第十話『兄弟子・アーヴィン』
アポロン神殿の直ぐ近くにある「魔術屋」を珍客が訪れた。
「ば~さん、ここにクルミの杖を持った、赤茶色のチリチリ髪の魔術師が来なかったか?」
「ば~さんじゃない、さゆりさんと呼びなさい」
「分かったよ、ば~さん」さゆりは舌打ちをした。
「つい最近来たよ。お前さんは、誰だい?」
「ヤツの兄弟子さ・・・。どっちに行った?」嫌な予感がしたさゆりは噓をついた。
「アテネに行くとか言っていたね」
「アテネへ? おかしいな、すれ違わなかったな・・・。ちっ、向こうか?」オリンポス山の方へ歩いて行った。武闘家の佇まいだったが、一応巨大な剣を担いでいた。全身黒ずくめで身長が高かった。顔中が刀傷だらけで、全身から殺気が溢れ出ていた。
「あの殺気は目立つね~。リカルダスが気付いて逃げるといいんだけど・・・」さゆりは不安でたまらなかった。
その数時間後だった。再び珍客が現れた。
「ば~さん、ここにクルミの杖を持った、赤茶色のチリチリ髪の魔術師が来なかったで御座るか?」
「ば~さんじゃない、さゆり姫と呼びなさい」
「分かったで御座る、ば~さん」さゆりは舌打ちをした。
「ったく、どいつもこいつも! つい最近来たよ。お前さんは、誰だい?」
「ヤツの親友です・・・。命のやり取りをするほどのね・・・。どっちに行ったで御座るか?」再び嫌な予感がしたさゆりは噓をついた。
「オリンピアに行くとか言っていたね」
「オリンピアへ? おかしいな、すれ違わなかったな・・・。ちっ、向こうか?」オリンポス山の方へ歩いて行った。
「あ゛~! カンが悪いよ。あたしゃ! どうしてこうも外すかね!」
リカルダスが襲われたのは、パナッソス山の山頂付近に差し掛かった時だった。
【パルナッソス山】太陽神アポロンの神殿があり、音楽や芸術の女神ミューズたちが住んでいる聖地として知られている。ペガサスが住んでいたという伝説もある。デルフィはパナッソス山の麓にある。
山頂に到達したとき、黒いハトが頭上を飛び回っていた。
「! (この鳥は! しまった! 気付かなかった!)」リカルダスは狼狽えた。そして、リカルダスとエルピーダは後ろから声をかけられた。
「よお! 久しぶり~」リカルダスは聞き覚えのある、実に嫌な声を聴いた。リカルダスが振り向くと、目の前に兄弟子のアーヴィン(Arvin)が立っていた。
この二人のやり取りを見届けている人物がいた。猟師の格好をして茶色い髭を生やしている人物だった。
「! お前は!」リカルダスは動揺した。
「何処に行ったかと思えば、こんなところまで逃げてきたか」嫌味たっぷりな言い方だった。
「師匠(Maestro)には、断って来た! 逃げてきたわけではない!」リカルダスは言い返した。
「じゃあ、なぜ夜更けにコソコソ島を出た? 俺に殺されるのが怖くて逃げてきたんだろ?」
「お前たちとの生活はウンザリだ! 修行ではなく、ただの殺し合いだ!」
「窃盗師の修業とは、そんなものだ。そんなことで一流になれるのか?」
「俺は、俺のやり方で強くなる!」
「ほぅ、偉くなったなぁ。俺が何をしに来たのか分かるだろ?」
「・・・」
「窃盗師は、窃盗師との戦いの中で限界突破するのだ。だから二人よりも三人の方が効率がいい」
「俺は、もうあんな生活は嫌だ! ゾフォス(Zofos)と修行すればいいだろう?」
「ダメだね。アイツは今再起不能だ。それに、スライム100匹倒したところで、たいした修行にはならん!」犬歯を剝き出しにしながら言った。
「!・・・」その言葉に背筋が凍り付いた。
「そういう訳で、俺の限界突破に付き合ってもらうぞ!」と言って、いきなり襲い掛かって来た。
「エルピーダ! 邪魔だ! 逃げろ!」と言い放ち、戦闘態勢に入った。エルピーダは物陰に隠れた。アーヴィンは、背中の大剣を両手で掴み、そのままリカルダスを斬りつけた。リカルダスは杖で応戦し、片手をアーヴィンの胸にあてた。
「吸収!」一瞬だけ、アーヴィンがビクリとしたものの攻撃は続いた。
「効かんなぁ!」連続の斬りつけ攻撃に、リカルダスは防戦一方だった。
「! (レベル55? 一つや二つ下げてもキリがない)」リカルダスは召喚獣を使う作戦に転じた。
「召喚! 召喚! 召喚! 上昇! 上昇! 上昇!」石製人造人間(lv.26+5)と、骸骨騎士(lv.26+5)と、火精山椒魚(lv.26+5)を召喚した。そして火の呪文でアーヴィンを攻撃した。リカルダスさんのストックレベルは、65に下がった。
「火の矢!」いっぺんに10本の火の矢を放った。火の矢は味方のモンスターたちを避け、アーヴィンに悉く突き刺さった。
「グサッ、グサッ、グサッ、・・ジュワーーーーッ!」肉の焼けただれる嫌なにおいが辺りに立ち込めた。アーヴィンは火の矢なんぞ物ともせず、ゴーレムの攻撃を受けボーンナイトに斬りつけた。
「ドガッ、ドガッ、ドガッ!」三撃で、ボーンナイトは砕け散った。サラマンダーは火の息をアーヴィンに吐きかけたが、アーヴィンは身向きもしなかった。
「? (火に耐性があるのか? それならば!) 隕石散弾!」ラグビーボールほどの岩石群をアーヴィンに叩きつけた。そして、ゴーレムと戦っているアーヴィンの背後に回り杖で体を触った。
「吸収!」アーヴィンが再び体をビクリとさせたものの、ゴーレムに攻撃を続け粉砕した。
「! (まだレベルが48もある! ダメだ! 勝てない!)」ゴーレムを片付けたアーヴィンは、ゆっくりとサラマンダーを切り捨てた。
「火と雷の耐性は持ってるんだよ・・・」と言いながら、リカルダスににじり寄った。
「くっ! 幻惑!」アーヴィンは視界を封じられた。と同時にアーヴィンが術を唱えた。
「心眼!」そしてリカルダスは捕まった。
「想定内だ! 喰らえ! 吸収!」
仰向けのリカルダスに馬乗りになった。リカルダスのそれぞれの手首をつかみレベルを吸収し始めた。リカルダスは手首を曲げ、アーヴィンの手首をつかみ返した。
「吸収!」お互いのレベルを吸収し合ったが、埒があかなかった。
「こぼれない水!」リカルダスは呪文を唱えると同時に、アーヴィンの顔を指さした。
「操作術!」するとバケツ一杯ほどの水がアーヴィンの顔を包んだ。
「ぐばっ!」呼吸を封じられたアーヴィンは苦しんだが、リカルダスを掴んだ手は離さなかった。
「岩!」と言う声とともに、岩が飛んできた。
「ゴガッ!」リカルダスにのしかかって、レベルを吸収し続けるアーヴィンに、岩の塊がぶつかった。
「! (いってー。誰だ?)」アーヴィンがふり返ると、エルピーダがそこらの岩を浮かせて、アーヴィンにぶつけていた。気を取られたアーヴィンの手首をつかみ返し、リカルダスがレベルを吸収し返した。
「吸収!」再び、お互いのレベルの吸収し合いが始まった。
「(死者の身体!)」アーヴィンは数分間、痛みを感じなくなった。呼吸の必要も無くなった。消耗戦の如く、同時にレベルが下がり始めたが、リカルダスが気を失うのが早かった。アーヴィンは起き上がり、エルピーダをぶっ飛ばした。
「クソガキが! 許さんぞ!」と叫び、エルピーダににじり寄った。リカルダスは意識が遠のくのを感じた。
「良し! 窃盗! 弱ぇヤツは、召喚獣しか頼りに出来ねぇもんだ! しけてんなぁ! 俺より弱い召喚獣しかいねぇ! これでも貰っとくよ!」と言って、召喚獣マイムーを奪われたところで気を失った。
「一個しか奪えんが、これで勘弁してやらぁ! 少し強くなっとけよ!」そして、エルピーダに大剣を振りかざすアーヴィンを蹴飛ばす者がいた。
「ドッガッ!」全身黒ずくめで頭巾を被った男だった。
「ふむ、ふむ、ふむ・・・と。気を失っている私の目標と、見知らぬ子ども。そして、それを襲っている強そうな男。なんと、面白そうでは御座らぬか!」
「誰だ、お前は?」
「東洋の国から来た、呀龍と申す。お主は?」
「コイツの兄弟子のアーヴィンだ! お前はコイツの仲間か?」
「仲間では御座らぬ。命をやり取りする仲で御座る」
「強いヤツは、馬鹿が多いね」
「同感で御座る!」ただただ、強い奴と闘いたいだけの馬鹿が二人、そこにいた。
体力とレベルが落ちたアーヴィンと、体力があり余っている呀龍が対峙した。お互いの攻撃は一撃だけだった。
「ズッシュ!」呀龍は毒を塗った忍者刀で、深々とアーヴィンのわき腹を突き刺した。
「ドッガッ!」アーヴィンは、剣で呀龍の身体ごとぶっ飛ばした。分身の術を使いながら攻撃してきたので、まとめてぶっ飛ばす攻撃を選んだ。呀龍はそのまま木の茂みに隠れた。
「(骨が数本折れたで御座る・・・。手負いのハズなのに、しぶといで御座る・・・。一時撤退せねばならぬで御座る・・・)」呀龍はそのまま、立ち去った。
「(ちっ! わき腹を刺されちまった。目が回る・・・。毒か? つまらねえ真似しやがって・・・。仕方ねぇ! 撤退だ! 目的は果たした!)」アーヴィンも大剣を引きずりながら立ち去った。
そこに、エルデムに案内されたさゆりが現れた。
「おや、おや、この子たちは無事かぇ?」応急手当が施され、結界が張られた小屋に連れて行かれた。
猟師の格好をして茶色い髭を生やしている人物は呀龍に話しかけた。
「アナタは、なかなか強いですね。少し話をしませんか?」話しかけられた呀龍は驚いた。
「オヌシは何もので御座るか?」
「ミスティックです。あちらの二人の勝者のどちらかに声をかけようと思いましたが、止めました。アナタの方が有望です。【神々の試練】を受けて見てください」詳しい話はそれからです。




