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ドラゴンの使者・ドラコメサ伯爵家物語 ドラゴンの聖女は恋も運命も乗り越えます!  作者: 栗栖 龍


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大司教奪還作戦4

 フィオラ達が地下に潜って少し経った頃、リュドは二人の場所を探ったまま場所を移動していた。

 階段を掘った影響か、今までいたあたりは少し地盤が弱そうだった。もしもフィオラが本当に岩盤を突き破るとしたら、ここに居るとグネスが危険な目に合う。

 その影響を受けないと思われるあたりにグネスを立たせ、自分は5歩ほど前に出て中の様子を再び伺っていた。

 すると、なぜか突然大司教の魔力を感じ、3人が左側に固まったのを感じた。その時点でリュドはグネスの側に戻った。


「そろそろフィオラ様が天井を壊すかもしれません。念のため準備を」

「は、はい。では、祝詞を、上げた、状態で、お待ちして、おりますので……」

「落ち着いてください。大丈夫です。アグネス様ならできます。そう自分を信じてください」

「は、はい」

「では私が浮遊の魔法を使った直後にお願いします」


 そうお願いするとグネスが聖竜に対する聖職者が唱える祝詞を上げ始めた。

 教会の聖女と言われる彼女のそれは、リュドの心にも染みるような柔らかく優しく美しいものだった。


「【我が祈りを聖竜様の愛しき子らに。悪しき物、穢れし物に侵されし彼らに、許しと癒しの光を。聖竜様の聖なる炎が彼らを救わんことを、我がアグネス・リンテ・エンツアスモの名においてお願い申し上げます。我と聖竜様の御心が彼らの心と体に寄り添い、清浄な在り様に戻るようにと祈りを捧げます】」


 地上の空気が澄んだような気がした。そして少しするとフィオラと大司教が光の魔力を使い、それによって岩にひびが入ったのも感じ取れた。


「【聖竜様、御身が愛し子らを守るために我に力を】」


 リュドが祝詞を唱え終わった瞬間だった。大きな魔力を感じ、目の前の地面にひび割れが起きた。


「『浮遊!』」

「『浄化の帳(とばり)』」


 少し地面が下がったが、リュドの浮遊の魔法によってそれ以上は落ちなくなった。そして割れた岩盤の隙間を縫うように浄化の光が、それによってつくられた幕が、ゆっくり降りていった。

 すると、その幕を追うように膨大な魔力を秘めた存在が地下に降りていくのをリュドは感じた。

 それと同時に、


『よくやった』


という誉め言葉が頭の中に響いた。

 その直後、真横で大きく素早い衣擦れの音と、何かを地面にぶつける音が聞こえた。

 だがリュドはいつも通りグネスが地面とお友達になっているのだろうと判断し、それを目で確かめることなく、周りの警戒と浮遊魔法のキープに努め続けた。



 フォルトは防御に徹しつつ何とか空間を維持していたが、持ちそうにないかもと不安になっていた。すると岩盤から重みが消え、上から柔らかく優しい力が降りてくるのが目で見えた。

 それは魔王の使徒たちも同じだったようで彼らは慌てふためき始め、一番強そうな者すら焦って魔法を放ったが、その威力は先ほどより弱くフォルトの守りの壁に容易に阻まれていた。

 その後ろで破落戸(フランク)と共に闇の使徒たちが逃げようとしていたが、それを阻んだのはフィオラの魔法だった。


「『氷の壁!』」


 それは黒の魔力に抵抗しようとした所為か、少し暴走気味に発動した。その結果、壁で敵の行く手を阻むのでなく、彼らを氷の塊の中に閉じ込めてしまった。

 このままだと窒息死させるかもと悩んだその時、


『よくやった』


荘厳な女性の声が響き渡った。そして三人は赤黒い翼に抱きしめられるように囲まれた。

 振り返ればそこには女性体の聖竜がいた。


「聖竜様!?」

『迎えに来たぞ』


 その言葉を聞くと同時にフィオラ達の体は浮遊感に襲われ、気が付けば周りの景色は地上のものに変わっていた。

 転移した四人に地上に居たリュドは驚いたものの、これでもう魔法を使う理由は無くなったと思い、浮遊魔法を解除した。

 その瞬間、大きな音と大量の砂煙を上げて岩盤が落ち込んだ。


「『クリア・ウィンド』」


 フォルトが砂煙を風の力で押しやると、そこには多数の亀裂の入った大きなへこみが出来上がっていた。

 それに向かって聖竜は手を差し出して『我や女神には手は出させぬぞ、魔王』と呟くと、あたりは一瞬にして高熱に包まれた。


「えっ!?『守りの盾!』」

「『氷の壁』」


 フィオラが光の魔力の守りの盾を貼り、その内側にリュドが物理的な氷の壁を張ると気温が一気に下がり、フィオラ達は誰もやけどをせずに済んだ。


「こちらは生身の人間です。そこを考えて魔法を使っていただけませんか?」

『悪かった、悪かった。しかし、いつもの口調はどうした?』

「今は聖竜様としてここにおられますよね」

『我が剣は律儀すぎるのう』


 氷の壁を維持し続けるリュドと聖竜がぶつぶつ言い合っていると、いつものように気絶していたグネスを抱き上げたフォルトが、遠慮なく質問をしてきた。


「溶岩で埋めたのですか?」

『ああ。ここはあやつを崇める神殿だったからのう』

「え?もしかして魔王のこと?」

『主らは見たであろう?床や天井の模様を。我が使いは読めたのではないか?』

「暗かったからしっかり読めなかったけど、確かに誰かに捧げる賛辞がびっしり書かれてたと……」

『それを結界のようにして、我にも場所を探らせなんだようだ』

「そうだったのね」


 その全てが今は溶岩に埋もれ、そして現在は聖竜の手によって冷やされていた。


「……その話ってジャド先生の前ではしない方がいいかしら?」

「やめておいた方がいいでしょうね」

「よくてフィオラ様に思い出せるだけ書かせるでしょうし……」

「最悪、記憶を覗く魔法を作ろうとするかと……」

『まあ、それは禁忌魔法になるから大丈夫だがのう』

「うん。ここだけの秘密にしましょう」


 そんな話をしながら、冷え固まった溶岩の上に周りと同じような土を敷き詰め、固める作業をリュドがしていると、徐々に空気が軽くなっているのを感じることができた。


「黒い魔力が晴れた?」

「その様ですね」

『ゆっくりと消え始めておるようだな』

「では、待っていれば迎えの馬車が来ると思われますので……」

「私の法衣を畳めば敷布になりますので」

「いったんグネスを下ろしたら?」


 三人の視線を集めた先には、グネスを腕に抱いたままのフォルトがいた。しかも周囲の音や環境から適度に守られる『闇のゆりかご』という魔法をかけている念の入れっぷりだった。

 グネスは、失神したきっかけは聖竜の人体に出会うという恐れ多い状況に耐えきれなかったことだが、その前に魔力をかなり消費していたため、意識を取り戻すには時間がかかりそうだから……というのを建前に、フォルトは自身唯一の宝物をしっかり腕に抱いて離そうとしなかった。


「アグネス程度の重さなら一日中持っていても平気ですので、お気になさらず」

「気にするわよ。目の前でイチャイチャしないでくれる?」

「いっ!これは抱擁ではなく、救命行為です。それにこれをじゃれ合いだというのであれば」


 フォルトはそこで言葉を切ると、冷たい視線を大司教に向けた。


「姉上を呼び捨てにしたことはいかがなものでしょうか?姉さまも、それを許すのはいかがなのですか?」

「え?」

「ああ、あれはつい。非常事態でしたし」

「姉さまは気づいていなかったのですね。大司教様。まだ婚約の本締結がされていない以上、色々と謹んでください」

「申し訳ありません。ですがまあ、リュドのようにいきなりキスをしたわけでもなく……」


と、いきなり矛先を向けられたリュドは驚いた。フィオラを落ち着かせるときに「付き合ってない相手にしてはならないこと」とごまかしたことを、すらっとばらされてしまったら冷静沈着な男でもうろたえて当然だ。


「クレプっ!?なんでそれ……ユルがばらしたんだな……」

「ああ。オヴィディオと私にはと」

「オヴィディオにも……だよな」

「ああ」


 ユルとオヴィディオは親友同士で、恋人に話せないことを相談することもある仲だというのは、友人の中では周知の事実だった。故(ゆえ)に仕方がないとはいえ、自分の黒歴史がばれていたこと、ばらされたことは、リュドにはダメージがでかかった。

 だがそこに、さらなる爆弾を落としたのは聖竜だった。


『はっはっは。タイミングが合えば手を出さずにはいられんのは、人の男の性(さが)という話だからしょうがないよのう、なあ我が使いよ』


 男性の聖竜の御使い。それは、


「ふぉるっ!!??」

「最後までは致していません!!」

「キス以上のことをしたってことじゃない!」

「それは……」


 姉と弟の言い争いが始まりそうになった瞬間、フォルトの腕の中のグネスが「んん……」と言いながら身じろぎをしたのを見て、二人はそれ以上大きな声を上げるのはやめた。

フィオラが「グネスは気絶してて、正解だったわね」と零し、「アグネスも含めて皆には内緒に」とフォルトが言ったところで、自分たちも休憩するために場所を移動しようという話になった。

 すると聖竜が『では帰るか』と言いながら、いきなり何かの呪文を唱え始めた。


「聖竜様、それは?」

『転移の魔法だ』


 呪文を唱え終わり聖竜がフィオラの疑問に答えていると、皆の体が光り始めた。


『待つのも移動するのも面倒であろう』

「転移……どこにですか?」

『この領の屋敷でよかろう』


 聖竜の答えに各々が驚くと四人は体が浮き、大きな魔力に包まれた感じがした。

 その魔力が消えた次の瞬間、落下していた。


「えええええええええ!」

『はははははっ!高さを間違えたわいw』

「うそでしょー!」


 フィオラが叫びながらパニックに陥っていると大司教に横抱きにされた。そしてフォルトと大司教は風魔法を使って落下速度を落とし、リュドは『浮遊』でゆっくり地面に降りていった。

 その頃、領城の人々はフィオラ達を迎えに行くべく準備に入っていたのか、玄関前の広場には多くの人達がおり、突然響き渡った笑い声や叫びと降ってきた聖竜の愛し子たちに声も出ないほど驚いていた。


「聖竜様!ご自身の頭の高さを基準にするのはおやめください!」


 そうリュドが叫んで抗議をすると『悪かったのうwwwww』と笑いながら女性体の聖竜がゆっくりと降りてきた。

 リュドはわざわざ聖竜様と告げたのだが、それがなくとも赤い豊かな髪に二本の角を携えた存在など、たった一人、否、一柱しかいない。


「聖竜様に、ごあいさつ申し上げます。前辺境伯ヴィスフィロ・V・ノドフォルモント以下辺境伯家一同、聖竜様ご来臨にあたり、恐悦至極に存じます」


 その言葉を告げるとともに前辺境伯が最上位の礼をすると、その場にいた皆はそれに倣った。それどころか、聖職者にいたっては平伏していた。先ほどのグネス同様、地面の一部かと思う程に平たくなっていた。


『出迎えご苦労。直るがよい』


 空気を読んで共に一礼していたユルは、聖竜の声がかかるとすぐに背筋を伸ばし、遠慮なくリュド達の所に駆け寄った。


「みんな無事でよかったー!聖竜様、皆を連れ帰ってくれてありがとうございます」

『最後に叱られたがのう。主は大丈夫だったか?』

「うん。フォルト様と教会の聖女様に落ち着かせてもらったから大丈夫……ってアグネス嬢はどうしちゃったの?」

「あれと同じだ」


 リュドが指さした先には、聖職者たちが平伏したまま固まっていた。その周りにいる聖騎士たちも、未だに騎士としての最上位の礼を取り続けていた。


「皆、立ちなさい。それ以上の平伏は聖竜様への不敬になります。聖騎士達もです。立ち上がり、警護に戻りなさい」


 大司教がそう述べると、聖騎士は即座に、聖職者たちは周りを見ながらゆるゆると平伏を止め始めた。

 本当に平伏を解いていいのか、他の誰かの指示を仰いだ方がいいのかと悩みつつも全員立ち上がったが、一人が拝み始めるとそれがどんどんと広がっていった。

 まあそれくらいはいいかと大司教はやれやれと言った表情を向けていたが、その腕の中に居るフィオラは周りを気にするどころではなかった。


「いい加減下ろしてくださいまし、大司教様」

「……?」

「ああ、もう!降ろしてくださいセティオ様!」


 その懇願に大司教はいい笑顔を返すだけで応じようとしなかったが、ユルにポンポンと優しく肩を叩かれた上に注意を受けた。


「ダメだよ、セティオ。他の皆もいるし、フィオラ様も今は一杯一杯なんじゃない?」

「いくら反応が可愛いからって、いい加減にしておけよ、セティオ」


 友人達からも畳みかけられるようにセティオと呼ばれたので、一つ溜息をついて「そうですね。やりすぎて嫌われても嫌ですので」と告げてから、ゆっくりとした動作でフィオラを地面に下ろした。

 降ろされても顔が真っ赤のままのフィオラは、よろよろと大司教から離れると、フォルトの陰に隠れられる位置まで逃げていた。


「いろいろと説明をしなければならないと思うが、さすがに疲れたな」

「酷い目に合いましたからねえ」

「そうですね。説明は後程にした方がいいでしょう」


 そう男性三人が話し合っていると、遠くを見ていた聖竜がいきなり帰ると言い始めた。


『では我は帰る。厄介な奴が戻ってきそうだしのう』

「そういえばジャドはどうしたんだ?」

「ジャドなら、黒い霧が弱まり始めてすぐに外に飛び出していったよ。セティオ達を迎えに行くって」

「メインは神殿でしょうね」

「でも、あそこは聖竜様が潰しちゃったけど……」

「それよりも、聖竜様の気配を感じて引き返してきているのでは?」

『その様だな』


 聖竜の目には、慌てて引き返してくる騎乗したジャドの姿が見えているようだった。だからだろう。


『ではまたな。息災で過ごすのだぞ』


 愛しい子供たちにそう告げると、聖竜の姿はふっと消えた。

 フィオラ達はラトリア山のある方に一礼すると、ジャドの帰りを待たずにとにかく休むことにした。


「帰ってきたら面倒くさそうだし、とにかく疲れたの。おじい様、客間に案内していただけませんか?」

「もちろんだとも。すでに用意させてあるから安心するといい。皆様をご案内しろ」


 フィオラのおねだりに応えた祖父が家令にそう命じると、領城の客間のあるエリアへと先導し始めた。


「さすがに疲れましたね」

「私も眠いわ……あ、ベッドはグネスと一緒でいいわ」

「何故ですか?」

「夜這い防止」


 いまだにグネスを抱いて運んでいるフォルトをフィオラは見上げながら、きりっとした表情できっぱりと告げた。


「……」

「しないと即答できないあたり」

「フォルト様は若いよね~w」


 リュドとユルはそう突っ込んだが、


「まあ気持ちは分かりますが」


と、いい笑顔で答えた大司教に一同はさすがに呆れた目を向け、リュドとユルは、


「……応じてもらえたばかりだから仕方がないが」

「クレプも若いよね~w」


とツッコミを入れ、反省したらしいフォルトも先に姉上の部屋に案内するようにと家令に命じていた。


「……うん、グネスと寝るわ。エリサ、そのように準備して」

「はい、フィオラ様。湯浴みはどうされますか?」

「起きてからにする。とにかくもう寝たいの……」


 その言葉に活躍した一同は頷くとともに、あくびで答えていた。


 ジャドが領城に帰り着いた頃には、全員夢の中だった。

お読みいただきありがとうございます。

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とても励みになりますし、頑張る気力にもなります。


ようやく書きあがりました。

気圧だったり生理だったりで体調不良だったのもありますが、どうしても入れたいやり取り(しかも2か所)がなかなかうまく入らなくて、ストレスMAXで指が止まってしまっていました。

そういう時にノートに手書きをするとするする出ることも多いのですが、今回はその手法でも出ず……めっちゃ難産でした。


ようやく書き終えることができて、まるで便秘解消の時のようにすっきりしました♪


次はエピローグになります。

その後、いくつか番外編を入れる予定になっています。

一つは決まっていますが、それ以外はどこまで入れようか悩んでいる状態です。

でもなるべく週一で上げられるように頑張りますので、よろしくお願いしますv

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