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雷鳴世代  作者: 四園 辰
V1
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V1Ch0 序章『離別』

これは、本当の正義など存在しない世界だ。


ここに生きる者たちは信じている——力とは、決して無償で手に入るものではない、と。強くなりたければ、代償を払わねばならない。奇跡を望むなら、世界はまずこう問いかける——お前は、本当にそれを引き受ける覚悟があるのか、と。これは罰ではない。ただの均衡にすぎない。


かつて、世界は七つ存在した。今では、二つしか残っていない。その間には、誰もその存在の年月を知らない一株の世界樹が横たわる。上には、聖界。下には、人界。


ここでの剣術は、技ではない。生き方そのものだ。ここでの魔法もまた、奇跡ではない。世界から借り受けた法則にすぎない。ここには、決して壊れることのない七つの刃が存在する。それらはどちらの側にも立たない。ただ静かに見つめているだけだ——誰が記憶されるにふさわしいか、誰の時代がすでに終わったのか、と。


そしてこの物語が語るのは、一つの戦争でもなければ、運命づけられた救世主の物語でもない。


これは、それぞれの時代を生きた人々が、自らが信じるものを、自らの手で次の者へと託していく物語だ。


ある者は、一生をかけて、一人の子の命と引き換えた。

ある者は、剣をもって、他者のために道を切り拓いた。

ある者は、より多くの者が生き延びられるように、すべての人の代わりに血を流すことを望んだ。

ある者は、人格すら持たぬ身でありながら、それでも最も強い者ではなく、認めるべき者を選び続けた。


この物語は、一人の少年とともに始まる。彼は運命によって選ばれた英雄ではない——この世界に、運命の子など存在したことはない。彼はただ、史上最強の魔法師にすぎない。だが、この世界において最も強い者ではない。彼は剣に敗れ、統治に敗れ、守護の意志に敗れた。


それでも彼は、一つのことを信じていた。この世界がいまだかつて、真に成し遂げたことのない、一つのことを。


——すべてを犠牲にせずとも、世界を守る方法が、必ず存在するはずだ。


この物語は、彼がその言葉を、一生をかけて証明していく物語である。


歴史は、決して完全にはならない。だが、その剣を受け継ごうとする者が、まだ一人でもいる限り——


世界は、本当の終わりを迎えることはない。

世界樹は、ずっとそこにあった。


その存在がどれほど続いているのか、誰も知らない。


世界と同じ年月を重ねてきたと言う者もいれば、世界が生まれる前から、すでに天地の間に佇んでいたと言う者もいる。


赤城玄(Akagi Gen)は、その答えを真剣に考えたことは一度もなかった。


今の彼にとって、そんなことはもうどうでもよかった。


足元の石段は、世界樹に沿って曲がりくねりながら下へと続き、渦巻く雲海の中へと消えていく。


石段の果てにあるのは、人界。


彼の背後にあるのは、聖界。


戦火もなく、争いもなく、飢えに歪んだ顔ひとつない。


ここは、時間さえも歩みを緩めたかのように静かだった。


赤城玄は石段の前に立ち、しばらく動かなかった。


躊躇っているわけではない。


ただ、自分に少しだけ時間を与えていた。目の前の光景を、もう少しだけ記憶に刻むために。


風が吹き抜ける。


腰の長刀が、微かに揺れた。


彼は俯き、鞘紐を結び直す。


それはあまりにもありふれた仕草だった。


まるで、少し遠出をするだけのように。


「行くか」


その声は、とても小さかった。


自分自身に向けたものなのか。


それとも、背後に広がる白い大地への別れの言葉なのか。


誰も答えなかった。


赤城玄は足を上げた。


最初の一段を踏み出す。


靴底が聖界の土を離れた瞬間も、世界は静まり返ったままだった。


雷鳴もない。


光もない。


いかなる神託も降りてこない。


ただ、目に見えない一つの規則が、沈黙のうちに静かに完結しただけだった。


契約は、成立した。


赤城玄にはわかっていた。


この一歩から。


自分は永遠に、聖界へ足を踏み入れる資格を失うのだと。


罰ではない。


追放でもない。


これは、彼自身が世界に持ちかけた取引だった。


世界はただ、それを認めただけだ。


彼は自分の掌を見下ろした。


しばし沈黙し、そっと笑った。


その笑みはとても淡く。


風が一吹きすれば消えてしまいそうなほど、儚かった。


「これで……十分だ」


彼は小さく呟いた。


「少なくとも、あの子はまだ生きている」


風が聖界の奥深くから吹いてきた。


世界樹の無数の枝葉を揺らし、かすかなざわめきを立てる。


まるで誰かが遠くで、聞き取れないほど小さなため息をついたかのように。


赤城玄は振り返らなかった。


わかっていたからだ。


今振り返れば、目に映るのはただ、ゆっくりと閉じていく扉だけだと。


彼が望んだのは、記憶に残す最後の光景。


それでも、あの静かで清らかな白い世界であってほしかった。


一歩。


また一歩。


その姿は、次第に雲霧の中へと消えていく。


やがて、完全に見えなくなった。


しばらくして。


一枚の白い羽根が、高い空からゆっくりと舞い落ちてきた。


それは石段の上に落ちた。


物音ひとつ立てないほど、静かに。


誰もそれを拾わなかった。


風が吹く。


羽根は再び舞い上がった。


世界樹を離れ。


遥か人界へと飛んでいく。


飛べば飛ぶほど遠ざかり。


最後には、白い小さな点だけが、雲海の彼方に消えていった。


そしてその背後で。


聖界の門が、ゆっくりと閉じられた。



数十年後、世界は再び、歴史を変える者を迎えることになる。

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