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夢の国の裏側で  作者: 臥亜


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第22話:観測者との交渉

世界は静止しているのに、圧だけが増していく。空の裂け目の向こう、“観測者”は明確に怒っていた。形のない存在が、形を持とうとするほどに。


ミックー・マースは一歩も引かない。


「“不許可”か。ずいぶん一方的だね」


返事は言葉ではない。


――基準外

――整合性の崩壊を確認

――優先処理を実行


空間が歪む。今度は先ほどよりも明確な“圧縮”だった。押し潰すように、存在そのものを薄くしていく。


早乙女凛が膝をつく。「まずい……これは削除じゃない、圧縮……存在を“なかった密度”に戻そうとしてる……!」


太郎の呼吸が重くなる。「……そんなことまでできるのかよ」


ミックーが軽く息を吐く。「できるよ。彼らは“外側”だからね」


そのまま、空へ視線を上げる。


「でも、それをやるなら“理由”がいる」


沈黙。


一瞬。


圧が、わずかに止まる。


ミックーの口元が歪む。


「ほら、聞いてる」


太郎が睨む。「交渉ってのは、どうやるんだ」


「簡単だよ」


ミックーは答える。


「“価値”を見せる」


「価値?」


「そう。消すより残した方が面白い、って思わせればいい」


その発想に、早乙女が顔を上げる。「……狂ってる」


「今さらだろ」


ミックーは笑う。


そして、ゆっくりと腕を広げる。


「見てるんだろ?」


空へ向かって、はっきりと言う。


「じゃあ見せてあげるよ。“仕様外の存在が、どこまで成立するか”」


その瞬間。


空間の圧が、わずかに変質する。


攻撃ではない。


“観察”へと戻る。


太郎は理解する。


試されている。


ミックーが横目で見る。「太郎」


「なんだ」


「君が鍵だ」


「……分かってる」


太郎は前に出る。


リュミエラとエルナの前へ。


二人の気配が、まだ不安定に揺れている。


「……できるか?」


リュミエラが不安げに問う。


太郎は、少しだけ笑う。「もう一回やるだけだ」


エルナが小さく言う。「今度は、さっきより深いよ」


「だろうな」


太郎は頷く。


「でも、やる」


ゆっくりと手を伸ばす。


今度は裂け目じゃない。


“二人そのもの”へ触れる。


その瞬間、情報が流れ込む。


記憶。


痛み。


消された瞬間。


残された時間。


重なり合い、矛盾し、ぶつかり続ける二つの人生。


「……っ」


頭が割れそうになる。


だが、離さない。


ミックーが静かに呟く。「いいね。そのまま」


早乙女が息を呑む。「また刻む気……?」


太郎は歯を食いしばる。


「違う」


低く言う。


「今度は、“分ける”」


その言葉に、ミックーの目がわずかに見開かれる。


「ほう」


太郎は続ける。


「一つにするから矛盾するんだ」


リュミエラとエルナを見る。


「だったら――別々に立たせる」


エルナが微かに笑う。「それ、できるの?」


「やるしかないだろ」


太郎は即答する。


その瞬間。


二人の“重なり”に手を突っ込む。


光とノイズが爆ぜる。


境界が、露わになる。


「ここだ……!」


太郎は叫ぶ。


「リュミエラはこっち、エルナは――こっちだ!」


無理やり、引き剥がす。


悲鳴のような音が響く。


世界が再び大きく揺れる。


――分離行為を確認

――不安定化上昇

――崩壊率上昇


観測者の“声”が強くなる。


それでも。


太郎は、やめない。


「立て……!」


引き剥がされた二つの輪郭が、揺れながらも形を取る。


リュミエラ。


エルナ。


完全に分かれる。


その瞬間。


世界が、一度だけ完全に静止した。


沈黙。


次の瞬間――


“成立”。


空間が、穏やかに波打つ。


観測者の圧が、明らかに変わる。


――新規構造を確認

――矛盾の再定義完了

――経過観察対象へ移行


早乙女が息を吐く。「……通った?」


ミックーが、静かに笑う。


「通ったね」


太郎は、その場に崩れ落ちる。


「は……っ……」


呼吸が荒い。


だが。


目の前には。


二人が、立っている。


完全に、別々に。


リュミエラが涙を浮かべる。「……いる」


エルナが、ゆっくりと頷く。「いるね」


その光景を見て、太郎は力なく笑う。


「……勝ち、でいいのか」


ミックーが肩をすくめる。


「さあね」


そして、空を見上げる。


「でも少なくとも、“削除対象”ではなくなった」


その言葉と同時に。


空の裂け目が、ゆっくりと閉じ始める。


完全ではない。


だが、明らかに“引いた”。


観測者は、去ろうとしている。


「……帰るのか」


太郎が呟く。


ミックーは首を傾げる。


「帰る、というより――」


少しだけ、間を置く。


「“次を待つ”んだろうね」


その言葉が、静かに落ちる。


世界は、まだ完全には戻っていない。


だが。


確実に、“別の段階”に入った。


そしてミックーは、くるりと背を向ける。


「さて」


その声は、また少し軽くなっていた。


「ここからが本番だ」


太郎が顔を上げる。「……何が始まる」


ミックーは振り返らない。


ただ一言、残す。


「“外側に干渉できる世界”の話だよ」


その言葉は、静かに、しかし確実に――


次の物語の扉を開いていた。

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