ダンス・ウィズ・ミー
「なんだ。随分少ないわね」
斥候に出ていたふたりは部屋に入ってくるなり、そう口にした。
「少数精鋭って奴だ。楽して儲けようっていう馬鹿な奴らはみんなお嬢、じゃなかったな。モリーアンが帰しちまったのさ」
カボチャが面白がるように頭を私に向けて言う。
楽して儲けようというのは、人がたくさんいれば誰かが倒すだろう。その時に権利を主張すれば何もせずにお金が貰えるなんて考えの事だった。
入ってくるなり話した女は腕が羽だった。
と言うよりも、体のほとんどが鳥だ。
普通の鳥の首のあたりに、鳥の首の代わりに人の体がくっついているような姿。
大きさは私と変わらないくらいなのだけれども、それ以上に大きく見えた。
もうひとりは背中に羽が生えた鎧姿の男。
こちらは特に何も言わずに、入ってくるなり入り口脇に座り込み、壁に背を預けた。
「それはまた随分と面白そうな娘がいるのね」
そう言って鳥女は笑う。
「で、どうだった?」
猫男の言葉に鳥女はにやりと笑って返す。
「やばいわよ。あれはちょっと魔獣の中でも別格」
鳥女が話した魔獣の様子は、リデルの説明以上にその恐ろしさを雄弁に語った。
鳥女が大地の魔獣を見つけたのは、昼過ぎ頃だった。
まだ街からは距離がある。
「ゴブリンの蛮族を追ってたみたい」
追われていたのは3体。
それを地面にできたコブが動き、追っていた。
やがて1体が口を開いたコブに食われた。
その隙に2体がコブに剣を振るった。
「でも駄目ね。あれは効いていたようには見えなかったわ」
たしかに剣はコブを裂いた。
しかし、次の瞬間にはコブは元通りになり、また1体が食われた。
「最後の1体は武器を捨てて逃げ出したわ」
そして1本の木を見つけると、それに登った。
最初、コブは気の周りを動き回り、そしてしばらくするとコブが突然消えた。
「次の瞬間よ。いきなり周りの地面が丸く沈んだの」
それはまるであり地獄。
くぼんだ地面は闇へと変わり、そしてそのまま木ごと蛮族を飲み込んだ。
あり地獄の大きさは馬でも飛び越せない程の大きさだったという。
「いきなりあれをやられたら飛べない限り避けようは無いでしょうね」
蛮族を飲み込んだ魔獣はさまようように草原を動き回り、それを鳥女達は追い、監視した。
「動きはでたらめで、最初は街を目指してはいなかったのよ」
それが途中から何かを見つけたかのように、街を目指して動き出した。
「においでも見つけたのか?」
猫男が言う。
もしそうなら最初に街へと逃げてきた男のものだろうか。
「ヤバいと思ったんで牽制するつもりで矢を射ったのよ」
すると今度は鳥女達の真下をぐるぐると回り出す。
そして。
「またコブが消えて、次の瞬間よ」
それはまるで天を目指す蛇。
突如として周囲の地面が沈み、そしてその中央が伸びてきたという。
「あれほど肝が冷えた事は無かったわ」
逃げるように二手に分かれると、魔獣は鳥女を目指して宙を進む。
鳥女は咄嗟の判断で、水平に逃げるよりも、垂直に逃げる事を選んだ。
そしてそれは正解だったらしい。
魔獣はその口を開きつつも追いかけ、やがて鈍り、やがて諦めるように口を閉じて地面へと戻って行った。
「その時に口の中に何発か射ったんだけどね」
驚いた事に鳥女は足で矢を放てるらしい。
ただ、それも何の効果も無かったようだ。
「勿論、効いている可能性もあるけど、あの様子じゃ何百発射ち込んでも倒せそうには思えなかったね」
大地の魔獣は夜になると姿を消した。
動く時には必ずコブが見えるので、眠っているのではないかと鳥女は推論し、リデルもそれを支持した。
鳥女の報告が終わると、全員が黙った。
鳥女達は魔法は使えないようだ。
普通の攻撃は効かない。
飛んでいても襲ってくる。
ひとたび姿を消せば強力な攻撃をしてくる。
全員がこれまでにそれぞれ相手にしてきたそれとはまるで勝手が違っていた。
「魔法は効くんだな」
「はい。でも、どうやら成獣しているみたいです」
誰かが呟くように漏らした言葉にリデルが答えた。
大口を開けて飲み込むのは、成獣しているソレだけがする攻撃らしい。
つまり、今の人数だと何発も何発も魔法を撃ち込む必要がある。
あまりにも危険で恐ろしい相手に持久戦を挑まなくてはならない。
それが分かっても、リデルの表情には決意がありありと見えた。
気付かれないように、私は小さく嘆息した。
「私とリデルとリックは覚悟を決めたわ。貴方達はどうする?」
明日の昼前には現れてもおかしくない。
そしてここに現れれば、ここは飲み込まれるだろう。
ここの次は街だ。
「逃げると言っても私たちの後ろには街がある。全員が今から逃げても逃げ切れる保証は無いし、それにそんな事は無理でしょうね」
弓工房の職人も、そしてここにいる戦士たちも話をすぐに信じなかった。
嘘だろう?
そう言う相手を説得している間にも魔獣は迫る。
「勿論、私たちだけなら逃げ切れるでしょうけど」
自分の命は自分の物だ。
それを最終的にどう使うか、誰も強制する事はできない。
「魔法が効く。私は魔法が使える。別段、悩む事ではないだろう」
言ったのはフクロウ。
「だな。意外と俺の美しい魔法を2、3発放り込んだらおとなしくなるかもしれないしな」
続けたのはカボチャ。
「酔狂ね。私の受けた依頼は終わっているのだけど、もうちょっと付き合ってあげる」
鳥女は笑って言う。
「これで俺だけが逃げて倒されたりしたら、どうなる?やれやれ」
猫男は俺だけ馬鹿にされたくはない。そう言いつつも笑っていた。
3面男は何も言わなかった。
しかし、動かない。
つまりは戦うという事だろう。
犬男も簡単に俺もやると告げた。
入り口脇に座り込んでいた羽男も動かない。
気弱そうな数人も、それでも残っていた。
「そう。じゃあ作戦を立てましょうか。リデル。あなたが中心よ」
作戦会議は夜遅くまで続いた。
空に2羽の鳥が旋回していた。
その鳥は大きい。
時折、その鳥目指して地面から柱が伸びる。
まるで木が急成長するように。
私たちは馬に乗り、そこを目指す。
鳥女と羽男が大地の魔獣の居所を知らせてくれている。
それだけではない。
魔獣がああして体を伸ばすだけでも魔力は消費される。
大地の魔獣にとって魔力は生命線だ。
それを多少なりとも削る事には意味がある。
ただし、それをいつまでも続けてはいられないだろう。
魔獣が諦めて街を目指せばそれまでだし、見た事の無い別の攻撃をしてくる可能性だってある。
私たちは急いで馬を走らせた。
「馬の方が速いぞ!」
接敵し、最初に行ったのは魔獣の速さを確かめる事だった。
これが馬より速ければ本当にどうしようも無くなる。
しかし、実際には馬の方が速かった。
全員が極力装備を外して軽量化している。
どうせ飲み込まれたら防具なんて役に立たない。
それならば少しでも速く動ける方が良い。
リデルには私が、カボチャには犬男が、猫男には3面男が、それぞれが騎乗し付き従っている。
あの気弱そうな数人にはリックと共に周囲の警戒を頼んだ。
実際に戦い始まってしまえば上空の鳥女やフクロウ、羽男に周囲に気を配る余裕はなくなってしまう。
不意に蛮族や他の魔獣が飛び込んで来ては厄介な事になる。
実際に、そこまで高い能力も無く、魔獣と戦うのに戦力にはならなそうだったので自然にそう決まっていた。
「行くわよ」
「はい!」
リデルに声を掛けると、私は馬を魔獣へと走らせた。
魔獣は私に気付いたように進む方向を変える。
すぐさま方向を変え、逃げる。
魔獣はやがて私のすぐ後ろまで来ると口を開けた。
するとそこに白く光り輝く矢が降り注ぐ。
それは空を飛ぶフクロウが放った魔法の矢。
矢は魔獣の闇の口の中へと飛び込むとそのまま光を放つ。
さらに私の肩に掴まっていたリデルが雷撃を放った。
雷撃は口の中には届かない。
既に魔獣はその口を閉じていた。
まるで受けた白い閃光を飲み込むように。
雷は再びただの地面のコブへともどったそれの表面にあたり、爆ぜる。
そしてそのままダメージなどないと言うかのように猛然と私たちへと迫ってくる。
そこに、別の角度から迫っていた3面男が槍で斬り付ける。
すると魔獣はその狙いを3面男へと変える。
そして迫り、再び口を開くと並走していた猫男が手にしていた扇を振る。
「やっ!」
扇から生まれた風は白い刃へと変じる。
それはまるで猫の爪。
爪は口を開けた魔獣へと至り、闇から生えた牙の1本を斬り飛ばす。
魔獣へと届いた攻撃はそれだけではない。
いつの間に飛んできていたのか、丸い火の玉が口の中へと飛び込んだ。
口の中から火柱が上がる。
「はっはー!」
カボチャが放った火球だった。
傍らでは最初に会った時のイメージとはまるで違った獰猛な表情を浮かべた犬男が声を上げている。
魔法が使えない者の役割は魔法使いを守り、少しでも魔獣の気を引く事だ。
そして少しでも牧場に、街に魔獣が向かうのを防ぐ。
全員が恐るべき手練だった。
まるで自らの足のように馬を駆り、注意を引きつけ、魔法を放つ。
恐れも、迷いも無く魔獣へと接近し、かわし、それぞれが出来る最高の攻撃と防御を繰り返す。
馬の扱いだけを見れば、私が最も劣っているくらいだった。
「さすがね」
「これなら!」
私の呟きにリデルが答えた。
その瞬間、地面のコブが消えた。
それは最悪の攻撃を意味する。
「散開!」
全員が誰が上げたとも分からない声を聞く前に馬を走らせていた。
空を飛ぶ者達はその高度を上げる。
そして地面が沈む。
まるで突如として生じた落とし穴。
そこに浮かぶのは光りひとつ見えない夜色の闇。
中には無数の牙が草木のようにいくつも生え、獲物を探すように揺らめく。
そして目を引くのは1対の金色に光る大きな瞳だった。
「なんていうっ!」
その大きさは鳥女の報告よりも大きい。
私たちは距離があったので、その外へと無事に到達している。
しかし。
「ちっ!」
猫男と3面男の位置がその内側。
だがしかし、ふたりともただの戦士では無かった。
猫男は馬から飛び出し、扇を振るった。
その瞬間、数倍の強さになった風が猫男を開いた闇の口から外側へと吹き飛ばす。
3面男も馬の上に立ち、そしてその背を蹴った。
内と外を分ける円のふちまでは遠い。
3面男の跳んだ距離は短く、外へは届かない。
しかし。
「はぁーっ!」
手にしていた槍を伸ばし、下へと突き出したそれは外へとギリギリ届き、突き立った。
そしてそのままくるりと回るとまるで軽業師のように槍を蹴って円の外へと至る。
でたらめね。
私がそうひとりごちているその間にも、みんな動いている。
リデルは雷撃の魔法を大きく開いた口へと放ち、カボチャも火の玉を放っていた。
空からは先程よりも太い光の槍。
さらに、もう1本の矢がその闇の口へと垂直に放たれ、飛び込んだ。
上空にいた羽男だった。
彼が放った矢は長く、そしてその先の鏃は妙に大きかった。
そこに付いていたのは手のひら程の大きさの1枚の鱗。
縛り付けられるように結わえ付けられたそれは竜の鱗だった。
それがまっすぐに闇の口の中へと、金色に光る目に向けて飛び去り、そしてそれは果たしてストンと音も無く刺さった。
普通の魔獣に矢が刺されば叫び声のひとつも上げただろう。
しかし、大地の魔獣にそれはない。
音も無く開いた円はするすると小さくなり、そして元の地面へと戻ると波打つように再びコブが現れた。
「どうした!?」
犬男が声を上げる。
さすがにあれを見た後で、すぐに突っ込む蛮勇は誰も持ってはいなかった。
魔獣は動かず、その間に猫男と3面男を鳥女と羽男が抱え上げて逃げ飛ぶ。
3面男はこれでリタイアだ。
馬が無くてはどうしようもない。
猫男は鳥女が抱え飛び、チャンスがあれば魔法を放つ手はずになっている。
しかし、魔獣は動かなかった。
「どう思う?」
距離を保ったままでリデルに尋ねる。
「分かりません。ただ、口を開けてくれない事には何も出来ません」
なす術も無く、ただただコブを眺めているうちに気が付いた。
そのコブの表面が揺れていた。
まるで地震のように。
ごくごく小さな範囲でその表面が揺れていた。
「なに?」
そう疑問を口にするや否や、ばりっと無理矢理に枝を折ったようにその表面が割れた。
それはごくごく小さなひび割れ。
何が起きたのかは分からない。
しかし、先程までには見られなかった変化が生じた。
そして。
「来たわね」
魔獣は再び疾走し出した。
魔獣は地を走り回る私たちを執拗に追い回す。
小さなひび割れはあるものの、そこを魔法で攻撃するのは難しい。
自然、近づき、口を開いた瞬間に魔法を放つ今までの作戦を続けるしか無かった。
2度目の大口開きは全員がうまく逃れられた。
しかし。
「来るぞ!」
3度目の大口開きでついに犠牲者が出た。
カボチャは空中で火の玉を爆発させて、その爆風で逃れられたが、犬男は間に合わなかった。
リデルは思わず顔を逸らしていた。
私は見てしまった。
大穴へと落ちて行く犬男の見開かれた目を。
そして、無数の牙がまるで虫が集まるかのように犬男へと集まるのを。
大地の魔獣が口を閉じる。
その瞬間に地面から嫌な振動が伝わってきた。
枝を折るような、何か硬い物を無理矢理にへし折ったようなそんな感覚。
魔獣は動きを止めていた。
まるで咀嚼するかのように、地面が隆起する。
誰も動けなかった。
逃げ出さなかったのは、ここにいる全員が本当に戦う意志を持った戦士だったからか。
それとも、目の前で起きている事についていけずに逃げ出せなかったのか。
「何してるっ!?」
声が響いた。
瞬間、隆起していたコブが爆発に包まれた。
それは魔法で逃れたカボチャが放った魔法。
カボチャは自らの魔法に焼かれて満身創痍だった。
頭のカボチャにはひび割れが生じている。
「戦うんだろう!なら作戦通りに動け!」
その言葉に羽男が反応し、カボチャを拾って飛び上がる。
そして私も戦いの意志を灯す。
私に出来る事は少ない。
それでも。
リデルを見る。
リデルの目には涙が浮かんでいた。
魔力を回す。
目を閉じ、そして開いた。
「リデル」
私を振り返り見ると、リデルの目から涙がこぼれた。
こんな馬鹿みたいな災厄が街に向かえば、あの街の人はひとりもいなくなるだろう。
私が戦う事で変わる事があるのなら、私は。
「戦うのでしょう?」
リデルの目は見開かれ、そしてその瞳に決意が宿った。
「はい!生きましょう!」
戦う。
そう意志したのだから。
きっと私の口元は獰猛に歪んでいるだろう。
私は笑った。
力がみなぎる。
弓を構え、矢を抜く。
引ける限界まで弦を引き、そして放った。
ひび割れへと。
さあ、化け物。
こっちを向け。
ダンスの時間だ。
お前の相手は。
「ここにいるぞ!」
地を走るのは私だけになってしまった。
結果、私はずっと馬を走らせ続けている。
矢を放つ余裕は無い。
フクロウが魔獣の動きを牽制するように時折、降りてきては魔獣の気を引こうとしてくれた。
鳥女も羽男も今はそれぞれがひとりずつ抱えて飛んでいるので、無茶は出来ない。
何度目かにフクロウが降りてきた時に、それを待っていたかのように魔獣がその口を空へと伸ばす。
長く長く伸びる大地の柱。
すこしでもその勢いを失わせるように、馬を走らせ、接近し、柱を剣で斬り付けた。
「モリーアン!あまり無茶はしないでください!」
効果が無いのは分かっている。
それでも、今フクロウをやらせる訳にはいかない。
こっちを向け。
ここにお前の敵がいるぞ。
再び、斬り付けると、何か硬い物に弾かれた。
それが何なのか分かった瞬間、体の内をひやりとした何かが流れたような気がした。
それは犬男が手にしていた槍だった。
「この!」
「モリーアン!逃げて!」
リデルの声に見上げると、大量の土砂が降り注ぐ。
それは今までに見ない攻撃。
馬を走らせようとするより早く、自壊した柱が雨のように降り注ぎ、私の動きを封じようとする。
馬が暴れた。
「ちっ」
手綱を引き、どうにか走らせようとした時だった。
大地が沈んだ。
「モリーアン!」
リデルの叫びは悲痛そのものだった。
私は咄嗟に馬の上に立ち上がろうとする。
3面男のように逃げられるかもしれない。
しかし、暴れる馬の上で、その首にしがみつくようにして足を鞍の上についた私が見たのは、一面の暗黒だった。
闇。
暗黒。
漆黒。
眼下に広がるのは星ひとつない夜。
そしてそんな夜の世界の外は遠かった。
見た瞬間にはっきりと分かる。
不安定な体制で跳んでも、とても辿り着けない。
夜の闇に不意に、星が現れた。
無数の星。
最初、小さなそれは急速に大きくなり、垂直に伸び、牙になる。
無数の牙が揺らめく。
揺らめきつつも、私の乗る馬の足下へと集まってきた。
「モリーアン!逃げて!」
リデルが半狂乱になりつつも、私のすぐそばで魔法を放った。
雷撃は垂直に降り注ぎ、足下の夜へと吸い込まれていく。
吸い込まれた雷撃はやがて何かにぶつかったかのように、夜の中で轟き、光の枝をまき散らす。
雷だけじゃない。
炎が、光が、刃が夜の闇へと降り注ぐ。
今、この瞬間に魔獣が死ねば私は助かるだろう。
そんな一縷の望みに全てをかけるようにリデルが魔法を放ち、そして私の方へと飛来し、私の顔へと抱きついた。
「逃げて!お願い!モリーアン!」
馬が夜に飲まれていた。
多くの牙が馬の体を貫き、引き裂いていく。
そして沈んでいく。
ずぶりずぶりと。
私は飛び出せずに、びくりびくりと不気味に震える馬の首にしがみつく。
私を抱え上げて飛べるような力はリデルには無い。
フクロウならば可能かもしれないけれども、そのフクロウは魔獣の口から逃げるべく空へと舞い上がっていた。
沈んでいく。
ずぶりずぶりと。
私の目は何かを探していた。
危ないと思った時ほど冷静に観察するんだ。
「リデル」
探す。
何か無いか。
そして魔力を回す。
「私はまだ」
探す。
魔獣の目と目が合った。
金色に光る肉食獣の目だ。
力を溜める。
「死んでいない」
そして目から少し離れた場所で、私は見つけた。
馬の首を蹴る。
宙へ。
見つけたたったひとつの希望へ向けて。
馬の首が折れてもおかしくない程の一撃だった。
しかし、それでもまだ魔獣の口の外には届かない。
空中で弓を捨てた。
少しでも動きやすくなるように。
リデルは私の顔から勢いに流されて髪を掴んでいた。
前が見えなくなるのは困るので、その方が良い。
夜へと落ちていく。
天地で昼夜が逆転した世界だ。
そう思うと、不思議と笑えた。
落ちていく闇の中で、鈍く光る1枚の鱗。
魔獣に飲み込まれても、分解される事無く残った私の希望。
空中で体制を立て直し、右足を下ろす。
果たして、私の右足は。
「はぁっ!」
鱗を捉え。
「あぁああっ!」
そして鱗を蹴った。
再び宙へと翔る。
腰から剣を抜いた。
それでもまだ夜の淵には届かない。
体の力を一度抜いた。
後少しだ。
後少しで届く。
宙を翔る私の下に無数の牙が集まってきた。
「来たわね」
剣をしっかりと握る。
そして、そのまま叩き付けるように1本の牙へと斬撃を放つ。
剣は牙に食い込み、止まった。
そのまま剣を倒すように押すと、刃の食い込んだ牙が傾く。
刃の腹に手を着き、逆立ちし、そして体のバネを使って再び跳んだ。
それはほんの少しの跳躍。
1歩にも満たない僅かな距離。
その僅かな跳躍は私を夜の世界から、死の淵から生の世界へと届かせる。
「届いた!」
滑るように着地する。
そして私は元の大地へ確かに戻ってきた。
強化弓 → 喪失
冒険者の矢籠
スルゲリのナイフ
橋の剣 → 喪失
左手:黒水牛の小手
右手:黒水牛の小手
牛革のベルト
鹿革のブーツ
軽量化のために鎧は外しています。




