施設探検(前編)
「なるほどねー……それが君たちが戦いを拒否する理由ー……」
アイは人差し指をこめかみに当て、何やら深妙な顔で考え込むような素振りを見せた――かと思いきや。
「ま、そんなこと興味ないけどねっ!」
パアッと表情を弾けさせ、あっけらかんと言い放った。
「はぁ……。それで、食堂に集めたのはそれだけかい? なら僕はさっさと君に消えてほしいんだけど……」
友原は面倒くさそうに深いため息を吐き出す。
「違う、違う! まだ大事なことを話してないよぉ!」
アイはぷんぷんと両頬を膨らませながら叫ぶ。
「大事なこと……?」
上京寺は警戒を隠さない鋭い目つきで、アイを睨みつけた。
「じゃっじゃーん!! 第一回、施設探検〜!!!」
アイは大きく両拳を突き上げて高らかに宣言した。
しかし――シーン。
誰一人として拍手すらしない。食堂に気まずい沈黙が流れる。
「……つまり、施設案内をするってことか?」
真田が腕を組んだまま、確認するように尋ねる。
「『施設探検』だよ!」
アイは語気を強めて言い直した。
「探……検……!?」
羽京だけは、微かに瞳を輝かせてアイを見つめている。
「いいアイデアだね! じゃあ僕ら『15人』で探検しよう!」
友原は俺たちに向かって大きく両手を広げた。
「それじゃあ、レッツゴー!」
そのままアイを置いて俺たちを引き連れて歩き出そうとする友原を、アイが慌てて前に立ちはだかって引き止める。
「ナチュラルにあたしをハブらないで!?」
「……チッ。産業廃棄物が……」
「お前アイにだけこえーぞ…!?」
友原がボソッと低音で吐き捨てた暴言に、小吉が恐る恐る呟く。
「大体、君たちはまだこの施設のことを全然知らないでしょ!? だから、あたしが親切に説明してあげるの! これでもあたし、この施設の『案内係』なんだよ!?」
アイは一気にまくし立てる。
「案内係ー……そういえば、そんなこと言ってた気がしなくもなくもないかもー」
不破がふわふわとした喋りで答えた。
「どっち……!?」
あまりに曖昧すぎる返答に、新田が思わず声を張り上げる。
「ふん、全員での探索など極めて非効率的……。俺一人で行ったほうが早い」
神鳴は冷たく眼鏡をクイッと押し上げながら、もっともらしく切り捨てた。
「アーハン? いいじゃねえか! オレはいかねーけどな」
八幡はひらひらと手を振り、あっさりと拒否を表明する。
「あーしは自室に戻るからー。いっトイレー」
坂東は気だるそうに髪先を指でくるくると弄りながら言った。
「だーめ、だめ! ほんっとみんな冷たいなぁー!! もう、これは決定事項! 『強制』です! ついてこなかったら銃でバーンッだよ!」
アイは可愛らしくぷんぷん怒ってみせたかと思うと、おもむろに背中からジャキッと金属音を響かせて本格的な銃を取り出した。
「冗談になってねーーよおぉぉ!!」
小吉の泣きそうな大声が食堂中に響き渡る。
「……行けばいいだけだろ? 行けば」
俺はいよいよこのやり取りに付き合うのが面倒くさくなってきたので、諦めて話をまとめるために口を挟んだ。
「その通り! 浅間君は話が早くて助かるなぁー!」
アイは俺をバッと指さし、パチンとウインクを決める。
「それじゃあ、レッツゴー!」
そんなアイの無駄に陽気な掛け声とともに、俺たちは渋々施設探検ツアーへと出発するのだった。
アイに案内されるがまま、まず 真っ先に 俺たちが足を踏み入れたのはーー
「図書室だーーーー!!! 」
普段の大人しさが嘘のように、倉敷が目を見開いて大声を上げ、ドタドタと走っていく。
「倉敷さん、図書室で走っちゃダメだよ……!」
真面目な新田が必死に小声で注意を促す。
「ここにはなんと、1000冊を超える世界中の素晴らしい書物が揃っているのです……!!」
アイは自慢気にフンッと胸を張った。
「世界中の……!?」
羽京が目を輝かせ、まるで宝箱を見るような顔でアイの話に聞き入っている。
「自分は難しい文を読むのは苦手だからー……絵本しか見ないのー」
不破はふわふわとした足取りで、子供用の絵本コーナーにすぽんとしゃがみ込んだ。
「本は人類の叡智の結晶だよ!」
友原が感極まったように叫ぶと、心理学の専門書やエッセイ本を両手いっぱいに抱え、机の上へと大量に積み上げていく。
「そんなに全部読めないだろ…!」
そう言って真田がるんるんと本を運ぶ友原にストップをかける。
「わぁ、医学の本がこんなにたくさん……!」
心は興味津々といった様子で、医療関係の分厚い本を大切そうに数冊手に取っていた。
まあ、俺も本を読むは好きだ。何か気になる面白い小説はないかと本棚を眺めていると――
「おい、間抜け面のおぬし! これを読めっ!」
瞳をこれ以上ないほどキラッキラに輝かせた倉敷が迫ってきた。手に持っているのは、江戸川乱歩の『人間椅子』だ。
「いや……すまん。それは読めない」
俺は丁重にお断りさせていただいた。
「? なぜだ? 読んだことがあるのか?」
倉敷が不思議そうに首を傾げる。
「いや、あまりにも有名な名作物語は、教科書以外では読まないって俺の中で決めてるんだ」
「小説にまで逆張り思考を適用する奴がいたのか……!?」
いたって大真面目に答えたつもりだったが、倉敷は衝撃を受けたように固まっていた。
「あー、これ今めっちゃ流行ってるやつじゃんww」
一方ケラケラと笑いながら、坂東が本棚から話題のライトノベルを手に取る。――が、
「邪道者ーーーーーー!!!!」
倉敷の裂けるような怒号が図書室内に響き渡った。
「図書室では静かに……っ!」
新田がシーッと口に人差し指を当て、冷や汗を流しながら制する。
「え? あーし……?」
坂東はキョトンと目を丸くしている。
「ラノベなんてクソだ! 邪道だ!! 今すぐ焼却炉にくべて灰にしてしまいたいくらいだー!!」
倉敷が髪を振り乱して叫び散らす。
「……こだわりが強すぎだろ……」
俺は半ば呆れ果てた声を漏らした。
「「「「「え?」」」」」
……なぜか、周囲にいた数人が一斉に俺の方をジッと見てきた。
(俺、何か変なこと言ったか?)
考えたが結局理由は分からなかった。
「倉敷ちゃん、ラノベ作家さんと読者さんに失礼だよ……!」
保護者のように必死に倉敷を宥める新田。
「やれやれ」
小林が綺麗にオチをつけるように肩をすくめ、深いおため息をつくのだった。




