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夢の国の裏側で  作者: 臥亜


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第21話:観測者の降臨

空の裂け目から降りてきた“それ”は、形を持たなかった。だが、確実に“意思”だけは存在していた。重さも温度もないのに、触れられているような圧迫感が全身を覆う。


夢見太郎は、一歩も退かなかった。


「来いよ」


言葉にした瞬間、空間がわずかに歪む。まるで、その声に反応したかのように。


早乙女凛が低く言う。「刺激しないで。あれは“こっちの理屈”で動いてない」


「分かってる」


太郎は答えるが、目は逸らさない。


リュミエラとエルナは、並んで立っていた。重なりながらも、今ははっきりと“二人”として存在している。その不安定な均衡を、あの“何か”は見極めるように観察している。


ミックー・マースが、ゆっくりと前に出る。


「初めまして、って言うべきかな」


その声は軽いが、どこか冷たい。


「それとも、“いつも見てくれてありがとう”の方がいい?」


その言葉に、空間の圧がわずかに変わる。


早乙女が眉をひそめる。「……会話、してるの?」


「試してるだけ」


ミックーは肩をすくめる。


「彼らが“どの程度の干渉を許すか”をね」


太郎が睨む。「お前、知ってるのか」


「知ってるというより、“感じてる”かな」


ミックーの視線は、空の向こう側に向いている。


「ずっと上にいた。でも、直接降りてくることはなかった」


「なのに今は来てる」


「君たちが、“境界を越えた”からだよ」


その一言で、空気が張り詰める。


太郎は歯を食いしばる。「……俺たちのせいか」


「違う」


ミックーは即座に否定する。


「君たちの“せい”じゃない。“結果”だ」


そして、ほんの少しだけ笑う。


「面白い結果だけどね」


その瞬間。


空の“それ”が、動いた。


降りてくる。


ゆっくりと、しかし確実に距離を詰める。


形がないはずなのに、輪郭のようなものが浮かび上がる。歪んだ人影のような、あるいは巨大な“目”のような。


リュミエラが息を呑む。「……見てる」


エルナが小さく呟く。「測られてる」


次の瞬間、音が消えた。


完全な無音。


そして、頭の中に直接“声”が流れ込む。


――不整合を確認


――存在の重複を検出


――修正を提案


太郎の視界が揺れる。


「……なんだ、これ」


早乙女が頭を押さえる。「言葉じゃない……意味が直接来る……!」


ミックーだけが、静かにそれを受け止めていた。


「提案、ね」


その口調は、どこか楽しげだった。


「で?どう修正する気?」


一瞬の間。


そして。


――不要要素の削除


その“答え”が返ってきた瞬間、空間が震える。


狙いは、明確だった。


リュミエラとエルナ。


“重なった存在”そのもの。


「来る!」


早乙女の声と同時に、空間が裂ける。


見えない刃のようなものが、一直線に二人へと向かう。


太郎は反射的に飛び出す。「やめろ!」


間に入る。


だが、止まらない。


その瞬間。


「――それは、却下」


ミックーの声が、割り込んだ。


時間が、ほんの一瞬だけ遅れる。


見えない刃が、わずかに軌道を逸らす。


太郎の肩をかすめ、後方の空間を抉る。


「……は?」


太郎が振り返る。


ミックーが、手を上げていた。


今までとは違う。


明らかに、“干渉している”。


「お前……止めたのか」


「少しだけね」


ミックーは、ゆっくりと手を下ろす。


その目は、完全に変わっていた。


「言っただろ。止められるうちは止めるって」


その言葉の意味が、ここで繋がる。


「でも今は違う」


ミックーは、空の“それ”を見上げる。


「これは“止める段階”じゃない。“選ぶ段階”だ」


空間が再び震える。


二度目の“削除”が来る。


太郎は、理解する。


これは戦いじゃない。


“選択の強制”だ。


残すか、消すか。


「……なら」


太郎は、両手を広げる。


リュミエラとエルナの前に立つ。


「もう一回だ」


ミックーが、わずかに笑う。


「いいね」


早乙女が呟く。「正気じゃない……」


太郎は振り返らない。


「選ぶ」


その一言が、世界に刻まれる。


「二人とも、残す」


その瞬間。


空の“それ”が、明確に反応した。


――不許可


強い否定。


だが同時に――


ミックーが、一歩前に出る。


「じゃあ、交渉だ」


その声は、これまでで一番低く、そしてはっきりしていた。


「“観測者”さん」


空気が凍る。


ミックーは笑う。


「これはもう、“物語”じゃない」


一拍。


「だから、君たちのルールも通らない」


沈黙。


次の瞬間。


空間全体が、大きく脈打つ。


外側と内側が、初めて“対等にぶつかる”。

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