第7話『カオティックチーム解散』
「ぎゃ~おーっ・・・・・!」
絶望の龍は翼をたたんで、天に向かって一度だけ長めに吼えた。目の前から一瞬で敵が消えたので、戦意を失った様子だった。
「? 火炎を浴びせられたハズだが・・・。ここは何処だ・・・? 戦闘は終わったのか・・・?」グーファスは、ぼやけた頭で状況を整理した。スプーン・フォークを構えたまま周囲を警戒し、気を緩めることはなかった。
「? 移動したのか・・・? 龍は何処だ・・・? 全員やられたのか・・・?」ドプレクスは周囲を見回すと全員無事だった。グーファスの向こうに翼をたたんで休んでいる龍を見つけた。
「戦闘は終わったのか・・・? どういうことだ? はー、はぁーっ・・・」戦闘が再開することを警戒して呼吸を整えた。
「はーっ、はーっ・・・。攻撃は当たったの? 攻撃されたの? 記憶が一瞬とんだ感じがしたわ・・・」クロマは周囲を伺った。ゾフォスの傍から、誰かが消えるのを見た。
「? 誰かが消えたけど、誰? 敵? 味方なの?」警戒を解かなかった。
「? 火炎をよけたでやんすか? みんなはどこでやんす・・・?」
ひときわ端っこに飛ばされたプーパのもとに、アテネ六将軍の一人、デバスタド将軍が近づいてきた。
「戦闘は終わりだ。お前たちは助かった」デバスタド将軍が静かに言った。
「デバスタドのダンナぁ、酷いでやんす。『地下迷宮探検競技』で敵チームの暗殺を命じてからずっと、アッシをほったらかしでやんす。随分ひどい目にあったでやんす」プーパは恨めしそうに言った。
「ゴタゴタしていたんだ。許せ。・・・で、どうだ? ゾフォスは何処に行きたがっている?」
「わからないでやんす。今から何処かに飛ばされるでやんすか?」
「お前は、このままゾフォスについて行け。奴はゼウスの加護を受けている」
「! 何と! ゼウスを引き当てたでやんすか!」プーパにとっても、衝撃的な話だった。
「奴が何処の大陸に行くかで、今後の我々の作戦が変わる」
「わかったでやんすー」プーパは小走りにゾフォスたちのところに走っていった。
「(ふっふっふ。チョロい奴だ・・・)」デバスタドは下衆な笑みを浮かべた。
ドプレクスはマキア将軍と話していた。
「龍の攻撃を封じた。戦闘は終わりだ。お前の次の任務は、ゾフォスについてくことだ。奴が次に何処に行くか報告しろ」一方的な言い方だった。
「任務? 知らないね」ドプレクスはマキア将軍を睨みつけて言い返した。
「何だと、組織に逆らう気か?」
「逆らうって何だよ。俺が窮地に陥っているのに、見殺すつもりだったろ?」
「そ、そんなつもりはない!」マキア将軍は慌てて弁解した。
「ちっ」ドプレクスは一瞥をくれただけだった。
「奴が何処に行くか聞いてみるが、ついて行くかは分からん。奴の考え次第だ」と言い残して行ってしまった。
「ちっ、使いにくい奴だ・・・」マキア将軍は吐き捨てた。
ゾフォスとクロマが話しているところに、グーファスとプーパが合流した。遅れてドプレクスも合流した。
「怪我はないか?」ゾフォスはクロマに聞いた。
「え、えぇ。大丈夫よ・・・」クロマは少し照れながら返事をした。他の三人は、二人の会話を恋人同士のものとして聞いていた。龍との戦闘が終わり、クロマの忘却の術が消えかけていた。少しずつ少しずつではあるが、クロマが女性であることを思い出してきた。
「ねぇ、これからどうするの?」色気のあるクロマの目つきを見て、何かを期待していることをグーファスは見抜いた。
「ボクは、ムー大陸に行くよ。来たい奴はついて来ていいよ。げふっ」と言って咳をした。
「! 何でそんな言い方をするの? 私たち仲間じゃないの?」ぶっきらぼうな態度にクロマが噛みついた。
「仲間? ボクたちは仲間なんかじゃないよ。敵じゃないだけだ」ゾフォスは冷たい目をして言った。
予想もしなかった答えに、クロマは固まった。
ドプレクスには、概ね予想していた答えだった。
プーパにとって、ゾフォスの考えはどうでも良いことだった。
グーファスには、予想外の答えだったが顔色を変えなかった。
「みんなで協力して、この地獄を生き抜いて来たじゃないの! あなたの戦力には感謝するけど、みんなへの感謝の気持ちはないの?」クロマは食い下がった。
「ありがとう、お陰で命が助かったよ・・・」ゾフォスは棒読みで答えた。
「こちらこそ、ありがとうございました。お世話になりました!」クロマは吹っ切れたように、強めに言った。
「ここで協力しなかったら、全員すぐに死んでいたからね。仕方ないよ。ゲホゲホ」ゾフォスは思い出したように咳き込んだ。
「・・・(違う! 違う! アタシが聞きたかったことはそんなことじゃない! アタシは必要ないの!)」クロマはその後黙ったままだった。
「(このお嬢さんの腹が決まったの・・・)」グーファスは、成り行きを見守っていた。
「(この二人の仲は決別だ・・・。この女が何を言って欲しいのか、ゾフォスは分かっていない・・・)」と、ドプレクスは理解した。
「(感謝とか、お礼とか、どーでもいいでやんす・・・)」プーパは面倒な話になることを恐れていた。
「ずっどーん!」突如、天から巨大な石の塊が落ちてきた。龍から10mほど離れたところに『異界への門』が現れた。
「ぎゃっおー!」門の到来を告げるように吼えると、絶望の龍は翼を広げ飛んで行ってしまった。
一同は、静かに門を見詰めた。話をまとめる必要を感じたのはドプレクスだった。
「クロマ、お前は根っからの善人だ。他人を信じることが前提で物事を考えているが、俺たちの属性はカオティックだ。自己中心的な考え方をする性格だ。本来は、チームを組むことそのものを嫌う属性だ」二人の不和を察したドプレクスが丁寧に説明した。
「ドプレクスの言う通り、利害関係がなければ協力しないのがカオティックの属性だ。来るもよし、去るもよし。誰もその決断を恨んだりはしないよ・・・。だって、全員が自分勝手なだけだもの・・・」ゾフォスはトコトコと門に向かって歩き出した。
「アッシはついて行くでやんす」プーパは、ゾフォスの後を追いかけた。
「ひっく、ひっく・・・」グーファスはすすり泣いた。
「グーファス、世話になったな・・・」ゾフォスは別れ際に声をかけた。
「行ってしまうんか・・・」
「あぁ、ゼウスのところに行かなければいけない」と言って、再び歩き出した。
グーファスは、ゾフォスを見送ったが、ゾフォスは振り返らなかった。
クロマはそっとグーファスに寄り添った。
「グーファスさん、元気を出して・・・」クロマが声をかけた。
「あぁ、大丈夫だ・・・。別れは悲しいが、それで泣いているのではない」
「・・・?」クロマは、グーファスの言葉の意味が分からなかった。
「涙の量は、積み重ねてきたものの大きさだ・・・。ここに落されて、500年か1000年が過ぎた・・・。ここでは歳は取らないが、努力と苦労だけは蓄積される・・・」
「苦労なさったんですね・・・」クロマはグーファスを労った。
「さぁ、みんなで脱出だ・・・。わしの役目もこれで終わる・・・」
「・・・?」クロマはグーファスの言葉の真意が分からなかった。
「どこでもいい!」門をくぐると同時に、ドプレクスの姿が消えた。
ドプレクスは、ジーランディア大陸に飛ばされた。マキア将軍はドプレクスの後を追いかけた。
「行き先は、かの大陸だ」門をくぐると同時に、グーファスの姿が消えた。
グーファスは、レムリア大陸に向かうつもりだった。
クロマが門をくぐろうとすると、ゾフォスとプーパに見送られた。
「元気でね。キミの小便姿は可愛かったよ」とゾフォスが言った。
「してないわよ!」真っ赤になりながら、クロマが強く否定した。
「してなかったの・・・、おかしいな・・・、ネズミで見たんだけど・・・。げほっ」ゾフォスが視線を反らして言った。
「ボクに、精神魔法は効かないんだ。その代わり、喘息で苦しんでいる・・・」と、続けた。
「それは、大変ね・・・」と、クロマは棒読みで言って、一瞥をくれると一筋の涙を流し、魔法をかけた。
「忘却! (何で、こんな男に・・・)」
ため息のような小さな息を吐いた。
クロマは、『メガラニカ大陸』における自分の記憶と、ゾフォスに関する記憶の一切を消してギリシアへ帰った。
遠巻きに、ゾフォスとプーパの行き先を気にしているムアコックとデバスタド将軍がいた。
「あー、あぁー、みんな行ってしまったでやんす」プーパは未練がましかった。
「たぶんだけど、全員行き先はバラバラだね。仕方ないね。性格は全員バラバラだもの・・・」と呟きながら、ゾフォスが門をくぐった。
プーパも後に続いた。
「ムー大陸で、間違いないな?」ムアコックがデバスタド将軍に確認した。
「間違いないようです。全員で話している時に、そう聞こえました」デバスタド将軍が答えた。
「よかろう、それでは我々も向かおうかの!」
「ははっ!」ムアコックとデバスタド将軍が『異界への門』をくぐった。
ムー大陸では、ゼウス・ゾフォス組を中心にした「神々の利権争奪戦」が展開される。
『夢大陸・レムリア戦記』第4章メガラニカ大陸編(完)
第5章マウリティア大陸編に続く(予定)




