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星持ちの少女は赤の秘剣で夢を断つ  作者: 小谷草
第4章 星持ち少女と決闘と
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第91話 十字槍との一騎打ち ※ 後半 ファビアン視点

「くそがっ! くそがぁぁぁ!」


 ドミニクはやけくそのように突進してきた。私は横に避けたつもりだけど肩に薄い傷を受けた。

 

 これが、十字槍の特性だ。穂先を避けるだけでは済まない。大きく避けないと、側面の刃でダメージを負ってしまう。


「さすが。突進力だけはあるみたいですね」

「はっ! 黙れよ!」


 槍を使っての連続攻撃。しかし私は構えたまま、そのコンビネーションを避け続けた。


 攻防によって距離ができた瞬間、ドミニクは腰から短杖を抜き放った。いくつもの土礫が私に直進してきた。私は構えたまま、炎で土礫を相殺する。この程度の一撃、納刀したままでも対処できる。


「その程度ですか。やはりあなたは突進力だけですね。得意の土魔法が、この程度とは」

「黙れ! だまれぇぇ!」


 頭に血が上ったのか、ドミニクが土魔法を連射してきた。私は下がりながらその降べきを避け、直撃するはずだった土礫を居合抜きで一閃した!


 抜き放たれた刀身を見て、ドミニクは目を剥いた。


「!!! お前! ふざけんなよ! 木刀で俺を倒そうってのか!」


 鞘に納められた状態ではわからなかったようだが、私が使っているのは木刀だ。これは、練習用にとおじい様の護衛のエゴンが作ってくれたものだが、グレーテに言って持ってきてもらったのだ。


「貴方に対処するにはこれで十分です。それに、木刀には真剣にない特性がある。そんなことも、知らないのですか?」

「お、俺には木刀で十分だというのか! ふざけやがって!」


 ドミニクは短杖を投げ捨ててこちらに向かって突進してきた。レベル3の土属性を利用した、すさまじいまでのチャージ。相変わらず、あの技だけは見事なものだけど・・・。


「はあ!!」


 私は土の魔力を足に込めると、ドミニクを避けてその背後に回り込んだ!


 そして・・・・。


「秘剣! 鴨流れ!」

「ぐおっ!!」


 私が素早く木刀を抜き放つと、ドミニクは勢いよく吹き飛ばされた。ドミニクの部下たちから、悲鳴のような声が漏れた。


 だけど、浅い。予想していたことではあるけれど。


「・・・っく! いつの間に! だが、お前の剣は軽いんだよ! 調子に乗って木刀なんぞ使いやがって! 木刀じゃあ俺を倒せるわけがないだろう!」


 ドミニクが指を突き付けてきた。


 私にとっては渾身の一撃だった。3段階目の強化まで使った渾身の一撃。だけど、ドミニクの鎧を凹ませるだけで、破壊することまではできなかった。


「くははははは! 真剣なら、俺に傷くらいはつけられたかもな! だが、木刀では俺に届かない! 魔力障壁と魔鉄の鎧、両方を何とかしなきゃいけないんだからな!」


 調子づくドミニクを相手にもせず、私は再び木刀を鞘に納めた。


 分かっていたことだ。木刀を使った鴨流れでは、あいつにダメージを与えることはできないと。魔鉄の刀ならともかく、木刀であいつの魔力障壁と魔鉄の鎧を超えることはできない。


「でも、だからこそ試す価値はある」


 私はドミニクを睨みつけた。


 正直、手がないわけではない。鴨走りを使えばおそらくドミニクを倒せるだろうけど、あれは学級会議で封じられてしまった。確かに、使うたびに自分を傷つけてしまう技は見ているほうはたまったものではないだろう。火のダメージを軽減してくれるメリッサ様のネックレスも、完全には火の影響を消すことはできない。


「ははははは! 偉そうに技の名前を呼んでそのざまか!」


 あざ笑い、再び十字槍を構えたドミニクを冷静な目で見つめた。


 技名か・・・。


 お姉さまが言っていたけど、鴨流れは、鳥の鴨が川を流れる様に着想を得たらしい。でも、鴨は渡り鳥だ。川を泳いだり地面を走ったりすることが本分とは言えない。


「空を飛ぶことこそが、鳥の本分。地面を走るだけでは、本当に解き放たれたとは言えない」


 だったら! 私の剣で鴨を飛び立たせてみせる!


「はあああああああ!」


 私は火の魔力を展開させた。


 これまでのように、やみくもに外部強化を成すわけじゃない。外部は薄く、体へのダメージが最小限な強化のみ。残りをすべて、鞘に納められた木刀へと伝わらせる!


 火の魔力で体を厚く強化しようとすると、どうしても体に大きなダメージを負ってしまう。でも! 武器に炎をまとわらせるだけなら、体にダメージはないはず! 


 薄い土の魔力で内部を強化し、火の魔力で外側を強化する。それを、武器に使えば、威力を底上げできるに違いない!


「くっ! 得意の星持ちの火の魔力かよ! だがさえ接近すれば! 自分をまきこんじまうなら、お得意の火の魔力も使えねえだろ!」


 ドミニクは嘲笑いながら突撃してきた。


 勢いはすさまじいが、今度は逃げない。あいつの攻撃に合わせて、新しい秘剣をぶつければ!


「秘剣! 鴨扇ぎ!」


 私の木刀とドミニクの十字槍が激突した。


 すさまじいまでの、魔力の本流! その衝撃に、私とドミニクは大きく吹き飛ばされた。


 ドミニクの十字槍が一瞬にして燃え上がった。ドミニクがあわてたように武器を手放すと、地に落ちた槍は瞬く間に燃え尽きた。


 でも、それは私の木刀も同じだった。


 木刀は内部強化には強いが、火の魔力は別だったらしい。外を覆った私の魔力に耐え切れず、一瞬で燃え尽きてしまった。


「ば、馬鹿な! 魔鉄の武器だぞ!? それが!」


 驚愕するドミニクに素早く接近すると、左手の鞘でその頬を殴りつけた。


「があ! 貴様!」


 驚愕の目でこちらを見るドミニクの鼻面に、もう一撃! 内部強化を駆使した私の拳は、どうやらドミニクに大きなダメージを与えられたようだった。


「獲物を失ったからそれでおしまいなわけはないでしょう! これは一騎打ちです! どちらか意識を失うか、負けを認めるまで戦いは続く!」


 私は攻撃を止めない。鞘を手放すと、ドミニクの顔だけでなくみぞおちやわき腹など、鎧の隙間に次々と拳を突き立てていく。


 だって、これがホルストお兄さまやグスタフなら、このくらいで終わるはずがない。相手の武器を奪っても反撃で負けてしまうことなんて、ビューロウでは日常茶飯事だったのだから!


 最初は守るそぶりがあったドミニクだが、何発目かの拳を受けてやがて無抵抗になった。その状態でさらに追撃しようと拳を振り上げた私の腕を、誰かがつかんだ。


「コルネリウス様」

「くっくっく。さすがはビューロウだな。勝ちを宣言するまで攻撃をやめんとは。だが、戦いはもう終わりだ。見ろ。そいつ、もう意識を失っているぞ」


 私はドミニクを確認した。顔はぼこぼこで白目をむいている。口からは、血と胃液かな? これは。完全に意識を失っているようだった。


「勝敗は決した! ファビアン・ロレーヌが認める! この一騎打ち! アメリー・ビューロウの勝利だ! まさか、異論のある者はあるまいな!」


 ファビアン様が大声で宣言した。


 ドミニクの取り巻きは、何も言わない。当のドミニクも意識を失っていて、反論などできるなずもない。公爵家のファビアン様の宣言に何も言えないみたいだった。


「北の我らも認めよう! この一騎打ちはつつがなく行われ、アメリー・ビューロウの勝利で終わったと! まあ、戦いの前に火の玉を放ったことには、事情を聞かんわけにはいかんがな」


 コルネリウス様もそれに続いた。


 東と北、2人の上位貴族が認めたからには、それに従わないわけはない。まあ、最初に火の玉を放った女性は小さく悲鳴を上げていたのだけど。


 もしも武装した仲間たちと星持ちの私を襲ったのなら、全員ただでは済まなかっただろう。学園は当然追放になるし、最悪処罰さえもあり得た。処刑されてしまう可能性だってある。


 この決定は、おそらくファビアン様とコルネリウス様の恩情だ。そうでなければ、襲撃を仕掛けてきた生徒たちの未来は完全に閉ざされたのだろうから。まあ、尋問されたり処罰が会ったりするとは思うけど、襲撃が実現していた場合よりはずっと軽い処分に終わるだろう。


 正直、大ごとになるのは避けたかったから都合がいいんだけど、ファビアン様はともかく、コルネリウス様に借りを作った形になるのはなぁ。 


「では、解散だ! 処分は追って伝える。だが、見ようによっては婦女子によってたかって暴行をしようとしてたようにも見えた! 軽い処理で済まされるとは思うなよ!」


 フォンゾ様が言うと、全員意気消沈したように首を垂れるのだった。



※ ファビアン視点


「いやあ! 一方的な展開だったな! ドミニク先輩は完全武装だったのに、アメリー先輩は木刀で簡単に返り討ちにしちまった! こんなやり取りを見られるなんてラッキーだったぜ!」


 親友のフォンゾが満面の笑顔でそんなことを言った。


 彼の言うとおりだったな、となんとなく思った。勝利したのはやはり、星持ちと言われるアメリー先輩だった。星持ちとして有名だからてっきり魔法対近接の戦いになると思ったが、まさかこんな結果になるとは思わなかった。


「ビューロウは、武の三大貴族だ。星持ちとは言え、やはり近接の腕は相当なもののようだね」

「ああ! 兄貴が言っていたけど、ビューロウでは全員が道場に通って近接の腕を磨いているらしいぜ。兄貴が仲が良かったのはデニス先輩で、その先輩は魔法使いみたいだけど、剣の修行はずっと続けてたらしい!」


 興奮気味に言うフォンゾに、僕は頷いた。


 分かっていたことだけど、アメリー先輩の剣の腕は相当なものだ。王城で闇魔を倒したのも剣の技だったし、今日の戦いも見事だった。


 剣も魔法も使うハイブリッドな戦士なのかと思ったけど、どうやら彼女は剣のほうに重きを置いているのは間違いがない。


「でもなあ。あの必殺技はまだ改善の余地がありそうだな。威力は闇魔を倒せるほどじゃなかったな。それに、使ってた木刀が燃え尽きちまった。あれは外部強化の制度が足りなかった証しだろう。まあ、2属性両方の制御を同時に行うのは並大抵のことじゃねえんだろうけどな」


 やっぱりフォンゾはよく見ているな。


 僕も同意だった。おそらく、アメリー先輩が使ったのは2属性の同時展開。体の内側を土で強化し、そして外側を火の魔力で覆う。それを、武器にも転用したのだろうが、制御をミスして木刀を消し炭にしてしまった。


「ああ。おそらく、自分の体と武器の両方を2段階制御するのは無理があるんだと思う。体を強化する火魔法は詳細に制御しないと自分を傷つけちゃうし武器のほうは魔力を厚くしないと大した強化にはならない。難しい技だね。あれじゃあ、魔鉄製の武器だって持つかどうかは分からない」


 確かに、アメリー先輩の剣はドミニクを打ち破った。でも、あの必殺技は完成には程遠い。闇魔はもちろん、魔物にだって、あの秘剣を防いでしまう相手はいるだろうだから。


「アメリー先輩の必殺技。確かに威力はすげえが、弱点は分かりやすいよな。技を放った後の隙が大きすぎる。一撃で仕留めなきゃいけない技のはずだが、そう考えると威力が足りないよなぁ。かなり接近しなきゃいけないようだし」


 フォンゾが腕を組んで考え込んだ。


「でも多分、先輩もそんなことは承知の上だと思う。次に見るときはそんな弱点、ちゃんと克服しちゃうさ。僕らも頑張らないとな。爵位が高いのに、あの人に置いて行かれるのは我慢ならないし」


 言い訳するように言うと、フォンゾは面白がるように僕の目を覗き込んだ。


「ははっ! どうやらファビアンは、あの先輩に心まで奪われたらしいな。お前、今すんごい笑顔してんぞ」

「な、何を馬鹿なことを! お、お前こそどうなんだよ! 先輩のこと、興味深そうに見てたし! お前の義叔母が先輩の副官になるからって、お近づきになろうってんじゃないか?」


 僕が言うと、フォンゾは苦いものでも飲み込んだように顔をしかめた。


「確かに先輩はすんげえ可愛いけどよ。若すぎね? てか幼すぎね? 先輩も、叔母さんもさあ。俺はもっと年を重ねたほうが好みだけどな」


 そう言えばこいつはそうだった。僕らの母親くらい年上が好みなんだよなぁ。この前、説教してきた教師のことを「素敵な先生だったなぁ」とか言ってたし。


「そういえば、明日は王城に行くんだったな。お前の家族が務めているとはいえ、あんまり無茶はするなよ」

「ああ。ったくめんどくせえよな。新しい叔母さんが行きゃ十分じゃねえか。まあ、叔母さんは慣れていないから仕方ないんだがな」


 こんなことを言っているけど、フォンゾって家族のこと大事にしてるんだよなぁ。お兄様のことも、他人に文句を言われると烈火のごとく怒るし。


 こいつが友人になってくれたのは僕にとってこの上ない幸運だけど、やっぱり癖が強すぎるんだよなぁ。指摘は適格だし、上位貴族としての言動も見習うべきものがあるんだけど、性癖と家族愛についてはどうしようもないところがある。


「まあ、これでヘッセン家はかなり厳しくなった。ドミニク先輩は学園に残れるか微妙なところだし、取り巻きたちの動向も厳しいだろうさ。アメリー先輩を集団で襲おうとしたんだから、自業自得だけどな」

「そうだな。でも、王国側としては頭の痛い問題かもね。なんだかんだ言ってドミニク先輩は討伐をきちんとこなしていたし、あの人についていた人たちも討伐任務をこなしていた。最近は見慣れない魔物も増えたというし。討伐任務はますます大変になりそうだ」


 討伐任務は大変になりつつある。僕たちも最近参加して知ったけど、強力な魔物を貴族だけで戦わなければいけなのはかなり難しい。それを簡単にこなしてしまう先輩たちは、やはり相当な手誰なのだろう。


「今後は教師のきれいなお姉さんや冒険者の素敵な先輩とお会いできるチャンスがあるんだよなぁ。王城で会った先生も気になるし。うひひ。これからの討伐任務が楽しみだぜ!」


 にやにやと笑うフォンゾに、僕は溜息を吐くのだった。

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