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Scrum Hearts  作者: Lio
プロローグ
9/58

フレイアの尋問

 へいお待ち!!


堅気じゃない人達は広島弁ってイメージが強すぎる。 勝手なイメージなんだけどね。



 「どうあっても話す気は無いと言うわけね?」


 「何回言わせんだ。話す気が無いんじゃねぇ。何も解ってないんだ、話したくても話せる事なんて何もねえっつってんだよ」



 時は幾分か進み、地球の極東の国 その北部の地下街でテロ騒動があった日から3日後。


 場所は緑色溢れるも近未来的な建造物が所々に点在する星『Journey』。


 そのとある国の、とある学園、学園長室にて。


 面談と言う建前の尋問が行われていた。



 「随分と口が悪いわね。その歳になって目上に敬語も使えない様じゃあ、学も品も知れるというものよ」


 「ああ、自覚はあるな。側から見たら不敬も良いところだろう。 だが」


 ジャラリ……



 わざとだろう。耳障りな鎖の音を強調する様に鳴らす男。


 「後ろ手に手錠。ご丁寧に椅子に括り付けた足枷。対談したいという話を鵜呑みにして来てみたらこれだ。こんな素敵なエスコートを行う人間に対してならお誂え向きの品の良さだろう?」



 意識を失う中、別世界への越界(えっかい)によりこの世界に連れられて来た男。



 心輝(いちか) 四ツ葉(よつば)



 普段の物腰の柔らかさは鳴りを潜め高圧的に対応する。 普段から相手に敬意を持って受け答えする人間ではあるが、流石に限度というものがあるらしい。

 捕虜紛いの扱いを受けるならそれ相応の態度を取ると言わんばかりに踏ん反り返り横柄に座る。



 相対するのはこの学園における最高位にある学園長。

 九つの属性を修め、扱いに於いては神域にあると認められた9神魔導士。

 また、神託を受け現世において神に代わり行動する『代行者』。


 フレイア・ヘイムディア



 「いいわ。尋問を続けましょう」


 「尋問って言っちゃった!尋問って言っちゃったよこの人…………! 対談はどこに行ったの!」



 現在この部屋には5人の人間が居る。


 編入前とは言え、これから生徒になろうという人間に対する物とは思えない扱いをする学園長を見て、嘆かわしいとばかりに組んだ腕を片方上げ、眉間を指で揉みしだいているのは、この学園の教頭。

 教頭テンプレ宜しく髪が薄く、茶色い髪の色に合わせたカツラを被っている。

 戦時に数千の兵を1人で押し留めた豪傑。風の申し子。


 ギルバート・アジスキア



 「済まない、イチカヨツバ。此方にも少々事情がある。落ち着いて話をして欲しい」



 先日のスーツ姿と違い、アンダースーツと道着に似た物を着込む男の通称は『鬼殺しの鬼』。壁に寄り掛かり腕を組み瞑目している。目の前の現実から目を逸らす様に。

 自身の流派をより洗練する為に単身鬼の里へ潜り込み、武闘を習い、帰ってくる頃には鬼の姫を娶って来た。

 若くして助教を務めるという事実が彼の実力を物語る。

 前線で名を馳せたのは記憶に新しい。


 フィスタ・ヤマブシ



 「んー……学園長流石にこれはやり過ぎでは?」



 背もたれ付きの椅子を反対に向けだらしなく座りヨツバを見やる男。いつにも増して苦味の多めなアルカイックスマイルを浮かべる男の二つ名は『時流』。

 比較的少数しか存在しない時空間魔導士。〝時〟空間魔導士である。

 時空を歪ませ、時の流れに作用させる程度の時間操作技能を持つ者は確かに居る。が、定めた空間内・時間も限定的にという条件付きな能力とはいえ、対象の時間を完全に停止させる事が可能なのは世界広しと言えど彼一人のみ。

 学園に入学して麒麟児と謳われ、教授として抜擢された。


 ガープ・ウラヌシア



 「やり過ぎ? どこがかしら? ハッキリ言って得体が知れなさ過ぎるわ。これぐらいで丁度いいと私は判断している。ついでに対談の件だけれどこの後イルとの対談予定よ。別に私が対談すると言ったわけでは無いわ」


 「子供みたいな事言わないで下さい学園長」



 ギルバートが遂には両手で顔面を覆ってしまった。眉間をグリグリするのは今度はフィスタの番である。ガープの顔に苦味が増す。

 四ツ葉は先日フィスタに救われた場面でも思い出したのか、ガープより苦い顔をしながら佇まいを少々正した。



 さて、どうしてこんな事になっているのか。


 時は30分程前に遡る。



 ・

 ・

 ・




 「………………」



 目が、覚めた。いつ眠りに着いたのか、どれくらい眠っていたのか、ここが何処なのか。

 疑問は数あれど、思い当たる節はいくつか脳裏を掠めている。現実逃避でもして2度寝と洒落込むのも手か。

 いや起きよう。現状を把握したい。



 「っ……! んん?」



 目眩、頭痛。

 上半身を起こしただけなのだが嫌に頭が重い。


 白く、清潔な部屋。


 第一印象はそんな所。言われなくても解る、ここは病室だ。病室。つまりは状態は悪かった筈。覚えているのは折れた歯、蹴られた脇腹、あとは毒か? 今のところそこまでおかしな体調の変化は感じられない。

 慎重に脇腹に触れる。 痛くない…………

 歯……は無いままだ。

 毒がまだ残っているのか、やはり頭が重い。


 ダメだこういう時は寝るに限る。

 暖かいベッドに吸い込まれる様に倒れ込むと、視界一杯に広がる例の『見知らぬ天井』と



 「うむ! 知らん場所で二度寝を決め込もうとは能天気なのか度胸があるのか判断に困るところだな!」


 「うあぉっ!」



 見知らぬ人がベッドの脇に立ち、覗き込んできていた。 白衣の女性だ。20代中程だろうか。



 「まぁ調子が悪い時に寝て回復しようというのは大正解だ。頭痛はしないか? 寝たままでいいから質問に答えてくれ」



 驚いてまた上半身を跳ね起きさせたのだが、そっと肩に手を置かれ、サバサバした口調に似合わない優しい手付きでベッドに押し戻された。



 「吐き気は?」



 診察か? 額に人差し指を当てられながら答える。



 「ありません。 目眩が少々。頭が重い」



 こういうのは端的に伝えるのが相手もやりやすい筈だ。



 「うむ! 微熱だな」


 「毒ですか?」


 「うん? ………………面白い子だな。余り混乱している様に見えん」


 「努めて冷静になって状況を何とか理解しようとしているだけです」


 「あ〜 成る程! 混乱はしているが抑え込んでるだけか!」



 アッハッハ! と快活に笑いながら何やら携帯端末を操作しているその女性に改めて目を向けると艶やかな金髪に室内灯が反射して輝いて見える。緩やかなウェーブの掛かったそれをハーフバックにして右目半分が前髪で隠れて見えない。 キリリと吊り気味の目だが鋭い印象を受けない。 緩められた口元が快活さと優しさを与えている。何よりも目につくのは


 目より鋭く尖った長い耳。


 左耳は髪がかけられて露出しているが右耳は髪の間を潜り抜け外に突き出ている。どう見ても作り物では無い。


 これはまぁ………ホントに………ファンタジーの典型………ちょっと感動する!


 テンプレ宜しくエルフ。 エルフは回復魔法が得意という勝手なイメージを持っているのだが、神秘的な衣装で手の光をかざし魔法で回復させるでもなく、ビシッとしたスーツの上に白衣を羽織り片手に持つファイルを覗き見るその姿は、出来る女の印象と相まって様になっている。



 「うむ! 受け答えも問題なし! 毒という言葉が出てくるのなら記憶も問題なさそうだな。そうだな…………本来脳を休ませる為に寝て貰いたい所なんだが、君は少々聡い様だ。現状くらい聞かんと安心して眠れないだろう。熱も一先ず収まっては来ているし、少し説明するとしようか」



 そういうと彼女は近くにある机にファイルを置いて此方に向き直る様に椅子に腰掛け足を組んだ。



 「先ずは自己紹介だ。この学園の普通科の主治医を担当させて貰っている、メルアノアと言う。アルヴ族『金の太陽メルアノア』だ。メルアとでも呼んでくれ」



 あら? アルヴ族? エルフじゃないのかしらん?



 「君の名前は知っているよ、イチカヨツバ君。詳しい事は後々学園長等から話がある筈だ。それよりも君の容体についてだが、酷かったのは肋骨3本折れたのが臓器を幾つか傷付けていたのと、やはり君の言う通り毒。致死性の物だったが全て取り除いた。中和分解したと言うのが正しいかもね。 太腿の槍創も血管を傷付けていた。その場で槍を抜かなかったのは正解だよ。尤もそのせいで患部が酷く毒に侵されていた訳だが」



 矢継ぎ早に繰り出される診断結果に血の気が引く。 慌てて言われた箇所を見て触って確かめるが、太腿の薄らと見える傷跡の様な物くらいしか確認できない。どこも痛くもない。



 「あぁ、もう全て完治しているよ」



 ペタペタと身体を弄るのを見てクスクス笑いながら教えてくれる。



 「質問が4つ。1つ目の質問の返答次第では言いたい事が1つ」


 「うむ、構わない。続けて質問したまえ」


 「僕を治療して下さったのは貴方ですか? 僕はどれくらい寝ていましたか? あとは頭痛の原因が知りたいです」


 「君を治療した者は複数居る。毒に対してより精通した知識の持ち主が必要だった。毒の扱いは商業科の主治医に頼む方が確実だ。外傷、骨折、臓器の損傷は私と私の助手が治した。寝ていた期間は3日程だな。当日合わせて今日で4日目だよ。頭痛の原因についてだが、治療自体は2日目で終了している。容体が安定した時期にイルが来て君の生涯を〝追想〟するついでに少々脳に処置を行ったんだ」


 「………3日で完治………脳に処置………」


 「そう。神々の使う術を我々は〝神導(しんどう)〟と呼ぶのだが、その中に知識や記憶を脳に直接刻み込むという荒技があるんだ。今回刻み込んだのは言語や文字。言ってしまえば容量が多過ぎて脳がオーバーヒートしているのが現状だね。知識自体はもう定着している。受け答えもキチンと出来ているのがいい証拠だ」



 …………成る程。そっちも気になっていたがそれは何の為なのか。神? 神導? どんどん質問が出てくる。いや、それより3日で完治の方。



 「魔法………? か何かなんですか? 怪我の内容を聞く限り3日で完治は信じられないものがあります」


 「あぁ、そうくるだろうと思ってな。奥歯が折れたままだろう?そのまま残しておいたんだ」



 メルアが徐に立ち上がり頬に掌を押し当ててくる。



 「回復魔導(キュア)



 頬が暖かい。何かの流動を感じる。魔力?か何かなのか? 折れた歯の歯茎が熱い。



 「ほら、舌で触って確かめてみるといい」



 言われた通り触ってみるとブニブニと無くなった歯の穴を覆う様に歯茎がある。痛みもない。



 「……歯は!?」



 思わず声に出てしまった。



 「済まないな。初級の回復系魔導ではその程度が関の山だ。生えさせる事は可能だがこの後の事を考えたら必要ないと判断した。君を信用させる為の魔導行使であって、治療ではないんだよ」



 この後? あああもぅどんどん気になる事が増える! 脳を休ませて! オーバーヒートしちゃう!


 頭を抱えてウンウンと悶えているとメルアが苦笑いしながら答えをくれた。



 「まぁもう少し寝て落ち着いたら学園長と対談がある筈だ。気になる事も話せば話すだけ出てくるだろうが、それまで少し待ちたまえ」



 あー……まぁ確かに話や起こってる事については信用出来た。3日前っつったか? あの曖昧な記憶も現実だったんだろう。それよりも、だ。



 「メルアさん、さっき言った言いたい事なんですが」


 「うむ! 聞かせてくれ」


 「どうも有難うございます。助かりました。他の方々にも出来ればお会いして伝えたいです」



 事実だと確認できた。ならば命の恩人だ。感謝してもしきれない。気持ちはせめて少しでも伝えなければ。

 そう思い言ったこの言葉にメルアは目を見開き不思議な物でも見るような顔をする。一拍後ケタケタと笑いながら椅子に座り直す。



 「アッハハハ! 治療は私達の仕事だよ! そんなに真剣に感謝されるのは珍しい事だ。わかった! 他の連中にも私から伝えておこう。これから先おそらく出会う機会もあると思うから、その時自分でも伝えるといい。 にしても……クックッ……そうか君はそういう子か。 一概に編入者と言ってもそれぞれという事かな? ふふ………。 もう1つ質問があったのでは?」



 何が面白いのか、ニコニコと笑いながら問いかけられる。



 「僕の所持品はどうなりましたか?」


 「服などは此方で預かっている。貴重品でもあったかな? 携帯型の精密機器は画面がバキバキになってしまっていたが」



 ああ……アイポン……死んだか……いやそれよりも



 「……オイルライターがありませんでしたか?」



 そう聞くとメルアは申し訳なさそうに斜め下に視線を遣り、少し目を伏せる。



 「………済まない。君の所持していたライターはイルと学園長が少し調べると言って持っていってしまった。大事な物だったか?」


 「調べる? ライターを? 珍しい物なんですか?」



 魔法があるんだ。火の魔法などもあるんだろう。火を付ける道具など珍しいのかもしれない。



 「いや、ライター自体は珍しい物でも無い。魔導で火など簡単に付けられる我々だが、ああいった道具をわざわざ使い火を付けるというのに興味を持ったり浪漫を感じる者達は少なくないよ」



 では何故? 首を傾げているとメルアが話を続けてくれた。



 「チラと聞こえた話では、どうやら君が持っていたライターには随分と力元素(エナジー)が込められている様だ。おまけに術式の痕跡があり、その術式発動に使われたであろう力元素(エナジー)の痕跡も合わせると信じられない量が閉じ込められていたのではないかという話だな。それこそ魔導付与(エンチャント)を超え、神器に属するレベルだという事だ」


 「チラと聞いた割に随分把握してますね!?」



 何となく話は理解できたが、結構聞いたんじゃない? あとそう言われてみれば3日前お会いして助けて下さったクマみたいな筋肉マッスルな人もそんな事言ってたっけか。



 「なんだか2人とも夢中になっていてな。私と助手が治療を行い、商業科の主治医を呼んだりバタバタしている横で興奮気味に喚いていたから叩き出したんだが。話の内容は聞こえていたんだ」



 うーむ。

 調べる………… 神器…………

 


 「返して貰えます…………よね?」


 「大事な物なのだな? ならば君の所持品だ。神器として分類されたとしても君の持ち物に他ならない。返してくれる筈だ。 と、言いたいところだが……学園長のギラついた目が気になる。あの人は編入者を…………対談での学園長自身と君の態度次第と言ったところかな。尤も君と今話した限り悪い印象は受けない。君の態度ならば問題ないだろう。きっと返してくれるよ」



 …………ちょっと不安になるから含みを持たせるのはやめて欲しい。


 一つ溜息を吐き出し、もう1度礼を言おうと考えていると、廊下であろう扉の向こうから複数人の足音が響いてきた。何やら急いでいるのか慌ただしくバタバタと……



 ………走ってねぇか? メルアさんのキビキビとしてはいるが喧しくはない話し方で落ち着いて来ていた頭に響く。病室の前で騒ぐなよな。



 どうやらメルアも感心しない様子だ。眉を顰め扉の方を見ている。

 いよいよもって病室の前まで来るとノックも何もなく、壊れるのではないかという勢いで扉が開かれた。と同時に2人の男がドカドカと部屋に入ってくる。



 「イチカヨツバ! 目が覚めたんかい?」



 堅気じゃねぇな! なんやおどれら! 顔傷多過ぎやぞ! ………ホントになんだ? 見た目完全に一昔前のヤーさんなんですけどなんで俺の名前叫んでんですかね?



 「君達。此処は病室でイチカヨツバは傷病者だ。あまり喧しくするな」


 「メルアの姉御! 申し訳ありやせん!学園長からの指示です。イチカヨツバを連行しやす」


 「連行だと? 彼は病人だと言っている。彼が完治するまでは私の管轄だ! それと君達は〝日仁會〟のメンバーだな? 姉御はやめろと言っているだろう。学園長には確かに彼が目を覚ました事は伝えたが対談はもう少し寝かせてからだとも伝えた筈だぞ」


 「ですが目を覚ましているのなら所持品について話があるので連行して来いとの事でして………」



 所持品? ライターか? 何か解ったのか?



 「いつまで寝腐っとんじゃおのれァ!? ア゛ァ゛!?」



 まだ理性がお有りの方とは違ってもう1人は何故か興奮状態で掴みかかって来た。胸倉を掴まれベッドから引きずり上げられ、立たされる。


 スンゲーーー膂力! ゆー君とは大違い!



 「…………おい」



 プレッシャー。3日前にも感じた。1度経験したせいか前回よりハッキリと感じる。肌を刺す様な、空気がビリビリと震える様な。 足が震える。胸倉を掴まれているからか、このプレッシャーのせいか。



 「いい加減にしておけよ。彼は病人だと言っているんだ、その手を離せ。小指の第一関節一本じゃあ済まさんぞ? 胸倉を掴んだその腕ごと失いたくはあるまい?」



 俺も姉御とお呼びしますね。マジでこえーよ泣きそう。でもすんごい頼もしい。惚れるわ。

 心なしか理性兄貴もたじろいでる。



 「す、すいやせん。そいつも編入生なんですが、編入生の扱いなら任せておけと言うもので連れて来たんでさぁ。おい! 一先ず───」



 チリン…………



 机に置かれた先程メルアが操作していた携帯端末が鈴の音のような音を鳴らす。

 一拍、メルアがそちらに目を向け、この場の時間が止まったかのように誰も動かなくなった。動くのはガクガクと震える自分の足と、チラチラと点滅する机の上の携帯端末の光のみ。

 徐にメルアが手を伸ばし端末を取って文字を読むように画面に目を流す。

 胸倉を掴み上げる手の強張りが緩む。目の前の男もまた携帯端末に視線を注いでいる。


 今のうちにしっかり顔覚えとこ。いやむしろお前が覚えとけよコラ!あぁん!? ボッコボコにしてやっからな!? 頭ん中で。


 ってか髪型も髪質も俺に似てんなコイツ腹立つわーなんだこの天パ。首に巻き付いて死ねばいいのに。


 下らない事を考えているとメルアが溜息をつき、端末を机に戻す。



「……あいわかった。ヨツバ君。対談をしたいそうだ。行って来なさい」



 あらぁ!? みかっ……味方はぁ!?



 口をあんぐりと開けて呆けていると目の前にいた男が後ろ手に回りガチャリと冷たい金属質な



 手錠!? 本格的に連行じゃないですかヤダー。ホントに対談? 不安過ぎるんだが。



 助けを求めるようにメルアの方を見るが、苦虫でも噛み潰したような顔で腕を組み目を閉じている。



 「オラァ! 進まんかい!」



 背中をど突かれ、後ろ手に手錠をされたまま、裸足のまま。前によろけ歩き始める。頭が痛い。


 ビシッ...……パキッ...……


 また、プレッシャー。もう何なのか解る。殺気もしくは怒気。そういった類のものだろう。

 家鳴りの様に。ポルターガイスト現象やラップ音の様に。

 そこら辺中からプレッシャーに当てられた物が軋む音が聞こえる。

 後ろから掴む男とは別の男がハッとして此方に近付く。



 「おい、お前はもう戻れ! 後は俺が連れて行く」


 「え、もういいんスか兄貴?」


 「ああ。早く行け!」



 交代しながら男はメルアに何かを確認する様に目を向けるがメルアは目を閉じ黙っている。プレッシャーは止んだ。男はホッと息を小さく吐き出すと遠慮気味に後ろから押して来た。



 「さぁ行くぞ。付いて来い」



 いや付いて来いじゃなくね? じゃあ後ろから押さないで先に前歩いてくれや。どうでもいいか。


 メルアに感謝の気持ちを込め、一礼すると、彼女はチラとコチラを見て、フッと笑い軽く手を振って送り出してくれた。



 廊下に出て、裸足でヒタヒタと歩く。


 ……道わからんて。


 首だけ後ろを向きヤクザ風の男と視線を合わせて訴えかけると一瞬後にコクリと頷き先導してくれる。

 コチラの足元を一瞥し、申し訳なさそうに話しかけてくる。



 「済まんのぅ。病人相手に靴も履かせんで」



 あら。思ったより良心がありそうだ。



 「構いませんよ。そのお気遣いだけで多少は不安も晴れます」



 振り返りまじまじと顔を見てくるのが少し気になる。



 「アイツも編入者じゃけぇ。ちぃと調子に乗っちょる。最近は特にじゃ。要らん暴力まで振るう様になってきとる。いっぺんケジメ付けさせるけぇ、今回の件ば目瞑っとくれんかの?」



 下っ端の粗相を気にしているらしい。ニチジンカイと言ったか。ジン……仁か? カイは会か會だろう。おそらくはそういう組織。ここで禍根を残すのは得策ではないか。



 「好きに処理を。僕の方からは何も言う事はありませんよ」


 「はん! われも編入者じゃろ? 歳いくつじゃ?」


 「31」


 「そんならこっちが一回り歳下じゃ。むず痒い敬語なんざ必要ない」






 …………えっっっっ!?






 今日一で頭が追いつかないんですけども。



 「えっおいくつですか?」


 「22じゃ」



 うっそだよ えっ 30後半顔だよあんた!



 「ああ言いたい事はわかる。よう老け顔言われるけえ」


 「………」



 禍根残しそう。黙っとこ。





 そうしてしばらくペタペタと歩くと一際立派な扉の前に着いた。男がノックをする。



 「日仁會・先刃のリュウジ。入ります」



 えっ何それ。それ俺も名乗んなきゃダメなヤツ? なんて言えばいい? 〝震脚の四ツ葉〟とかでいい? ガックガクいわせてやるよ!自分の足を。



 「入りなさい」



 初老の女性。疲労が残る声は歳のせいか。中から聞こえてきたのはそんな声だ。 おそらくは件の学園長だろう。

 リュウジと名乗った男が両開きのドアを片方開け、後ろ手に繋がれた腕を掴み中に押し入れる。

 〝捕虜〟。そんな言葉が頭を掠める。

 中へ入り見えてきた景色に絶句する。 書類の山、山、山。 荘厳な机の上に置ききれない紙の束が溢れ返り、そこらの床にまで所狭しと積まれている。左右に一際高く積まれた書類に出来上がった谷の底に、人が座っている。机の僅かなスペースに組んだ両手を乗せ、じっとコチラを見つめてくる。澄んだ緑色の目に負の感情はない。が、監視するような目だ。居心地の悪くなる、そんな目。

 他に3人居る。茶髪の壮年の男性とだらしなく椅子に座るヘラヘラした男は見たことがないが、熊のような長身で筋骨隆々の男は知っている。



 「座らせなさい」



 座りなさい、じゃあない。 これはリュウジへの指示。 被拘束者への扱い方なども学んだ経験がある。この扱い方もよく知っている。 茶髪の男性は顔を伏せ眉間にシワが寄った。



 対談?………ふーん………成る程ね



 部屋の中央付近に用意された椅子に座らされ、足枷が嵌められる。

 ガチャリ という硬質で冷たい音の様に、心の奥底が冷えていくのを感じる。



 「リュウジ、ご苦労様。戻っていいわよ」



 恭しく頭を下げて退室する気配を背後に感じながら学園長の顔を見る。書類に目を通しているが、たまに此方に視線が飛ぶ。自分に関するレポートといったところだろうか。



 「さて、心煌 四ツ葉。 少し話をしましょう」



 向こうはあくまでも対談という体で行くようだ。 メルアの言葉が脳裏を過る。 相応しい態度。


 ごめんメルアさん。心配してくれてありがとう。でもこれはダメだ。俺は聖人君子じゃない。



 「先ずは此方から聞きたい事があるわ」



 まずは此方から? その目の輝き方は捕食者のそれだ。捕らえた獲物は離さないと物語っている。こっちが質問する番は永遠に来ない。



 「貴方の所持品であるライターを預かっているわ。それをどこで手に入れたの」



 体調その他諸々。俺がそっちの立場ならもっと聞くべきだろう事がこの部屋に散乱する書類の如く山程あるだろう。別に病人ぶるつもりもないがここまで俺自身に興味がない素振りで対談など宣うならば、もういい。好きに聞け。


 確信した。


 これは捕虜に対する尋問だ。


 こっちもそのつもりでそれ相応で行かせてもらう。





 こうして始まった尋問の内容は四ツ葉の所持品であるライターについて。

 如何にして、地球というただでさえ力元素(エナジー)の少ない環境下でこれ程までの力元素が込められていたのか。

 何故、神代に使用されていた古代(エンシェント)魔導(マジック)の中でも技術的に失われ、存在しか知られていない失われた魔導(ロストマジック)に分類される〝光の導〟の術式が刻まれていたのか。


 当然、四ツ葉には説明出来ず。むしろ何の事かすらも解らず答えられない。


 当然の事とは言え、事情も何も情報の足りていないフレイアや学園側からすれば怪しいどころか、訝しい。ともすれば不審ですらある。

 何せ〝光の導〟という魔導は『神導』なのだ。神の使う魔導。 現世に顕現した神、この神導を生み出した〝イルダーナ〟ですらも今は力が足りなくて使えない状態だと言うのだ。

 文字通りの、失われた魔導(ロストマジック)。 それを地球の、一般人が使用した。

 むしろ警戒の目を向けるのは、フレイア側からすれば当然の事なのだ。


 とはいえ、だ。 編入者への個人的な感情が多分に混入しているのもまた事実。四ツ葉からすれば事情を知ったとしても八つ当たり以外には感じられないだろう。


 かくして、すれ違う2人の感情がお互いを警戒させ、言葉を尖らせ、静かな舌戦が部屋に居る人間を困惑させる事になったのだ。



 「何もわからない筈がないでしょう? あなたが詠唱を行ったという事実があり、それをここに居る複数名が確認している。〝イル〟という名前、〝光の導を〟という言葉。 これは一体どこで知ったのかしら?」


 「話をでっち上げるのも大概にしろ。魔法のまの字も知らないのに詠唱? それにそんな名前もそんな言葉も今初めて聞いた。何が複数名が確認しているだ」


 「そちらこそいい加減にしておきなさい! どこまでしらばっくれるつもりなの!」


 「はいそこまで!」



 それまで両者口調はともかくとして静かに話していたのだが、痺れを切らしたフレイアが声を荒げる。

 見かねたギルバートがパンパンと大きく手を叩いて静止すると、フレイアがハッと身体を強張らせ息を呑む。 興奮してしまった自分を恥じ入る様に、溜息を吐きながら机に片肘を乗せその手で顔を覆う。



 「2人共少し落ち着きなさい。フレイア様、らしくありませんね。心中お察ししますが本当に彼は何も知らないのかも知れませんよ。 イチカヨツバ君、済まないね。本当に何も知らないのなら我々はとんだ無礼を働いている事になる。 しかし此方にも事情があるんだ。もう少し協力してくれると有り難い」


 「俺は落ち着いていますよ。聞かれた事に答えているだけです」



 落ち着いてはいる。が、憤りがない訳ではない。 態度にはそう表現されている。

 ギルバートが言ったのはそういう事なのだが、四ツ葉の心情も的確に読み取るギルバートは苦笑いを浮かべるだけでうんうんと頷き続きをフレイアに促す。

 公平に接する者に対してはキチンと敬語を使い対応してくる。本当に自分で言う通り落ち着いているな、とギルバートはこの新たな編入生の評価を上方修正する。 先に見た資料に記載された内容を考慮すると頷けはするが、やはり驚きは隠せない。 こういった状況に慣れているのか、それとも彼の保有する技能(スキル)の為す業なのか。


 コツ…コツ…コツ…


 ギルバートが思案していると部屋に近付く足音が聞こえてきた。 つい先程四ツ葉が聴いた物とは全くの別物。

 喧しさを感じさせない、それでいてそこに居るという存在感を大きく感じさせる足音。



 「はぁ………来たわね。イチカヨツバ。これからこの世界の〝神〟と対談をしてもらうわ」


 カチャ……



 ドアノブが優しく回され静かに開けられる。四ツ葉が首を廻らせ扉を見ると



 「……これはどういう事?」



 白銀に輝く髪を風もないのに靡かせながら此方を見遣る1人の少女が佇んでいた。


 マツリ・I・フラクシアを依代に。

 現世への顕現を果たしたこの世界の神。光の神


 イルダーナ


 その手には少女の髪よりは霞んだ銀色のライター。 四ツ葉がそれを視線で捉えた。


 ピシッ……ミシ……


 そこら中に山積みにされた書類の影から。

 古くなった木製の台から。

 爆ぜる様な音が鳴る。


 抑えようのない敵意が




 心煌 四ツ葉を中心に放たれていた。



 えっ? 広島弁がおかしい?

 ヤダなー何を言ってるのですぅ? 彼の方言は広島弁じゃないからぁー。 んーでも確かに似てるかも知れないねぇー。でも広島弁じゃないからー。この世界の独自の方言だからぁー。これで合ってるんでぇー。勝手に広島弁だと思って間違ってるとか言わんでもらえますぅ?

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