表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢の国の裏側で  作者: 臥亜


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

26/39

第25話:二人の“存在”が重なる場所

開園直後のパークは、いつも通り賑やかだった。子どもたちの笑い声、音楽、キャラクターたちの軽やかな動き。だが太郎の目には、それらすべてが“薄い膜の向こう側”にあるように見えていた。


現実が、少しだけズレている。


「……こっちだ」


早乙女が足早に進む。向かっているのは、普段は使われない裏ルート。キャストしか通らない通路の奥、さらにその先。


「本当にいるのか」


「気配がある。“二重に”」


その言葉が意味するものを、太郎は理解していた。


リュミエラと、エルナ。


同じ場所に存在してはいけない二つ。


通路の奥に進むほど、空気が重くなる。音が遠ざかり、温度が下がる。


やがて、扉が見えた。


古い、使われていない施設の一室。


「ここ」


早乙女がドアノブに手をかける。


「開けるぞ」


太郎が頷いた瞬間、扉の向こうから声がした。


「……来たのね」


その声は、リュミエラだった。


だが、同時に。


「……遅いよ」


もう一つの声が重なる。


エルナ。


太郎の心臓が強く打つ。


早乙女が静かに扉を開ける。


中は、光が歪んでいた。


一人の少女が立っている。


だが、その輪郭が“二重”になっている。


金色の髪と、淡い銀の光。


優雅なドレスと、どこか壊れかけた姿。


リュミエラとエルナが、同じ場所に“重なって存在”していた。


「……やっぱり」


早乙女が呟く。


少女がこちらを見る。


その目は、二つの意思を宿していた。


「来ないで」


リュミエラの声。


「来て」


エルナの声。


同時に発せられる、矛盾。


太郎は一歩踏み出す。


「どっちなんだよ」


少女が、苦しそうに笑う。


「わからないの」


リュミエラの声が揺れる。


「でもね」


エルナの声が続く。


「消えたくない」


その一言に、空間が軋む。


「私は“物語”として作られた」


リュミエラが言う。


「私は“消された存在”として残った」


エルナが言う。


「どっちが本物?」


「どっちが間違い?」


声が重なり、ぶつかり、空気が裂ける。


太郎は叫ぶ。


「どっちもだろ!」


一瞬、静寂。


少女の動きが止まる。


「……え?」


「お前ら、どっちもここにいるじゃねえか」


太郎は一歩、さらに近づく。


「消される理由なんてない」


早乙女が息を呑む。


「それは――」


だが太郎は止まらない。


「選ばせるなよ」


少女の瞳が揺れる。


「選んだら、どっちかが消えるんだろ」


沈黙。


それが答えだった。


「だったら」


太郎は手を伸ばす。


「選ばなきゃいい」


その瞬間。


空間が、完全に歪んだ。


少女の輪郭が崩れ始める。


「無理だよ」


エルナの声。


「この世界は、“どちらかしか許さない”」


リュミエラの声。


床にひびが走る。


時間が崩れ始める。


「来るぞ……!」


早乙女が叫ぶ。


強制的な“補正”。


存在の矛盾を消す力。


その中心にいるのは、彼女たちだ。


「太郎」


声がする。


振り返ると、そこにミックーが立っていた。


笑っていない。


「今だ」


短く言う。


「二つを“固定”する」


「できるのか!」


「一回だけ」


ミックーの目は、覚悟で満ちていた。


「でも失敗したら、両方消える」


空気が凍る。


少女が、かすかに笑う。


「……いいよ」


リュミエラが言う。


「どっちかじゃなくていいなら」


エルナが続く。


「やって」


太郎は一瞬だけ目を閉じる。


そして。


「やれ」


ミックーが手を上げる。


その瞬間。


世界が、止まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ