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27 高みを目指す(結城秀康)

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 27 高みを目指す(結城秀康)



 時は西暦1602年――大坂城下町。

 一人の若き貴公子が大坂の地に足を踏み入れた。

 天下無双と謳われる大坂城の下、大坂城下は大いに活気に満ちていた。

 多くの商人や町人が、太平の世を謳歌している。

 夏の日差しに照らされた六尺三寸の美丈夫、結城秀康が家臣団を連れて大坂城に入った。


「大坂城下の賑わいも秀頼様……関白殿下の威勢を物語っているな。

 今年で十歳になるあのお方は傑物という枠を大きく逸脱した正に超越者。

 この私も選ばれし傑物だと自負しておるが、関白殿下は流石、一代で天下を取った亡き太閤殿下の子だ。

 私など……最早比べ物にはならない」


 大坂城下の賑わいぶりを一目見て、万民が太平の世を謳歌している事に秀康は優雅な微笑を浮かべる。

 結城秀康は関東八国二百五十五万石の超大領を治める徳川内大臣家康の次男である。

 名門、結城家を継いだが、有数の大名家の中でも別格の徳川家の次男。

 その事実は揺るぎようがない。そしてその器量を評価され、関白殿下……豊臣秀頼の妹を正室として娶ることになった。


「秀康様、関白殿下の妹君を正室として娶ることは喜ばしきことでございますが、今までの奥方との離縁は……」


 秀康の傍らで控えている筆頭家老の原貞胤は、苦言を呈した。

 それもそのはず、関白殿下の妹君……茶々を正室として迎える為に正室と側室は離縁。そして子は全て他家に養子に出した。

 秀康は妻子を見捨てたのだ。そのおかげで、会津百二十万石と、さらに右大臣の位を確約とした。

 正に悪魔に魂を売り渡したのに等しい行いに秀康は手を染めた。

 関白殿下の強権に従わざるを得ないとはいえ、秀康にも栄達に目がくらんだのは否定できない。

 そして関白殿下の妹君、茶々はあの戦国一の美女と謳われた淀殿の娘……成人したら天下一の美女となるであろう。

 さらに豊臣一門の筆頭として絶大な権力も手に入る。

 その為に秀康は妻子を犠牲にした。一世一代の大きな決断だったが、秀康は栄達を選んだ。


「原貞胤! お前如きが私に苦言を申すな! 私は高みを目指す! 私は天に選ばれたのだ。

 この私の器は徳川家という、つまらぬ一族の枠に収まらない! 私は天下人……秀頼様と並ぶ器だと信じている。

 ならば私は高みを目指す! その為に妻子を捨てることなど厭わない。私は高みへ上る!」


 結城秀康は高らかに宣言する。

 他の家臣団も最初は苦言を呈したような面持ちだったが、秀康のカリスマに当てられて高揚する。

 秀康は自分を信じている。父……家康から冷遇されていた逆境に苦しんだ時期があった。

 ならば自分の方から徳川という一族の呪縛を捨て、父よりも遥かに偉くなるのだと。

 家臣団とそんなやりとりをしながら、太閤殿下が築いた天下無双の大坂城へと通される。

 豪華絢爛で煌びやかな内装。正に贅を凝らした天下人の城に相応しかった。


「良くぞ来た、結城秀康殿。余が天下人、豊臣秀頼である」


 関白殿下が、謁見の間の上座で秀康の到着に喜色満面としていた。

 未だ十歳の幼子の筈なのにその身から発せられる覇気は王者のものだった。

 凄まじい覇気に当てられた秀康は、咄嗟に跪いた。


 ――これが天下人……流石に敵わぬ。


 秀康は身震いした。何が高みを目指すだと……秀康は自分よりも明らかに格上の関白殿下に戦慄を催していた。

 しかし、秀康とて傑物。それを悟られぬよう平常心を見せている。


「はっ! 結城秀康でございます。偉大なる関白殿下に拝謁でき、恐悦至極にございます」


 まずは無事に拝謁できたことを喜ぶ。今日の関白殿下は大層、御機嫌な様子。


「少し堅苦しいな。まあ良い。今日の余はすこぶる機嫌が良い。無礼講で行こう」


 やはり、妹君……茶々様の事かと、内心で秀康は思いにふける。


「妹君……茶々様はどこに? それに今日は関白殿下の豊臣三傑の方が勢ぞろいしているのですね」


 そういえば茶々様の姿が見当たらない。そして珍しいことに関白殿下の三傑と呼ばれるお方が勢ぞろいしている。

 豊臣三傑……『黒衣の宰相』黒田官兵衛。『備前宰相』宇喜多秀家。そして『天空竜』豪姫。

 この三人は豊臣三傑と呼ばれ、関白殿下の覚えめでたき傑物の中の傑物。

 茶々様を正室として迎えられれば自分もその高みに上れると秀康は顔を綻ばせる。


「結城秀康! 偉大なる秀頼様の御前であるぞ! 緊張感が足らぬ!」


『備前宰相』宇喜多秀家が、秀康を叱責する。それに秀康はムッとした。

 宇喜多秀家……豊臣家の中で最も闇を抱えた存在。先の会津戦役で毒兵器を使い、王都に甚大な被害を出した。

 勝つ為ならば手段を選ばない。百戦百勝を掲げる最強の武将。


「秀家、茶々様の輿入れというめでたき日の前日にそのような態度はやめなさい」


『天空竜』豪姫が、夫の宇喜多秀家を宥める。『天空竜』豪姫は言わずと知れた豊臣家の最強戦力。

 前田利家の娘で最強の槍使い。そして天下一の美女でもある。


「秀康殿、茶々様はもうすぐ来られるでしょう。支度に時間が掛かっていると見受けられます」


『黒衣の宰相』黒田官兵衛……天下一の頭脳を持つ。知力一つで成り上がった最強の策略家。

 その慧眼は比類ない。豊臣三傑は誰もが、各々の特技だけならば関白殿下を上回る。

 自分もその中に割って入り、あわよくば関白殿下と並びたい。

 結城秀康は野望を掲げ、茶々様の到来を待つ。高みに上る為ならばどんなことでも厭わない。

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