だ」


元々使っていたのが橋の剣と呼ばれる剣であった事、長さや重さ、剣の幅などを伝えて工房を出た。


工房を出ると、職人も一緒に出て来て、入り口に休業の看板を下げる。

そして私たちに手を挙げるだけの簡単な挨拶をして再び工房の中へ戻った。


入り口脇で丸くなっていたリックに声を掛けて歩き出す。

リデルは私の視線の先をふわふわと浮くように進む。


「気に入られましたね」

「そうね」

「それじゃあどうします?また探しますか?」


これからの予定の事か。

リデルはまた私が剣を探すと思っているのだろう。


「いいえ。探してくれるのなら待ちましょう」


既に昨日1日探して駄目だったのだ。

それに今日はやる事がある。


「さて、それじゃあまずはどこにしましょうか?」

「えーっと、剣は探さないんですよね?なら何です?」


リデルは首を傾げて不思議そうな顔をする。


「色々と食べ歩くんでしょう?ちょうどお腹が空いてきたし、リデルは何を食べたい?」


私の言葉を聞くと、リデルはバンザイをした。


「クッキー!」






弓工房へと向かうと、入り口に休業の看板が下がっていた。

いないのだろうか?

そう思って中を覗き込むと、カウンターでなにやらやっていた職人と目が合う。

手振りで開けろと示すので、言われるままに中へと入る。


「早かったな」

「特にやる事もなかったから」


昨日はリデルと食べ歩きをして、夜に簡単なトレーニングをしただけだ。

実際、仕事も何も無いと、暇だった。

1日中トレーニングをしている訳にもいかない。


「ちょっと早めに出て弓を引かせてもらおうかと思って」

「そうか」


簡単に頷くと、裏へと通された。

職人はやる事があるようで、ついては来なかった。


リデルとは宿で別れた。

街を出る前に何やら色々とやりたい事があるらしい。

リックもリデルについて行ったので、今は私ひとりだ。


弓と矢を手にする。

的を見る。


一度、目を閉じ、開いた。






「もういいのか?」

「ええ。じゅうぶんよ」


工房へと戻ると、席へと案内される。


「ちょっと待っててくれ。もうちょいで終わる」


そう言うと、またお茶を出してくれた。

言われるがままに、お茶を飲み、待つ。

壁に掛けられたいくつもの弓を眺めて過ごす。


カップに口をつけようとして気付いた。


前に矢を見ていて言われた事を思い出す。


あまりこういう風に笑うのは良く無いのか。


カップで口元を隠して、笑った。


しばらく待っていると、職人が声を掛けてきた。

どうやら終わったようだ。

連れ立って、工房を出、そして通りを歩いた。


「ここは?」

「骨董屋だよ」


職人に案内されて向かったお店は街の外れにある、一見して入りにくいお店だった。

古びてぼろぼろの木造の家。

入り口の回りにはツボやら木で出来た置物やら、雑然と良く分からない物が並んでいる。

雑多な物で狭くなっている入り口を通り抜けると、中も同じように所狭しと物が並んでいた。

並んでいる物にも、並べ方にも規則性は感じられない。


入り口同様狭い通路を奥へと進む。

突き当たりで職人は声を掛けた。


「よう。すまんな」

「あん。ああ。あんたか」


まるで棚の中に埋もれるように置かれたカウンター。

その上にも雑然と物が置かれていて、見通せなくなったその向こう側にひとりの小さな老人が腰掛けていた。


ごつごつとした岩を思わせる肌が襤褸のような服の間から覗いている。

顔が大きく、まるで取って付けたような鼻が印象的で、頭から伸びる髪も1本1本が太く、まるで木の根のようだ。


職人をちらりと一瞥しただけで、私には目も向けずに老人は手にしていた燭台を舐めるように目に近づけて見ていた。


「頼んでたの、出してくれ」

「待ちな」


そう言っても老人はなかなか動かなかった。

思わず職人を見ると、口の端を釣り上げた。

この老人はいつもこんな感じなのだろう。


仕方無いので、店の中の物を眺めた。


食器や家具、彫像、他にも良く分からない物が並んでいる。

よくよく探してみると、胸鎧もあった。

私が今使っている物に比べると、どうにも野暮ったく、それに重そうだ。

もしかすると実用品ではないのかもしれない。


そう考えると、こんな所に剣があるのだろうか?と不安になった。


「来たぞ」


振り向くと、職人が一振りの剣を両手で抱えるように持っていた。


「どうだ」


受け取る。

橋の剣と比べて少し重いだろうか。

最初はそう感じた。


しかしそれは私の勘違いだと、持っているうちに気が付いた。

重さのバランスが違うのだ。


橋の剣は手元の方が幅が広く、そして重かった。

今手にした剣は刃幅が切っ先からふくらみ、そこから波打つように曲線を描いて中程でくびれ、そしてまた握り近くで膨らんでいる。


今までは手元に重心が来ていたので、それに比べれば先の方に重心がある。

それで重いように錯覚したのだ。

重さはきっと橋の剣と同じくらいだろう。


全体的にはそんなに幅広の剣では無い。

どこか花のつぼみを思わせる優美さがある。


だからといって、華奢ではない。

刃には厚みがあり、しっかりとした造りだ。


鍔は握り近くで膨らんだ刃から雫が弾かれたように細く伸びている。

何よりも美しいのは、刃に彫られた象眼だった。


所々削れてしまっている。

それでも彫られた植物の蔓の細工は腕の確かな職人が彫ったのだろう。

元々は全体に施されていたのであろう金の象眼は今では点々と残るだけだったが、それがかえって剣が過度に華美にならずに私の好みだった。


長さはショートソードよりも多少長いくらいで、橋の剣と比べると、ほんの少し短いだろうか。


主人に話しかけて、店の外で振らせてもらう。

さすがにあの狭い店の中では振り回せない。


心配していたようながたつきは無かった。

純粋な武器屋にある剣では無いので、もしかしたらあるかもと考えたのは杞憂だったようだ。

重心が今までとずれているので、何もかもがそのままとはいかないけれども、これくらいならすぐに慣れるだろう。

一通り振り回し、確認して店の中へと戻る。


後は心配なのは。


「これはどういう剣なの?」


観賞用では困る。

特に私では材質なんかはまるで分からない。

見た感じでは、良さそうな物には見える。

ただし、そう見えるように造られているだけかもしれない。


「前に市で入れた物だな。俺も本業じゃないから素性は詳しくは分からん」


聞いた話では元々は祭儀用に造られた剣だったようだ。

どれくらい古い剣なのかは売っていた業者にも分からなかったらしい。

老人は純粋にそれを美しいと思ったから買ったようだ。


「まあ実際に戦うのに使っていた奴がいたのは確からしい。そうじゃなきゃ、そうはならんだろう」


削れた象眼の事を言っているのだろう。

確かにそれは実際に戦ってついたそれのように見える。

売っていた業者の話では、実際に使っていた男から買ったと言っていたようだ。


「ああ、最初に言っとくが、アーティファクトじゃないぞ」


古い、そして祭儀用。

そこからそういう神秘の魔剣を連想した客がいたらしい。

しかし、これは実際にはそういう物ではないようだ。


重さや造りを見る限り、全くのオモチャという事はないだろう。

何よりも、既に気に入っていた。


「でも良いのかしら?」

「何がだ?」


職人が聞いてくる。


「その、ここは骨董屋さんなのでしょう?」


つまり、武器屋ではない。

戦いに使って欲しくて仕入れた訳では無いのではないだろうか?

何となく私の言いたい事が分かったらしい。


今まで眉ひとつ動かさなかった老人の目が細められた。


「物は使わなければ古びる。本来、物の価値は古びる事無く使われ続ける事にある。お前さんがそれで何を斬ろうとも、ただ古びて錆びていくよりは断然良いだろう」


なるほど。

ならば良いのだろう。


「良いわ。いくらなの?」


その言葉に職人が驚きの表情を浮かべた。

もしかすると、本当にこれを欲しがるとは思っていなかったのかもしれない。

職人に頷きかける。


良いのよ。


老人が紙に書いて寄越した値段は正直、かなり高かった。

工房で普通に頼んで造ってもらう剣よりも高い。


「おい爺さん。この値段は無いだろう。もうちょっとまけろ」


それを見た職人が文句を言う。

私は何も言わずに、職人に任せた。

ここでふたりがかりでどうこう言うのは良くないような気がした。


「あん。別にお嬢ちゃんを見てぼってる訳じゃないんだがな」


そう言って老人は頭をかく。

そしてやがて何かを思い出したように目を細めた。


「そういやあんたにゃツケがあったな」

「ん?酒の話か。ああ、そういやまだ貰ってなかったな」


どうやらこのふたりは酒を飲みに行く間柄のようだ。

もしかすると、この剣の事もその席で聞いたのだろうか。


「なら、それをチャラにしろ。それならこれくらいにしてやる」


新たに値段を書いて寄越す。

それは最初に比べると随分と安くなっていた。


「あと、次はあんたのおごりだ」


それを聞いて、職人が笑った。


「ああ。良いだろう。お前さんはどうだ?」


高いとは思ったけれども、元々払えない値段だった訳では無い。

むしろここで断ると職人の顔を潰すと思い、頷いた。


「そうか。良かったよ」


老人は話が決まると、そのまま無口になってしまったので、お金を払うとすぐに店を出た。

そこで職人が話しかけてくる。


「しかし、本当に良かったのか?聞いてた条件に合うとは思ったが、しかし骨董屋にある剣が実戦に役立つ保証は出来んぞ」


鞘から剣を抜き、改めて見る。

やっぱりそんなに悪い剣には見えない。


「良いのよ。それに、このままじゃ使えないから、まずは研いでもらうわ」


その時に多少は素性が分かるだろう。


「そうか。まあ、お前さんが納得してるんなら、何も言う事は無いな」


そう言うと、手を挙げるだけの簡単な挨拶をして職人は自分の工房へと帰って行く。


「ありがとう!」

「おう。街を出る前に、ちゃんと一声掛けて行けよ」


振り向きもしない職人の背を見送り、そして私は前に職人からも勧められた工房へと向かった。


工房で研ぎを頼むついでに早速、見てもらった。

どうやら祭儀用ではあっても、実戦にも耐えられるようにしっかりと造られた剣のようだった。


材質的にも問題は無いし、それに良い造りだと職人は剣を褒めた。


翌日の夕方までにはやってくれる事を確認して、宿へと戻った。


合成弓ビフォア・ザ・ウィンド

冒険者の矢籠ビフォア・ザ・ウィンド

祭儀用の剣

スルゲリのナイフ

左手:黒水牛の小手

右手:黒水牛の小手

積層鎧

牛革のベルト

鹿革のブーツ

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